巨大なエンジンの「心臓」を研ぎ澄ます──大型エンジン工作課の日常
森屋が所属するのは、三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社(以下、MHIET)の生産本部製造部。その中の大型エンジン工作課、大型エンジン機械係クランク・カム班で、約30人のメンバーと共に働いています。
「メンバーの8割から9割は工業高校出身で、機械やものづくりが好きなプロフェッショナルが集まっています。現在、生産本部では発電機や船舶用の大型エンジンを主に作っています。忙しい中でも、メンバー全員が安全第一の意識を持って仕事に取り組んでいます」
森屋が担当するのは、社会を支える発電機用エンジンや、特殊車両といった大型エンジンの要となるクランクシャフトの加工。汎用旋盤や研削盤といった、ミクロン単位の精度が求められる機械を巧みに操作しています。
「班のミッションは、安全第一の上、最高品質の部品を後工程に流すことです。加工には、NC機械と汎用機械の両方を使用します。とくに、特殊車両のクランクシャフト加工は、昔から受け継がれてきた古い汎用機を使うことも多いんです。
最新のNC機(自動制御機)ならプログラムで動きますが、汎用機は職人の指先の感覚がすべて。後ろの工程に迷惑をかけないよう、自分が全責任を持って次のメンバーにパスを出すという意識を心がけています」
突発的な不具合への対応や、微細な修正に真価を発揮する汎用機。最新技術と熟練の感性が共存するこの現場で、森屋は作業の先にあるものを見つめています。
「単に図面通りに削るだけではなく、『なぜこの精度が必要なのか』を常に考えます。一つひとつの作業に意味があり、それがエンジンの性能に直結する。点ごとの作業それぞれの重みを知ることが、プロとしての第一歩だと思っています」
この価値観を持つようになったきっかけは、2025年度の三菱重工グループの技能競技会への参加でした。各事業所から代表で一人が出場する大会で、品質も時間も求められる厳しい競技です。
「実際にトラブルがあった時に、どうすれば効率よく作業できるかを考えられるようになり、貴重な経験ができました。そして、今になって、当大会への参加はとても有意義だったと感じています」
その競技会で1位を獲得した森屋。学んできた知識を総動員させた結果でした。一つひとつの作業を点ではなく線として捉え、すべての知識がつながる瞬間を大切にする。その姿勢が結果を導いたのです。
コロナ禍の不安を越え、コミュニケーションという名の壁を越えていく
学生時代に自分の手でものを加工し、作り上げていくことへの憧れが生まれ、ジェットエンジンや戦車など他企業では作れないようなものを作る技術を持っている三菱重工に魅力を感じた森屋。
しかし、その道のりは決して平坦なものではありません。期待を胸に2020年に入社した森屋を待ち受けていたのは、未曾有のパンデミックでした。
「入社してすぐ、名古屋での技能訓練生生活が始まりました。でも、当時はコロナ禍の真っ只中。地元を離れた不安に加え、外出もままならない日々。せっかく同期と出会えたのに、思うように交流できないもどかしさがありました。正直、『この先、やっていけるだろうか』という不安が常に頭の片隅にありました」
そんな沈んだ空気を救ってくれたのは、同じ境遇にいた同期たちの存在でした。
「一人ひとりが不安を抱えていたからこそ、寮で集まって話をしたり、励まし合ったりすることで、なんとか1年間の訓練をやり遂げることができました。同期との絆は、今でも私の大きな支えになっています」
しかし、訓練を終えて相模原の現場に配属されると、新たな壁が立ちはだかりました。それは「世代間の壁」です。
「現場に行くと、自分の親よりも年上のベテラン社員ばかり。これまで先生や親以外の大人と深く接する機会が少なかったので、どうやって言葉を交わせばいいのか、コミュニケーションの難しさを痛感しました。技術以前に、人間関係で悩むことが多かったんです」
森屋は、そこで諦めるのではなく、自ら動くことを選びました。
「自分から歩み寄るために、まずは共通の話題を探そうと、意識してニュースを見るようにしました。ベテランの方々と対等に話をするためには、社会のことを知らなければならないと思ったんです。自分なりに試行錯誤しながら声をかけ続け、今年で入社5年目、ようやく現場の空気の一部になれた、という実感が持てるようになりました。
また、技術的な不安も大きかったのですが、仕事が終わった後に自主学習の時間を設けてノートをきれいにまとめ直すなど徹底しました。そうして自分なりのキャッチアップを続けることで、少しずつ自信を積み上げていきました」
小中高と続けてきた野球部での経験にも支えられたと言います。
「野球部で学んだ上下関係や先輩との関わり方。そして、礼儀というものが今の仕事において職場での人間関係やコミュニケーションに大きく役立つようになっていることを実感しています」
点と点が線でつながる瞬間──技能競技会1位と、先輩の偉大さ
森屋の努力が、目に見える形となって結実する日が訪れます。それが、三菱重工グループの各拠点から代表者が集う汎用旋盤の競技会でした。
「2026年の3月に開催された大会に向けて、猛特訓を重ねました。汎用旋盤は、時間と品質の究極のバランスが求められます。トラブルが起きた時にどうリカバーするか、どう効率的に削り出すか。
その時、ふと気づいたんです。それまでバラバラだった一つひとつの作業、先輩から教わった断片的な点の知識が、自分の中で一本の『線』としてつながっていく感覚がありました」
結果は見事、1位獲得。すべての知識を総動員してつかみ取った栄冠で、技術力の向上だけでなく仕事への向き合い方そのものが変化した瞬間でした。しかし、この成功の裏には、森屋を変えたもう一つの大きなエピソードがありました。
「入社3〜4年目の頃、私たちのグループの改善活動(CS-TPM)の成果を社長の前で発表する機会があり、発表者として大役を任されました。ですが、当時の私はまだ知識が浅く、改善案をまとめるのに四苦八苦していたんです。
そんな時、先輩たちが自分の仕事を止めてまで、夜遅くまで私の相談に乗ってくれました。『先輩って、なんて偉大で優しいんだろう』と感動したのを覚えています。1位を取れたのも、私一人の力ではなく、そうやって寄り添ってくれた先輩たちの教えがあったからこそ達成できたのです」
先輩たちに支えられつつ成長を止めない森屋にとって、仕事の最大のモチベーションは達成感にあると言います。
「戦車のクランクシャフトは、一本を仕上げるのに非常に長い時間がかかります。でも、苦労して削り終え、それが一つの形になった瞬間は、何物にも代えがたい感動があります。さらに、自分が手がけた部品が組み込まれ、巨大な戦車が動き出す姿を想像すると、胸にグッとくる達成感こそが、ものづくりの醍醐味です。
また、私にとって全国にいる訓練生時代の同期とのつながりも大きな財産となっています。相模原や長崎、名古屋など全国に拠点があって、県外の仲間とのつながりが持てる部分はとても魅力的だと感じています」
ものづくりの仕事そのものだけでなく、全国に散らばる仲間と切磋琢磨できる環境。技術を磨き、人とのつながりを大切にしながら、森屋は三菱重工グループで着実に成長を続けています。
後輩へつなぐバトン──寄り添えるプロフェッショナルをめざして
現在、森屋は自らの技能を磨くだけでなく、技能検定の補佐員として後輩の指導にも携わり始めています。「学ぶ側」から「教える側」へ。森屋の視座は一段高いところへと移りつつあります。
「うまく後輩に引き継いでいきたいと思いつつも、今はまだ自分の教える力のなさやまだまだ足りない技術力を痛感しています。自分が当たり前にできることを、言葉にして伝えるのは本当に難しいです。
ですが、あの時先輩が私に優しく寄り添ってくれたように、私も後輩が不安そうな顔をしていたら真っ先に声をかけられる存在になりたい。技術力で引っ張るのはもちろん、『森屋に聞けば大丈夫だ』と安心してもらえるような、寄り添えるプロフェッショナルをめざしています」
これから三菱重工グループの門を叩こうとしている学生たちに向けて、森屋はアドバイスを送ります。
「一番大切なのは、コミュニケーション能力だと思っています。学生のうちに、友達だけでなく、先生や地域の人、異なる世代の人とたくさん話をしてください。
そして、社会に出た時にわからないことを素直に聞き、相手を理解する力が技術を習得するスピードを何倍にも早めてくれると思っています。あとは、メモを取ること。一度言われたことを自分の言葉で整理し、後で見返して理解を深める。この習慣が、いつか点と線をつなぐための大きな武器になるはずです」
社会人一年目は、体力も必要になってくると言います。
「仕事は大きな部品を扱う作業も多いので、フィジカルも必要になってきますが、『挑戦したい』という気持ちを自分の意志で実践できている。そう思える今の自分を誇らしく感じています。ぜひ、私たちと一緒に、世界を動かすものづくりに挑戦しましょう」
自分の意志で挑戦を選べる環境で、これからも森屋は技術を極め、次の世代へとつないでいきます。
※ 記載内容は2026年6月時点のものです

