作業着で現場に溶け込む。職人と「同じ目線」で対話する流儀
小南が所属する大阪第3事業部は、物販店や飲食店を中心に多彩な商空間を生み出しています。
「第3事業部は6部から8部まであります。私が所属する営業7部2課は、中途入社者が中心の7名体制で、アパレルや飲食、さらには社内外のデザイナーとの協業案件など守備範囲が広いのが特徴です。
私は施工全般、その他に住宅や店舗の設計・施工の経験者など、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーがそろっています。それぞれの経験やノウハウを持ち寄ることで、一つのチームとして案件を一気通貫で完結できるのが私たちの強みです」
小南の役割はマネージャーですが、その根っこにあるのは徹底した「現場主義」です。マネージャーという立場になってもスタイルは変わりません。
「もともと現場上がりなので、自分の目で確かめないと安心してお客さまにお引き渡しできない性分です。図面上で指示を出すだけではなく、実際の収まりがどうなっているか、壁の厚みや素材の継ぎ目がどう処理されているか。現場の熱量に触れてこそ、納得のいく仕上がりになると信じています。ある種の執念かもしれませんね」
小南が現場へ向かう時、決めている独自のスタイルがあります。それは、社名が入った作業着を着ずに現場に入ることです。(※)
「最初から『スペースの担当者です』と入ると、職人さんたちはどうしても構えて壁を作ってしまうと思います。だからあえて名乗らずに、一人の職人のような装いで現場に入ります。コーヒーを飲んだり、時には作業を手伝ったり。そうして現場の空気に馴染んだ頃に『じつは今回、担当させていただいています』と明かすようにしています。現場に溶け込むことで、職人さんたちとも本音で向き合える関係を築いてきました」
小南がそこまで現場にこだわるのは、空間づくりにおいて自分自身は「何も作れない」という謙虚な自覚があるからです。方向性を決め、それを形にしてくれる職人が気持ちよく動ける環境を整える。それが施工管理の真髄だと語ります。
「施工管理で最も大切なのは、現場の職人さんとのコミュニケーションです。私一人の力ではできないからこそ、こちらの意図を正確に伝え、彼らの技術を最大限に引き出すことが仕事です。図面には書ききれない現場のニュアンスを、会話を通じて共有していく。泥臭いかもしれませんが、この信頼関係こそが、最終的なクオリティを左右するのです。
お客さまは何千万円という投資をしてお店を作っています。自分が家を買う時に施工会社に妥協されたくないのと同じで、妥協のある現場からはいいお店は生まれない。その責任感が、私たちのプライドを支えています」
※ 上長や現場管理者と認識をそろえた上で、現場台帳への社名記入や腕章の着用など、定められたルールに則って業務を行っています
家族との時間を求めた転職。スペースで手にした「新たな武器」
小南の施工のキャリアは、百貨店のディスプレイ会社から始まります。高校卒業後、アルバイトから始めたこの世界で7年以上にわたりウィンドウ装飾や季節ごとの催事設営に携わってきました。
「22歳で正社員になり、看板の取り付けからクリスマスの華やかな装飾まで、幅広く経験しました。転機となったのは、百貨店の建て替えプロジェクトです。装飾だけでなく、それに付随する工事も任せていただけて、『空間そのものを作る』楽しさに目覚めました。それがきっかけで、内装工事の世界へ飛び込む決意をしたんです」
しかし、未経験での挑戦は想像以上に険しいものでした。転職先の施工会社では、専門用語のひとつもわからない状態だったと言います。
「『ついてこられるならいい』と言ってくれた当時の社長の下で、必死に食らいつきました。とにかく現場で体を動かし、自ら知識をつかみにいく毎日。講習を受ける余裕もなかったので、ソフトを自分で買って手探りで操作を覚え、独学でCADを習得しました。あの5年半の『わからないから、わかるまでやる』という泥臭い経験が、今の私の血肉になっています」
着実に施工管理としての力をつけていった一方で、ある悩みを抱えていました。プライベートでは3人の子どもの父親でもある小南は、仕事が多忙を極め、家を空ける日々が続いていたのです。
「出張が続き、家にいられない時間が長かった中で、子どもが初めて立ったり、歩いたり、喋ったりという大切な瞬間に立ち会うことができませんでした。このままではダメだと思い、働き方を見直そうと転職サイトに登録しました。
スペースへの入社の決め手は、採用担当者の熱意です。『小南さんなら必ず活躍できるから、ぜひ来てほしい』と、当時担当している案件が終わるまでの数カ月を待ってくれたんです。上場企業の安定感はもちろんですが、一人の人間として必要とされていると感じたことが入社の大きな後押しになりました」
2021年、チーフとしてスペースに入社した小南は、ここで洗礼とも言える新たなやり方に遭遇します。それは、個人プレイではなく組織としての精度の高さを求める仕事の進め方でした。
「前職では、自分が現場で指示を出してその場で収めるスタイルが中心でした。しかし、スペースではより多くの協力会社や工場と連携します。そのため、誰が見ても一分の隙もない、完璧な図面を提示することが求められます。
たとえば『チリ』と呼ばれる部材の段差のミリ単位の指定など、工場が見ても現場が見ても迷わない図面を描く。人に動いてもらうため精度を極めるのは大変ですが、最高におもしろい挑戦でした。
入社してからの4年間で22件の施工を担当しましたが、赤ちゃん用品店からアパレル、高級飲食店まで、業態ごとに求められる『美学』が違う。それを形にするための図面の質が、私にとっての新たな武器になりました。スペースという大きな組織の一員になったことで、一人の施工管理としての視座が一段高く引き上げられたと感じています」
ミシュランの星、1枚数百万円の銘木。極限のプレッシャーが教えてくれたもの
「入社当初は会社に慣れることで精一杯でしたが、2024年からの2年間は本当に思い入れ深い仕事が続きました。中でも、ミシュラン二つ星の日本料理店『野口』の大阪初出店プロジェクトは、私のキャリアにおける一つの集大成だと思い、持てる力をすべて注ぎ込みました。
京都の名門であるお客さまと向き合い、伝統的な和風建築の美学を具現化する。それはこれまでの経験が通用しない、まったく新しい世界でした」
とくに小南を悩ませたのは、素材へのこだわりです。千年も土の中に埋まっていたという神代欅(じんだいけやき)をカウンターに使用するなど、扱う素材の一つひとつが国宝級の価値を持つものでした。
「触れたことのない銘木の収まりを一から考える必要があり、正解の見えない状況からスタートしました。製材所に足を運び、1枚数百万円もする板を目の前に、どう加工し、どう取り付けるか。木を傷つけることはあってはならないというプレッシャーの中で図面を引きました。
京都に何度も足を運び、和風建築のしきたりや作法を学び直す日々。あの極限状態があったからこそ施工管理としての深みが一気に増したと実感しています」
野口に続き、そのすぐ目の前に位置する「鮨ひじり」のプロジェクトも担当しました。こちらは一転して、きわめてタイトな工期との戦いだったと言います。
「年末に図面を受け取り、年始から着工。施設のオープン日は決まっており、一日の遅れも許されない状況でした。年末年始を返上して昼も夜も問わず図面を書き、現場を調整しました。『野口』とはまた違ったプレッシャーと闘い、なんとか無事にオープンを迎えた時の安堵感は、言葉にできるものではありません。
こうした難しい案件を乗り越えられたのは、結局のところ『わからないから逃げるのではなく、わかるまでやる』というシンプルな信念があったからです。時間がかかっても、現場に立ち続け、納得がいくまで職人さんたちと話し合う。その積み重ねだけが、質の高い空間を作る近道なのです」
2025年からマネージャーとなった小南は、若手社員や後輩たちに自ら仕事を取りに行く自身の背中を見せて学ばせ、「1ミリへのこだわり」の大切さを説いています。
「1ミリにこだわれるかどうか。それがこの仕事に向いているかどうかの分岐点です。失敗してやり直せばいい、という考え方は現場では通用しません。一度ついた傷や、精度の低い収まりは、必ず『粗』となってお客さまに見えてしまいます。
事前の準備に死力を尽くし、完璧な状態で現場を迎える。私がこれまでの過酷な現場で学んだのは、準備こそが最大の武器であるということです。デザイナーが描いた理想を、一分の狂いもなく現実のものにする。そのためには、1ミリを笑う者は、1ミリに泣くという厳しさを常に持っていなければなりません」
2026年から次なるステージへ。主体性が理想のキャリアを切り拓く
2026年より、小南は課長相当の専門職位である「プロフェッショナル1」への昇進が決まっており、専門性を軸にキャリアを広げると同時に、自ら描くキャリアに向けて、異動というかたちで新たな部署を挑戦の場として選びました。
「現場の最前線で高度な技術を発揮し続けるプロフェッショナルとしての認定でもあると思っています。そのため、次のステージでは、ハイグレードな案件を成功させることは『当たり前』として求められます。これまで以上のプレッシャーがかかることは間違いありませんが、ブランドの価値を左右するような仕事に挑戦できることを今から楽しみにしています。
スペシャリストとして道を究めるのか、後進を育てるマネジメントに比重を置くのか――それは今後の出会いが教えてくれることだと思いますが、現場の空気を知るプロフェッショナルであり続けることだけは生涯変えるつもりはありません」
かつて転職を決意した最大の動機であった働き方についても、小南は大きな変化を感じています。
「現在はフレックスタイム制度や在宅勤務、チーム内でのフォロー体制が整っており、家族との時間を大切にできています。朝、子どもたちの声で目覚め、業務が早く終わる日は家族そろって夕食を囲む。かつては当たり前ではなかったことが、今は実現できています。
上司も、育休取得やワークライフバランスの充実に非常に理解があり、『この会社に10年早く入っていれば、もっと子どもたちの成長をそばで見守れたのに』と思うほど、働きやすさを実感しています。会社が個人の生活をバックアップしてくれるからこそ、私たちは現場で100%の力を出し切ることができるのです」
スペースには、中途入社者が馴染みやすい温かい土壌があると小南は言います。
「お互いに肯定する風土で、声をかければ誰かが必ず応えてくれる。そんな環境だからこそ、私も自分らしさを失わずに成長してこられたと思います。
そんなスペースに中途で入ってくる方に伝えたいのは、特別なスキルよりも『人間性』と『学ぶ姿勢』が大切だということです。年齢に関係なく、わからないことを恥じずに聞ける人、そして現場でコミュニケーションを取ることを楽しめる人であればスペースは大きく成長できる環境です。
職人さんは何十年もその道一本で生きてきたプロで、本当におもしろく学ぶことが多いです。彼らと対話し、知識を吸収していくプロセスを楽しめる人なら、経験が浅くても必ず通用します」
最後に、小南は自身の仕事への向き合い方をこう総括しました。
「振り返ってみると、今の働き方や生き方は、スペースに入社したことで大きく変わりました。仕事も私生活も、どちらにも全力で向き合えるようになり、バランスが取れてきたと感じています。
妥協が許されない厳しい仕事ですが、その先にあるお客さまの笑顔や、完成した空間の美しさは何物にも代えがたいものです。現場に立ち続け、職人さんと共に汗を流しながら、一つひとつのお店を作り上げる。そんな泥臭くも華やかなディスプレイ業界のおもしろさを、新しい仲間とも分かち合いたいと思っています」
2026年、新たな役職を背負って再び作業着に袖を通す小南。現場という名の真剣勝負の場で、今日も1ミリの狂いもない完璧な空間を追い求めています。
※ 記載内容は2025年12月時点のものです

