グループ全体の成長の陰り、組織課題の解決へ
ファイブグループは創業以来、増収増益を続けてきました。ところが事業拡大も加速してきた2018年頃から赤字店舗も目につくようになり、成長に陰りが出てきました。さらに、過重労働による社員の離職増加もあり、人材不足が常態化することに。その結果、当社の強みである「楽しさ」を提供する営業力が弱まりかねない事態となってしまいました。
どのようにすれば店舗スタッフがお客さんに「楽しさ」を提供しながらも、自分自身が働くことを楽しめるのだろうか──
状況を改善するために、まずは課題を検討するワークショップ研修を実施。コア社員を対象に1年かけて取り組んでいきました。
ワークショップ研修の過程で、ほぼすべての参加者が採用難を抱えており、管理職や店長への業務集中という「組織課題」に要因があると感じていることがわかったのです。
では、一定の社員へ業務が集中してしまう理由はどこにあるのか。私たちは、コア社員の話から一つの仮説を立てました。それは、アルバイトスタッフの戦力には偏りがあり、仕事を任せられないケースが発生していることが、社員の疲弊に繋がっているのではないかというもの。
店舗スタッフの8割はアルバイトスタッフです。彼らに支えられて現場は成り立っているわけですから、アルバイト層の戦力ダウンはサービス力の低下、社員の業務負荷の増加を引き起こしてしまいます。
こうして、アルバイトスタッフへのアプローチが課題解決の出発点となったのです。
理念とともに生まれ変わった、理念を浸透させるためのプロセス
経営企画室として、まず着手したのは経営理念の改定です。「アルバイトスタッフ一人ひとりまで浸透しきる新しい経営理念を作り直す」ことを目指し、幹部社員とともに再策定しました。
そして決定したのが、MISSION「“楽しい”でつながる世界をつくる」、VISION「21世紀を代表する飲食カンパニーになる」です。また、これらのミッション、ビジョンを実現するための5つの行動規範「5iveways」も策定しました。
①“イングリティ”を持ち行動せよ
②まずは笑顔で“楽しめ”
③“モテる人”であれ
④仲間を“”承認”し“賞賛”せよ
⑤お客さんとの出会いに日々“感謝”せよ
しかし、ここから先は難航することに。経営理念に基づいた入店オリエンテーションや、マネジメント基準は、各店舗がそれぞれ作成し運営しています。経営理念が変われば、すべての店舗でこれらを改定しなければなりません。
各店舗の管理層からは、アルバイトスタッフの教育やオリエンテーションの土台が変わるにあたり、今まで伝えてきたことを正しいというのか、間違っていたというのか、また、どのくらいのスピード感で進めていくのかなど、戸惑いや混乱の声が次々にあがってきました。
そのため、階層別に対話の場を設け、理念の全体的な浸透プロセスを丁寧にデザインしていきました。そうすると「大変なことをやらなければならない」から「どのようにすればできるか」に、意識が変わっていったのです。
ただ、すべてのアルバイトスタッフに理念を落とし込むとなると、研修やツールの策定が必要になります。当社では7つの事業部が自走しており、それぞれが教育手段やツールを持っているため、一つひとつを刷新していくのは時間がかかってしまいます。
また、アルバイトスタッフは短期間での入れ替わりも多く、理念を書いた説明本を使って説明するだけでは、浸透しきる前に入れ替わってしまう可能性があります。そのため、理念を伝えるためだけのツールではなく、店舗に入店したら全員が理解しなければならない、経営理念、営業ルール、コンプライアンスガイドラインなどをまとめた「アルバイトハンドブック」を新たに策定しました。
アルバイトスタッフにとっての「店舗」という環境は、規模は違えど私たち社員にとっての「会社」と同意義ともいえます。そのため、新しい経営理念が店舗の業務とどう繋がっていくのかを、アルバイトハンドブックを通して一連の流れで理解してもらうことが大切なのです。
さらには、店舗で日常業務を行う中でもどの行動規範を強化していくのか、それを店長が自分ごととして考え、自分の言葉でアルバイトスタッフに伝えることも重要になります。
各事業部長が全店長に対して繰り返しロールプレイングを行い、アルバイトスタッフに経営理念を伝えるプロセスを丁寧に浸透させていきました。
業務でも理念の体現を後押しできる評価軸へ
理念の共有が全スタッフに行き届き、いよいよ店舗業務に紐づけ、日々の業務に変化を起こすプロセスに入ろうとした頃、コロナ禍によって飲食店は休業せざるを得ない状態になりました。経営企画室はコロナ対応に追われ、これまで進めてきた理念浸透業務にはとても手が回らない状態に。
しかし、営業できないという状況を逆手に取り、各事業本部が自発的に動いてくれていました。休業明けに全店舗がコロナ禍前よりもパワーアップするにはどうすればよいのかと考え、各事業本部が練り上げたのは、会社理念に基づくアルバイト育成と、時給評価制度を連動させた「ステップアッププログラム」です。
これまでのアルバイトスタッフの評価軸は、居酒屋事業だとビールが注げる、キッチンを回せる、などのオペレーション習得で行っていました。しかし、新たに制定したステップアッププログラムでは、仕事に対しての考え方や姿勢など、理念に基づいて仕事ができる「理念体現」を評価することにしました。
そしてステップアッププログラムに理念から落とし込まれた項目は、どれもアルバイトスタッフそれぞれの今後の人生にも役立ててもらえるような「人間力」に関わるものばかりです。
オペレーション業務は、一度覚えれば、できなくなることはほとんどありません。しかし、「笑顔で接客をする」「仲間が困っているときは、自分の持ち場に限らず助ける」「ミーティングでは相手のことを考えて発言する」「仲間を自分の言動でエンロールする」などの理念体現は、理念に対する意識が薄くなるとできなくなってしまいます。
業務をするだけでなく、目には見えない部分を含めてお客様に対して価値を提供するという点から、理念に基づいて仕事ができているかということを、段階ごとに評価することにしました。
店長がアルバイトスタッフ全員と月に1度面談を行い、目標を達成していればステップアップ、そして次の目標を明確にする。そうすることで、どんどん評価されていく仕組みです。
項目ごとに評価をしていくので、自分自身が何をすれば周りから認められて次の段階へ進めるのかが明確になり、アルバイトスタッフのやりがいも向上。また、日々の業務で彼らがどうすれば理念を体現できるのか、店長も一緒に考えることで、店長のスタッフ育成力もアップしました。
明確な目標設定が成長の道しるべとなる
アルバイトスタッフと面談をしていく中で、それぞれがさまざまな想いを持っていることもわかりました。
社員になりたい。もっとお店に貢献できる働き方はないだろうか。自分の夢をあと一歩進めたいからアルバイトの時間を減らしたい……。
そうしたアルバイトスタッフの中に、すでにステップアッププログラムの上級に位置する子育て中のママがいることがわかりました。アルバイトをしながらの子育てが大変なことは、想像がつきます。
しかし、ステップアッププログラムでは最上位クラスのアルバイトスタッフ。店としては時間数が少なくても、これからも一緒に働いて欲しい人材です。
そこで、次のステップとして、子育てをしながら働ける時短社員としての登用を提案しました。短い時間でも社員としての保証があれば、安心して働くことができます。この提案に本人もすごく喜んでくれましたし、さらなるステップアップの可能性に、周囲のスタッフのモチベーションアップにもつながりました。
また、ステップアッププログラムを取り入れたことで、店舗で長く働くベテランアルバイトスタッフのやりがいも復活しました。もちろん長く勤めているのでオペレーションなどは完璧にマスターしており、これまでも理念に共感して仕事をしてくれていました。
しかし、長い間同じ業務を繰り返していると、どうしてもマンネリになってしまいがちです。ステップアッププログラムを導入することで、新たな目標を見つけることができ、いきいきと仕事をする姿がみられるようになりました。
仕事の目標を設定し、それを評価して成長を実感できれば、人としても大きく成長します。それはお客さんを笑顔にすることにもつながっていくのです。
今後はアルバイトスタッフだけでなく、社員にもステップアップ制度を導入し、会社全体がさらに成長できるように進めていきます。ファイブグループが大切にする理念を薄めることなく、日本中にファイブグループのお店を展開し、社会に「楽しさ」を通したつながりをつくることを目指します。

