さまざまな会社で働きながら自分探しの旅へ
前田は両親と弟の4人家族の長女として東京都で生まれます。高校、大学を卒業し就職活動の時期に差し掛かりましたが、やりたいことがわからず、初めはバイク便の会社の事務や築地卸売市場で寿司に添える特殊野菜を販売する仕事などを転々とします。前田は当時を振り返って、「自分が何をしたいのかまったくわからず、自分探しの旅をしていたようだった」と語ります。
その後就職したのがヨーロッパの人気ブランドのカーテンも取扱っていたカーテン工場での営業職でした。
「インテリアコーディネーター担当者と製作担当者の間に立ってさまざまなコントロールをしながら、BtoBでの営業を行っていました。今までになかった感覚で、仕事を知れば知るほどにどんどん惹かれていったのが印象的ですね。そしてやっとやりたいことが見つかったと思ったと喜んでいた矢先、景気悪化から退職することに。その時はとてもショックでした」
しかし、職人と工場との間に入って物作りを手伝うことに興味を持ち始め、次は輸入生地代理店に就職。デザイナーと相談しながら物作りをしていく仕事はとても楽しく、このころから「どうせなら物作りの手伝いをするのではなく、自分で作ってみたい」という気持ちが高まっていったと言います。入社して8年が経とうとしており、仕事も覚え充実した日々を送っていた前田は東日本大震災を経験することになります。
「東京にいたので大きな被害はありませんでしたが、これを機に閉所恐怖症になり満員電車での通勤ができなくなってしまいました」
このころは地震の恐怖に加えて、家族が病気になってしまうなど考えることが多くなり、「どうせなら、自分の好きなことをやろう!」そう考えて輸入雑貨を取り扱う小さな路面店をオープンしました。輸入雑貨店では個人事業主として仕入・商品管理、売上・利益管理、運営管理まで求められ大変だったと語ります。
「その一方で仕事を続けていくうちに実はレザーの椅子の張替え修理希望が多いことを実感し、高額になってしまう張替えを『どうせなら張替えではなく、補修ができないものか?』と思い、レザーの修理に興味を持つようになりました。
そして、お客さまのご要望にお応えするには、『ただ売るだけではなく、ご満足のいく修理までできるようにならなければ!』と気づき、お店を閉めてレザー修理の勉強をすることに。そこで出会ったのがリアット!でした」
靴・バッグ修理に没頭する日々──恩師の厳しくもあたたかい指導
男性でも「最初は技術習得が難しく苦戦した」という方が多い中、女性である前田は「技術習得はとくに苦労することなく学べました!」と語ります。そこには幼少期から祖父の影響で釘を打つなど、木工工作をしていた経験が活かされていました。しかしすべて1人でなんでもこなせるようになるまで約1年はかかったと語ります。
靴・バッグ修理の技術習得に不安を持っている方が多いことから、前田にそのような方々に対するアドバイスを求めると、こう答えます。
「まずは諦めないこと!続けていけば必ず身についていきます。そう信じることも大切ですね。後はうまい人の話をよく聞くことも参考になります。最近は動画配信サイトの映像も勉強になりますよ」
前田がアルバイトとして入った店はリアット!イオンモール東久留米店でした。東久留米店はリアット!各店の中でも売上が高く、集客力のある店舗。修理の内容も靴やバッグの修理から合鍵作製など多岐にわたり、前田は東久留米店でのアルバイトからいろいろな技術を学んでいきます。
その中で前田が今でも忘れられない恩師である東久留米店オーナーからの指導が「靴修理は技術だけではだめだ!提案力を身につけろ!」というものでした。この言葉は、技術を身につければいいと考えていた前田にとって、胸に刺さる忘れられない言葉になったと言います。
そして技術を高めることは毎日コツコツと1人でもできますが、提案力を身につけるにはお客さまとの接客で相手が何を望んでいるのかを感じ取り、こちらからご提案することが重要であると気づきました。
「実は、お客さま自身もどう直したいのかわからないということがよくあります。そんなお客さまに寄り添い、丁寧にお話を聞いて、その想いを尊重して修理をする。そうすることで、できあがった品物を見たお客さまが『こんなにきれいに直ったの!』と驚き、喜んでくださることもあります」
技術力に加えて提案力を身につけていった前田が、いよいよ加盟店として独立する日がやってきます。2020年、前田はリアット!イオン葛西店加盟店オーナーになります。
加盟店オーナーとしてお客さまと向き合う日々
前田が描いた店舗像は「地域に根づいた、お客さまのご要望にオールラウンドで応えられるお店」。お客さまの生活には靴やバッグ以外でも合鍵や時計の電池交換などさまざまなニーズがあります。
そこでお客さまがどんなことでも気軽に相談でき、それに対して的確に提案をできる店をめざしていました。自分なりにビジョンが明確にわかっていたので、とくに苦労することなくスタートできたと語る前田。しかし、目標はまだまだ高いところにあり「今も日々勉強中です」と微笑みます。
「私は最初の店舗コンセプト作りがとても大切だったと思います。日々忙しい毎日を送っているとついつい忘れがちになってしまうこともあり、常に『お客さまに寄り添った提案ができているか?』『お客さまの満足のいく仕上がりになっているか?』など自問自答し、できていなければすぐ修正を心がけています」
このように日々たくさんのお客さまと触れ合い、ご要望を丁寧に伺っていくうちに、売上は順調に上がっていきました。
「これまで築き上げてきた結果を見て、自分がやろうと思っていたことは間違っていなかったと実感しました」
とくに問題なく加盟店運営をスタートしていたと思いきや、前田自身は「実は非常に重要なスタッフの育成が、苦手だということに気づきました」と言います。
「今まで自分1人でコツコツとやってきたので、指導をする上でのボキャブラリーが足りないというか、うまく説明できないことが多くて、最初はとても苦労したのを覚えています」
また、加盟店オーナーとしての責任も「大きなプレッシャーだった」と語ります。
「もちろん責任も感じましたが、全国に同じ想いで頑張っている加盟店オーナーがたくさんいると思うと元気が出たのも事実です。楽しいだけの仕事などないとは思っているので、51対49で楽しいことが1でも上回ればそれで充分と考えています。
加盟店オーナーはみんな孤独なので、全国のさまざまな加盟店オーナーと親しくなって情報交換を常にすることもすごく重要だと感じました」
加盟店オーナーとしての今後の目標──次代を担う加盟店オーナーを育てる
順調に店舗運営を続けている前田。今後の目標について、次のように語ります。
「今まで、本当に多くの方々に育てられたおかげで今の自分がいると思っています。私を育ててくれた方、業界への恩返しとして、次代を担う加盟店オーナーを育てていきたいと考えています。
自分が教えてもらったことでとくに店舗運営に重要だと思うことは、お客さまへの提案力。もちろん技術に裏付けされた提案力でなければ意味はないですが、技術を磨くのと同じくらい提案力を磨くことの大切さを今、実感しています。このことを教えてくださった東久留米の加盟店オーナーには本当に感謝しています」
提案力を身につけるために意識していることがあると前田は言います。
「お客さまは見た目を重視したお直しを求めることもあれば、機能を重視したお直しを求めることもあります。まず見た目と機能どちらを優先するのかをお尋ねし、その上でどんなお直しの選択肢があるのかを説明することが大切ですね。さらにそれぞれの選択肢にはメリット、デメリットもありますので、それを詳しく説明し、お客さまにご理解いただくことも意識しています。
お客さまのお直しに対する理解度が高まると、そのお品物だけでなく『他のお品物も直せる?』と新たな依頼につながることもあるんです」
常に相手の立場になって最善の方法を考えていく。これを楽しみながら学んでいくことが提案力向上につながると言います。
現在、靴修理業界は技術者の高齢化の問題も相まって深刻な技術者不足であり、さらに新型コロナウイルス感染症流行の影響を強く受けた業種の一つでもありました。外出しないことによる靴修理の大幅減少のダメージは大きく、廃業する個人店も多い状況だったのです。しかし、前田は次のように話します。
「世の中には、大切に使ってきた靴やバッグが壊れてしまいどうしても直して使いたい。地球環境保護のために捨てずに直して使いたい。そうおっしゃるお客さまが大勢いて、私はそんなお客さまの期待に応えられる店が絶対に必要だと思っています。
そのためにも技術者を育て、加盟店オーナーとして独り立ちできる人材育成をしていくことが、自分を育ててくれた業界への恩返しになり、また、お客さまの期待に応えることになる。そう信じています」
※ 記載内容は2023年12月時点のものです
