働き方改革によって働きやすさは向上した一方で、仕事を通じた達成感・貢献感・成長実感といった働きがいが得にくいという声もよく聞きます。では、「働きがいを感じる職場」には何が必要でしょうか。
その答えの1つが、メンバーが「この職場をもっと良くしたい」「このチームの力になりたい」と感じ、組織の目標を“自分ごと”として捉えられる「推せる職場」という概念です。
そして、推せる職場を形づくる大きなカギの1つが「対話」です。
本特集では、企業事例を交えながら、その本質について考えてみたいと思います。
「議論」と「対話」は、似て非なるもの
私たちが日々行っている「話し合い」の多くは、共通点を見つけ、合意形成をめざす「議論」です。一方、「対話」は必ずしも合意を目的とするものではありません。対話とは、「お互いの違いを認識し、尊重し合い、理解を深める行為」だと捉えることができます。
たとえば、同じ職場の出来事を前にしても、人によって感じ方が分かれることがあります。「最近、会議で発言が増えてきましたね」と聞いて、ある人は「活発になってきた」と感じるかもしれません。
一方で別の人は、「一部の人に発言が偏っていて、全員が話しやすい状態ではないのでは」と捉えるかもしれません。どちらが正しい、という話ではありません。同じ状況を見ていても、人によって受け取り方は異なります。その違いを「間違い」として切り捨てるのではなく、「そう見えているのか!」とまず受け止め合う。このプロセスこそが、対話の出発点です。
対話を支える3つの重要な要素
対話が機能するかを見極める際には、以下の3つのポイントをチェックしてみましょう。
要素①:対等な関係・スタンス
立場や役割の違いはあっても、人として対等であるという前提に立てているか。指示する側・される側ではなく、一人ひとりが自律した存在として向き合えているかどうかが、対話の質を大きく左右します。対等なスタンスがあるからこそ、違いは対立ではなく、学びや気づきのきっかけになります。
要素②:心理的安全性の風土
恐れや忖度なく、自分の感じていることを言葉にできるか。そして、出てきた意見をすぐに評価・否定せず、まずは受け止める文化があるか。心理的安全性とは「優しさ」ではなく、率直な意見や違和感を職場に持ち込める状態そのものです。
要素③:共通の方向性の共有
私たちは何をめざしているのか。どんな価値を社会に提供したいのか。この共通の方向性が共有されているからこそ、意見の違いはブレーキではなく、前に進むためのエネルギーになります。共通の目的を共有しているからこそ、対話は建設的なものになるのです。
対話が行われる職場とは?5社の事例をもとに解説
では、実際に「対話」を大切にしている職場は、どのような工夫をしているのでしょうか。ここでは、5社の事例をもとに、それぞれ3つのポイントを読み解いていきます。
※ 掲載内容は記事公開当時の内容になります
事例1:日本電気株式会社(NEC)
多様な強みを持つメンバーが集まるNECのタレント・アクイジショングループ。互いの違いを活かす対話を通じて、「このチームをもっと良くしたい」という思いが自然と生まれる環境づくりに取り組んでいます。その背景にある工夫を、現場の実践から見ていきます。
ポイント①:異なる強みや背景を掛け合わせることで対話が深化する
NECのタレント・アクイジショングループには、マーケティング出身、エージェント出身、営業・調整経験者など、それぞれが異なる経験や得意領域を持っています。この違いを活かし合うことで、メンバー同士の対話は単なる意見交換ではなく、アイデアを創発する化学反応になっています。
違いを尊重し合う関係性が、互いの理解を深め、信頼感ある共同作業につながっています。
ポイント②:視座を高める共創の場が関係性を育てる
定期的にワークショップや勉強会を開き、チームで共通テーマについて学び合う機会を設けています。海外のメンバーを招いたワークショップなども含め、共に学び、議論するプロセスそのものが関係性を強化している点が特徴です。
こうした対話の場は、メンバーがそれぞれの価値観を語り合い、共通の認識をつくりあげていく機会になっています。
ポイント③:「何を大切にするのか」を共有することで、対話が実務を超えた意味を持つ
採用現場でのコミュニケーションも、単なるオペレーション確認ではなく、「どんな組織をつくりたいか」「どんな価値を届けたいか」という根源的な問いが交わされています。
このように、目的や価値観を共有する対話は、関係性を深めるだけでなく、実務の質を高め、日々の仕事そのものにも影響を与えています。
記事リンク:チームの専門性と多様性で採用を変革していく
事例2:ひとしずく株式会社
終身雇用型の業務委託やフルリモートなど、柔軟な仕組みを取り入れる、ひとしずく株式会社。制度面の工夫に加え、日々のコミュニケーションを通じてメンバー同士がつながり、安心して働ける環境を育んでいます。新しい職場のあり方を支えるヒントを、現場の声とともに読み解いていきます。
ポイント①:終身雇用型の業務委託で“長い関係性の対話”を前提にしている
一般的な短期契約の業務委託ではなく、「終身雇用型の業務委託」という独自の関係性づくりを行っています。
これは、契約期間の短さで生まれるコミュニケーションの断絶を防ぎ、長いスパンで対話や信頼を育む場をつくる仕組みです。契約上の関係だけで完結するのではなく、人生やキャリアを共に考え合うベースができていることが、関係性の深さにつながっています。
ポイント②:“個の声”を受け止める対話の機会を設けている
半期に一度の面談や自由に相談できる「オープンアワー」のように、メンバーが経営やボードメンバーと直接対話できる場を意図的に設けています。
これは、単なる情報共有ではなく、個々人の関心・課題・状況を丁寧に聴き合う関係性づくりにつながっています。こうした機会があることで、メンバーは自分の思いを安心して話すことができ、相互理解が深まっていくのです。
ポイント③:ウェブサイトづくりを“共創”として進め、対話を文化にしている
会社のフィロソフィーやミッションをワークショップにてメンバー全体でつくり上げるという関わり方をしています。これは、ただ決まりごとをつくるのではなく、「どういう価値をめざすのか」を一緒に言語化する対話のプロセスです。
このような共創的な関係性が、メンバー間の理解や信頼、組織への愛着を生み、結果として働きがいや推せる職場意識につながっています。
記事リンク:多様な働き方と、働きがいの両立を目指して
事例3:アジア航測株式会社
オフィス移転をきっかけに生まれた社員同士のつながりを大切にしているアジア航測株式会社 東北支社。若手社員の主体性を育む取り組みの背景には、立場を越えて思いを交わし合う対話の積み重ねがあります。対話が根づくプロセスを、具体的な取り組みからたどります。
ポイント①:全員の声を聴き、反映するプロセスをつくることで対話が生まれる
オフィス移転の計画段階から、正社員だけでなくパート社員も含めて全員の意見を聴く方針で進めました。各課に3〜4回の意見聴取の場が設けられ、現場社員の細かな要望も積極的に取り入れています。
このように、多様な立場の声を丁寧に聴く機会を設けること自体が、対話を日常化し相互理解を深める関係性につながっています。
ポイント②:共通のテーマを持つことで横のつながりが生まれる
“共通のプロジェクト”が、部署横断的な対話や連携を自然に生むきっかけになっています。社員同士が意見交換を重ね、ワーキングチームとして一緒に課題解決していく過程そのものが、関係性を強化しています。
新オフィスのレイアウトも部署を越えた連携を促す設計になっており、「意見交換が活発になった」「他拠点のメンバーとも関わる機会が増えた」といった声が出ています。
ポイント③:主体的な発信と受け止めの文化が自律性を生む
オフィス移転プロジェクトに参画したことで、若手社員自身が自発的に意見を発信したり、主体的に関わるようになったり、意見を出しやすい空気が生まれたりしています。
東北支社には「どんな意見もまずは受け止める」という文化があり、実際に「会議室の名前を東北のお祭りにしたい」という提案が採用されるなど、提案が実現される経験を通じて対話が関係性や職場への愛着を育てています。
記事リンク:オフィス移転で高めた参画意識と組織力
事例4:シッピーノ株式会社
個人の「Want to」と組織のビジョンを対話で繋ぎ、共通の方向性を自分ごと化しているシッピーノ株式会社。一人ひとりの人生に深く踏み込む対話の姿勢が、単なる「仲良し」ではない、強固な信頼関係と成果を生み出しています。その徹底した対話のプロセスを紐解きます。
ポイント①:平均10時間の「個の深掘り」が、対等な関係の礎となる
全社員と平均10時間以上をかけて1対1で向き合い、個人の価値観や「Want to(やりたいこと)」を徹底的に言語化しています。これは単なる業務面談ではなく、相手の人生そのものを尊重し、理解しようとする行為です。
こうした「対等なスタンス」での深い対話があるからこそ、社員は職場を「自分を活かせる場」として信頼し、本音で向き合えるようになります。
ポイント②:幸福と成果を両立させる対話が、能動的な変化を引き起こす
こうした対話の積み重ねは、離職率ゼロや黒字化といった具体的な成果にも直結しています。対話が単なる「心地よさ」のためではなく、個人の幸せと組織の成長を両立させるエンジンとして機能している点が特徴です。
自分の影響で職場が良くなるという手応えが、メンバーの自律性を引き出し、さらなる挑戦を生む好循環をつくっています。
ポイント③:1年半を投じたビジョン共創が、組織への当事者意識を育む
個人のゴールを明確にした後、さらに1年半の対話を重ねて全員で組織ビジョンを策定しました。トップダウンで「与えられた言葉」ではなく、自分たちの内側から「紡ぎ出された言葉」だからこそ、組織の目標が心からの納得感を伴った「自分ごと」へと変わります。
対話を通じて共通の方向性を握るプロセスそのものが、組織としての結束力を高めています。
記事リンク:「働く」を彩り、人生を豊かにする──全員で共創したシッピーノの組織ビジョン
事例5:株式会社オカムラ
「Work in Life(人生の中の仕事)」を掲げ、全社員が働き方改革の当事者として動き出している株式会社オカムラ。専門部署任せにするのではなく、従業員一人ひとりを「改革の担当者」として巻き込むことで、職場に対する当事者意識と自律的な風土を育んでいます。
ポイント①:専門部署に任せず、全員が「WiL-BE」の担当者として参画する
働き方改革を特定の部署だけで進めるのではなく、現場の各部署が自らの課題を管理・推進する体制をとっています。より多くの人をプロセスに巻き込むことで、他人事になりがちな改革を「自分たちの課題」として捉え直す、強い当事者意識を生み出しています。
ポイント②:自分たちのアイデアを出し合える「心理的安全性の風土」
「Work Placeアクション」では、若手メンバーが中心となって自由に意見を出し合い、実際のオフィス改装を手がけました。専門部署ではない現場からの自由な発想が、数多く採用されるプロセスを通じて、「どんな提案もまずは受け止められる」という心理的な安心感が職場に根付いています。
ポイント③:「自分らしい働き方」という共通の方向性が、取り組みを自分ごとに変える
「一人ひとりが自分らしい働き方(Work in Life)を実現する」という明確なゴールを共有し、地道な発信を通じて組織に浸透させました。
めざす方向が自分の人生や幸せと結びつき「自分ごと」として捉えられたことで、「やっても変わらない」という空気が「まずはやってみよう」という主体的な行動へと変わり、組織のしなやかな変容に繋がっています。
記事リンク:一人ひとりのWork in Lifeを実現!オカムラの働き方改革「WiL-BE」
まとめ
今回ご紹介した5社の取り組みは、対話が「特別な場」ではなく、日々の関わりの中で職場を少しずつ形づくっていく「積み重ね」だと教えてくれました。
働きやすさだけでなく、どんな対話が生まれているかにも目を向けてみると、職場の見え方も変わってくるかもしれません。
そういった観点で、自身の職場を振り返ってみてはいかがでしょうか。
