ビッグデータの活用が叫ばれて久しい昨今、データは企業の経営判断のための材料として重要な役割を果たしています。お客様のデータを活用してサービスを提供することが本業のひとつでもあるNTTデータにおいて、データサイエンティストとして自社データの分析・活用に従事した経験から、データ活用成功のポイントを解説します。
NTTデータにおけるビジネスアナリティクスの取り組み
私は、NTTデータの社内システム部門であるITマネジメント室に所属しています。
社内システム部門と聞くと、社内システムを維持・管理している“守り”のイメージを持たれるかもしれませんが、“攻めのIT”としてデータ活用、具体的には、BI(Business Intelligence)とBA(Business Analytics)にも取り組んでいます。
BIはさまざまなデータの可視化を行います。またBAは、データ分析により、インサイト発見・モデル構築を行います。私はBAに携わっており、インサイト発見・モデル構築により当社の経営課題解決や意思決定高度化を担っています。
BAはプロアクティブなマネジメントの実現をめざすものです。たとえば現場から報告が無くても問題化の兆候を早期に検知し是正を促したり、過去の傾向に基づいて将来を予測してPDCAの迅速化を図ったりします。また、なぜそれが起こったのかといった原因分析にも活用できます。
具体的には、(1) 将来予測の精度向上、(2) 問題化兆候の早期発見、(3) 働き方改革、(4) ブランド価値の向上という4つの目的で取り組みを進めています。
(1) 将来予測の精度向上
将来予測の精度向上では、売り上げや粗利など財務数値の年間着地予測モデルの構築を行っています。売り上げや利益を正確に予測することは、投資などの経営判断にもつながり、企業の成長にとって大切です。
NTTデータで構築した年間着地予測モデルは、現状、売り上げ、粗利の予測誤差が1%以下であり非常に精度が高くなっています。
(2) 問題化兆候の早期発見
問題化兆候の早期発見は、例えば、社内データ+機械学習を活用した不採算案件の兆候検知を行っています。システム開発を本業とするNTTデータでは、お客様のシステムを予算内で納期に間に合うようプロジェクトを完遂することが大切です。プロジェクトが不採算化し、赤字発生による利益減などを防ぐよう早期に対策を打つことが目的です。
(3) 働き方改革
働き方改革では、「ワークインサイトによる働き方の変革」に取り組んでいます。昨今のコロナ禍で大きく変わったものといえば、働き方です。
この取り組みでは、従業員エンゲージメントや生産性の向上を目的として、「Microsoft Teams」などの行動データと就業データや社員満足度調査などを組み合わせて分析し、効率・効果的な働き方のポイント(=ワークインサイト)を発見します。
例えば、分析の結果、人とのつながりが多いほど成長機会ややりがいの指標が高くなりやすく、またエンゲージメントも高くなりやすいという傾向を見いだしています。これは、多くの人と関わることが自身の成長を促しやすく、仕事へのやりがいを高めやすくなり、結果としてエンゲージメントを高めたと考えられます。
コロナ禍では、テレワークにより人とのコミュニケーション不足が課題であることがいくつかの調査で示されています。したがって、人とのつながりを増やすことを促進するアクション(例、社員同士での交流会の開催)はコロナ禍で有効である可能性が高いと考えらえます。
(4) ブランド価値の向上
ブランド価値向上では、毎年実施している顧客満足度調査の分析の一部を実施しています。お客様の総合満足度やNPS(Net Promoter Score)と個別の調査項目との関係性を統計解析や機械学習により分析し、総合満足度やNPS向上に重要な要素を明らかにしています。
予測・検知モデル作成のプロセス
後述するデータ活用成功のポイントがどのタイミングで使えるのかを理解しやすくするため、先に予測・検知モデルの作成プロセスをご紹介します。
(1)対象業務の選定と課題把握
初めにターゲットとなる対象業務を選定し、その業務での課題を、過去の振り返り資料やヒアリングなどにより把握します。
(2)対象業務の基礎分析
次に対象業務に対してさまざまな角度からデータを用いて分析して、特徴や傾向を見いだします。
例えば、財務数値の着地予測であれば、
・月次で売り上げや粗利がどのように推移しているか?
・月次で営業パイプライン(これから受注する可能性がある案件を確度別に管理)
がどのような推移をたどっているか?
といった内容です。これらを分析して特徴や傾向や見いだし、モデルで使う説明変数を検討します。
(3)仮説検証
また仮説を立てて、実際にそうなっているかどうかも確認します。具体的には、有識者のノウハウや経験などをベースに仮説を立て、データを集めてその検証を行い、有効な説明変数を増やしていきます。
例えば、不採算案件の兆候検知であれば、
・「不採算化する前はリカバリのために急激に工数が増加する」
という仮説に基づき実際に不採算案件の工数の状況を確認します。
その結果、仮説が裏付けられれば、モデルの説明変数に「工数」の増加を捉える変数を加えます。
(2)と(3)のいずれも、モデルを作るために非常に重要な作業です。というのも、モデルは目的変数と説明変数で作っており、優れた説明変数がないと精度の高い予測・検知モデルができないためです。
優れた説明変数を作ることは、私の知る限りまだまだ人が介在する部分になります。データ分析に対する知識だけでなく、背景となる業務知識を理解することが、その後の基礎分析や仮説検証などで得られる説明変数の質や精度、ひいては成果に影響します。
(4)モデル構築とそのブラッシュアップ
説明変数の目途がついたら、統計解析や機械学習により予測・検知モデルを作っていき、精度を評価します。期待した精度が得られるまで、再び基礎分析や仮説検証を実施したり、別の手法によるモデルを作ったりします。これを何度も繰り返して、少しずつよいモデルを作っていきます。
▶︎データ活用成功のポイント①:データ活用が適している領域
ここからは、データ活用成功のポイントを3つご紹介します。1つ目はデータ活用が適している領域です。これは(1)対象業務の選定と課題把握でのポイントになります。データ活用が適している領域は、大きく2つあります。
1つは、人の経験と勘に頼っている領域です。機械学習などでモデル化することにより、熟年の方々が持つノウハウなどを見える化できます。
もう1つは、網羅的なチェックが難しい領域です。例えば、不採算化抑止のために、全プロジェクトを毎月人手によってモニタリングするというのは、非常に大きな労力が必要となります。そのため、重点的にチェックすべきプロジェクトのみに絞るなど、部分的にチェックしていることが多いと思います。このような領域を、データ活用により網羅的にチェックすることができます。
▶︎データ活用成功のポイント②:イシュードリブン>データドリブン
こちらも(1)対象業務の選定と課題把握 のポイントです。
「データドリブン」という言葉がありますが、データ活用はあくまでも課題を解決する手段でしかありません。それよりも、何が問題なのか、解決したい課題を明確に定義することが大事です。つまり、「イシュードリブン」の考え方が大事になります。
解決すべき課題を列挙し、優先順位をつけて、データで解決できそうな課題を検討・選択し実行するというプロセスがよいと思います。
また、優先順位が高い課題があってもデータがないという状況もあると思います。この場合は、イシューに対してどういうデータを蓄積する必要があるか、どのような手段で収集するかという仕組みづくりも重要になってきます。
今まで述べたことは、データドリブンを決して否定するわけではありません。データ分析の結果として課題が見えてくることも多々あるからです。データがあるから何かをやるというのではなく、課題を最初にきちんと定義することが、データ活用による成果を得るための第一歩だと私は思います。
▶︎データ活用成功のポイント③:予測・検知根拠の明確化
(4)モデル構築とそのブラッシュアップでのポイントです。
私たちは、経営課題解決や意思決定高度化をめざしていますが、精度だけでなくそのような結果になった理由(説明可能性:Explainable)も求められることが多いです。
「よく理由は分からないけれど、モデルが検知したから作業してもらえるか?」と言われたら、おそらく多くの人は納得感がないでしょう。そのため、なぜ検知したか?を明確にすることが必要となります。機械学習ではツリー系(決定木など)の手法を利用したり、説明可能性を高める技術(LIMEなど)を利用したりする手法が考えられます。
今後のビジネスアナリティクスの取り組み
NTTデータにおけるデータ活用事例 および データ活用成功のポイントを3つご紹介しました。
これまでにさまざまな取り組みを行ってきましたが、数多くの壁にぶつかりながら進めてきています。
必要なデータの欠落、データの開示可否、他のデータとのひもづけが困難……といったデータ分析をする前の障壁があります。また予測・検知モデルを構築しても期待した精度がでず、モデル構築を何度も繰り返すといった試行錯誤もあります。
しかし、これらの苦労の末に作ったモデルにより、今まで予測できなかったものが高精度に予測できるようになった時の喜びは大きいですし、やりがいも感じます。非常に面白い仕事だと思います。
今後については、これまで述べたモデル構築だけでなく、さらにもう一歩踏み込んで、モデルによって検知・予測された結果をもとにアクションにつなげていくことを各部署と連携して考え、共に実行していきたいと考えています。
実際、検知・予測モデルの結果だけでなく、その先の具体的なアクションの提示までを期待されていると感じる場面が社内でも増えてきています。データはそのアクションにつなげるためのエビデンスや意思決定を後押しする手段です。これらの期待に応えられるよう1つひとつ事例を積み重ねていき、得られたインサイト・ノウハウは、社内に限らず、お客様の経営課題解決に貢献できるようご支援させていただければと思います。そして、最終的には誰もがデータを活用し、より最適で高度な意思決定が実現できるようにしていきたいと思います。
