児童館の機能や役割を何も知らなかった10年前に直感で「絶対に児童館で働きたい!」
四国を代表する大河であり、徳島県北部を東西に流れる一級河川の吉野川。その南岸に位置する吉野川市鴨島町には、1964年(昭和39年)に設立され、県内で最も歴史が深い「吉野川市鴨島児童館」があります。
日々30~40人のこどもたちが集い、館内はにぎやかな声があふれています。乳幼児連れの保護者も多く、大学生からお年寄りまでさまざまな世代の地域の人たちも訪れ、交流する場所となっているところが、この児童館の大きな特徴です。
ここで児童厚生員として働き、キャリア10年目を迎える木村 友紀は、館長と共に運営を担う存在です。ほか5名のパートスタッフとあわせて計7名で、鴨島児童館から2.5キロほど離れた鴨島南児童館と、あわせて2館を運営しています。
木村は「この仕事が私の天職」と胸を張ります。でも、じつは児童館で働くまで、その機能や役割を知らなかったと振り返ります。
「私もこの地域で子育てをしましたが、以前はあまり地域への呼びかけをしていなかったようで鴨島児童館の存在は知っていたものの、自分のこどもを連れてあそびに行くことはありませんでした。2016年から館の運営母体が学校法人鴨島学園(認定こども園めぐみ幼稚園めぐみ保育園)に代わり、その1年後に私が入ったんです。
それから9年間でさまざまな取り組みをして、今は徳島新聞やケーブルテレビなどメディアでも取り上げられ、地元では名の知られる児童館になりました」
木村が子育て支援の世界へ入るきっかけは、保育士を経て、専業主婦として子育てをしているときに、地元の社会福祉協議会が運営する乳幼児親子の交流の場づくりを手伝ってほしい、と声をかけられたこと。
その後、乳幼児親子を支援する吉野川市子育て支援センターの立ち上げに関わっていたのですが、臨時職員という立場にあり、6年間働いて任期満了を迎える前に次の職場を探すことになりました。
「そのときになぜか『絶対に児童館がいい!』と思ったんです。児童館についての機能や役割の知識があったわけではなかったので、なぜそう思ったのかは自分でもわかりません。乳幼児支援に携わり、これまでの経験を活かして、もっと地域を巻き込んだ自由な活動ができるのでは!と直感で感じたのかもしれません。
それを周りに言い続けていたら、本当にご縁がつながり、2017年に鴨島児童館で働くことになりました」
やりたいことがなんでもできる場所。行事回数はなんと年間360回以上!
未知の世界である児童館に足を踏み入れた木村がすぐに実感したことは「児童館はやりたいことがなんでもできる」ということでした。
「たとえばママや赤ちゃんのケアをしてくれる人はいないかなと、児童館に来ている保護者や地域の人に相談すると、こんな人がいるよと紹介してくれて実現するんです。それができるのは当館が、地域の人たちが気軽に訪れるコミュニティのような場所になっているから。
児童館は一生付き合える場所で、0歳から18歳だけの施設ではありません。ここに来る地域の人たちが自分の特技を活かしていろいろなことをしてくれるんです」
地域の人たちの協力を得ることで、「木のように植えたらぶわーっと大きくなるイメージ」と木村が表現するように、アイデアの種が多くの人を巻き込み、育ち、実現していくのだそうです。
驚くのは、鴨島児童館はじつに年間360回以上も行事を実施していることです。
たとえば、2023年に実施した、こどもたちによる「手作り結婚式」。普段から関わりの深い市役所こども未来課職員の結婚式を、児童館のこどもたちが主導で企画し、実行しました。
「職員さんが館に来て、結婚するんですと教えてくれたんです。すると、近くにいたこどもたちが『お祝いしよう』と盛り上がって、そこにいた高校1年生の女の子がリーダーになり企画することになりました。
ただ、児童館の運営は行事をするような予算もなければ、こどもたちには運営の経験も当然なく、結婚式に出たことがない子も多数の状態でした」
どうしたらすてきな結婚式を開けるか――みんなで話し合う中で出たアイデアは「こどもカフェを開いてまず予算を集めよう」というものでした。木村を含む児童館スタッフにもカフェ運営の経験はない中で、「こどもたちがやりたいというならやってみよう」と、サポートすることを決めました。
飲食店の運営に不可欠な保健所の許可は、徳島を拠点とするNPOの眉山大学が協力するなど、ここでも地域の人たちに支えられ、こどもたちの思いは実現していきました。
「カフェ運営で集めた3万7千円と、地域の人が1万円を寄付してくれて、それをあわせて結婚式の費用にしました。
式に必要なものは、ケーキ屋で働いた経験がある人がウエディングケーキをつくり、ドレスは地域の方が『私のものがある』と提供してくれて、新郎のタキシードは、地元のケーブルテレビ局が提供者を探す番組をつくってくれて見つかりました。地域の協力があったからこそできたものでした」
こどもたちは結婚式のプログラムや会場のセッティング、お祝いの動画作成などを自分たちで考え、着々と準備を進めました。式の前日はこどもたちが児童館に泊まりこみ、最後まで良い式にするために誰もができることをやり切ったそうです。
式の当日。新郎新婦は大喜びで、結婚式は大盛況でした。さらに徳島新聞などメディアに取り上げられ、地域で話題になりました。
地域とこども・親子をつなげ、孤独にさせない。それが私たちの役割
「地域とこどもたち、親子をつなぐこと」。木村は自分たちの役割をそう定義しています。
児童館はこどもを見守ることや、元気で明るく過ごせるようにすることは大前提として、それ以上のことができるのが児童館の良いところだと笑顔で話します。
「当館では地域の人たちのほか、眉山大学などの団体と、そこを通して海外ボランティアもたくさん来てくれるんです。さらに日本全国の大学生も児童館に来て、学習やあそびをサポートしてくれていて、小さな児童館なのにたくさんの人が関わってくれる場所になっています」
とくに木村が力を入れているのは「保護者と地域をつなぐこと」です。
こども家庭庁が示す「こどもまんなか社会」の言葉の通り、中心にいるこどもを見守りながら、同時にそれを取り巻く保護者や地域も元気でなければ、中心にいるこどもは笑顔になれないと考えているからです。
「こどもも保護者もお互いが元気でいてほしいと願って支援しています。ママが育児中にしんどい思いをしたら、もう二度とこどもを産まないと思ってしまうでしょう。
今は少子化が進んで地域とのつながりが薄いから、孤独になって育児で悩みやすいですよね。こどもはみんなで育てるものだから、ママやパパが孤独な思いをしないように、とにかく早く児童館に出てきて、私たちがサポートするからと伝えています」
こどもにとって誰よりも大切な存在である保護者を孤立させず、児童館が支えになる。それにより親子が笑顔になれたら、2人目の出産を考えたり、この地域でずっと子育てをしたいと思ったりと、未来へと続いていくと木村は考えています。
「ママやパパだけでなく、高齢者の方や地域の方も同じです。児童館があることにより地域で孤立せずに、そこにみんなが集まって、つながりを感じながら平穏に生きられる世界をつくりたいんです。ここでしょっちゅう行事をすることで、いろいろな人が訪れやすくなる入口、きっかけになると思っています」
児童館は「未来をつくる仕事」 次の世代へバトンをつなぎたい
木村は「地域とこどもたち、親子をつなぐ」ために意識していることがあります。
「関わる人みんなが幸せになる場所、そういうイメージで私たちは仕事をしています。常にオープン、ウェルカムで、どんな人も来てくださいと言っています。
その結果、私たちと同じように、本当にこどものこと、地域のことを思ってくれる人が集まってきてくれます。だからこそおもしろい場所になっているのかな」
その思いは多くの人とともに紡がれ、地域の人達も児童館を活用しながら、町全体で楽しいことをつくりあげていく雰囲気ができていると木村は実感しています。
児童館、そして木村を含む職員が「地域と親子をつなぐ架け橋」になり、みんなが幸せになれるコミュニティをつくりあげていっている様子が言葉から伝わってきます。
一方で、木村は現在、その大切な場所が失われないかと危機感を抱いています。
「隣の市が児童館をすべて廃止したんです。吉野川市も1つなくなりました。私は児童館を地域に必須の存在だと思っているので、なくなったら本当に困ります。
さらに児童館を地域に根付かせるだけではなく、地域全体で児童館の必要性を、声を大にして訴えていくことが大切だと感じています」
児童館が必要と木村が感じるのは、こどもを育てるだけの施設ではなく、「未来をつくる場所」だと確信しているからです。
鴨島児童館で木村が初期に支援したこどもは現在、大学生になり、館を訪れてこどもたちの学習やあそびをサポートしてくれるようになりました。また、赤ちゃんを産むために地元に戻ってくる子もいます。
「この地域で育ったことを誇りにもって、郷土を愛する子を育てたいですね。そうすれば都会に出ても、また遊びにいきたい、何かあったときには戻りたいという気持ちになってくれるはずです。児童館が良い思い出がある場所にできると思っています」
今後は発信にも力を入れ、より多くの人へ、広いエリアへと、「児童館が地域に必要な場所で、大事な場所」と伝えていこうと考えています。
「私たちの仕事は未来をつくっていく仕事であり、次の世代にバトンを渡す仕事です。児童館の仕事が大変だと思ったことはありません。天職だと思います。私が思う児童館はこういう場所というものを本などなんらかの形でまとめて、ぜひバトンを渡していきたいです。こんなにおもしろい仕事はないですよ」
幸せのバトンをつなげ、こどもを中心とした地域の笑顔がよりいっそう輝き続けることを、木村は日々願い、行動を続けています。
※ 記載内容は2025年7月時点のものです
