現場の納得感なくして安全は守れない。工場での経験を活かし、全社の意識を変える
私は2006年に生産技術職として入社し、牛乳やヨーグルトなどの製造現場を約15年にわたり担当してきました。工場での仕事はとてもやりがいがありましたが、その中でより良い組織づくりや、部下の能力を引き出すチームビルディングに興味を持つようになりました。これまで培った経験を活かしながら、さらに専門性を磨いていきたい。そう考え、当社の労働安全活動の変革に携わりたいとの思いから、異動希望を出し続けたことも奏功してか、22年に本社品質本部へ配属となりました。
現在は、国内外の工場における労働災害防止のためのルール策定や教育、現場の監査などを幅広く担当しています。安全活動は地味だというイメージがあるかもしれませんが、これほど重要な仕事はありません。そのことを社内に知ってもらい、安全活動をさらに意義のあるものへと進化させていくことが私の役割です。
工場での経験が長かった私は、「労働安全の第一人者になる!」というくらいの意気込みで本社へ異動しました。しかし、現場と本社のギャップは想像以上でした。
現場での安全活動は「ルールを守り、ケガを防ぐこと」が中心です。一方、本社では「ルールを策定するだけでなく、それを全社的な仕組みとしてどう現場に定着させるか」までを考えなければならない難しさがあります。
ただルールを作るだけでは、結局は絵に描いた餅に終わり、労働災害を防ぐことはできません。99回ルールを守っていても、たった1回守らなかった時に労働災害が起こってしまうこともあります。安全は「当たり前」のようで、それを維持することは難しく、だからこそ活動を推進し続ける意義を実感しています。
その中で私がとくに意識しているのは、現場の「納得感」を得ることです。たとえば「手すりを持つ」というルールも、守らなかったことで実際にどんなケガが起こるかを自分事としてイメージできなければ、現場には浸透しません。
そこで、これまでの経験を活かし、どう伝えれば工場が納得して実践してもらえるかを考えながら、コミュニケーションをとることを意識しています。
安全活動を自己満足で終わらせないために。一生消えない後悔を、組織を変える原動力へ
私が品質本部への異動希望をもつきっかけとなった、一生忘れられないつらい経験があります。当時、工場にて、私の部下だった若い社員が負傷する事故が発生しました。安全活動はしっかりできていると思い込んでいましたが、それは単なる自己満足に過ぎず、大切な部下を守ることができませんでした。
病院に付き添い、無力感に打ちひしがれる中で、猛烈な後悔が私を襲いました。本人のやる気を尊重して作業を任せていたものの、結果を見れば、本当に大切なことを伝えられていなかったのだと気づかされました。ルールを作り、知識を与えるだけでは十分ではない。この状況を変えるには、組織の在り方そのものを変えなければならないと気づきました。
当時、私が現場で取り組んでいた安全活動は、資料づくりや文書管理が中心となっており、今思えば、安全活動の意義を十分理解できておらず、義務として取り組んでおりました。本社による点検や監査の際には、良い評価を得ることに意識が向いていました。
しかし、形だけの活動を頑張っても労働災害はなくならないことを、工場での事故の経験を通じて実感しました。
現場で直面した課題と向き合い、二度と自分と同じ後悔を誰にも経験させたくない。そのためにも、安全活動の在り方そのものを変えていきたいという想いが、品質本部での業務の原動力になりました。
監査は指摘の場ではなく、対話の場。現場の声に向き合い、安全への理解を深める
安全活動の在り方を変えるため、私はさまざまな挑戦を始めました。その1つが、社内創発プログラム「I-meiji(イメージ)」への参加です。「I-meiji」は、社員が自ら考案した新規事業アイデアの事業化に挑戦できる社内起業制度です。私は異動後に取得した労働衛生コンサルタントの資格を活かし、他社向けに労働安全のコンサルティングサービスを展開する事業のアイデアを提案して、約半年間にわたり活動しました。
結果的に事業化には至りませんでしたが、行動を起こしたことで社内にインパクトを与えられたと感じています。労働安全ともすると、その価値が十分に認識されておらず、企業価値としても評価されづらい分野です。そうした中で労働安全に興味を持ってもらえるきっかけがつくれたことは、私にとって大きな意味がありました。そして、このプログラムを通じて得られた志の高い仲間たちとの出会いは、今も私の支えとなっています。
労働安全の取り組みは、国内だけでなく海外工場でも推進しており、定期的に中国の事業所へ赴いて安全点検や講義などを行っています。言葉や文化の壁がある中、私はできる限り内容を噛み砕き、時にはユーモアを交えて伝えることを意識しています。
その理由は、義務として押し付けられた安全活動では「やらされ感」が生まれ、決して本質的な結果にはつながらないからです。少しでも現場の心を解きほぐし、活動を楽しみながら、安全の意義を身近に感じてほしいというメッセージを込めています。
こうした対話やコミュニケーションを通じ、人や組織を変えていくことに新たなやりがいを感じています。意識や行動を前向きに変えられるよう、私は日々の監査においても現場の視点に立った対話を大切にしています。監査される立場としては、どうしても警戒心を持ってしまうものです。そのため監査に入る前には雑談を交えつつ、現場の不満や心配事をヒアリングするなど、まずは現場との距離感を縮めることから始めています。
その結果、現場から「自分たちのことを素直に話すことができた」「実りのある監査だった」と直接声を届けてもらえるようになりました。こうして監査を通じて安全活動への理解を深め、労働環境そのものを改善していくことは、社員のエンゲージメント向上に直結すると考えています。
ただルールを守らせるだけでなく、現場のメンバーが働きやすい会社づくりに貢献できること。それが私のやりがいにつながっています。安全は設備やルールだけではなく、人の納得感や組織文化が大きく影響する領域だと感じています。だからこそ、私は監査を指摘の場ではなく、対話の場にしたいと考えています。
安全は、人と組織の力を引き出す基盤。活動を進化させ、明治の企業価値を高めていく
安全活動に関する外部の知見を取り入れるため、社外の講演会や展示会などにも積極的に参加しています。そうすることで人脈をつくり、他業界の方々と自主的な勉強会や意見交換会を行っています。
他業界の現状を知るまでは、明治は人や予算をかけて十分に安全活動ができていると考えていました。しかし、他業界の取り組みに触れたことで、自社が遅れている側面もあるのを痛感しました。長期的なビジョンをどう描くかなど、社外での学びを今後の取り組みに活かしていきたいと考えています。
工場での大きな後悔から、安全活動の在り方を変えたいと品質本部へ異動して約4年が経ちました。日々業務と向き合う中で、私にとっての安全とは「人や組織の力を最大限に発揮するための基盤」だと考えるようになりました。
業務に集中できる安全な環境が整えられていなければ、社員は本来のパフォーマンスを発揮できません。安全な環境があってはじめて、社員一人ひとりの力が引き出され、エンゲージメントが向上し、組織の力も高められていきます。安全は、人としてまず必要なものであり、安心して健康に働くための基盤なのです。
それは、人・社会・地球のすべてが健康である「より良い未来」の実現をめざして事業を続けてきた、明治の強みを発揮できるフィールドだと言えます。労働災害を防ぐだけでなく、社員の健康を守り、安心してパフォーマンスを発揮するための攻めの取り組みへとシフトできれば、明治の安全は飛躍的に進化すると考えています。近年は経営陣の関心も高まり、安全への投資が増えるなど新たな変化も見えてきました。
風向きが変わりつつある今、安全は可能性に満ちた分野だと、私は現場の皆さんに伝えたいです。単なる日々の義務ではなく、未来の企業価値に変えていけるかどうかは、私たち一人ひとりの姿勢に懸かっています。
私が現場の経験を経て品質本部へ異動したように、現状に対する違和感や不満を、変革の原動力に変えるチャンスは誰にでもあるのです。私自身、悩んだ時はあえて難しそうな道を選択してきましたが、異動も「I-meiji」も、思い切って挑戦してみて良かったと思っています。安全の価値を高めたい、安全のためにできることをもっと追求したいという熱い志を持つ仲間たちと共に、さらなる活動の発展をめざしていきたいと思います。
※ 記載内容は2026年6月時点のものです

