鏡を頼りに挑むアルミ溶接や巨大なプラモデルのようなNC切断で、造船の最前線を担う
日本の海の安全、経済活動を支える多種多様な船が造られる現場があります。武田は三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)に入社後、グループ会社の三菱造船株式会社(以下、三菱造船)へ派遣され、ものづくりの最前線で汗を流しています。
「私が所属する三菱造船の造船工作部は社員だけで約400名が在籍し、協力会社を含めると倍近くになる大規模な組織です。ここでは30m級のアルミの漁業取締船から200m級の旅客フェリーまで、お客さまのニーズに合わせたさまざまな船を造っています」
現場の空気感について、武田はのびのびとした表情で語ります。
「メンバーは元気で体力があり、普段からコミュニケーションが活発です。上下関係が厳しいと感じることはなく、何でも相談できるフラットで温かい空気感がありますね。
担当業務の受注状況によって手が空いている時は他部署へ応援に行くこともあり、同期の中には長崎や神戸の造船所まで出張に行ったメンバーもいます」
そんな大きな組織の中で、武田が担うのは船体を形づくる重要な役割です。
「船は、全体をいくつかのブロックに分けて造り、それらを組み上げて形にしていきます。ブロック同士をつなげるために金属の板と板同士を熱で溶かしてくっつける技術が溶接です。私は主にアルミ製の船の溶接を担当しています。
鉄製の船は大きいため、作業スペースが広くて動きやすいですが、アルミ船は構造が同じでも小さくて狭いんです。限られた空間に身をよじらせて入り込み、鏡を使って見えない裏側を溶接するような高い身体的工夫と技術が必要とされ、ここでしか得られない職人技が要求されます」
武田が手がけるのは溶接だけにとどまりません。自分の手で部材を切り出すという重要な業務も任されています。
「溶接と並行して『NC切断』という業務も担当しています。2m×8mの巨大な板をコンピュータ制御された工作機械を使って船の部材に切り出す作業で、イメージとしてはプラモデルの部品を作るような感覚ですね。
この仕事は、部材を搬入して、工作機械を操作して切断し、切った部材を運ぶところまですべて1人で担当します。やるべき作業はとても多いですが、だからこそ『このやり方のほうが効率よく進められるな』と、自分で流れを考えて作業をコントロールできるおもしろさがあるんです」
どんな仕事にも楽しさを見出し、全力で仕事に向き合う武田。その根底には、学生時代から抱き続ける強い信念があります。
「昔から『今日が人生最後の日になっても後悔しない生き方をしよう』というポリシーがあり、仕事をする上でも『どうすれば後悔しないか』を軸に考え、行動しています。
だからこそ、仕事の手を抜かず、今抱えている作業はもちろん、その後に続く工程のことまで考えてやり切る。そうして高い品質の船をしっかり造り上げたら、休みを取って気持ちよく遊びに行くことをモチベーションにしています。オンオフのメリハリをつけることが、仕事もプライベートも全力で楽しむための鍵です」
父親への憧れから進んだ造船の道。同期との研修を経てアルミ溶接の技術を磨く
武田が造船の世界を志したのは、貨物船の船長をしていた父親への憧れが原点でした。
「幼い頃から、夏休みなどに父の船に乗せてもらっては、働く父の姿を見て『自分も同じ仕事をしたいな』と思っていました。
そして中学校の進路説明会で、就職先リストに三菱重工が載っている高校を見つけたんです。『この高校に行けば、三菱重工という大きな会社で父と同じ船の仕事ができるんだ』と確信し、その工業高校の機械科へ進学しました」
造船に限らず、広く機械に関する専門技術を学んだ武田は、見事2020年に三菱重工への入社という夢を叶えます。ちょうどコロナ禍のタイミングでしたが、同じ志を持つ仲間たちの存在のおかげで不安はなかったと話します。
「最初の5カ月間は技能訓練生として、神戸造船所で53人の同期と集合教育を受けました。この時に学んだ社会人としてのマナーや安全作業の基本は今の仕事でも息づいています。
コロナ禍の慣れない土地での生活でしたが、同期たちと絆を深められる嬉しさのほうが大きかったですね。食事の時間や休みの日を一緒に過ごしたり、部屋で集まったりするのが本当に楽しくて。神戸や長崎にいる同期たちとは、今でも連絡を取り合ったり一緒に遊んだりする関係が続いています」
神戸での研修後は、下関造船所での安全教育や現場実習を経て、2021年に現在の船殻課 舟艇係 舟艇1班へ配属されます。
しかし、担当することになったアルミの溶接作業は、その性質ゆえに高い技術が求められます。武田は当時のことをこう振り返ります。
「アルミは鉄の3〜5倍の熱伝導率を持つため、溶接の最初は熱が伝わりにくく、逆に後半は熱が溜まってすぐに溶け落ちてしまいます。鉄を溶接する場合は同じスピードで溶接できるのですが、アルミの場合はそうはいきません。最初の30cmと後半の30cmで溶接スピードが変わることを意識して、うまくコントロールするのがすごく難しかったですね」
この壁を乗り越えるため、武田は現場の状況を冷静に観察しながら努力を重ねました。
「溶接の電流などを細かく調整し、状況を見極めながら徐々にスピードを変えるなど、試行錯誤を繰り返しました。鉄の溶接もトータル1年ほど経験してその違いを知っていたからこそ、アルミならではの高度な技術を習得することができました」
失敗を乗り越えて得た、より良い船造りへの視点。船の完成を見届けられるのがやりがい
技術を高める日々の中で、武田が印象に残っている出来事があります。
「溶接とは別の業務として、『マーキング作業』という何もない板に図面通りに線を描く仕事に新しく挑戦した時のことです。寸法通りに正確な線や文字を書いていく仕事なのですが、いざやってみると図面の読み方が非常に難しく、最初は思った通りに引けずに失敗してしまいました。自分の力不足を痛感し、悔しさも味わいました。
でも、『この技術を覚えれば今後の業務にきっと活きる。だから今は踏ん張ろう』と、なんとか自分を奮い立たせることができました。また、失敗して謝る私に、先輩たちが『気にしなくていいよ』と笑顔でフォローしてくれたことも嬉しかったですね」
先輩たちに温かく支えられて業務の幅を広げてきた武田。今では、自ら主体的に現場を良くする活動にも取り組んでいます。
「10名ほどの班の中で2〜3人のチームを組み、『どうすればきれいな溶接ができるか』『もっと高品質な船が造れるか』を毎年主体的に議論し、アイデアを形にする改善活動に取り組んでいます。一人ひとり異なる視点を融合させ、自分たちの手でより良いものづくりへと進化させるプロセスには、これまで培ってきた経験を活かせていると感じます」
武田はあらためて、現場で実感する船造りのやりがいを熱く語ります。
「進水式や船の引き渡しの瞬間に立ち会うことがありますが、自分が手がけたものが海へ浮かぶという達成感があります。とくにアルミ船は少人数で造るからこそ、どういう風に船が組み上がって完成していくか、その過程を1から100まですべて見届けることができます。それこそが、ものづくりの大きなやりがいですね」
さらに、三菱造船というフィールドそのものが、武田にとっての誇りにもなっています。
「キャリア採用者のメンバーが『今までの会社では経験してこなかったことばかり』とよく言うほど、造船業は特殊な世界です。ですが、それは裏を返せば、ここでしか身につかない唯一無二の専門性を得られるということ。
しかも、毎日ルーティン作業を繰り返すのではなく、日によっていろいろな作業を行う職場なので、次は何をしようかと常に頭を働かせます。仕事に飽きることがないところが最大の魅力です」
どこでも頼られるオールマイティな職人へ。新たな仲間と共に仕事を楽しみたい
プロフェッショナルとして着実に成長を遂げてきた武田は、自らがめざす理想の姿を明確に描いています。
「1つのことだけを極めるのではなく、オールマイティで視野が広い職人になりたいです。アルミ船は鋼船に比べて規模が大きくない分、一人ひとりが担当する仕事の種類がすごく多い。つまり、できる仕事が多ければ『他のチームが忙しいから応援に行こう』といつでも駆け付けられます。そんな周囲から頼られる存在になることが目標です。
最近は、他のメンバーに作業の指示を出す業務も担当しているのですが、まだまだスキルが足りないなと感じています。全体や作業工程をしっかりと理解して、誰がどの作業に向いているかを的確に見極め、うまく現場を動かせるようになりたいですね」
さまざまなスキルが求められる造船の最前線で活躍できる人材とは。武田は実感を込めて次世代の仲間へメッセージを送ります。
「現場で活躍しているのは、単に豊富な知識や高い技術を持っている人ではなく、周囲としっかりコミュニケーションが取れる人です。状況が常に変わる現場だからこそ、ただ仕事ができるだけでなく、仲間と密に連携する力が最高の技術になり、物事を円滑に進める力になります。
そのためにも、若いうちはとにかくいろいろな仕事を経験して、たくさん失敗してほしいですね。恐れずに挑戦して、苦い経験を次の成功に活かした人のほうが、きちんと自分で考えて仕事ができるようになり、最終的に大きく成長できます。私自身、そう信じながらここまでやってきました。
大変なこともありますが、トータルで仕事を楽しいと感じられる、そんな活気ある職場をぜひ一緒に創り上げていきましょう」
何事にも後悔のないように向き合う武田の挑戦は、これからも未来の仲間と共に、どこまでも広く深い海へと続いていきます。
※ 記載内容は2026年5月時点のものです

