現場に直接足を運び、安全と経営を裏から支える──GAP審査員としての誇りと使命
伊藤が審査員として携わるGAP(Good Agricultural Practice:適正農業規範)とは、食品安全の確保や労働環境の整備など、農産物の安全・安心な生産体制が構築されていることを客観的に証明する認証です。GAP認証室に所属する伊藤は、自らのミッションを次のように語ります。
「農業は食品上の安全確保はもちろん、実は事故やけがの多い業界でもあります。働く人が安全に作業できる環境をつくるなど、ルールに沿った農場運営がなされているかを確認するため、実際に全国の農場へ足を運んでいます」
現在、GAP認証室には8名のメンバーが在籍しており、そのうち6名の審査員で全国の農場を分担して回っています。
「農場は公共交通機関で行きづらい場所も多く、前日入りして1日で終わるケースもあれば、3日ほどかけてじっくりと審査を行うこともあります。現場へは単独で赴くことが多いですが 、チーム内は非常に風通しが良い環境です。
全国各地に分散していてもチャットツールなどで常に連携しており、判断に迷った際はすぐに相談可能です。その日のうちには的確なアドバイスをもらうことができます。現場では1人でも決して孤独ではなく、チームで支え合う文化が根付いているため、非常に仕事がしやすいですね」
伊藤は入構後、GLOBALG.A.P.やJGAP / ASIAGAPといった審査員資格を次々と取得し、確かな専門性を築いています。現在は自身の経験を活かし、新しく入ったメンバーのサポートも行っています。
「新しく入ったメンバーは、組織をうまく運営するための規格であるISO9001のトレーニングも受けています。組織全体のマネジメントを最適化するというISOの視点を、農業の現場に転用・還元することが、JQAの差別化のポイントです。私自身も昨年ISOのトレーニングを受けたばかりなので、その時の経験を踏まえてアドバイスを行ったり、いつでも質問に答えたりと、日々のサポートを心がけています」
取得する側として現場を奔走した過去。その経験こそが、生産者に寄り添う伴走の原点
現在はJQAの審査員として活躍する伊藤ですが、前職では自社農場の管理業務を担い、自身もGAP認証を「取得する側」として奔走していました。その時の経験が、現在の生産者に寄り添うスタンスの原点になっています。
「前職で農場を管理していた当時、効果的な運営をしていく上で、GAPの仕組みが非常に役立つ指標になると実感しました。現場に新しい仕組みを導入する際は、業務の手間が増えることへの懸念が生じやすいものです。
しかし、GAPを取得するという明確な目的を共有することで、業務の改善点が見えやすくなったのです。農業は天候や相場に左右されやすく、人手不足という課題もあります。だからこそ、経営のノウハウとしてGAPを皆さんにも取り組んでいただきたいと思うようになりました」
自ら認証取得に奔走したことで、GAPが農場経営を底上げする強力なツールであることを身をもって学んだ伊藤。JQAへ入構することになった背景には、当時の出会いがありました。
「実は前職時代、自社に審査へ来ていただいたJQAの審査員の方との対話を通じて、審査員というキャリアの選択肢があることに気づかされました。すぐに転職を決断したわけではありませんでしたが、数年後に自身のキャリアを考えた際、当時のご縁を思い出して第一候補としてJQAを選びました。今では本当にJQAを選んで良かったと思っています」
現場での実務経験があるからこそ、伊藤は生産者の日々の努力を尊重し、フラットな目線で共に改善をめざす姿勢を大切にしています。
「会社として農場を運営されていること自体が本当に大変なことだと感じています。ですから、まずは相手の仕事のやり方を尊重し、現状のやり方で業務が回っていることを踏まえた上で、さらに良くなるための気づきをご提案する。あくまで相手の主体性を尊重し、寄り添うスタンスで取り組んでいます」
自身の正解を手放し、フラットな視点とISOの知見が生み出す価値
JQAに入構し、実際に審査員としての活動をスタートさせてからは、外から見ていた時とのギャップや自身の力不足に直面することもありました。慣れない環境下での初期の審査では、精神的にも大きな疲労を感じていたと言います。
「初めての訓練審査へ行った時は、緊張から前日の時点で夜中に目が覚めてしまいました。審査が1日終わった後も脳が興奮しているような状態で、なかなか寝付けない日が最初の3回ほど続きました。それでも、現場での経験を重ねるうちに、少しずつ自分のペースがつかめるようになってきましたね」
また、審査を「受ける側」から「する側」になったことで、自身の向き合い方に関する大きな気づきもありました。
「審査員になった当初は、自分がGAPを取得した時の解釈を『正解』としてしまい、無意識に違うやり方をされている方を自分のやり方に誘導しそうになることがありました。自身の経験に基づく偏った見方と自省し、そのような思い込みを排除し、まずはお客さまの取り組み方を一旦フラットに判断して、正しく評価しなければならないと痛感しました」
日々の実務に加え、ISO9001の審査員トレーニングを受け、資格を取得したことも大きな転機なったと伊藤は続けます。
「GAPとISO 9001のいずれの審査でも、まずは要求事項への『適合性』を確認します。なかでもGAPの審査は、具体的な要求事項である管理策に沿って取り組みが行われているかという『適合性』を確認する面が強いです。
一方、ISO 9001のトレーニングを受けたことで、適合性だけでなく、組織がめざす姿の実現に向けて、その取り組みが本当に有効に機能しているかという『有効性』にまで、視野が広がりました。この視点をGAPの審査にも活かすことで、要求事項の背景や目的をより深く捉え、お客さまにとって価値のある審査ができるようになりました」
自身の課題に向き合い、本質的な視点を探し続けることで、伊藤は審査員としての専門性を日々高めています。
JQAだからできる社会貢献──未来の仲間と共に、日本の農業の持続的な発展を牽引する
2025年12月にJQAにおけるGLOBALG.A.P.のスキームマネジャーとして登録された伊藤。今後はGAP認証室の中核としてチームを牽引しつつ、日本の農業の未来を見据えたより大きな目標に挑もうとしています。
「まずは目の前の審査業務に真摯に取り組み、要求事項の意図をわかりやすく伝え、組織の力の向上につながる審査ができるよう、審査員としての基本的な力量をさらに高めていきたいです。そして将来的には、勉強会の開催などを通じて他の審査員をサポートし、チーム全体の成長をリードしていく立場になれればと考えています。
その上で、現在GAPを取得している農場はまだごく一部です。農業従事者の高齢化が進む中、日本の農業が国内で続いていくためには、安全な農作物を安定的に作り 、農業を継続していける環境づくりが不可欠です。地道な取り組みにはなりますが、皆さんにGAPをもっと広めていくことで、少しでも社会に貢献できればと考えています」
組織が拡大し、今後新たな仲間を迎えるにあたって、JQAの風土に合う人物像について次のように語ります。
「JQAの審査員に求められるのは、お互いの考え方を尊重できることです。立場や経験が違えば見え方は異なりますが、『そういう考え方もあるよね』と受け止める広い心が必要です。
一方で、改善すべき点は正確に見極める、知的な判断力も求められます。現場には1人で伺うことが多いですが、迷った時はチームに相談し、互いに協力し合える方と一緒に働きたいですね」
未来の仲間に向けて、伊藤はこう言葉に力を込めます。
「地道な仕事かもしれませんが、間違いなく社会のため、そして農業の役に立つ取り組みです。そういった想いに共感していただける方に、ぜひ参加していただきたいです。私たちが良い審査を行うことで、お客さまの経営改善につながり、GAPに取り組んで良かったと思っていただけることが一番の喜びです」
誠実で温かな眼差しを持つ審査員たちが、これからも日本の農業の持続的な発展を、確かな技術と対話で牽引し続けていきます。
※ 記載内容は2026年9月時点のものです

