振動工学から資源開発へ──未知の世界につながった出会い
現在は油層エンジニアという、地下にある油やガスの広がり方や動きを評価する少し特殊な専門性を持つ技術者として働いていますが、大学から修士課程までは機械工学を専攻し、振動工学研究室で振動抑制に関する研究に取り組んでいました。
振動は複雑な運動や相互作用、非線形性が絡み合う現象ですが、そうした複雑さから本質的な力学だけを抽出し、シンプルで扱いやすいモデルに落とし込むことで現象理解を深めるという研究室の方針に共感したことが、振動工学を選んだ理由です。複雑さの背後にある本質を見極める姿勢は、いまの技術的な分析や判断、議論の整理にもつながっていると感じています。
就職活動では、技術に軸足を置きつつ、学んだ機械系の知識を活かしながら海外で働けるフィールドを求めていました。多くの機械系専攻の同級生が自動車や重工系の業界を志望する中で、私は分野を限定せず、グローバルに展開する企業や日本の外で働く場を有している企業を中心に幅広い選択肢を検討していました。
その中で出会ったのが、大学構内に掲示されていた石油・ガス開発向け技術サービス会社の海外インターン募集ポスターです。1〜2か月間、海外事業所にて現地の研究員やエンジニアをサポートするという内容でした。「将来は海外と関わる仕事ができたら面白そうだ」というそれまでの漠然とした意識を一気に具体化させるもので、応募を決めました。
インターンでは米国ボストンに約1か月半滞在し、油井掘削のシミュレーションに携わりました。異分野である資源開発の現場で、機械工学で培った考え方や分析手法が通じる場面が多くあり、「自分のバックグラウンドを活かせるフィールドがここにもある」と実感した経験でした。この出来事をきっかけに、私は新卒で石油・ガス開発向け技術サービス会社に入社し、本格的に資源開発の世界へ踏み出すことになりました。
上流開発の世界へ──技術者としての視野が広がった時期
新卒で石油・ガス開発向け技術サービス会社に入社後、サウジアラビアの油田でのフィールドエンジニア業務や、日本での製品開発に携わりました。そのように油田サービス側の経験を積む中で、油田の開発・生産に主体的に関わりたい、という思いが次第に強まりました。そのためロンドンの大学院に進学し、Petroleum Engineering を学んで専門性を高め、油田開発の意思決定に技術者として向き合える環境を目指しました。
コスモエネルギー開発は、まさにそのような“上流の核心に技術者として関われる場”を持つ会社でした。海外の現場で主体的に働ける点が、キャリア入社の決め手となりました。
入社後の約4年半のうち大半は、UAEとカタールの国境付近に位置するエル・ブンドク油田の操業に従事しました。これがUAE・アブダビへの一度目の赴任でした。着任当初は、海上の現場でのデータ取得や作業監督など、フィールド寄りの業務を中心に担当し、その後は現場で得た情報をもとに地下挙動を評価する技術業務へと領域を広げました。専門講座や技術研修にも参加し、現場理解と技術力を着実に深めていきました。
その後、コスモエネルギー開発の企画管理部へと異動し、損益分析や予算策定、中期経営計画の立案など、事業全体を俯瞰する業務を約2年半にわたり担当しました。この異動は、それまでの技術バックグラウンドから大きく環境が変わる転換点でした。学生時代の研究や技術業務で培った「複雑な事象から本質を抽出し、シンプルな構造に整理する」思考法は、経営分析や他部署との調整でも有効でした。技術と企画の両面を経験したことで、自分の視野が一段と広がったと感じています。
技術を軸に多様な視点から最適解を探る──アブダビで向き合う現場の意思決定
2024年4月からアブダビに2度目の駐在となり、いまはアブダビ石油の開発部・油層グループで油層評価チームのリーダーを務めています。私たちのチームは、UAE・アブダビ沖にある4つの油田における原油の開発・生産を最適化し、投資採算性を重視しながら回収量を最大化することをミッションとしています。具体的には、油層評価や開発計画の策定、シミュレーションモデルの構築・更新、そして現地政府機関との技術的コミュニケーションなどをチームとして担当しています。
印象に残っている案件の一つが、当社が操業する油田での増産に向けた現地政府機関との交渉です。赴任当初、この油田では、現地政府機関から圧力挙動や生産性に対する懸念が示され、日ごとに生産してよい油の量に上限が設けられていました。一方で会社としては、適切にリスクを評価したうえで制約を解除し、増産につなげたいという課題がありました。
私たちは、対象の油層特性や生産・圧入・圧力挙動を整理し、シミュレーションによるケーススタディを通じて、増産時と非増産時の影響を比較することで増産時のリスクを定量的に評価しました。データに基づいて丁寧かつ効果的に説明を重ねた結果、懸念は徐々に解消され、最終的に増産が認められました。一つの技術的な評価が会社の収益を大きく左右する——その責任の重さとやりがいを強く感じた経験です。
一方で、現地政府機関には世界的に見ても高い専門性を持つ技術者が多く、議論の技術的レベルは高いものが求められます。私は異なる専門の出身、かつ企画管理など幅広い経験を積ませてもらってきた半面、油層技術そのものの深さだけで勝負すると、及ばない部分があると感じる場面もあります。そんなときこそ、チームの各メンバーの強みを活かした協働を重視しています。年齢や立場や国籍に関係なく協力し合い、個人で背負うのではなく、チームとして最適な判断ができるよう、議論を整理し、方向性を示すことがリーダーとしての役割だと考えています。
振り返ると、学生時代の機械工学から油層工学、さらに企画管理の経験へと領域が広がったことで、技術的な視点に加えて経営・事業の視点も身につきました。また、技術者としての考え方も変わってきていると思います。学生時代やキャリアの初期には、できるだけ正解に近い答えを導き出すことに重きを置いていましたが、資源開発の仕事では、不確実な要素が多く、100パーセント正しい答えを用意できる場面はほとんどありません。限られた情報の中で仮説を立て、仲間と議論しながら最適解を探り、意思決定につなげていく──その姿勢の重要性を改めて感じています。
不確実性の中で、対話と議論を重ねながら未来をつくる
現在、プレーヤーからリーダーへの転換点に立っています。短期的には、油層評価チームのリーダーとして、メンバーの業務進捗を適切に把握し、議論の方向性を整理しながら、チーム全体のアウトプットの質を高めていくことが目標です。これまで自分の業務に集中してきた経験を土台に、周囲を支えながら成果を出せる役割へとステップアップしたいと考えています。
さらに中長期的には、技術を軸にしつつ、事業や組織全体の背景も踏まえて判断し、その根拠を分かりやすく示しながら、周囲とともに物事を前へ進められる存在でありたいと考えています。
いま感じている課題は、専門性の深さと、リーダーとして求められる視野の広さをどう両立させるかという点です。細部を追いながらも全体像を見失わず、周囲の強みを引き出し、チームとして前に進むための整理役を果たしたいと考えています。
そのうえで、どんな方と働けたら心強いかというと、年上・年下に関わらず、疑問や違和感を率直に口にし、建設的に議論を進められる人です。
資源開発は不確実性と向き合う分野です。長い経験があっても「これが絶対に正しい」と言い切れる場面はほとんどありません。経験を重ねるほど、むしろ不確実性と直面する場面が増えていきます。だからこそ、「何が分かり、何が分かっていないのか」を明確にし、選択肢を共有し、仮説を立てて検証していくプロセスが欠かせません。そうした対話と試行錯誤を前向きに楽しめる人に、当社に加わっていただけたら嬉しいです。
私自身、最初からどんな仕事が向いているか分かっていたわけではありません。働く中で悩んだり、模索したりしながら、少しずつ自分の居場所を見つけてきました。分からないことを怖がらず、考えることを楽しめる人であれば、就職活動も、その先の仕事も、きっと良い方向に進んでいくと思います。

