マイナースポーツの魅力を届けたくてテレビ局へ
現場でプロデューサーやディレクターとして働きながら、2019年からは制作局 制作部の部長を務めています。部員がとにかく楽しく仕事ができる場を提供したいなと毎日励んでいますが、ここまで長い道のりでした。
楽しいことも辛いこともありました。今振り返るとここまでこれたのは中学から始めた剣道での学びが大きいなと思います。
まず一つ目は、基礎体力が付きました。仕事をする上で、体力はとても大事なんです。二つ目は、精神力や集中力。剣道の試合は4分前後と短いのですが集中すべきときに集中できる力が身につきました。
三つ目は俯瞰的に見る力です。剣道は自分と相手の間合いの中で、相手の一点ではなく、相手を俯瞰的に見られたときにこそ打ち込めるんです。物事は点ではなく、全体像を見ることが必要。これは番組作りにも当てはまります。細部にこだわりすぎて、全体像を見失うといいものはできないんです。
全体を見て視聴者にわかりやすく伝えられるかが大事なので、点で見ることと俯瞰で見ることの繰り返しが必要になります。
また、私が所属した剣道の先輩が尊敬できる方々で、礼儀作法や人との接し方、気の配り方など、大人のイロハを学ぶこともできましたね。
剣道から学ぶことが多く熱中していた学生時代でした。しかし、剣道は野球やサッカーに比べマイナースポーツ。こんなにも剣道はおもしろいのに……。そんな気持ちからこうしたマイナースポーツに一生懸命取り組んでいる人を取り上げ、スポットライトを当てることで魅力が伝えられたらいいな、と就職活動する際は自然とテレビ局を選びました。
また、高校野球が大好きで、とくに朝日放送テレビ(以下、朝日放送)制作の「熱闘甲子園」が大好きでした。ああいうスポーツドキュメンタリー番組に一度携わってみたい想いもありました。
しかし、朝日放送の面接では大失敗(笑)。
面接で「熱闘甲子園」を制作しているスポーツ部を希望している話をした際に、面接官から「『熱闘甲子園』の他にどんなスポーツ番組をやっているか知っていますか?」と。しかし私はプロ野球以外わからなかったんです。
この瞬間「落ちたな」と思いました。しかし、最後に試験官が何か質問はないか、と聞いてくれたので、「今後のために朝日放送でつくっているスポーツ番組を教えていただいてもよいですか?」と質問したんです。この質問が功を奏したみたいで、何とかぎりぎり受かりました(笑)。この面接のときに、会社の空気感や社員の言葉の発し方が私にあっているかもと感じ、ここで働きたいという想いが強くなりました。
厳しい言葉も自分のため。どんどん仕事にのめり込んでいく
入社直後は、報道局 第2報道部のディレクターとして朝の情報番組を担当していました。
すぐにディレクターになったのですが、ADの仕事も、音効さんの仕事も、テロップの色付けも(紙焼きだったので蛍光ペンで色を塗ってました)その当時は何でもやらねばならない状況で、担当する本数も多く苦労しましたね。
また、関西の朝の情報番組なので、関西の情報が必要なのですが、まだ関西に来て4年。情報を探すのがとにかく大変。
朝が早く、先輩から厳しい言葉をもらうこともあり、精神的にも物理的にも辛い日々……。半年たった頃には自分はこの仕事に向いていないのではと思うようになりました。
しかし、2年目に転機が訪れました。自分なりに工夫したり、勝負をかけた細かい部分に、ことあるごとにプロデューサーや先輩が「こうしたほうがいい」「あれは良かった」と声を掛けてくれる。私の仕事をちゃんと見てくれていて、厳しい言葉も自分のための言葉だと、ふとしたとき気づいて──。思い返せば、上手くいかないと感じている中でも、仕事は割り振ってもらっていました。
そのことに気づいてからは、仕事により励むようになりました。すると、この年に念願叶って「熱闘甲子園」に社内応援スタッフとして関わることもできて。仕事がどんどんおもしろくなっていきました。そんなこんなで3年目を迎えたのですが……。ニュースセンター(報道記者)への異動を命じられて。泣きながら異動したのを覚えています(笑)
この異動は、2年目の冬に起こった阪神・淡路大震災がきっかけでした。
生放送の準備をしているときに震災が起こったのですが、もう全てがめちゃくちゃで。ただ、それまでの積み重ねが生かされ、生放送を維持するためにどう動くかを自分で考え、しっかりと動くことができたんですよね。その姿を見てくれていた人がいたようで、震災報道で多くの記者が必要だということもあり、異動となったようです。
仕事では“母親”は意識しない。それでも子どものおかげで視野が広がった
その後は、報道記者や夕方の情報番組のディレクターを経て、産休育休を取得することになりました。
もう二度と現場には戻れないと思いましたね。産育休を取得した同僚たちはどんどんやめていき、私が出産する時点では私と同期のふたりだけでした。現場で子育てしながら働いている人も、もちろんいなかった。当時は、「30歳を超えたら現場から離れる」というのが定説のようになっていて。
現場から離れて、初めて自分のスキルは現場にしかないということに気づき、なんとしてでも現場に残りたいという考えが強くなり……その希望を上司に伝え、現場に復帰することができました。
認可保育園では時間の制約があり、19時または20時には迎えにいかなければなりませんでした。上司に「それでは現場は難しい」と言われてしまいましたが、そのあとなんとか24時間保育が可能な保育園を見つけ出すことができました。
当時はなんて厳しいことを言う上司なんだろう……と思いましたが、子育てをしながら現場に戻ることは覚悟がないと続けられないことなので、あの時に腹をくくれたのはよかったですね。上司に感謝です。
そもそも男女雇用機会均等法成立以降、朝日放送で産休を経て現場復帰をしたのは、私と同期の女性が最初でした。上司の理解や会社の理解が必要不可欠ですが、私の周囲は、ありがたいことに理解してくれる方が多かったように思います。
会社の産育休のシステム自体はちゃんとしていて。私をはじめ実際に取得する人が増えたことでみんなが取得しやすい雰囲気が生まれ、組織自体も変わっていきましたね。
そして、2018年に制作局 制作部へ異動。相変わらず男性が多かったものの、少しずつ女性も増えていました。「制作部で子育ては難しい」と言われている中でも、子育てしながら働く女性もいましたよ。女性の働き方や、育児と仕事の両立については、当時の部長と話すことができましたし、少しづつみんなが働きやすい環境が進んでいったと思います。
最近は制作部員の意識も若返ってきています。昔は「男性はこう、女性はこう」という価値観を持っている人も多かったのですが、組織自体が若返り、組織全体が働きやすくなってきています。
ちょうど今、育休から復帰予定の女性社員がいるのですが、どの番組を担当してもらったら彼女が生き生きと働くことができるのか、ライフプランやキャリアを踏まえながら模索をしている最中ですね。
私自身は仕事で”母親”というのを意識することはありません。それは、母親・女性というアイコンは、自分の個性の一つであるが、それが全てではないと考えるからです。母親であることを生かせることがあるなら生かす、といった程度です。
ただ、番組作りを通して、子どもたちの将来に想いを馳せる出来事がありました。
朝日放送では2017年まで、毎年春に『ガラスの地球を救え!』という環境問題を取り扱う3時間を超える特別番組を作っていました。あるとき、この番組のチーフプロデューサーを任されたんです。
当時の私は積極的に環境問題に携わることはなかったんですが、いざ番組を任された時に、なぜ環境問題を語るのかを問い直してみたんです。
自分の子どもたちが育っていく日本や世界、地球はこのままでいいのか?自分の子どもたちの未来のために何かできないか?そんなことを考えていたら、みるみる番組コンセプトが出来上がっていきました。これは子育てをしている母親目線が生きた経験ですね。
また、子どもを産んだことによって物事を考える幅が広がったと思います。
よく子どもに親は育てられると言いますけど、子どもが与えてくれる喜怒哀楽が、仕事だけでは気づけないような世界に触れさせてくれるんです。子どものおかげで、どんな困難にも立ち向かえる根性も育ちました。
視野が広がったらどんな番組でもいろんな目線で見ることができるので、それは役立っていると思います。
制作部のメンバーとともに、愛あるコンテンツ制作を目指す
制作部の目標として掲げているのは「制作部は視聴者がワクワクするようなコンテンツを発信し続ける創造集団!世の中に夢と希望と笑いを注ぎ、愛のあるコンテンツ制作を目指す」です。
それを実現するためには、働いているみんながもっと楽しめる部にならなければなりません。一人ひとりとコミュニケーションを取りながら、それぞれが何を考えているのかを把握しつつ、目標の実現を目指しています。
制作部には20代~50代まで幅広くいるので、それぞれが抱えている悩みもさまざまです。しかし、私は制作部ではないものの、現場での経験を積んできているので、悩みの角度はわかるつもりです。先輩にしてもらって嬉しかったことは同じようにして、嫌だったことはしないように努めています。
今、テレビ局は過渡期を迎えていて、制作部としても作り方の改革を問われています。その中で今までにない業務を課されることもあり、不安を感じる社員も少なくありません。そこで、まずは私がちゃんと地に足をつけて物事に取り組む姿勢を見せることで安心感を与えたいですね。
私も部長としては道半ばですし、たまたま管理職になっただけで偉いわけではありません。部員にいろいろと教えてもらいながら成長し、みんなで制作部を作っていければいいなと思います。
朝日放送の社風は私に合っていると感じます。人が温かくて、義理人情に厚い。番組は社内外のスタッフが携わっていますが、社内関係なく一丸となって取り組んでいく姿勢があるんです。そういった分け隔てなく接したりする姿勢には懐の広さを感じます。私自身、子どもを産んでも現場で仕事を続けられたのは、理解してくれるよい上司や同僚に恵まれたからこそですからね。
朝日放送で作っているコンテンツも私が好きなコンテンツばかりです。放送前にVTRを事前にチェックするのですが、毎回腹を抱えて笑っています。やはり自分が腹落ちするコンテンツでないと仕事ができないので、本当に幸せだと思います。
