パーソナルデータを利用者の意思で預託し活用する情報銀行が注目を集めています。GAFAや国家への情報の一極集中と利用を脱し、所有者の意思でパーソナルデータを預け、積極的に利活用して新しいサービスやビジネスを生み出していくという視点で仕組みが作られ始められました。NTTデータで情報銀行の取り組みを牽引する立場として将来の効率的なより良い社会の実現に欠かせないものだと自負しています。今回は当社が取り組む情報銀行の現在と未来についてお伝えします。
情報銀行とその役割
情報銀行とは、個人と企業の間に存在するプレーヤーです。
所有者本人の許諾を得ることで、個人から預託されたパーソナルデータを、必要とする企業に提供する立場となります。企業が情報銀行から提供されたデータを活用して個人や社会に新しい価値を提供できること、みなさんが安心して安全に自分のデータを預けられること。ここにパーソナルデータが流通する価値があり、情報銀行が存在する意義があります。
私が情報銀行に携わるようになった背景は2つあります。一つはとても個人的なもの、もう一つはビジネス的なものです。
個人的な理由は、腕を骨折した際、救急でかかった病院から地元で通う病院にX線写真を持っていこうとすると私自身のデータなのに簡単に移動できないことを知ったことです。
ビジネス的な理由は、以前にマイナンバーのプロジェクトに関わり、個人情報に関わる新しいプランを考えていたことです。個人情報に関わるビジネスを調べていくと「パーソナルデータ」という言葉に行き着き、EUでは既にビジネスが始まろうとしていると知りました。
私は個人的にもビジネスでもパーソナルデータの課題に行き当たり、疑問を携えて、2016年にEUに視察に行くことになったのです。
パーソナルデータ取り扱いにおけるトレンド
EUはパーソナルデータの取り組みで先行しています。
2016年4月にGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)を制定、2018年5月25日に施行しており、それを受けてパーソナルデータの流通、活用に関する国際的な連携組織MyData Global(フィンランド)ができ(法人化されたのは2018年)、2016年からMyDataカンファレンスが毎年開催されています(NTTデータはその第1回から参加)
ヨーロッパも日本もパーソナルデータを取り扱う上での根本の考え方は同じで、個人が自らのデータをコントロールすることが大切だとしています。
その上でEUのGDPRではすべてが自己責任で、データを預けたり、取り戻したりは個人の責任で行います。
一方、中国や米国のように一企業が、大量のパーソナルデータを集めて保持しても良いという考え方もあります。
日本は国の決めるガイドラインに基づいて認定を受けた「情報銀行」という組織がパーソナルデータを預かり運用していく仕組みを2017年から提案し、MyDataカンファレンスで発表しています。
発表した当初、カンファレンスの反応は固定の組織に情報を預けることへの懐疑的な空気がありました。しかし、個人の責任のもとで行われる個人情報の流通に限界が見えてきたことから、2019年3月ぐらいから風向きが大きく変わり、日本の情報銀行は他の2つとは異なる第3の道を開く考え方だと評価されるようになりました。
▲写真:『情報銀行のすべて』~GAFAの覇権が終わり新しい時代が始まる~花谷昌弘, 前田幸枝 (著, 編集) ダイヤモンド社 (2019/11/14) 世界各国で法整備が進む個人情報管理の新しいルールと、これから巨大産業となる情報銀行を詳細に紹介。
情報銀行の取り組みが進むことで変化する生活
パーソナルデータの流通により、これまでになかった新しいサービスやビジネスが生まれる可能性が飛躍的に高まります。ヘルスケアはとても関心が高い分野の1つです。例えば、フィットネスクラブは会員がジムに通ってくる頻度やトレーニング内容については把握できますが、普段の歩数、睡眠時間、食事内容、健康診断の結果などを知る方法はありません。そこで会員がスマートフォンやスマートウオッチで取ったパーソナルデータを情報銀行に預ければ、フィットネスクラブは生活習慣や体調の変化をトータルに把握し、個人にあわせたトレーニングメニューを作れるようになります。
将来的には家族3人の視聴しているテレビ番組、日常の買い物、趣味のグッズの購入記録などのパーソナルデータを元に、旅行会社が最適な家族旅行をデザインし、提案するようなサービスも登場するでしょう。
情報銀行により生まれるビジネス
私は情報銀行のことを “産業の知であるデータを流通させることで、新しい価値の創発を支援する機関”だと説明しています。
市中で集めまとめた資金を融資することで企業の成長を後押しするのが現在の銀行です。同じように集めてまとめた「パーソナルデータを企業に融資する」のが情報銀行なのです。
例えば、ある商品の価格変動を予測するAIエンジンを持っているベンチャー企業は10年以上前にアイデアを思いつき、テクノロジーも開発しましたが、最近の10年間はひたすらその商品のマーケットのデータを集めていました。つまり過去10年分の商品価格のデータがなければAIが正しい答えを導けず、10年もの間、ビジネスは世に出なかったのです。
将来、情報銀行に適切なパーソナルデータが蓄積されていれば、短期間でアイデアを具体化することが可能になるのでしょう。
新しい発想のビジネスを成立させるという意味で、産業の知であるデータの流通を情報銀行が担うことには大きな意義があり、NTTデータはその環境を創出するためのプラットフォームやセキュリティーを提供することに貢献できると考えています。
これからの日本社会での利活用
EUでは個人が管理、アジアは国家も関与して管理という傾向はありますが、共通しているのは成熟した社会のほうがビジネスモデルを推進しやすいことです。これは今よりさらに効率的にサービスを提供したいと考える時にパーソナルデータが必要になるからです。
日本のように少子高齢化が進む社会では、今後、大量生産・大量消費が成り立ちません。日本が持続可能な社会をめざしていくためには、適切に資源を活用していくことが大切になります。
データを上手に使って効率的な社会の運営をめざしていかなければ、我々の子どもの世代、次世代の人たちが日本を背負いきれなくなります。したがって、パーソナルデータの利活用は今後、とても重要になっていくと考えています。
私は情報銀行の仕組み作りをNTTデータでお手伝いすることで、子どもや家族により良い社会を残していきたいと思っています。
