スタイリストとマネージャーを兼務。スタッフが想いを実現できる環境づくりを目指して
原宿に「h&m insi」をオープンしたのは2018年のこと。店づくりを任され、コンセプトの立案から命名まで、すべて僕がプロデュースするかたちで立ち上げました。2023年現在は代表というポジションで、スタイリストとして稼働するかたわら、責任者としてスタッフの教育や店舗の管理にも携わっています。
現時点でスタッフの数は自分を含め4名。プロデューサー兼スタイリストの僕、スタイリストがもうひとり、ジュニアスタイリストがひとり、アシスタントがひとりという構成です。初期からずっと一緒にやってきたスタッフもいれば、はじめはお客様として来てくれていて、会話を重ねる中で僕の考えに共感し、ジョインしてくれたスタッフもいます。
スタイリストの仕事はものづくりだと考えているんです。ベテランであれ新人であれ、一緒になってつくりあげていくという気持ちで取り組んでいます。ですから、自分とほかのメンバーとを年齢や経歴、スキルによって区別することはしません。全員ができるだけフラットな関係でいられるように心がけています。
お店を運営していく上で最も大切にしているのは、スタッフがそれぞれやりたいことに向き合える環境づくりです。たとえば、僕自身が髪もメイクもやりたいと思うのと同じように、スタッフたちがそれぞれの道を自由に歩いていくのを後押しできるようなお店にすることを目指しています。
自分の関心の向かうほうへ素直に進んだことが導いたdotとの出会い
専門学校を卒業してからdotに入社するまで、ふたつの店舗で働きながらスタイリストとしての腕を磨いてきました。
ひとつ目のお店を選んだ理由は、経営者がヘアメイク界で有名な人物だったこと。その人のもとで働くことで、最前線の現場感覚を身につけられると考えたからでした。
ふたつ目のお店に移ったのも同じような理由です。少し畑が違うところでカリスマ的な人気を誇る方がいたのですが、その人の仕事を間近で見て学びたいという気持ちがありました。
今あらためて振り返ってみると、自分の関心の移り変わりに合わせて進む道を素直に選んできたことが、良い結果につながっていると感じます。dotと出会うことができたのも、スキルアップのためにメイクスクールに通っていたことがきっかけでした。
当時、スタイリストとして研鑽を積みながら、メイクアップの技術も修得したいと考えていたんです。そこで、せっかくならと、大手化粧品メーカーが運営する権威のあるメイクスクールの受験に挑戦。美容師が全国から集まる難関試験でしたが、縁あって合格することができました。
そのメイクスクールに通っていたときにたまたま知り合った同期から、「おもしろい人がいる、会ってみないか?」と紹介されたのが、dotの方でした。実際に会って話をするうちに、理想とするスタッフの教育方針や店づくりの方向性がよく似ていることがわかり、意気投合して現在に至っています。
自分がお店を任せてもらうにあたっては、原宿に出店することが絶対に譲れない点でした。流行の最先端をいく前衛的なスタイルをいつも身近に感じていたいという想いがありましたし、あえて激戦区に身を置くことで自分を追い込み、スキルを高めたいという気持ちもあったからです。
お店を新たに立ち上げるわけですから、自分自身やお店の名前を売ることにも力を注いできました。かつてはコンクールに出て賞を獲得することが集客につながっていましたが、最近ではSNSを活用する場面が増えてきています。
SNSを得意とする世代のスタッフがいるため、僕はあくまでプロデューサーという立ち位置ですが、メンバー全員で一緒に世界観をつくりあげるようにしています。作品撮りを繰り返すうちに、サロンモデルさんが有名になることも。結果として思わぬ広告効果を生むなど、新しい流れができ始めていると感じます。
もちろん、サロン全体の技術の底上げにも取り組んできました。今後、スタッフがさらに増えてもお客様から期待される“原宿水準”のサービスを安定的に提供できるよう、感覚的な部分を共有し、技術を標準化するための仕組みづくりをしているところです。
自分ではなく、スタッフたちが光を放てる場に。メンバーに寄り添った店づくりを
僕はもともと、「自分が、自分が」と思うタイプでしたから、お店をオープンした当初も、大型店で働いていたときの勢いそのままに、自分の売上に対してかなりストイックになっていたところがありました。プレイヤーとして成果をあげることに比重を置いてしまい、マネージャーとしての役割を十分に果たせていない部分があったと今では思います。
その結果、たしかに売上はあがったかもしれませんが、失ったものも多く、気がつけば何人かのスタッフが辞めてしまっていました。しかも、お店が急成長できたかとい言えば、必ずしもそうだとは言い切れません。そこで初めて、自分ひとりでやれることの限界を痛感しました。僕がどれだけしゃかりきに働いたとしても、お店を育てていくことはできないと悟ったんです。
お店を成長させるためには、有能なスタッフに長く在籍してもらうことが欠かせません。スタッフの存在の大切さに気づいてからは、自分のことを慕って来てくれる人たちの力を活かせるような店づくりを心かげるようになりました。
スタッフによって、大事にしていることはさまざまです。中でも重視しているのが、一人ひとりの声にていねいに耳を傾けること。たとえば、最近はスタッフと話し合う機会を定期的に設けていて、とくに注意しているのが、スタッフたちの心の移り変わりです。同じ目標を共有しているつもりでも、やりたいことは少しずつ変わっていくもの。そんな気持ちの分岐点のようなものを見逃さないように気をつけています。
何が良くて何が悪いかを線引きしてジャッジすれば、居心地が悪くなるだけ。進む方向に正解をつくらず、皆が楽しいと思えるような着地点をいつも模索しています。
プレーヤーとして、マネージャーとして。両輪でさらなる高みへ挑む
これからは、スタッフたちがやりたいことに柔軟に応えられるような環境づくりにますます力を入れていきたいですね。各スタッフがそれぞれの想いをかなえ、個が輝けるような場を創出していくことがプロデューサーとしての使命。それが実現できれば、おのずとお店の成長にもつながっていくはずです。
個人的には、写真撮影の技術を高めていきたいと思っています。メイクスクールに通っていたとき、フォトグラファーさんはいたのですが、ヘア、ファッションはもちろん、モデルのスカウトや写真の画角決めまで自分でやっていたことがありました。撮影技術はお店の広告にも応用がしやすいので、当時学んだことを深めていくことが直近の目標です。
また、いずれはファッションの領域にも手を広げたいと思っています。というのも、最初に僕が師と仰いでいた方が、メイクアップや写真撮影、ファッションといった周辺的なことをすべて自分でこなせる人だったんです。当時は、憧れの眼差しで見ているだけでしたが、そろそろ自分もそういう存在に向かって本格始動していいころだと感じています。少しずつカバーできる範囲を広げ、マルチに活躍できるようになりたいですね。
これから共に働くことになる仲間と一緒に成し遂げたいこともたくさんあります。この業界に入ってこようとする人のほとんどは、スタイリストという仕事に強い興味を持っているはずです。熱い想いを持っている人たちをどう育成していくかが、今は一番の関心事。若い人がやりたいと思っていることを後押しすることで、自分ひとりでは決して見ることができない景色を一緒に見られるといいですね。いろいろな才能に出会えることをとても楽しみにしています。
