安全、業績、そして人。昭島合材工場のすべてを統括する
東京都昭島市にある昭島合材工場は、前田道路の職員とプラントのオペレーターや配車を担う協力会社、あわせて40名ほどが働く拠点です。合材を運ぶダンプの運転手を含めれば、関わる人はさらに25〜30名増えます。
主軸となる事業は二つ。ひとつはアスファルト合材の製造と販売です。社内への出荷だけでなく、社外のお客さまへも販売しています。もうひとつが、舗装現場や解体現場から出る廃材の受け入れとリサイクル。既設の道路やビルなどの解体で生じた廃材を、舗装の下層に使う再生砕石として生まれ変わらせています。
「昭島は、全国の前田道路の工場の中でも取り扱う品種の多い工場だと思います。アスファルト合材は温度の高い状態で施工するのが普通ですが、常温でも使える袋詰めの合材をつくっていたり、残土の受け入れも手がけていたりします」
工場長の仕事は、ひとことで言えば工場の運営そのものです。就業管理をはじめとする組織の管理。利益に責任を持つ業績の管理。従業員と作業員の安全の管理。そこに、社外のお客さまへの営業活動も加わります。中でも最も神経を使うのが安全です。
「働く従業員も同じ仲間ですし、その一人ひとりに家族がいます。だからこそ、事故は絶対に起こしてはいけない。ただ、危険はどれだけ意識していても、ふとした瞬間に潜んでいるものです。だから毎朝の朝礼で、気をつけるポイントを具体的に話します。危険な要素を一つずつ取り除いていく。そこには日々、神経を注いでいます」
もうひとつ責任の重さを実感しているのが、業績です。
「工場長になった1年目、工場全体の成果が思うように伸びず自分の力不足を痛感しました。『1年目だから仕方ない』と声を掛けていただく事もありましたが、それでも次年度からはしっかりと成果を上げなければいけないという自覚がありました。そのため、1年目の年度末にかけてお客さまとの商談にこれまで以上に力を注ぎました。その成果が今期に入って実を結び、業績として成果が表れていることを実感しています」
自分の理想を突き詰めた先で実感した、お客さま視点の大切さ
鹿倉のキャリアの出発点は、大学の講義でした。
「専攻していた先生の講義で、道路の構造設計を習いました。構造設計は、言ってしまえば計算問題のようなもの。それを最初に習ったとき、ふとおもしろいなと思いました。何気なく歩いているだけの道路も、計算されて厚さが決まっている。調べてみると、たくさんの人の力が関わってできているものだとわかりました。人がつくるというところに興味を持ったのが、一番最初です」
2012年の入社から2025年までの13年間、鹿倉が担当し続けたのが品質管理課でした。原材料の仕入れと管理、出荷する合材の品質管理、再生砕石の管理。お客さまが施工した現場での管理試験も担います。さらに毎月の業績を管理する上で、材料費などの原価管理も品質管理課の役割のひとつです。
その品質管理課時代に、いまも忘れられない経験をしています。工場の建て替え案件に携わったときのことでした。
「工場が新しくなるタイミングは、自分の考える合材づくりに挑戦できる良い機会だと思っていました。『もっと良いものをつくりたい』という思いで配合の見直しに取り組んだのですが、当時の私は理想を追い求めることに意識が向きすぎていたのだと思います。その結果、お客さまが求めるものとの間にズレが生じてしまいました。その経験から、どれだけ良いと思うものでも、お客さまに受け入れていただけなければ意味がありません。商売はお客さまあってこそ成り立つものだとあらためて学びました」
一つの目的を達成するだけの仕事なら、誰にでもできる。二つ、三つの目的を同時にどう成り立たせるかを考えることが大事だ。鹿倉はそう考えるようになりました。この視点は、工場長になってよりいっそう効いてきます。
「一つの視点に固執してはいけないし、全体が見えていなければいけない。品質も、自分が良いと思うものだけを出すのではなく、お客さまも含めて幅広く見る。安全も同じで、手を抜いて早く終わらせることが良いわけではありません。それに、自分がプレイヤーだと目の前の仕事でいっぱいになって、一歩引いて物事を見られない。だからこそ、まずは工場長ではなく、工場全体を俯瞰できるナンバー2のポジションをめざして取り組んでいました」
「引っ張る人」だけでは、会社は守れない
冒頭に挙げた「乗り遅れる人をつくらない」という言葉。その背景には、工場の品質管理担当者として働くなかで抱いた、ある危機感があります。
「前田道路には全国に100カ所にも及ぶ工場があって、それぞれの拠点で日々、品質と安全を守っています。裏を返せば、そのどこか一つの拠点で何か問題が生じれば、前田道路という会社全体の評価になってしまう。それは一工場の一担当者だけでは、どうやっても解決できないことなんですよね」
自分が働く会社を守ることは、結果として自分の家族や社員の家族を守ることにもつながる。そう考えたとき、鹿倉のなかに浮かんだのが「底上げ」という発想でした。
「組織として、俺の背中を見てついてこい、と引っ張る人も当然必要でしょう。でも会社を守る、会社を運営していくうえでは、底上げをする人もいないといけない。私は背中を見せて引っ張るのが得意なタイプではないという自覚があったので」
だからこそ鹿倉は、乗り遅れる人、仲間外れになる人をつくらない工場づくりにこだわります。
「お互いが気にし合って、尊重し合って、同じ方向を向いてやれれば一番いい。どんどん突っ走る人は必要だが、そこに乗り遅れる人がでないように。同じグループ、会社、職場で働く人は、同じひとつのチームです。同じ方向を向いたベクトルが重なれば、それが巨大な推進力になると信じています」
いま最も難しいと感じているのも、やはり人だと言います。
「業績は取り組めば結果が出てくるかもしれませんが、人は必ずしも変化が目に見えて出てくるものでもない。一人ひとりと向き合って、コツコツやっていくしかない部分だと思っています」
新入社員研修での学校の先生のような経験。人を育てる仕事で見つけた手応え
品質管理課で現場を任されるようになった頃、鹿倉に新入社員研修の講師の役目が回ってきます。プラントの現地で、アスファルト合材の品質を決める「配合設計」を教える役割でした。
午前は座学。午後は、新入社員が自ら設計した配合を実機で製造し、供試体をつくって試験まで行います。汗だくになりながら、初めて自分で製造した合材と奮闘する新入社員たち。その日を鹿倉は「まるで気分は学校の先生」と振り返ります。新入社員からの質問もたくさん出たそうです。
「どういう順番で話せば理解してもらえるかをかなり作り込んだ記憶があります。理解しないと興味って出てこないと思うんです。理解できれば新しい知識になって、学びになって、それがおもしろさや興味になっていく」
若手を育てるおもしろさに気づいた鹿倉は、社内のアンケートや人事との面談で人材育成に関わりたいという希望を伝えていました。現在も職場体験ができる工場として、興味を持ってくれた学生の対応にも協力しています。学生に必ず伝えているのは、鹿倉自身が学生時代に感じた「前評判」との違いです。
「正直、私が就職活動をしていた当時、とくに就業時間において前田道路の前評判は良いとは言えませんでした。友人からもいろいろ言われながら面接を受けていたんです。でも、実際に接した前田道路の人たちは、人間味があって、気さくな方ばかりでした。仕事に真面目なぶん残業も多いという話はありましたが、人が悪いとはまったく感じなかった。入社してからも、どの工場に行っても同じでしたね」
そして入社後、会社は変わっていきました。
「私が入社した頃から就業時間も改善されてきて、それでいて給与はしっかりしている。最近では、家族を大事にしようという福利厚生もどんどん出てきています。いまインターンシップで来てくれる学生にも、すごく良いと思うよ、と誇りをもって伝えていますね」
どんな人と働きたいか。その問いへの答えは、シンプルでした。
「一言で言えば、人懐っこい人です。覚えが悪いとか、そういうのは時間を掛けて成長していけばいい。人懐っこくて、ちゃんと挨拶ができれば、まずはそれでいいのかなと。たとえ若手で実力不足と感じていても、周囲を巻き込みながら仕事を進める力があれば、仕事として成り立ちます」
最後に、これからめざす姿を聞きました。
「会社が見据えるビジョンをしっかりと理解して、それを咀嚼して、現場の人たちが乗り遅れないようにフォロー役に回る。そういう立ち位置でやっていきたいですね。対価をもらっている会社を好きになることは、すごく大事だと思うんです。職員が会社を好きになれば、両想いになれる。みんながそういう気持ちを持ってやれれば、組織として強くなると思っています。その底上げ役になりたいです」
引っ張るのではなく、支える。乗り遅れる人をつくらない。技術者として積み上げた13年の先に鹿倉が見つけたのは、人と組織に向き合うという、もうひとつの道でした。
※記載内容は2026年7月時点のものです
