全国選手権でつかんだトップの座、憧れが結実した瞬間
メカトロニクス事業部の伊勢拠点では産業や車載、ICT市場向けにリレーやスイッチといった高度な制御機器を製造し、約2万品の製品を世界中のお客様に届けている。同事業部コアテクノロジー&プロセス革新統括部 コアプロセス革新センター プロセスソリューション開発部に所属する田辺は、製造部品の精密金型の組み立てを担当している。
「これまで、技能グランプリに伊勢拠点から先輩たちが出場し、3回連続で金賞を獲得。意気込みはあったものの、初挑戦の自分が入賞すらしなかったらどうしようと、内心は不安でいっぱいでした。ですから、金賞の感想は『ほっと一安心』が正直なところです」
技能グランプリは熟練技能者が技能の日本一を競い合う大会で、厚生労働省などの主催で2年おきに開催され、2026年は4部門(繊維、建設、一般製造、一般)計30競技職種で実施された。
「国家資格の特級、一級、単一等級技能士を対象として実施される、非常にハイレベルな競技会です。いわば技術者の『全国選手権』。私が挑戦した機械組み立ては、図面をもとに、やすりなどで多数の部品を削り、寸法を合わせて組み上げます。完成した機械が正確に動くように、精密な組み立て・調整技術を競う職種です」
入社以来、金型の研削業務を担当していた田辺だが、憧れの技能グランプリに出場するために、これまで未経験だった機械組み立て職種での挑戦を決意した。
「金賞を獲得してきた身近な先輩に憧れ、出場を目指すようになりました。技能グランプリは職種が多岐にわたりますが、機械加工に関する競技はフライス盤・旋盤・機械組み立ての3職種で、自分が担当している金型研削は残念ながらないんです。技能グランプリ出場を見据えて、2年前から社内競技会の機械組み立てに出場し、経験を重ねました。拠点による推薦、その看板を背負って全国大会に挑みました」
拠点の技術を背負い、先輩の支えを力に挑み続けた日々
0.001mm単位の精度で部品を削るなど、機械組み立ては非常に緻密な作業が求められる。使用する各種のやすりは30本以上。日常業務では同様に極小の精度で研削を行う精密金型のプロフェッショナルだが、共通する技術やテクニックはあるにせよ、田辺にとっては専門外の職種。出場に向け、自主練習を積んで指先の感覚を研ぎ澄ませていった。
「大会の約3カ月前に課題が発表になり、当日現場で組み立てる部品の図面・素材が公開されます。そこから材料を取り寄せ、練習を重ねました。競技時間は合計5時間30分。最初は、全ての部品を組み上げるのに10時間以上はかかったと思います」
時間はかかったが、2次元の図面を立体的な成果物として組み上げたことでイメージが湧き、進めやすくなったと田辺は振り返る。
「自分が苦手とする工程を洗い出し、部分練習を重ねました。練習のたびに改善点を見つけ、次につなげる。定期的に通しで組み上げ、精度とスピードを常にチェックしていました」
その過程で力になったのが、職場のベテラン技術者や過去に大会へ出場した先輩たちの存在だった。
「職場のベテラン技術者がトレーナーとして指導をしてくれて、一緒に課題を解決していきました。その他にも過去に出場した先輩から多くの技術的なアドバイスをいただきました。出場した先輩たちは、これまで技能グランプリで金賞を重ねてきました。今回も結果を出せば、拠点として4連覇になる。プレッシャーはありましたが、それ以上に、自分もその流れに続きたいという気持ちがありました」
大会が近づくにつれてタイムは縮まり、精度も上がっていく。しかし、不安はつきない。
「大会経験者から『自分が納得するモノづくりをすればいいから』と声を掛けていただきました。自分らしさを考えてみると、攻めるところは攻める、分からないところはささいなことでも人に尋ねる、そして泥臭く練習し続けることだと。入賞を目指すのではなく、やれることをやればいいと心が軽くなりました」
迎えた本番当日。大阪の競技会場で、田辺は自分が積み重ねてきたことを出し切ることに集中した。金賞に選ばれた瞬間に胸に浮かんだのは、自分の成果への喜びだけではなかった。
「自分が勝てたこと以上に、伊勢として4連覇がかかる中で、応援してくださった方々、支えてくださった方々に結果で応えられたことが何よりうれしかったです」
自分らしいモノづくりとは──原理原則で考え抜く
工業高校機械科出身の田辺は、地元での就職先としてパナソニックを選んだ。
「入社直後は難しいことだらけでしたが、『分からないことを分からないままにしない』を徹底し、先輩たちに尋ねると、理屈から丁寧に説明してくれました。自分の仕事が分かってくると、先輩たちがどれほど高いレベルにいるのかを実感し、その背中に少しでも近づきたいと思うようになりました」
伊勢拠点で製造している制御機器は、自動車産業向けなど、指の先ほどの大きさの超精密機器だ。技術者に求められる技術水準が高く、日々の自己研鑽が欠かせない。技術者同士が教え合い、高め合うことで世界中のお客様のニーズを満たすモノづくりを実践している。
「伊勢拠点は一人ひとりのスキルアップに対する意識が高く、社内外の技術競技会への参加率がすごく高い。大会出場を通して自分たちの技術を見つめ、日々の業務に生かそうという土壌がある。私も入社以来、社内競技会にずっと参加していましたが、入賞すらしませんでした。思い返せば、その頃は仕事も、言われたことをこなしているだけという感じ。自分で考えられていなかったと思います。先輩たちと自分の差はここにあった。
しかし、憧れの先輩たちと共に仕事をしながら、学び続けるうちに原理原則・理屈を考えて仕事ができるようになってきた。すると大会の成績にも変化がありました。『前回はここがダメだったから、こう改善しよう』と、競技会の課題に対して理路整然と考えられるようになり、銅賞を獲得するなど良い結果が残せるようになったのです。絶対に追いつけないと思っていた先輩たちの背中が、少し見えた気がしたのもその頃でした」
一見、作業に関係がないように見えることでも疑問点があれば、すぐに人に尋ねる。その田辺の好奇心が、一歩一歩と成長を呼び込む。
「少しずつ知識が土台となって、全体が見えてくる。理屈を自分のものにして仕事に臨むと、精度が上がり、難しい仕事を任せてもらえるようになる。地道な積み重ねが技術者のスキルを向上させると実感しています。伊勢拠点は技術力が高い優秀な技術者が多く、こちらが興味を持って尋ねると何でも快く教えてくれます。技術者の一人として、ありがたい環境に身を置いているとしみじみと感じます」
見えないところから、見違える世界に変えていく
一方で、大会を振り返ると反省点もあったと田辺はいう。
「技能グランプリでは、自身のスキルと課題のギャップを客観的に捉え、技術的に足りない部分を見極めるところで、多くの先輩に助けていただきました。将来的に責任者や指導者といった立場になり、課題発見・解決に尽力するには、もっと経験を積まねばならないと改めて実感できた大会でした」
田辺は、自身が先輩たちに支えられてきたように、これからは技能グランプリを目指す後輩たちを支える存在にもなりたいと話す。大会出場を通じて、スキル向上だけでなく仕事への向き合い方そのものを見つめなおす機会になると感じるからだ。
「例えば技能グランプリでは精度以外にも仕上がりの美しさも評価されるので、常に面のきれいさなどにも気を配っていました。日常業務の金型は直接お客様に届く『商品』ではないですが、金型を通じてお客様とつながっているからこそ、金型をきちんと『商品』として扱い、細部まで納得するモノづくりにこだわって提供するという意識を持って仕事に臨んでいます。後輩たちにも自分の仕事を見つめなおすきっかけとして出場を目指してもらいたい」
技術者として、さらなるスキルアップを目指す田辺は、大会出場後の4月、新しい係に配属となった。これまで研削してきた金型部品、今度はこれらを組み上げ、仕上げる業務を担当している。金型全体の構造や仕組みを捉え、より幅広い知識が求められる仕事だ。
「現在の目標は、1歳年上の先輩です。金型の仕上げに10年携わり、海外拠点での新規ラインの立ち上げなども担っている方で、何とか追いつきたい一心で仕事をしています。現物を観察する、原理原則で考える、分からないことは聞く、こうした基本的な姿勢を徹底することが、海外での仕事など大きな仕事につながると思っています。常に学ぶ姿勢を忘れずに一流の技術者になりたい」
見えないところから見違える世界に変えていく──表には見えにくく、熟練の技が支える繊細な金型が、製品の品質やモノづくりの進化を支えている。田辺は愚直に技術を磨きながら、製造を支える仕事に向き合い続けている。そのひたむきな努力が次の若手技術者へと伝わり、互いに高め続けていく。
※ 記載内容は2026年8月時点のものです
