阪神淡路大震災が変えた建築への想い~豊田自動織機との出会い
私は建築の持つ自由さや創造性に漠然とした魅力を感じ、大学進学においては工学部建築学科を選択しました。しかし、大学2年生の時に発生した兵庫県南部地震が、私の建築に対する考え方に大きな影響を与えることになります。
当時在籍していた大学は愛知県内であったため被災地と比較的近く、地震発生直後から先生方はみな現地へ調査や支援に出かけてしまい、しばらくの間、ほぼ全ての講義が休講となりました。その間、テレビでは地震により破壊され倒壊した建物や高架橋、炎に焼かれ跡形もなくなった住宅など、悲惨な映像が流され続けていました。今まさに建築を学んでいる最中だった私は、自らの業務、成果がこのような結果を招く可能性があることをまざまざと見せつけられ、建築の技術者として社会に対する責任の重さを痛感したのです。
この衝撃的な体験が契機となり、研究室および大学院での論文テーマは建物の耐震性に関するものを選定することを決意し、具体的には、建物に振動を吸収するダンパーを付加設置することにより地震被害を軽減する、制震構造についての研究に取り組みました。
就職活動では、一般的な建築学科の進路とは少し異なる視点で企業を探していました。ゼネコンや設計事務所、ハウスメーカーといった典型的な就職先では、多くの建築系技術者の中で限られた範囲のみを対象とした分業体制で建築に関わることになります。しかし、建築の持つ多面性、総合性に魅力を感じていた私にとって、自らの所掌範囲を細かく限定されることはあまり魅力的に感じられませんでした。そこで、もっと広い視野で建築全体に関わる業務を求め、メーカーやインフラ企業を第一候補として就職活動を行ったのです。
豊田自動織機については、名古屋グランパスエイトのスポンサーとしての印象が強く、トヨタグループの源流企業として財務状況が良好であることも魅力でした。車体組み立てやエンジン、コンプレッサといった主力の自動車関連事業に加え、繊維機械や産業車両、物流システムなど多岐にわたる領域で活動している点も興味深く感じていました。
工場実習から始まった豊田自動織機での学びと成長の日々
4月1日の入社式を迎えた後、まず待っていたのは1週間程度の集合研修でした。同期全員が一堂に会し、座学による教育を受ける形式で、社会人としての一般常識から豊田自動織機社員としての基礎的な知識まで、幅広く多くのことを学びました。学生時代とは全く異なる環境に身を置き、これから始まる社会人生活への準備を整える大切な時間でした。
その後、工場実習として刈谷工場へ配属され、昼夜二交代でコンプレッサの組立業務を約2か月間実施することになりました。入社式から約1週間後には夜勤での工場勤務となったため、それまでの学生時代の暮らしぶりからは大変なギャップがあり、心身ともに日々疲れ果てていました。しかしちょうどこの年は、我が地元チームである中日ドラゴンズが4月のセリーグ開幕から破竹の11連勝を飾った年でもあり、連日連夜、中日ドラゴンズの連勝と頑張りに支えられ、日々の暮らしを乗り越えていったという記憶があります。また、実習とはいえ夜勤手当も付与していただいたため、給料日には思いのほか大きな金額が振り込まれ、うれしかったのも覚えています。
刈谷工場での工場実習が終了した後は、本配属先となる高浜工場にて、フォークリフトの組立作業を約2か月間、物流システムの組立作業を同じく約2か月間実施し、ようやく本来の所属である当時の物流システム事業部技術部に籍を置くことができました。建築の技術者である私でしたが、OJTも兼ねて自動倉庫やコンベヤなどの物流機器に関する設計業務や、トヨタグループ共通の発注システムである部品表の作成業務なども一定期間経験させていただきました。
入社後に感じたギャップとして印象的だったのは、物流システム事業部が豊田自動織機という大企業の中において、良くも悪くも中小企業感が色濃く感じられたことです。当時、社内に存在した他の事業部に比べ、物流システム事業部は圧倒的に人員も少なく小所帯で、内部の人間がほぼ皆顔見知りであるなど、とても大企業とは思えない家庭的な雰囲気がありました。特に入社後数年間は、自らの就職先が大企業であることを意識することはあまりなかったような記憶です。
建築のプロとして信頼を築き、失敗から学んだ成長の軌跡
現在、私は物流ソリューション事業室CS部技術室第4グループのグループマネージャとして、建築グループを統括しています。このグループは全員が建築士の国家資格を有しており、建築士法という法律によって定義される株式会社豊田自動織機一級建築士事務所としての役割も兼ね備えています。お客様から依頼いただく建築設計業務や監理業務への対応を第一のミッションとし、社内各セクションからの建築関連の相談にも応じています。
グループマネージャまた建築士事務所の管理建築士としての管理業務に加え、受注案件の実施設計業務や営業案件の引き合い対応まで、プレイングマネージャとして多くの案件に幅広く携わっています。特に建築の構造設計においては、社内でもトップレベルの知識と経験を有するエキスパートとして、技術面での責任も担っています。
印象に残っている成功体験として、自らが設計監理を担当した案件で、工事期間中にお客様との信頼関係を構築し当社のファンになっていただけたことがあります。業務期間を通じ、建築の品質、コスト、納期について、一般のお客様にとっては難解な情報を、適宜適切にご説明することを継続しました。その対応を評価いただき、結果、ご納得と信頼を得て、次のプロジェクトでも当社を指名でご発注いただくことができました。この経験を通じて、今行っている仕事そのものが営業であり、非常に重要な宣伝であり広告である、と強く認識するようになりました。
お客様とのコミュニケーションにおいては、常に論理的であることを第一に考えています。業者とお客様との間では、特に費用の問題などで利益が相反するケースも想定されますが、どんな状況においても論理的に筋道の通ったご説明を心がけることで、お客様の信頼を勝ち得ることができたと考えています。
一方で、苦労した体験もあります。物流センターの設計施工を請け負った際、工事着工直前に設計図で指定していた地業工事の業者が倒産するという事態に直面しました。他の業者を選定し直す必要があり、コストが大幅に超過してしまう問題が発生したのです。当社内で決裁権を持つ上役を巻き込み、当社にも責任があることを認め一定程度の負担を受け入れる用意があることを示すことで、協力会社のゼネコンやお客様からも譲歩を引き出すことができました。限られた時間の中でこのような調整協議を効率的に実施し、竣工時期を遅らせることなく無事お客様へ引き渡すことができました。
この失敗体験から、設計図で特定の工法を指定する際は、万が一発注を想定している業者が対応不可能となった場合でも、同等の品質、コスト、納期で対応可能な代替業者が手配できる工法を選定するよう心がけるようになりました。設計者としての責任について深く考えさせられる貴重な経験でした。
グループマネージャとしては、中途採用で入社された新人に対し、トラックへの積載効率を改善したラック鉄骨の設計というテーマでOJTを行った経験が印象に残っています。その結果が特許申請まで繋がり、実際に商品化されてお客様にご利用いただくまでに至ったのです。
大学、大学院で建築について学んできましたが、現在の技術は学生時代の基礎に加え、一級建築士や構造設計一級建築士の資格取得に向けた自己学習、そして会社で経験した全ての業務から得た知見に基づくものです。技術者にとって終わることのない日々の研鑽が重要であり、これからも努力を続けて技術を磨いていきたいと考えています。
仕事に対する価値観も変化しました。決められたことを決められた通りに行うことももちろん大切なことですが、建築士の仕事は「研究と創造に心を致し常に時流に先んずべし」の精神で、建築が元来有する自由さや創造性を意識し、失敗を恐れることなく変化への挑戦を続けることが、自分にとっておもしろい仕事であると考えています。
建築士としての未来を描く〜新たな仲間と共に歩む道〜
今後の目標として、まず短期的には新たな仲間をグループに招き入れることで、グループ全体のパワーアップを図りたいと考えています。新メンバーが加わることで生まれる相乗効果により、メンバー個々人のスキルアップと能力向上を実現していきたいのです。これまでに構造設計を中心としたキャリアを積まれた方には構造設計を、設備設計を中心としたキャリアを積まれた方には設備設計を、それぞれが持ち合わせている個々人のスキルをグループに持ち寄り、皆の共有スキルにまで高めることができれば理想的だと思います。
中長期的な展望としては、現在のプレイングマネージャとしての立場から、プレイヤーとしての割合を徐々に下げ、マネージャ業務により重きを置く体制を構築していきたいと考えています。やはりお客様にせよ、消防や役所など行政にせよ、生で直接の折衝をしなくては本当の経験にはならないため、そういった業務は若者にこそ対応してもらいたいのです。私は前線には出ないものの、上司として背後から案件の品質、コスト、納期を確認し続ける、そういった業務に専念できれば良いと考えています。
若手に前線での経験を積ませる際には、できるだけ出しゃばらないことをモットーに、メンバーの自主性を最優先にしたサポートを行いたいと思います。そのためにもメンバーが本音ベースでコミュニケーションが取れるよう、日頃の基礎的な人間関係を構築しておくことを重視したいですね。新メンバーには、できるかぎり早く、自らに取って代わられるプレイヤーに成長していただき、どんどん独り立ちを促していきたいと考えています。
これまで建築に関する経験を積まれてきた建築士の方にとって、「製造業の会社に入ることが、自分の技術や知識をどう活かせるのか」「キャリアアップにつながるのか」といった点に不安を感じられる方もいらっしゃるかもしれません。 当社は法人格としては製造業の大企業ですが、入社いただく部署は建築士法に定める「建築士事務所」になります。トヨタグループの源流企業でもある製造業を主体とした大企業社員としての待遇や福利厚生を得つつ、建築士事務所所属の建築士として、広く建築の設計・監理業務全般に幅広く携わっていただける環境です。まずはこのような働き方をイメージをしていただき、新たな選択肢のひとつとして、前向きにご興味をお持ちいただければ嬉しく思います。

