OSSとクラウド運用の研究開発を推進。進化し続けるサービス基盤で社会を支える
株式会社日立製作所(以下、日立)の「デジタル×社会イノベーション」を技術面から支える中核組織、研究開発グループ。中でもサービスコンピューティング研究部は、クラウド、データセンタ、AI、OSS、サービス運用といった先端ITを組み合わせ、企業や社会の課題を解決するサービスの仕組みを研究・開発しています。
「私たちの研究には、大きく2つの柱があります。1つは、オープンソースソフトウェア(OSS)の開発とコミュニティへの参画。もう1つが、サービスを進化させ続けるための、AIネイティブな運用です。
OSSでは、世界標準のつくり方やその文化を学びながら、社内外の仲間とともに活用を広げています。一方、AIネイティブな運用では、これからAIがあらゆるシステムに入り込むことを見据え、社会を支えるサービスを安心して使えるよう、運用の型をつくり、現場で使える形へと落とし込んでいます」
ユニットリーダを務める藪崎は、約15名のメンバーを率いながら、自らも手を動かすプレイングマネジャーとして、先行研究から実サービスに近いテーマまで、幅広いプロジェクトを推進しています。
「メンバーと方向性について議論するだけでなく、自分自身で作ったシステムを見せながらディスカッションし、事業幹部と技術戦略を議論することもあります。北米、インド、日本など各地の日立グループの開発拠点のリーダーとは、次のリリースに向けて何を作るかを毎週のように話し合いますし、お客さまやカンファレンス、コミュニティでは、少し先の将来像を示すこともあります」
見据えているのは、「便利さ」のその先。あらゆる立場の人たちが、安心して使えるサービスが当たり前に存在する世界です。
「日立は社会インフラに深く関わっています。だからこそ、安全性や信頼性がとても重要です。とくにAIの浸透にともない、『何をもって問題なく動いているとみなすか』はより複雑になります。AIが一部で誤ったことをしても、システム全体としては問題なく価値を届け続けられるように運用できなければ使えません。
もっというと、『誰にとって正しいのか』も慎重に考える必要があります。 例えば地図アプリ。渋滞を避けて最短ルートを提案するのは運転手にとっては正しい判断です。でも、その結果として住宅街に多くの車が流れ込み、住民の生活に影響が出るとしたら、それは別の誰かにとっては正しくありません。
こうしたトレードオフは、社会のさまざまな場面で起こりえます。だからこそ、企業の戦略に加えて社会性を踏まえてポリシーを定め、AIが意図したとおりに振る舞っているかを見守りながら、より良いバランスを探っているんです」
技術の進化と社会の変化が加速する今、社会インフラやシステムにも、従来以上にダイナミックかつアジャイルな対応が求められています。
「サービスは、リリースして終わりではありません。使われ始めてから得られるデータや気づきから素早く次の戦略を立てて、改善し続ける必要があります。私たちが取り組んでいるのは、そうした社会を支えるサービスが進化し続けるための“土台”をつくる研究です」
研究、プロダクト開発、アカデミア。学びと現場を行き来して磨いた、技術を形にする力
入社以来、一貫して研究の現場に身を置いてきた藪崎。時代の変化にあわせて、研究テーマを柔軟に広げてきました。
「通信キャリア向けの通信制御技術の研究からスタートしました。その後、クラウドを広域に分散させて障害に強くする技術や、データセンタの需要拡大にともなうネットワーク、分散コンピューティングの研究へと、研究領域が広がっていきました」
そんな藪崎にとって、転機となったのが北米への出向。現地での経験が、研究と事業の距離感を大きく変えることになります。
「シリコンバレーの現場で起きている新しい事業づくりを、肌で感じ学ぶことが目的でした。とりわけ大きな出来事だったのが、現地子会社に新しいチームが発足したタイミングで、彼らと現地の研究所でワークショップを実施したときのことです。そこでクラウドネイティブなOSSを使ったデモや技術コンセプトを紹介し、そこから一緒に形にしていく流れが生まれました」
その後、藪崎は彼らのチームへ転籍。日本人一人でチームに飛び込み、必死に食らいつきながらも徐々にチームの信頼を得て最終的にはテックリードに。事業創出のリアルを経験しました。
「当時取り組んでいたのは、工場などの現場(OT)で発生するデータを収集・分析するための、エッジ向けデータ活用基盤『Lumada Edge Intelligence』です。参画当初は5人ほどの小さなチームでしたが、最終的には数十人規模に成長し、複数の新しいプロダクトが生まれました。
その成果のひとつが、ウォルト・ディズニー社との協業です。日立のIoT基盤『Lumada』を活用し、テーマパークのアトラクション保守を効率化する取り組みでした。現地では、ホワイトボードの前で数分で意思決定されることも珍しくありません。目標達成への熱量、チームの結束力、そして実行の速さ。どれをとっても大きな学びになりました」
帰国後、藪崎は社会人ドクターとして大学院へ。日立の支援制度を活用し、研究者としての視野をさらに広げます。
「仕事では限られた時間で成果を出すことが求められます。技術をとことん突き詰める時間を持てたことは非常に有意義でした。また、事業とは直接関係のないアカデミックな研究に触れられるのも刺激的でした。実際、ゼミで得た視点の中には、来年度から研究テーマとして動き出すものもあります。
一方で、会社の支援はもちろん、職場の仲間にもとても感謝しています。経済的な面もありがたかったですが、それ以上に心強かったのが、挑戦を後押しする雰囲気です。職場に負担がかかる場面もあったと思いますが、前向きに応援してもらえた風土は日立ならではだと感じています」
キャリアを通じて藪崎が培ってきたのは、技術・ビジネス・マーケティングの3つの視点。それぞれの経験が今に生きていると言います。
「分散コンピューティングの研究では、DevOpsなどのモダンなシステムをどのようにつくり、形にしていくかを徹底的に考えました。シリコンバレーでも、設計から実装までを一人のエンジニアが担うケースが少なくありません。自分で考え、自分でつくる経験は、今の仕事にも役立っています。
最近では、AIを活用すれば、以前は数カ月かかっていたデモシステムを1週間ほどでつくれます。社内にはルールや規制もありますが、だから使わないと判断するのではなく、リスクとリターンを見極めながら、事業にどう生かすかを考えることが大切だと思っています。
マーケティングの観点では、技術ありきではなく、お客さまと一緒に価値をつくりながら、困りごとを起点に考える大切さを学びました。日立には多様な事業があり、自分だけでは出会えないさまざまな地域における異なる業種の課題も、事業開発や営業のチームを通じて把握できます。
ビジネスの観点では、限られた経営資源をどの技術領域に集中させ、どの部分をOSSやパートナーとの連携で穴埋めするかが企業における研究の醍醐味と感じます」
技術を“点”から“面”へ。事業価値を最大化し、社会インフラを支える
長年にわたり、国際的なOSSコミュニティでの活動を通じてオープンイノベーションを推進してきた日立。研究開発グループでその第一線に立ち続ける醍醐味について、藪崎は次のように語ります。
「OSSの場では、世界を代表する企業の研究者や技術者と直接議論し、次のスタンダードになり得る技術にいち早く触れられます。事業化を前提としたテーマだけでなく、これから来る技術を先回りしてつかめるのは研究開発ならではの魅力です」
一方、OSSで得た知見を社内へ還元し、事業へと接続することも研究開発グループの重要なミッション。技術を“点”で終わらせず、“面”へ広げるプロセスが、日立の社会インフラを支えてきました。
「私たちがハブとしての役割を果たしながら、ある現場でうまくいった設計や手順を、別の分野でも活用できる共通の仕組みへと落とし込んでいきます。
エレベータの遠隔見守り、鉄道の運行管理、エネルギーやビル設備の管理など、一見まったく異なる領域でも、“良いやり方”を横展開できれば、止めない運用とスピーディな改善を両立可能です。
1つの現場で終われば技術の価値は限定的ですが、複数の事業分野に適用してさまざまな現場の学びを技術にフィードバックできれば、その力はさらに大きくなります。新しい技術を具体的な課題解決に結びつけ、複数の事業へと実装していける環境があるのは、日立だからこそ。そこに研究者として大きなやりがいを感じています」
スピードと品質を両立する開発思想と“責任あるAI”が、社会変革を加速させる
伝統的な製造業の枠を超え、社会イノベーション事業を軸に進化を続ける日立。その根幹にあるのが、スピードと品質を兼ね備えた開発思想です。
「30点でもいいから、まずは出す。そこからフィードバックをもらい、改善を回し続けたほうが、最終的にはいいものになります。以前は、ユースケースの検討、要件定義、競合調査、そして開発して評価するまでに1年ほどかかっていました。今は3カ月単位でアウトプットを出すことを意識しています。
もちろん、品質は絶対に落とせません。テストやチェックを自動化し、リリース後もモニタリングして、問題があればすぐ修正できる仕組みを組み込んでいます。現場起点で改善を積み重ねることで、スピードと品質を同時に高められると考えています」
こうした高速の改善サイクルを社会インフラ領域で実装する前提となるのが、“責任あるAI”の考え方です。
「これからAIは社会のあらゆる場面に浸透していきますが、その結果として人が不幸せになってしまっては意味がありません。重要なのは、AIが社会的責任を果たし続けられる状態をどう維持するか。その土台になるのが、データをためながら学習と改善を回し、サービスを進化し続けさせる運用モデルです。大事なのは、ただ壊れないことではなく、変化が起きても、システム全体として価値を保ち続けられることです。
日立にはさまざまな事業部があり、専門家がいます。その知見を掛け合わせながら、他社には真似できない形で運用を体系化していきたいと考えています」
こうした日立の変革を支えるのは、技術だけではありません。組織風土と人財もまた、重要な基盤です。
「日立には、創業以来の『和・誠・開拓者精神』が根づいています。多様な人が互いを尊重しながら率直に議論し、結論が出れば一致団結して前に進む『和』、社会課題を自分ごととして捉える『誠』、そして変化を恐れず新しい領域に挑戦する『開拓者精神』です。
これらの価値観に共感し、変化を楽しみながらともに挑戦し、次の社会を形づくっていける仲間と出会えることを楽しみにしています」
先端技術をいち早くつかみ、責任ある形で社会へ届ける──その積み重ねが、未来のインフラを支える新たな標準をつくっていきます。
※ 記載内容は2026年2月時点のものです
