興味を抱いたら、迷わず飛び込む。原点は音楽と海外体験
金融業界でデジタル戦略を推進し、コンサルティング業界で経理や財務の業務改革に携わってきた松村。現在はポニーキャニオンで経営企画とアニメの編成戦略を兼務しています。異色の経歴を持つ彼のエンタメとの出会いは、小学生のころ。きっかけは、当時夢中になっていた俳優が出演していたドラマでした。
「ドラマで流れていた海外のロックバンドの曲を聴いて、洋楽に興味を持ったんです。そこから洋楽に関心を広げ、大学時代にはEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)に夢中になりました。
地元・大阪のクラブに通い、好きなDJを観るためにオランダやスペイン、アメリカなど海外で行われるフェスへ足を運んだり、自分もDJに挑戦したりもしました。EDMは基本的に歌詞がないので、世界中の人が一体となり、楽しめるんです。同じ曲を聴いて、泣いたり笑ったり、一緒に叫んだりする。歌詞がないからこそ、純粋な音の変化を元に、それぞれが自分のイメージで楽しめる奥の深さがあるんです」
興味を持ったら、まず飛び込んでみる。そんな行動力は、音楽以外にも広がっていきました。大学時代にはテニスサークルをはじめ、ベトナムの大学との共同研究や、カナダの旅行代理店でのインターンシップを経験。また、バックパッカーとしてアフリカやヨーロッパで40カ国ほど旅をしました。「今しかできないことは今やろう」という想いが、彼を突き動かしたのです。その一方で、海外へ頻繁に足を運び、好きなことに夢中になっていた松村の就職活動は、決して“模範的”ではなかったといいます。
「就職活動のスタートが、周囲と比べて遅かったんです。さてどうするかと考えた僕は、在籍していた経営学部の先輩の多くがメガバンクや保険会社に進んでいたこともあり、金融業界をめざすことにしたんです。海外を何度も旅して身についた、遠慮せずに自分の考えを人に真っすぐ伝えるという姿勢は就職活動でも強みになったのではないかなと思います」
自分はこういうことがしたい、こういう人間になりたいと本音で語る。思い立ったらまず行動する。そのチャレンジングな姿勢は、後のキャリアにも通じる松村らしさの原点でもあります。
専門性を磨いた先で見つけた、新たな目的地と使命
新卒で入社したのは、大手生命保険会社。担当したのは、AIやデータ分析を活用した新規事業立ち上げや営業活動の業務効率化など、デジタル領域の戦略企画でした。
「デジタルを活用した新規事業の創出、業務効率化の企画推進、アプリ開発などを担当することになり、文系出身の僕は知識がほとんどない状態からITを学ぶことになりました。入社すぐの若い立場ながらスタートアップ企業の経営者と議論を重ねる機会も多くいただいて大変でしたが、その実り多い日々は自分の財産になっています」
その後、より多くの業界や企業の仕組みを知りたいという想いからコンサルティング業界へ転職。経営学部時代に会計を学び、もともと経営全般に関心を抱いていた松村が求めたのは専門性でした。
「企業経営に必要な4大経営資源は“人・物・金・情報”と言われますが、保険会社では“情報”を主に扱った経験を踏まえ、次は“お金”に関する専門性を身につけたいと思いまして。コンサルティング業界への転職を機に、働きながらアメリカの公認会計士(USCPA)の資格も取得し、会計・財務・経理などの業務コンサルティングに携わりました。さらに、大企業やベンチャー企業、官公庁などと連携して行う地方創生に関わる共同事業、そのスキーム創出にコンサルの立場で関わらせてもらったりもしたんです」
地方創生などの社会課題を解決するためのプロジェクト、ソーシャルビジネスを通じて、さまざまな企業や起業家と出会った松村。そこで、胸の内に“自分は人生で何を成し遂げたいのか”という問いが芽生えます。
「ソーシャルビジネスを通じ、知り合ったかたの紹介で、インドで教育支援のNPO活動をはじめました。インド28州の中でもっとも貧しいと言われるビハール州でIT教室を開設したり、日本への就業支援サポートを担当していました。水道や電気といったインフラ設備が十分に整っていない地域なのですが、多くの子どもたちが日本のアニメやキャラクターを知っていて、そうしたジャパニーズカルチャーとの出会いがきっかけで、日本で働くことやアニメに関わる仕事を夢見る若者もいたんです。まさか日本のエンタメがこんなところにまで届いているとは、と衝撃を受けました。
そのときの経験は自分の中ですごく大きかったんです。コンサルタントとしていろいろな業界に関わる中で、エンタメ業界は今後の日本を代表する、非常にポテンシャルの高い業界だと感じました。僕自身、音楽はEDMをはじめ、K-POPや邦ロックなど、幅広く好きですし、コロナ禍以降にアニメにもハマり、中でも『進撃の巨人』は自分の中で特別な作品なんです。
言語も文化も異なる遠く離れた地でも、国境や文化の壁を越えて人々の心を惹きつけている日本のエンタメやカルチャーを、世界中にもっと広めたい、より多くの人に知ってもらいたい。そう強く思うようになっていきました」
エンタメ業界への転職を決意した松村が見つけたのは、好きなものを通じて日本の魅力を世界に届けるという新たな目的地。彼にとって、音楽事業とアニメ・映像事業、どちらも手がけているポニーキャニオンは理想の総合エンターテインメント企業でした。
数字と現場を知る、“二刀流”の強み
2024年に入社し、経営本部 経営企画部 経営企画グループに配属。コンサルティング業務で得た知見が生きているといいます。
「中期経営計画や予算の策定、各事業や各作品の収益分析、利益を生み出すための戦略を関係する各部門と一緒に検討・実行していくというのが経営企画部の役割です。コンサルティング業界で身につけた会計・ファイナンスの知識やデータ分析、資料作成のスキルは今の仕事に直結するものでもあります。業界全体や競合他社の状況も踏まえ、業績や数字の面から自社の分析や未来予測をして、ポニーキャニオンの価値を最大化していくことが、一番大きなミッションとなります。
そのためには、単に数字を集計するだけではなく、作品や事業の収支について、“なぜ売上が伸びたのか” “なぜ利益が出なかったのか”を客観的に分析し、関係部署と議論できる材料へと変える必要があります。
例えば音楽事業であれば、アーティストによって主な売上構成や収益率が異なります。アニメ事業においても製作委員会への当社の関わり方、当社が保有する窓口や出資比率によって、収支構造が大きく異なります。事業構造がかなり複雑な場合もあり、一つひとつ分解をして、検証をしていきます。そうやって各部門から情報を集めながら、経営陣や現場の方が判断するための資料を組み立てていくんです」
音楽、アニメ、映像とさまざまなコンテンツを幅広く手がけるポニーキャニオン。それぞれで異なるビジネスの仕組みや売上が生まれるタイミングを把握し、会社全体の事業構造を理解するために、社内での人間関係構築も意識してきたといいます。客観的なデータと現場の声、その両方が経営企画の仕事を支えているのです。
2026年7月までは海外マーケティング部も兼務。アニメ作品の海外でのセールスデータの可視化や配信コンテンツ視聴状況の分析という自らの“強み”を生かした業務だけでなく、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたアニメコンベンション『Anime Expo』では、現場でのプロモーション業務も担当しました。
「現地メディアの取材対応、スタッフ・キャストの登壇ステージの運営、体験型ブースの運営などのスタッフとして参加したんです。各作品のプロモーション担当と連携しながら、どうすればより多くの人に作品が届くのかを検討したうえで、現地ではメディア対応や撮影、会場運営まで幅広く担当し、カンペの出し方や一眼レフカメラの使い方も現場で一から学びました。数字だけを見ていると、海外のプロモーションでどんなことにお金がかかっていて、それにどんな効果があるのかは実感できません。実際に現場に立って、ファンの方の反応を目の当たりにできたことには大きな意味がありました」
現在は経営企画とアニメ映像カンパニー 編成本部 編成戦略部での業務を兼務。アニメ作品への投資判断や投資回収の仕組みをより強固にしていく役目も担っています。
「アニメへの投資にかかるお金がかなり大きくなっている中で、どの作品にどれだけの予算や人手を投入すべきかを考えるのが編成戦略の仕事です。経営企画で培った管理部門の視点と海外マーケティングで得た現場感覚、その両方を持ってアニメ映像事業の収益を最大化していくのが自分の役割だと思っています」
柔軟さと大胆さで探るエンタメビジネスの可能性
数字だけでも、現場だけでもない。両者をつなぐ松村が仕事のやりがいや楽しさを感じるのは、どんな瞬間なのでしょうか。
「経営企画業務に関しては、こういう組織の在り方や事業の在り方がいいのではないか、というわれわれの提案が実際に採用されて会社の変革につながっていくこともあるんです。経営陣との距離が近くアイデアを直接届けやすい、自らテーマを見つけて動き提案していく余地があるというのは、すごくありがたいことだと思っています。
そうした業務は、作品のヒットやライブ会場の熱狂を直接生み出す仕事ではないですが、例えば自社アーティストのライブ会場に足を運んだときに、自分が日頃データとして扱っているグッズの売上がファンのみなさんの笑顔につながっていることを実感できるんです。ただの数字ではなく一人ひとりの喜びがリアルに感じられるあの瞬間は、他では得難い感動を覚えます。
また、先ほど触れた『Anime Expo』で目の当たりにした、日本のアニメ作品に対する海外ファンの方たちのすさまじい熱量も強く印象に残っています。当社が関わる作品(『東京リベンジャーズ』『どこよりも遠い場所にいる君へ』『乙女怪獣キャラメリゼ』『響け!ユーフォニアム』など)のブースやステージは大盛況で、中でも『東京リベンジャーズ』のパンチングマシン企画には長蛇の列ができていました。その熱狂ぶりを目の当たりにして、アメリカでもこんなに愛されているんだと本当に嬉しかったですし、現地でプロモーションに携われたことが誇らしくもありました」
「ポニーキャニオンは自分のやりたいことを実現しやすい、チャレンジしやすい会社」だと笑顔を見せる松村。仕事をするうえで重んじているのは柔軟性だといいます。
「エンタメ業界は変化が激しく、昨今はAIの活用や海外展開、異業種からの参入など、作品やアーティスト、事業を取り巻く状況が目まぐるしく移り変わっていきます。だからこそ、過去の数字だけを見るのではなく、現場の声をていねいに拾い、変化を敏感に捉え、次の可能性を先読みする。そうした柔軟な姿勢で会社の未来を描いていく必要があると痛感しています」
さらに、今後の展望として松村が見据えるのは財務と海外事業を軸にしたさらなる挑戦です。
「IPへの投資が盛んになる中で、より安定して事業に挑戦できる仕組みづくりも必要になると思います。どの作品に投資するのか、どのように投資を回収するのか。業界全体を俯瞰しながら、他社との連携や新たな資金調達のあり方も含めて、柔軟に、大胆に考えていきたいです。
また、日本のアニメやキャラクターは欧米や東アジアだけでなく、他の地域でもこれからよりいっそう人気を得ていくと思いますが、中でも経済成長を続けるインドには大きな可能性を感じています。今もNPO活動を継続していて年に一度は訪れているのですが、日本のアニメを好きな人が目に見えて増えていますし、今後確実に市場が広がっていく地域だろうなという期待感を抱いています」
好きな音楽を追いかけて海外へ飛び出した学生時代。金融業界で未知のIT領域に飛び込み、コンサルティング業界でさまざまな企業や社会課題に向き合った経験。これまでの歩みで多くのものを得た松村の胸の内には、ある夢が芽生えているようです。
「財務に関しての知識と、海外事業の経験。そのふたつの領域を軸に、ポニーキャニオンのエンタメビジネスをより強固なものにしていく、世界に広げていくというのが今の目標です。もしできるなら、いつかは海外の現地法人に駐在して、現地のメディアや現地のイベント会社と連携して、新しいプロジェクトを立ち上げてみたい。アイデアはどんどん湧いてきます」
数字の先に現場があり、現場の先に世界がある。管理部門と現場、過去の分析と未来への提案。その両方を行き来しながら、松村は今日も次の一手を探しています。
※ 記事の部署名等はインタビュー当時のものとなります
