スマートフォンの普及により、今では当たり前のように使われるようになった「ネット予約」。しかし、手軽に予約ができるようになった一方で、近年ではドタキャンによる店舗被害など、予約によるトラブルも注目を集めるようになりました。
予約は顧客との接点であることから、コミュニケーション・チャネルとして予約のあり方も多様化しています。多様化する予約を経営にどのように活用し、利益を生み出していくか。学術、ビジネスマーケティング、予約の現場それぞれの視点から予約の可能性と理想について語りました。
メンバー紹介
中谷淳一(関東学園大学経済学部 准教授):2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。
加藤高士(株式会社ビジネス・アライアンス 代表取締役):様々な企業へCRMの導入支援を経て2012年4月株式会社ビジネス・アライアンスを設立。20年以上にわたり企業へマーケティング活動の支援を行う。マーケティングの視点から、予約ラボを通じて予約の可能性について研究を行う。
永田大助(株式会社リザーブリンク ChoiceRESERVE責任者):リザーブリンク創業メンバー。創業当初は営業、顧客サポート、製品企画、サービス開発などすべてを一人でこなし、製品と会社の成長を支えてきた。現在もクラウド型予約管理システム「ChoiceRESERVE」を通じて、様々な業種や業態の予約システム導入・運用について企業支援を行う。
星野陽介(予約ラボ所長):予約ラボ所長。2012年にリザーブリンクに入社し、3000件以上の予約管理の課題解決に関わる。ChoiceRESERVE事業部責任者を経て、2018年より予約ラボ所長として、利用者と事業者双方の視点で「予約の知見」と「サービスの現場」を研究・発信中。
予約は身近すぎて意識されない?
▲永田大助(株式会社リザーブリンク ChoiceRESERVE責任者)
永田 「本日は、『予約』をキーワードにしてディスカッションできればと思っています。早速ですが、15年以上予約の現場に携わってきて、利用者から見た予約と事業者から見た予約のイメージは全く違うと常々思ってきました。
リザーブリンクが提供しているサービス『ChoiceRESERVE』はいわゆる『予約システム』なんですが、何か違うワードを作りたいと思っています。予約システムの『予約』とは、お客さんがポチッと画面をタップするワンアクションを指しているだけで、その前後にあるシステムのおもしろさを伝えきれていないと思うのです」
中谷 「なるほど。CRMとかSFA、最近ではRPAのように、経営の領域でトレンドが生じるとき、常にそこには新しい言葉があります。ビジネスとして可能性を広げていく、新しいトレンドを作っていくために、新しい言葉で定義していくことはありかもしれません。
その場合、『予約』という消費者の行動に対して最適なシステムとなってしまうと、すごく分野が限られた話になってしまいますよね。『予約マネジメント』や『予約マーケティング』などとして、領域を広くした話にすれば、関心を持ってくれる人が多くなるのではないかと思います」
星野 「確かにECとかSFAと言われても、わかる人しかわからない。でも、『予約』なら5歳の子でもわかるんですよね」
加藤 「予約はリソースマネジメント、リソース最適化という視点がありますが、あくまでも事業者目線での言葉。その表現だと、そこにはどのようなユーザーがいて、どんなメリットをもたらすかが見えてこない気がします」
星野 「情報が欲しい時に用意されている状態は、ユーザーへのメリットの一つですよね。例えばサービスを予約するときに、ユーザーが空き状況を一目でわかる状態は、店舗のリソースが見えているということですから」
加藤 「リソース最適化から、サービスの『見える化』まで表現できるとユーザーメリットが明確になりますね。加えて、事業者も土日のニーズが高いから、ちょっと人員を厚めにしておこうといった経営判断の材料にもなります。
(株)ビジネス・アライアンスは企業のマーケティングやリスティング広告を支援していますが、クライアントの中にはChoiceRESERVEを潜在的に必要としている企業が少なからぬ割合で存在します。
ところが、こうした企業に『予約を分散させるのに最適なツールがありますよ』と説明しても、反応が薄いんです。『電話やLINEで足りている』という感じで、予約システムという解決策にまで行きついてないお客様が多数いるのを目の当たりにしています」
▲中谷淳一氏(関東学園大学経済学部 准教授)
中谷 「課題を抱えている店舗や企業に対して解決策を提示したところで、響かないということですね。だとすれば、彼らにとっての入口、響く言葉は『予約』ではないんです。
経営資源の管理や最適化に課題を持っている部分をじわじわ突ければ良いと思うのですが、予約予約で押していっても、ChoiceRESERVEに関心を持たせるのは難しいと思います」
永田 「予約システムは予約を増やすシステムだと思われがちです。確かに集客をメインにしたものもありますが、単に予約システムを『集客してくれるシステム』と思っている企業や店舗ではChoiceRESERVEの導入がうまくいかないんです。実際に『やっぱりいらなかった』という結果になる例がありました。
導入がうまくいくケースは、そもそも予約が発生していて、予約の対象になるサービスのリソース管理に課題があることを自覚している場合。そこがないとシステムを導入しても長続きしません」
星野 「基本的には供給(サービス)に対して需要(予約)が上回っている店舗や企業ということですね。だからこそリソース管理が必要だと」
永田 「店舗や企業が予約システムを検討する際、一般的な問い合わせフォームやGoogleカレンダーなどと何が違うのかよく質問されます。予約システムでは、リソースや在庫の管理ができますと答えているのですが、そうなると『予約システム』と呼ぶこと自体に違和感を覚えるんです。
在庫を厳密に管理する必要がなければGoogleカレンダーでもいいし、問い合わせフォームでも良いと思います。しかし、われわれはリソースや在庫管理を最適化したいと考えている皆さんに対応していると思うので……」
中谷 「予約システムという言葉に対する考え方や理解を変えていかなければいけないのかもしれませんね。啓蒙していくといったほうが適切かもしれません。マーケティングと聞いて、広告のことだとか、営業ですよねと言う人がいるのに似ていますね」
ビジネスにおける予約の可能性について
▲加藤高士氏(株式会社ビジネス・アライアンス 代表取締役)
加藤 「そもそもですが、予約って面倒くさいですよね。予約とは端的に言えば未来のことを約束する取引ですが、予定が変更になるかもと考えたり、まだ先のことは分からないと思ったり。あるいは、ほかに良いサービスがあるかもしれないから今は予約するのをやめておこうといったそんな心理が働くのかなと思うんです」
永田 「予約に対する心理的ハードルについては逆のこともあって、むしろ仮で押さえてドタキャンや無断キャンセルしてしまうのが問題になっていますよね。でも、面倒くさいという心理は確かにあると思います」
加藤 「企業側の視点で見ると、予約とはある意味新たな取引の形態だという定義をしたほうがいいのかなと感じています。取引と考えれば、予約する側とされる側のメリットがイコールになっているのが最も好ましい状態です。
『現在は誰でもいいから予約してください』となっていて、ユーザー側のメリットが少ないのではと感じます。これはあまり好ましくない状況なので、店舗側に予約の本来のメリットや予約システム導入の目的をきちんと認識してもらう必要があります。
在庫の整理や事前準備はもちろん、人が足りないのであれば配置したり、将来の売り上げが見込めるから何か仕掛けようかと考えたり。顧客の囲い込みも当然できますし、テストマーケティングもできます。
つまり、条件付きの特別サービスを打ち出して、上得意客と継続的に付き合う仕組みが『予約』なのではないかと」
中谷 「飲食店などは、これまで以上に予約に力を入れてもいいですよね。たとえば、航空会社はチケットを前もって予約すれば安くする仕組みを導入し、いかにして最大の利益をあげられるか科学してきた歴史があります。
飲食業界でそこまでやっているところは少ないですよね。予約したことによるインセンティブがなければ、人気店以外であえて予約する必要もない。当日直接行ってメニューに変わりがないなら、予約せずに当日決めれば良いとなります。予約をもっと科学して経営に取り組もうという人が少ないのかもしれません。
ただ、それは飲食業界が供給過多の傾向にあることも理由としてあります。予約しなくても代わりの選択肢がたくさんあるから、消費者側に予約の必然性が生まれにくい。そういう意味では予約に向いていない業界と言えるでしょう。業界ごとの予約のあり方、これは今後、予約ラボでの研究テーマになるかもしれませんね」
星野 「人気店のトップ層の人たちは、キャンセル問題に取り組んでいます。クレジットカードの情報を先に受け取ってから予約を引き受けるので、予約したのに当日姿を現さないノーショウが発生しないとか」
中谷 「クレジットカードを予約時に登録する仕組み、日本の飲食業界では定着していないですよね。人気店なら消費者も『それでも予約したい』となるでしょうが、大抵はそれなら他のお店を予約するとなってしまいますから。
店舗と消費者が対等にリスクを負うのが理想的ですが、飲食業界は競争が激しいので、店舗側がノーショウというリスクを負わざるを得ない状況です。これは店舗側がリスクを負いすぎている状況で、バランスを欠いていると思います。
例えばエンターテイメント業界では、人気アーティストのコンサートなどは完全にユーザー側がリスクを負いますよね。当日行けなくなったらそれで終わりです。後日払い戻しなどはしてくれませんが、それが当然とされています。リスクをどちらが追うかは、予約を考えるうえでポイントになりそうですね。
宅配業界で近年問題となっている再配達問題がありますが、これもノーショウと似た構図ですね。宅配便の到着時刻を指定したのに不在で再配達になる。これは、ユーザーがリスクのない予約をしているから。本来は消費者側が再配達のコストを負担しなければならないのに、なぜか宅配業者が再配達コストを負担しています。
再配達を有料にして消費者側がリスクを負う仕組みになったら、再配達問題は大きく解決するのではないでしょうか。再配達による環境負荷の低減などの大義を掲げて、業界全体で取り組まなければならない問題です」
▲星野陽介(予約ラボ所長)
星野 「信用スコアのように、この人は予約してもキャンセルする人だというのを明示するのもありかもしれませんね。予約してもあまりインセンティブを受けられないとか」
中谷 「信用は予約を探求していくうえでキーワードになりそうですね。考えてみたら、昔ながらのお店は、お客様によって提供するサービスが違いますよね。全てのお客様を一律で同じようには扱わず、信用あるお得意様には他のお客様より特別な対応をしているんです。
お客様の信用をどう表していくかは難しいところですが、消費者心理と事業者のニーズをうまくシステムが反映してくると、予約システムを使う人がもっと広がると思います」

