全社の設計者が使う"設計インフラ"を、ゼロから構築する仕事
私が所属する基盤技術開発部門のミッションは、5年・10年先を見据えた将来の設計プロセスを構想し、全社へ普及させることです。CAE(Computer Aided Engineering:コンピューターで製品の設計や製造、性能評価のシミュレーションを行う技術)や最適化技術、AIを組み合わせた設計インフラを開発し、デンソーのあらゆる事業部の設計者が使える状態に整える、それが私たちの担っている仕事です。特定の製品をつくるのではなく、製品を生み出すための”土台”を社内横断で構築し、その影響を全社規模で実感できる点が、この仕事ならではの特徴だと感じています。
もともと大学では電気系の学科で電磁シミュレーションを専攻していました。ちょうどハイブリッドカーが全盛期を迎えていた時期で、モーターやインバーターの電磁現象をシミュレーションする技術が実際の開発にどう役立つかを研究していました。就職先を考えたとき、「日本が世界に誇る先進的な技術で、グローバルに貢献していきたい」という軸がありました。その視点で自動車産業を見ると、技術の力で世界規模の課題解決に貢献できる産業だと感じ、完成車メーカーとサプライヤーの両方を検討しました。
私が惹かれたのはサプライヤー側でした。特定の技術領域に深く向き合い、専門性を磨いていけるエンジニアとしての働き方に惹かれ、技術力を徹底的に磨きたいという思いに合っていました。複数のメーカーと比較するなかでデンソーへの入社を決めた一番の理由は、現場のエンジニアの方々との会話です。IC(集積回路)設計の生々しい話、マニアックな話まで聞くことができ、技術に対して非常に真摯で誇りを持っていることが伝わってきました。
入社後は、想像より早い段階から全社横断の設計技術開発・推進に携わることになりました。最初の数年間は、電磁解析のシミュレーション技術をさまざまな製品の設計部門に展開する仕事を担当しました。モーターを担当している部署、インジェクターを担当している部署、エアコンを担当している部署など、同じデンソーでも事業部ごとの文化や個性があり、製品の設計思想も多様であることを1年目から知ることができました。クルマには多種多様な部品があり、それぞれが重要な役割を担っている。その一つひとつに実際に触れて実感したことが、今の仕事の土台になっています。特定の一部署に深くのめり込んでいたら、絶対に得られなかった視点です。
"使われない技術"をつくってしまった失敗が、思考を変えた
キャリアの中で大きな転機となった経験があります。大学との共同研究で高精度なシミュレーション技術を開発し、設計部門に提供したときのことです。技術的に求められている要件を満たしていましたし、Excelシートで操作を簡略化するなど、なるべく使いやすい形にして提供することも心がけていました。
それでも半年後にヒアリングに行くと、「使えていません」という返答が返ってきました。
設計部門とあらためて対話を重ねて分かったのは、"日々の業務に追われる設計者には、新しい技術を覚えて実践に移すための時間的余裕がほとんどない"という現実でした。そのとき気づいたのは、設計者に「使ってください」とお願いをするという発想そのものが、根本的に間違っていたことです。問題は技術の完成度だけではなく、設計者が新たなインプットの手間を多くかけることなく、"自然に使える状態"になっているかどうかという点でした。いくら技術的に高度で、便利なものであったとしても、既存のやり方を大きく変えるように見えると敬遠されてしまうことに気づいたのです。
この経験から、技術を単に提供するだけでなく、"いかに使ってもらうか"というユーザー視点に立って考えることが重要なのだと気づきました。発想が変わると、取り組み方も変わりました。グループ会社と連携してシミュレーション業務を外注できる環境を整備し、設計者自身が手を動かさなくても解析が進む仕組みをつくりました。さらに、社内であっても技術を使ってもらう人にまずは知ってもらうための工夫も行いました。技術者としてはあまり触れる機会の少ないマーケティング手法を学習し、多くのユーザー(設計者)にサービス(新技術)を知ってもらうための周知活動も行いました。設計者からもらった生の声を基に、紹介用の資料を自分たちでつくり、事業部の情報共有会などに持ち込んで"口コミで広がる仕組み"を意図的に設計しました。その結果、ある部署では数カ月かかっていた設計が2週間で完了できるようになり、「こんなに変わるとは思っていなかった」と感謝していただけました。その声が口コミの起点となり、今では全社のさまざまな製品設計者から問い合わせが来るまでに広がっています。
単にニーズを叶えるにとどまらず、工程全体を俯瞰して課題を再定義する
2020年頃から、徐々に部署のミッションのあり方も変わっていきました。従来の現場から課題をもらって解決する"ニーズベースのミッション"から、将来を見据えてシーズから提案する"シーズベースのミッション"へのシフトです。まだ顕在化していないニーズを自分で描いて、提案しに行く。視野を広げてゼロベースで考えることが求められるようになり、とても面白いミッションだと感じました。
この転換を象徴するのが、最適化技術の社内展開プロジェクトです。当初の課題設定は"製品性能を最大化するために必要な試行錯誤のプロセスに多大な工数が発生している"というものでした。しかしプロジェクトを進めていくと想定していたような効果が得られませんでした。
そこで設計者との対話を重ねながら、設計工程全体をあらためて分析し直しました。そこで分かったことは、複数ある技術的要求を同時に満たすことができておらず、手戻りが何度も発生していることでした。つまり、性能の最大化のみを追い求めても、後工程でまたつくり直しになるため、設計全体としては効率が上がっていなかったのです。
そこで課題を再定義しました。"設計の上流段階で、主要な評価指標を同時に満たす設計候補を導出すること"。これを本来の課題として捉え直し、評価指標のデジタル化が進んでいる製品群に絞って提案しました。後工程での手戻りを起こさないよう、複数の要求仕様を最初から考慮した設計候補を生成する、こうすることで手戻りなく製品の性能を最大化させることが可能となっていきました。共同開発の形で早期に実績をつくり、今では全社のさまざまな設計者から導入依頼を受けるまでになっています。
自分の仕事を通して、全社の設計者が製品を生み出すための"設計インフラ"を構築し、その影響を全社規模で実感できるところにやりがいを感じています。自分が開発した技術や仕組みが多くの設計者の業務を支え、最終的にはさまざまな製品やユーザー体験の向上に繋がっていく。時には社内にとどまらず、社外の最先端技術にも触れながら、設計部門・インフラ部門・外部パートナーなど多様な関係者と連携して開発を進めていく。影響範囲の大きさに、強い手応えを感じています。
設計者が"本来の創造性"に集中できる環境をつくり、世界へ
現在取り組んでいるのは、AIを活用したシミュレーション業務の完全自動化です。設計者はまだ、やるべきことに追われています。AIが"仕事のための仕事"を自律的に担うことで、設計者が本来集中すべき創造的な業務に向き合える環境をつくりたい。それを全社員が当たり前のように使える状態にすることが、今の私の挑戦です。
私の仕事で必要になる力は、大きく3つに分けられると考えています。フィジカルな現象をデジタルに落とし込む力、それを業務の中に組み込んでいくDX的な視点と知見、そして両者を橋渡しするAI技術の活用です。ただ、この力を最初から持っている必要はありません。私自身も、1年目からさまざまな設計現場に足を運び、設計者と密に関わり続けるなかで少しずつ身に付いてきたものです。設計者の真のニーズを知らないと正しい課題設定ができないし、課題設定が正しくないなかで生み出された技術は使われない。失敗から学んだ経験が、今の自分をつくっています。
また自分の原点にある思いとして、グローバルに挑戦したいという思いは変わっていません。現在はベトナム拠点と連携して解析業務の外注ネットワークを構築していますが、アメリカやイタリアなどは設計拠点としての機能が主となるため、勝手が異なります。それでも、AIや解析技術を入口にして切り込んでいき、ネットワークを構築していきたいと考えています。デンソーがグローバルに広げてきた拠点を、自分たちが開発した技術で繋いでいく。そこに大きな可能性を感じています。
入社前と後で変わったことは、課題との向き合い方です。"技術で答える"ことが自分の役割だと思っていた時期がありました。でも今は、"どんな問いを立てるか"こそが仕事の核心だと感じています。課題は与えられるものではなく、設計現場と対話し、工程全体を俯瞰して、まだ誰も言語化できていない問いを自分で定義するもの。デンソーは、熱意を持って活動すれば周囲が応えてくれる会社です。物事の本質を見極め、熱意をもって真の問いを考え抜いてくれる仲間と、一緒に挑戦したいと思っています。
■これから仲間になる方へ
会社全体の"当たり前"を変える挑戦をしたい人へ
特定の製品ではなく、全社の設計者が使う"仕組み"そのものをつくる仕事です。技術は使われてはじめて意味を持つ。だからこそ私たちは現場との対話を大切にしながら、まだ言葉になっていない課題を自ら見つけ出します。設計プロセスそのものを変えていく挑戦を、ぜひ一緒にしましょう。
