わずか5年半で離着陸実験に成功。Hondaが挑むロケット開発の現在地
2025年6月17日、北海道広尾郡大樹町で行われたHonda初となるサステナブルロケット(※)実験機の離着陸実験。高度約300mまで打ち上げられたロケットは、目標と誤差37cmの場所に着陸。上昇・下降時のデータを取得し、実験は成功を収めました。
Hondaが宇宙領域の研究を開始したのは、2019年。現在は、宇宙で人間が長期間活動するために必要なエネルギーをその場で作り出し、有人拠点や移動用車両で使うことをめざす「循環型再生エネルギーシステム」。人間が遠隔操作することで月面や軌道設備などさまざまな場所で人類の活動領域の拡大をめざす「宇宙ロボット」。そして、人工衛星などを宇宙へ運ぶために、再生可能燃料を用いた再使用型ロケットで持続可能な宇宙輸送の実現をめざす「サステナブルロケット」の3つの研究プロジェクトを進めています。
わずか5年半で離着陸実験の成功にたどり着いたサステナブルロケットの開発プロジェクト。2029年の準軌道到達に向けて、次のフェーズへと踏み出しています。
このプロジェクトに参加するのが、中村、堀川、坂井、川野です。中村と堀川はキャリア入社。前職でもロケット開発に携わっていました。
中村:5年ほど宇宙航空の研究機関で観測ロケットや離着陸実験機の開発をしていました。現在は、空力的な観点からの検討と、打ち上げから宇宙空間への飛行に至るまでに受けるさまざまな環境の解析、そしてロケットシステムから一部打ち上げ設備まで含めた、システム全体の検討を担当しています。
堀川:私は宇宙航空機器を手がける企業に勤めていました。ロケットの飛行経路設計やブースター(ロケットが飛び立つ時に推力を補う補助ロケット)の分離解析などに従事していた経験を活かし、現在も飛行経路や飛行安全の研究をしています。
坂井と川野は新卒でHondaに入社していますが、ロケット開発に携わるまでのキャリアは異なります。
坂井:2015年に入社してからは、四輪のエンジン開発を行っていました。ロケット開発に異動してきたのは、社内公募に応募したことがきっかけです。エンジン周りからはじまり、その後は全機統合実験の推進などを担当し、現在は、燃料をタンクから燃焼器へ送るためのターボポンプの開発と、エンジン領域の信頼性構築、そして実験環境の構築などを担当しています。
川野:私は2023年に入社してすぐにこのプロジェクトに配属され、はじめは実験の管制や推進系の制御機能の実装などを担当していました。現在は、GNCというロケットが自身の位置や速度・姿勢を測り、目的地へ向かうための正しい軌道へと導く姿勢制御を担当しています。
※ 使い捨てが主流である従来のロケットとは異なり、同一の機体を用いた短時間での繰り返し運用ができるロケット
夢を最速でかなえるために──ゲームチェンジを起こすなら、Hondaしかない
前職で宇宙航空領域をメインとする企業に勤めていた中村と堀川。Hondaでロケット開発に挑戦するという選択をした理由を、こう語ります。
中村:私には、「月に行って地球を眺めながらのんびり過ごしてみたい」という夢があるんです。Hondaなら、いつかその夢に向けた挑戦の機会があるかもしれないと考えました。
というのも、当時、海外の企業がロケット開発に取り組み、ゲームチェンジしていくのを目の当たりにしていました。お客様への価値提供を目標にすることで発揮される民間企業ならではのパワーを感じるとともに、日本で同じようにゲームチェンジを起こすとしたらHondaだろうと思っていたのです。
なぜなら、Hondaは挑戦する会社で、すでに陸海空のモビリティを開発している。次は宇宙領域に参入するだろうと、動向をチェックしていました。
堀川:私も、自分の夢に早く到達したいと考えたことが入社の大きな理由です。以前は公共性の高いプロジェクトに参画していたのですが、公的機関をはじめ多くの企業や関係者が関わるため、コンセプトからものづくりまで一気通貫で進めることが難しく、そこにもどかしさを感じることがありました。
それならば、ビジネスという競争のなかで挑戦している企業の方が、スピード感があるかもしれない。ビジネスだからこそ、より苦しい状況と対峙する可能性があるけれど、覚悟を決めて挑戦しようと入社しました。
一方、新卒で入社してすぐにロケット開発に配属された川野は、もともと「月に行く」という夢がHondaを志望したきっかけだったと言います。ロケットを作るのであれば選択肢はHonda以外にもあるなかで、決め手となったのは「人の力」でした。
川野:Hondaの人たちって、想いが強いんです。だから話していて楽しいし、「こういう人たちと一緒に仕事をしたい」と思いました。ロケット開発自体がとてもチャレンジングで、海外の企業は強力な経営トップが牽引していたりする。そこに対抗できるのはHondaの人たちなのではないかと思いました。
4人のなかで唯一、別領域であるクルマのエンジン開発から異動してきた坂井。ロケット開発への挑戦を決めたのは、エンジンへのこだわりでした。
坂井:私はエンジンが大好きで、「エンジンで動くモビリティを作りたい」という想いが軸にあります。だから、「エンジンのHonda」というアイデンティティが好きなんです。
けれど、クルマの価値やクルマづくりは大きく変化しています。エンジンに関わり続けるためにはどうしたらいいだろうと考えるなかで見つけたのが、ロケット開発の社内公募でした。ロケットであれば、エンジンは絶対に欠かせない。世界と戦えるロケットエンジンを作ることができれば、宇宙領域でも「エンジンのHonda」というブランドを確立できる。とても意義のある挑戦だと感じました。
専門知とHonda魂の融合で実現するスピード感ある開発。個を認め合い、新たな色を作る
キャリア入社、新卒、他領域からの転向など、バラバラな経験を持つメンバーがチームとなるため、当初は戸惑いもあったと振り返ります。
堀川:まず、用語を理解することに苦労しました。私たちはHondaの社内用語がわからないし、それまで当たり前に使っていた宇宙領域の専門用語を使う時には説明が必要になる。加えて、仕事の進め方についても文化が違います。こちらが当たり前だと思っていることを主張しすぎると、Hondaの良さがなくなってしまう。どうするのがベストなのかは、今も悩みながら取り組んでいます。
中村:とくにスピード感が違いますよね。それまでの私の経験では、「ものづくりは細部まで慎重に仕様を固めてから始める。テスト結果はじっくり解析した上で次に臨む」が常識。
でも、Hondaで入ったチームでは「まずは作ってテストして、理解を深めてから次を考えよう」という文化がありました。それは、量産の製品と新しい分野の研究開発を数多く手がけてきたメーカーならではの強みだと感じました。
そのスピード感に「Honda魂」を感じる出来事もあったと続けます。
中村:トラブルで、テスト機の一部が損傷してしまったことがありました。予備のパーツもないけれど、直さなければテストはできない。そこで、実験場内を探し回り、使えそうな金属板を集めてハンマーで叩いたり曲げたりして皆で修理して、次の日にテストができる状態にしたのです。そのパワーは驚きましたね。
だからといって仕様を深めずにテストに入ってしまうと、不具合が多く発生してしまう。そういった部分には私たちみたいなメンバーの宇宙領域での経験や知見が活かせるんじゃないかと思います。
坂井:そうですね。Hondaの場合、二輪や四輪であれば、わからないことがあった時にベテランのメンバーにヒントをもらえることが多くありますが、ロケットは勝手が違います。
どこまで解析してから次のテストに進むかなど、意見が食い違うこともありますが、初めてのことに挑戦しているからこそ、宇宙領域を専門に取り組んできたメンバーがいる心強さがあります。
異なる価値観があってもチームとして一丸となる。それもまたHondaらしい文化が根づいているからだと川野は話します。
川野:Hondaは個の想いが強いのですが、同時に、個の違いを理解しようとする人が多いんです。私が赤色の絵の具、坂井さんが青色の絵の具を持っていたとして、私を青に塗り替えるわけでも、自分が赤に染まるわけでもなく、交わりながら紫を作るのです。それは、はじめに「紫を作ろう」と話し合っているのではなく、結果として新しい色ができあがるという感覚です。
もちろん、求めていない色が生まれる失敗の方が多いのですが、そうやってお互いを理解しながら新しいものを作っていくのがHondaなんです。
誰もが経験できるわけではない喜びを糧に、Hondaだからできるロケットを追求する
なぜHondaは宇宙に挑戦するのか──それは、人とモノの移動を通じて生活を豊かにすることに挑戦してきた会社だからだと口をそろえます。
川野:Hondaはこれまで、陸海空で「生活の可能性が拡がる喜び」を届けてきました。だから、人々の生活に欠かせないデータ通信を担う人工衛星などを宇宙に届けるために、ロケット開発に挑戦するのは自然な流れです。
堀川:離着陸実験を終えたあとの打ち上げの打ち上げで、坂井さんが「私たちはまだ、お客様に価値を届けられていない」と話していたんです。直前の実験の成功を噛みしめながら、けれど、先にあるお客様を見ている。その言葉がとてもHondaらしいと感じましたし、すごく共感しました。
中村:そうですね。お客様にサービスとして届けた時にどんな価値が生まれるのかは、常に模索しながら進んでいます。宇宙は、「ワクワクする」「感動を届ける」といったキーワードがよく出てくる分野ですが、そのワクワクだけで語れないものを突き詰めていかなければビジネスになりませんし、ビジネスにならなければ、われわれの研究開発の成果を価値としてお客様に届けきれない。そのバランスをとりながら、「Hondaだからこそのロケットとは何なのか」を考えることは難しいですね。
「宇宙という未知の領域への挑戦だからこそ、自身のキャリアも未開の地を切り拓いていく感覚」だと話す中村。でも、誰もわからないからこそ可能性は無限大。追い求める「Hondaだから提供できる価値」に、それぞれが自分の目標を重ねながらキャリアを歩みます。
坂井:エンジンで動くモビリティを作りたいという想いがかなえられているこのプロジェクトは、自分にとってベストな環境。離着陸実験に成功したことで、「こんなに嬉しい気持ちになるんだ」という感覚も味わえました。誰もが経験できるわけではない喜びを知っていることは、エンジニアとして大きな強みだと思います。
あの喜びをまた感じられるように自分の力を出し切って、「世界一」や「世界初」と言われる技術を、世の中に価値のあるものとして提供したいと思っています。
川野:私は、原点である「月に行く」という自分の夢に近づきたいですね。そのためには、まだまだ知識も経験も足りません。自分の夢のために本気で取り組みながら、それが誰かのためにもなるのであれば嬉しいですね。
堀川:ロケットを飛ばして運用することができたら、その先には月の探索など新たな選択肢が増えるはずです。その時に自分が何をしたいのかは、その時になったらわかると思っています。その第一歩として、今取り組んでいるプロジェクトをしっかりと達成することに貢献したいと思っています。
Hondaは、ロケットやエネルギーシステムも含めたインフラとして提供することをめざしています。それが実現したら、大きな波及効果があるはずですから。
中村:新しいことに挑戦してワクワクしたい、というのが私のモチベーション。その楽しさを感じられる環境にいたいと思っています。ロケット開発で宇宙領域の新たな価値を届けられた先には、海底を探索する潜水艇という選択肢が出てくるかもしれません。これからも、領域やポジションにとらわれずに開拓者精神とワクワクが実現できる場所を探していきたいですね。
自分たちの夢や楽しさを原動力に、Hondaならではのロケットで移動の喜びを宇宙へ広げます。
※ 記載内容は2026年7月時点のものです
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