三菱重工のモノづくりを支えるデジタル基盤。2つのチームが持つ強みを集結
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)のデジタルイノベーション本部デジタル基盤技術部において、廣政はサーバ・クラウドグループのグループ長として組織を率いています。このグループのミッションは、グループ全体のIT領域におけるサーバ環境やクラウド環境を、安全かつ安心に提供すること。全体の規模は35人ほどです。
「私たちのグループには大きく2つのチームがあります。1つは、社内システムなどが稼働するサーバ・クラウド環境をマネジメントする『基幹チーム』。もう1つは、お客さまとの接点をWeb上で構築し、タッチポイントを創出するというミッションのもとクラウドネイティブな環境をマネジメントする『社外連携チーム』です。
基幹チームは対象システムの規模が大きく、扱う領域も非常に重要なものばかり。一方、社外連携チームは、情報システム部門とは別に、DX推進組織を起点として立ち上がった経緯をもち、スピード感や柔軟性を強みとしてきました。異なる役割や文化をもちながらも、どちらも三菱重工の事業を支える重要なチームです。
グループ全体の年齢構成はベテラン層と若手層が比較的厚い一方で、中間層がやや不足しています。そのため、次のリーダーとなるような中間層の育成や採用に力をいれています」
また廣政は、両チームの強みを融合させることにも注力しています。
「各チームが個別最適で運用されるのではなく、互いのナレッジや強みを共有しながら、組織全体としてよりよい環境を提供することが理想です。
たとえば、社外連携チームは柔軟な対応力を強みとしてきましたが、扱う規模が広がるにつれて、柔軟性だけでは対応しきれない局面も。今後は基幹チームが培ってきた確実なガバナンスや堅実な運用手法をとりいれながら、さらなるレベルアップを図っていきたいと考えています」
グループ長として組織全体のマネジメントを担う一方で、廣政は今も現場のエンジニアとしても第一線に立ち続けています。
「クラウドやサーバ環境の構築については、社内のさまざまな部門から要望が寄せられます。私は常に『どのようなことでも、まずはご相談ください』と伝えています。いただいた要件を整理し、最適な解決策へ落とし込むことで、事業部やグループ会社の抱える課題の解決につなげていきたいと考えています」
さらに廣政は、メーカーとしての競争力の源泉となるソフトウェア開発や製品設計に近い領域にも力を注いでいます。ツールの導入やインフラ基盤の標準化・プラットフォーム化を通じて、事業へ貢献しようとしています。
「ものづくり企業である以上、製品に直結するシステムや、それに付随するITインフラはきわめて重要です。現在は製品設計の品質向上や、ソフトウェア開発における生産性向上のためにITやAI技術の高度な活用が欠かせない時代になっています。今後の競争力を左右する重要な領域だと考えており、IT基盤の立場から設計・開発の変革を支えていきたいと思っています」
業務が複雑化する現在、一つの専門分野だけで課題を解決できる場面は少なくなっています。そのため廣政は、専門性を深めながらも、領域を横断して知識や視野を広げられる人財の育成を重要なテーマとして捉えています。
「業務を進める上で私が最も重視しているのは、多様な課題に対して一つの組織だけで抱え込まないことです。組織と組織の狭間にあるような課題こそ主体的に拾い上げ、関係者を巻き込みながら協力して解決していく姿勢を大切にしています。一見すると自分達の担当範囲とは関係がないように見える事象であっても、当事者意識を持って関わることが重要です。そうした積み重ねが組織全体の成果につながると考えています。
また、インフラ領域では問題が顕在化してから対応するのではなく、可能な限り上流工程で課題を発見し、早期に対策を講じることを意識しています。影響が大きくなる前に手を打つことで、安定したサービス提供につなげています」
日本を代表する大企業のDXに挑む──未知の世界への挑戦がモチベーションに
かつて廣政は前職の大手メーカーで約16年間にわたりエンジニアとしてキャリアを積んできました。そこで経験した技術領域は実に多岐にわたります。
「長く在籍した前職では、本当に幅広い領域を経験させてもらいました。最初はアプリケーション開発からスタートし、その後はミドルウェア、サーバ、インフラである物理サーバやネットワークへの担当領域を広げていきました。オンプレミス環境の運用も経験しましたし、クラウド環境の構築や移行にも携わりました。振り返ると、インフラからアプリケーションまで幅広く経験してきましたね」
一つの専門領域に留まらず、多様な経験を積んできた背景には、廣政ならではの仕事への向き合い方があります。
「明確なキャリアプランを描いて歩んできたというよりも、私は『新しい変化や挑戦に自然と巻き込まれるタイプ』なのだと思います。上司から新しい仕事や役割を打診された際も、まずは前向きに受け止め、変化を楽しみながら挑戦してきました。
その結果として、意図していたわけではありませんが、多様な経験を積むことができました。こうした偶発的な機会の積み重ねが、現在のキャリアを形作っていると感じています。
また、さまざまな領域を経験したことで、一見すると未知の課題であっても、過去の経験との共通点を見つけられる場面が増えました。『以前のあの経験が活かせるかもしれない』と考えながらアプローチできることは、自分の大きな強みだと思っています。
新しい環境でもこれまで培った知識やノウハウを応用できるという自信がありますし、何より未知の領域に挑戦して自分の世界を広げていくことそのものが、私のモチベーションの源泉になっています」
幅広い経験を重ねながらエンジニアとして成長してきた廣政。その転機となったのが、2020年に三菱重工がデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に本格的に取り組むという情報に触れたことでした。
「前職でもDXに関わる機会はありましたが、ある程度は想像ができる世界でした。一方で、重厚長大な製品を手掛ける三菱重工が、どのようにDXを進めていくのかには強く興味を惹かれました。
外から見ているだけではわからないことも多く、だからこそ自分たちの手で新しい仕組みや文化をつくっていける余地があるのではないかと感じたのです。これほど大きな企業の変革に、自ら関わることができる機会はそう多くありません。自分自身もその挑戦の当事者になりたいと考え、入社を決めました」
廣政の胸中を占めていたのは、不安よりも未知の環境への期待でした。
「安定した環境を離れることに対して、不安よりも楽しみの方が大きかったですね。前職でも組織改編などを通じて、これまでとは異なる文化や環境で働く経験をしていました。そのため、新しい環境に飛び込むことへの抵抗はあまりなく、自分なりの適応力には自信がありました」
2020年11月に三菱重工へ中途入社した廣政は、成長推進室で顧客接点のデジタル化を推進。その後の組織改編を経てデジタルイノベーション本部へと活躍の場を移しました。2024年に主席チーム統括、2026年4月にはグループ長へと就任しました。
「2022年に現在の所属であるデジタルイノベーション本部が立ち上がりました。そこで私に求められたのは、成長推進室時代のクラウドネイティブな考え方や文化を、同じ本部の中へ広げていくことでした。
私は、これまで実践してきた取り組みや考え方を新たに一緒になったメンバーへ紹介しながら、少しずつ理解を深めてもらう活動を進めてきました。異なる文化や価値観を持つ組織同士が互いの強みを理解し、新しい組織として融合していく。その過程に携われたことは、とても大きな経験だったと感じています」
「ゼロトラスト」や「重工流スクラム」──強固なセキュリティと変革の両立をめざして
三菱重工でのキャリアの中で、廣政が鮮明に覚えている出来事は、入社してすぐにアサインされたプロジェクトにありました。入社直後のエンジニアを待ち受けていたのは、予想を超える大きな裁量でした。
「入社後すぐに、クラウドネイティブなシステム開発環境を構築するプロジェクトにアサインされました。当時はまだ組織規模も小さく、大きな権限と裁量を任せてもらえたことを覚えています。入社直後からプロジェクトに着手したため、これほどのスピード感で任せてもらえるものなのかと驚いた記憶があります。
当時は会社の仕組みも、どのようなシステムで動いているかもわからない状態からのスタート。今振り返ると、当時の上司は非常に懐が深く、大きな決断をしてくれたのだと思います。
もし今の自分が同じ立場だったら、入社したばかりの人にここまで大きな役割を任せられるだろうかと考えることがあります。本当に貴重な経験をさせてもらいました」
前職で幅広い技術領域を経験してきた廣政にとっても、このプロジェクトは未知の領域への挑戦でした。しかし同時に、自ら考え、形にしていく醍醐味を実感できる機会でもありました。
「振り返ると、このプロジェクトは私のキャリアの中でも最も多くのことを学んだ経験でした。必死に勉強しながら、自ら手を動かしてシステムを構築していく。そのサイクルを高速で回し続ける日々は大変でしたが、非常に充実していました。それまで幅広い技術経験を積んできた自負はありましたが、あらためてITの奥深さを実感する機会にもなりました。
とくに印象に残っているのが『ゼロトラスト』という考え方です。三菱重工では防衛関連をはじめとする機密性の高い情報を扱うため、何よりも強固なセキュリティが求められます。単純に新しい技術を導入すればよいわけではなく、守るべきものを正しく見極めながら、オンプレミスとクラウドを適材適所で使い分けることの重要性を学びました」
しかし、こうした新しい技術や考え方を、長い歴史を持つ三菱重工全体へ広げていくことは容易ではありませんでした。
「このような経験から会社全体へ展開していく段階では、大きなギャップがあると理解しています。これまで培われてきた文化や仕組みを尊重しながら、より良い形へ進化させていく必要があります。最終的には技術の問題ではなく、人と人との対話の問題なのだと感じています。私が意識しているのは、一方的に新しいやり方を押し付けないことです。
丁寧な説明を重ねることはもちろんですが、実際に体験してもらうことを何より大切にしています。対話の中で興味を持ってくれるキーパーソンを見つけ、その方々に納得してもらうことで、徐々に周囲へ広がっていきます。トップダウンとボトムアップの両方が機能して初めて、大きな変革につながるのだと考えています」
こうした「相手の理解を妨げない」という考え方は、アジャイル開発やスクラムを三菱重工向けにカスタマイズした「重工流スクラム」にも反映されています。
「スクラムやアジャイルを導入する際も、世の中の手法をそのまま持ち込むのではなく、組織に合った形へ工夫してきました。たとえば、あえてカタカナの専門用語を多用しないようにしています。なじみのない言葉が増えると、それだけで相手との距離が生まれてしまうことがあるからです。
相手の視点に立ち、わかりやすい言葉で対話する。そして困りごとにしっかり共感した上で、私たちが持つ技術や手段でどのように解決できるのかを丁寧に説明する。その積み重ねが、変革を前へ進める上で最も重要だと考えています」
陸、海、空、宇宙まで。広大なフィールドを支えるサーバ・クラウド環境の奥深さ
エンジニアとして入社して以来、廣政は現場の第一線で技術に向き合いながら、グループ長として組織運営も担う立場へと成長してきました。その中で、変わらない信念と、新たな役割だからこそ得られた視点があります。
「大切にしている考え方やスタンスは、役割が変わっても一貫しています。一方で、見える景色は大きく変わりました。より多くの情報が集まるようになり、これまで見えていなかった課題や組織同士のつながりも理解できるようになります。
個別最適では正しくても、全体最適の視点で見ると改善の余地があることもあります。そうした部分に働きかけながら組織全体をより良くしていくことに、現在は大きなおもしろさを感じています」
こうした考え方の原点には、前職時代の経験があります。
「開発環境やインフラに携わる中で、組織の境界にある課題が『自分たちの担当ではない』という理由で放置される場面を見てきました。私はそうした課題を拾い上げ、主体的に解決することを意識してきました。
重要なのは、要望をそのまま実現することではなく、本質的な課題を見極めることです。利用者が考える解決策と真の課題が一致しているとは限りません。原因を掘り下げ、最適な手段を提案する。コンサルティングに近いこのアプローチは、自分の強みにもなっています」
日本、そして世界を支える巨大な企業である三菱重工。その中でサーバ・クラウド環境を担うことには、他では得られない醍醐味があると語ります。
「私たちが支える事業領域は、陸・海・空、そして宇宙にまで広がっています。これほど多様で大規模な事業をIT基盤の立場から支えられることは、三菱重工ならではの魅力です。最新技術を追い求めるだけではなく、情報の機密性や事業特性に応じて最適な技術を選択し、基盤を進化させていく。そのバランスを考え続けることに、エンジニアとしての大きなおもしろさがあります」
廣政は、デジタルイノベーション本部として、また個人として、これから社内外でどのような組織を築き上げていきたいのか、未来の展望を掲げます。
「インフラ部門は『縁の下の力持ち』であり、普段は目立つ存在ではありません。しかし、事業や社会を支える重要な役割を担っています。メンバー一人ひとりが、自分たちの仕事の価値を実感し、誇りを持って働ける組織にしていきたいと考えています」
最後に、これから三菱重工への挑戦を考えるエンジニアへメッセージを送ります。
「大企業ならではの制約や変革の難しさはあります。しかし、その壁を乗り越えた先には大きな達成感があります。壁を楽しみながら挑戦できる方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。
三菱重工には幅広い事業フィールドがあり、自身の経験やスキルを活かせる場所が必ずあります。私も、インフラの枠にとどまらず、アプリケーションやセキュリティなど複数の領域を横断して活躍できる人財を育てていきたいと考えています。
変化の激しい時代だからこそ、組織を支えるのは『人』です。この魅力的なフィールドで、ともに挑戦する仲間が増えることを楽しみにしています」
※ 記載内容は2026 年7月時点のものです

