大学時代の経験が生み出したLunchTripと夢
LunchTripは、異国料理のレストランや大使館などで、“食”を通じて海外の国と文化を知ることを目的としたイベントを定期的に開催しています。
特色は、イベントを“航空便”に見立てている点。参加者は「パッセンジャー」、スタッフは「クルー」、そして異文化について語るプレゼンテーターは「ガイド」と呼ばれ、これまでに延べ5000人以上の方が搭乗しています。
実はイベントを企画・運営する28人(※2018年11月現在)のクルーたちは、全員“副業”。「食と旅を通して、知らなかった世界を楽しく学び、自分のこととして考える体験を提供します」というLunchTripのミッションに共感をし、フルタイムで働くかたわら、イベントの企画や運営を担っているのです。
LunchTripは、代表理事である松澤 亜美さんの“ある体験”がもとで立ち上げられました。
松澤さん 「大学時代、さまざまな国籍の生徒が集う小学校でボランティアをしたことがあります。彼らは、日本という国の文化に馴染もうと努力し、同調圧力の中でみずからの持つ文化を共有する機会がなかったんです。
しかし、海外の料理を食べるイベントを行なったとき、自然にお互いの文化を知って打ち解ける瞬間を見ることができました。
『食の前ではみんな平等』ということを肌で感じたことが、 LunchTripに直結しています」
また、このボランティアに参加する前に留学をしていた松澤さん。特定の国籍の人に対する偏見意識や、文化や宗教の違う人を排他しようとする人の心理を間近で経験したこともあり、「正しく異文化を理解して、好きになれる場をつくりたい」と考えていました。
そこでヒントになったのが、小学校で経験した料理イベントや東京中にあるレストランの存在だったのです。旅、食事、出会い──。これらの要素は、どんな背景を持っていても楽しめるものだと確信。
こうして2008年、松澤さんは友人ふたりに声をかけ、任意団体としてLunchTripを立ち上げます。本業を持ちながらサークル活動のように始めたイベントは、開催の回数を増やし、発足からわずか2年で企業や大使館との連携イベントを行うまでになりました。
松澤さん 「この活動を広げたい!その一心で動いていました。だから、初めはこの活動に組織が必要になるとは思っていなかったんです」
覚悟と共に初めて見えた課題と新しい視点
ところが、戦略を立てずに活動を進めた結果、イベントのノウハウは創業メンバーの3人に蓄積され、運営は属人的なものになっていきました。積極的に協力したいと手をさしのべる人がいても、その声を生かす土壌がない。
さらには、大使館や企業とのコラボレーションに加えて、保育園での活動や大阪でのイベントの開催も始まったことから、徐々に人手が足りなくなっていきます。そこで、3人は外部からのアドバイスを受けて新しいクルーを複数人受け入れました。
情報整理や戦略にひも付く分析などを進めるために、2012年から参加した野田 叔枝さんは、課題を客観的に見る視点を持っていました。
野田さん 「 3人が本当に一生懸命活動しているのはわかるんですけど、あうんの呼吸で進めている部分を可視化する必要があったんです。そこで、 ToDoリストの作成やビジョンの策定などを提案し、進めました」
松澤さん 「 ToDoリストをまとめてくれたときは、『そうそうそう!それ!』と思いましたよ。初めて参加した人たちに何を伝えられていないのか、どう伝えるべきか考えられていなくて」
組織としての体裁を整えつつ、LunchTripの活動は続きました。イベントの回数を増やすためにクルーを募れば、必ず希望人数を満たすことはできます。
しかし、新規参入のクルーは、なぜか2、3回関わると離れてしまう。この状況が4年ほど続きました。結局、人手不足の問題は解消されないままだったのです。
松澤さん 「やりはじめたらきっと自分たちと同じような想いで取り組んでくれると思い込んでいました。自然に去っていくクルーがいても、『忙しかったのかな、相性が悪かったのかも』と3人とも流してしまい、その原因を深く考えていませんでしたね。今考えれば、恥ずかしいです。
私たちに問題があると気が付けたのは、 2017年のこと。法人化に伴って、組織をつくってこの活動を続けていくんだという覚悟が生まれたのがきっかけかもしれません。
あらためて、新規参入クルーが LunchTripに何を求めているのかを考え直しました」
LunchTripは楽しみながら異文化理解ができるイベントです。そのイベントに興味を抱いて参加を希望したクルーが欲していたのは、理念に共感しながらも、業務外で楽しく活動できることでした。
松澤さん 「 LunchTripのメンバーは全員、フルタイムで働くかたわら、無償でこの活動をしています。それにもかかわらず、クルーに対してさまざまなことを求めすぎだったなと。私たち創業メンバーやコアメンバーと同じだけのストイックさを期待していたんですね。
でも、よくよく考えたら、何かを始めるきっかけって、『楽しそう』という軽い気持ちのことが多いですよね。関わり方にはさまざまなスタイルがある。この気付きは大きかったです」
こうして、「クルーがLunchTripの活動を楽しむためにはどうしたらよいのか?」を軸にした解決策が紡がれていきました。
クルーの視点に立ったシステムの改革
まず、クルーが最大限に活動を楽しむための土台として、業務内容の理解を徹底することから改革が始まりました。
これまでは、新規参入のクルーに対して、イベント運営の一部を任せていました。しかし、必ずパッセンジャーとして搭乗してもらう、説明会に出てもらう、受付などの簡単な手伝いから始めてもらうなど、クルーの経験値や希望に応じてステップアップしていくカタチをとったのです。
さらに、コミュニケーションの面でも、“楽しさ”を徹底。
要点だけを伝える簡素で短いミーティングから、クルー同士がコミュニケーションする場としてのミーティングに切り替えました。活動内容だけを共有するのではなく、趣味の食事などの交流を目的とした場をつくるようにしたのです。
さらに、オンラインツールも活用するようにしました。Facebook上にクルー全員が加入できるグループページを設置。これまではイベントごとのページしかなく、組織やクルー全体の情報が共有されにくい状況が続いていました。
そこで、全体のページをつくることで、おのおののアイデアや進行中の企画、今後の方向性などの情報をクルー全員がキャッチアップできる状況を生み出したのです。
それに伴い、イベントの開催回数やクオリティも好転しています。
野田さん 「一番印象的な変化は、“クルー”というコミュニティができて、クルーたちに帰属意識が芽生えたことです。こうした主体性が生まれたことで、クルー側から新しいアイデアが生まれやすくなりました」
松澤さん 「どうすれば良いかわからず遠慮しがちだったクルーが、みずから行動するようになってくれたんです。クルーからも『任されるのが嬉しい』という声があがっていて」
また、クルーを対象とした意識調査なども始め、2018年はよりいっそうクルーの心情に寄り添った組織化が進められつつあります。こうした施策が結果につながり、継続的に活動に参加するクルーは増え、定着率は当初の3割から10割に変化しました。
クルーそれぞれのモチベーションが動かすLunchTripは、創立者の想いで走る団体ではなく、みんなでつくりあげる組織に成長していきました。
夢が現実になり、その先を目指せるように
野田さん 「今まで横並びだったクルーが輪になったことで、創業メンバーはその輪をどう運営していくかという視点に立てるようになったと思います。
以前は、創業メンバー全員がすべてのイベントに出ていましたが、今はチーフクルーという、便の企画や運営をリードするクルーを立てて任せるというスタンス。イベントをつくる役目ではなくて、“組織をつくる役目”に切り替わったというか」
松澤さん 「まさにそう!任せられる仕事が増えることで、メディアへの発信にも力を入れられるようになってきました」
理念を掲げ、先頭を走ってきた3人の創業メンバーと理念に共感し、それぞれの強みを持ち寄りながらLunchTripを発展させているクルー。
クルーの“輪”が広がりつつあるからこそ、新たな可能性も見えてきました。
松澤さん 「今後は LunchTripの国内展開、さらに海外展開を実現させたいですね。今までは夢のまた夢と感じていたけれど、このまま進めばきっと実現できると思い始めました。
そう思えるようになったのも、クルーの熱量が高まっているから。イベントの企画もどんどん出てきて、半年先まで埋まっている状況です」
野田さん 「参加するクルーにとって有意義な組織になってきているのではないかと思います。クルーはお互い良い刺激を与えあえる仲間ですね」
LunchTripでの経験を本業に還元することで、より良い結果を生み出したというエピソードも聞こえてくるようになりました。
忙しい日々でもLunchTripのクルーが集うメッセンジャーやFacebookグループでは絶えずメッセージが交わされており、より良いイベントの実現を目指した提案が増えています。
松澤さん 「私たちはけっして特別なスキルを持った集団ではありません。普通の人たちが同じ信念を持って、試行錯誤を繰り返しながら活動を広げてきました。
今はクルーの情熱に支えられて、もっと高みを目指せるところに来たと思っています。これからもクルーと共に、成長していきたいです」
今、LunchTripはより広くお互いの文化を理解しあえる場をつくるため、新たな一歩を踏み出そうとしています。
「国籍を問わず、お互いを理解しあいたい」。
理念に共感し、自分たちも一緒に楽しみたいと感じたクルーたちが、ひとりより3人、3人より20人──みずから“仲間の輪”を広げ、社会に大きな波を起こそうとしています。
※本ストーリーは一般社団法人at Will Workが開催する、働く“ストーリー”を集める5年間限定のアワードプログラム「Work Story Award」を受賞した企業のストーリーです。
