多様な価値観との出会いが導いた、プラントエンジニアリングへの道
学生時代、私は常に「人と関わる環境に飛び込むこと」を大切にしてきました。その原点となったのが、アメリカへの語学留学です。この経験をきっかけに海外文化への興味・関心が一気に強まり、以降は学内で留学生チューターを担当したり、東南アジアやインドなどを一人旅したりと、能動的に異なる価値観の中に身を置くことを楽しんでいました。特に印象的だったのは、海外でのバックパック旅行です。気に入った国に定住してしまった人、友情を装ってお金をだまし取ろうとしてくる人、「愛と平和」を広めることが使命だと世界各国を旅し続けている人、出会ったばかりなのに家に招いてくれ、10人家族の輪に迎えてくれた現地の人――。実にさまざまな人と出会いました。当初は知らない世界や人に対して怖さを感じていましたが、次第にそれが「知らない世界を知る面白さ」へと変わっていったのです。
チーム活動にも注力していました。体育祭の応援団長、バスケットボールサークルの代表、学外の学生団体ではファッションショー参加チームの副リーダーを経験しました。これらの活動を通じて、文化や立場の異なる人同士が一つの目標に向かう過程そのものに面白さを感じるようになりました。
就職活動では、この経験を軸に「海外で多様な人と協働する仕事」を探していました。商社やメーカー、金融、人材業界など幅広く見ていましたが、特に心を惹かれたのがプラントエンジニアリング業界です。プラントエンジニアリングとは、石油・化学・エネルギーなどの巨大な工場を、世界各国でチームを組んで作り上げる仕事です。 目標のスケールが大きく、成果が形として残る点、そしてチームの多様性と規模感が、まさに自分が求めていた環境だと感じました。
最終的に入社を決めた理由は「人」でした。当時の採用担当の方が非常に情熱的で、面接や採用イベントのたびに電話で良かった点や改善点を丁寧にフィードバックしてくださいました。時には一度の電話で30分以上にわたり、私自身の考えや将来像についてじっくり耳を傾け、真剣にアドバイスしてくださったこともあります。まだ採用も決まっていない学生一人ひとりにここまで真摯に対応する姿勢に深く心を打たれました。先輩社員の方々との会話を通じても、この会社であれば一人の人間として向き合ってもらいながら仕事をし、成長していけると確信しました。入社後、その確信は間違っていなかったと日々実感しています。
人の数だけある「正解」、研修から現場へ
入社後は、まず全社的な新入社員研修からスタートしました。社内の各専門部門による基礎講義を受けながら、EPCプロジェクトを実行する際の設計やプロジェクトマネジメントについて、チームで取り組むシミュレーション形式の研修でした。全体研修を終えると、配属部署でより専門的な技術研修を受けることになります。全体を通して印象的だったのは、「チームで一つのプロジェクトを遂行する」という基礎動作を体験的に学べる内容だったことです。今振り返っても、忙しい業務の合間に実務担当の社員の方々が非常に手厚く関わってくださった研修だったと感じています。
初期配属はプロセス設計部でした。温度、圧力、流量、組成といった各パラメータのバランスを見ながらプラントの性能を決めるシステム設計、ならびに現場で実際にプラントを稼働させる試運転業務を担当しました。配属後まもなく、入社4か月で米国の現場へ派遣されることになりました。海外で働くことへの憧れから高揚感もありましたが、同時に現場の責任の重さに驚きも感じました。設計と現場最前線での業務に約4年間従事した後、プロジェクトマネジメント部門へ異動し、現在は工程、コスト、契約変更管理などプロジェクト全体を管理する立場を担っています。役割は「作る側」から「成功へ導く側」へと変化しました。
入社後に感じたギャップは、この仕事が想像以上に「人間関係の仕事」だということでした。技術ももちろん重要ですが、それ以上に人との関わりが成果を左右します。そのことを強く実感したのが、1年目の現場で経験した出来事です。大型ポンプを稼働させる試運転を前に、人員配置要領を確認する打ち合わせで、現地のスーパーバイザーと当社のスーパーバイザーの方針が対立し、数日間作業が止まってしまいました。よくよく両者の話を聞いてみると、それぞれの経験背景に基づいた、どちらも正しい主張をしていることが分かりました。正しい説明をすること以上に、相手が納得できる形で伝えることが、結果的にプロジェクトを前に進めることになるのだと学びました。技術的・表面的な判断だけでは物事は前に進まない――それを実感した出来事でした。
「正解」よりも「納得感」を。 1000億円プロジェクトに一気通貫で挑む日々
現在私は、プロジェクト統括本部のプロジェクト本部に所属しています。プロジェクトマネジメントの観点から、適切なリスク評価に基づく見積もり作成と、受注後の円滑な実行体制運用、そして完工までプロジェクトを導くことがミッションです。私は受注後のプロジェクト運営を担当するチームの一員として、プロジェクトコントロールマネージャーという役職で、プロジェクト全体のコスト・工程・契約変更管理を主に担っています。1日の多くは会議と資料作成です。各チームから工程やコストの情報を集め、全体スケジュールを更新し、問題が起きそうな部分を事前に調整します。トラブルが起きた日は、関係部署と電話や会議を重ねて解決策を決めていきます。
現在担当している案件は、工事は当社の所掌ではありませんが、完工までの推定総額は約1000億円、開始から完工まで約6年間に及ぶ大規模プロジェクトです。本案件では、見積もりから受注、実行まで一貫して関わり、立ち上げ段階で実行方針、予算、スケジュール、各種プロシージャーの整備を行いました。プラント建設国、原料から最終生成物までのプロセス、お客様との関係性、組織体制といった観点からリスクを洗い出し、優先順位を整理しながら社内協議を重ね、全体のコンセンサスを形成しました。現在、その方針に基づいて海外拠点を含めた多くのメンバーがプロジェクトを遂行していることに、大きなやりがいを感じています。
一方で難しさを感じるのは、立場や責任範囲の異なる関係者それぞれが合理的な主張を持つ中で、プロジェクトとして何を優先するのかを決めることです。例えばスケジュール策定では、上流工程と下流工程の双方が十分な作業期間を求める中で、最終納期を満たすための折り合いをつける必要があります。実際には10以上の社内関係部署に加え、お客様や社外パートナーの意向も踏まえる必要があり、全体が納得して進める計画を作るには苦労しました。
その際に重要だったのは、早期に結論を出すのではなく、各主張の背景を深掘りすることでした。抽象的な課題を具体的なプロセスに分解し、懸念の所在を特定したうえで関係部門と議論することで、解決策を見出しました。例えば、情報の送り手側の懸念が、受け手側の作業方法を調整することで解消できるケースもあります。多様な視点を尊重し、多角的に解決策を検討することを常に意識しています。
学生時代と比べて最も成長したと感じるのは、他者の意見を広く聞き、調整しながら前に進める力です。入社当初は、論理的に正しい判断を素早く出すことが仕事だと思っていました。しかし実際のプロジェクトでは、正しさだけでは物事は進まず、納得感のない決定は往々にして手戻りにつながることを実感しています。現在は結論を急がず、情報を収集し、判断の背景と許容するリスクを整理してから進めるようにしています。その結果、やり直しが減り、プロジェクト全体としてはむしろ早く進むと感じています。以前は「正解を出すこと」が仕事だと思っていましたが、今は「前に進む決め方をつくること」が仕事だと考えています。
方針判断ができるPMへ、そして地図に残るものを一緒に
直近の目標は、プロジェクトコントロールとして「情報を整理して選択肢を提示する」段階から、「方針を判断できる」段階へステップアップすることです。プロジェクトマネージャーの視点を身につけるため、現在はPMP(Project Management Professional)という国際資格の取得に向けて学習を進めています。判断に必要な情報整理の方法や、定量的なリスク分析ができるようになることを目標に、日々知識の習得に取り組んでいます。
中長期的には、プロジェクトマネージャーとして責任を持って方針を決め、海外でも活躍できる人材を目指しています。そのためには工程や契約だけでなく、技術背景の理解も不可欠だと考えています。技術を理解した上で判断や提案ができてこそ「分かっている人の意見」として受け止められ、信頼が得られると実感しているからです。海外で活躍するためには語学力だけでなく、根拠を持って判断し、合意形成する力が必要です。PMPの学習を通じて工程・コスト・リスクを定量的に捉える力を高めながら、異文化環境でのファシリテーション力と技術理解を磨き、任せられるPMになることを目指しています。
最後に、未来の後輩に伝えたいことがあります。この仕事は、決まった道筋をなぞるものではありません。想定外の事象に向き合いながら、文化も専門も立場も異なる人たちと、対話を重ねて一つのゴールを形にしていきます。ぶつかることも多く、思い通りにいかない場面も多いかもしれません。だからこそ、完成した瞬間の達成感は、自分一人では決して味わえないものです。また、自分たちが関わった設備から実際に製品が生まれ、人々の生活に使われる瞬間に立ち会えるのが、この仕事の醍醐味です。
私の趣味は登山ですが、この仕事にもどこか似た感覚があると感じています。登山では、頂上の景色だけでなく、そこへ至るまでの道中の苦労や試行錯誤そのものを楽しんでいます。この仕事も同じで、「正解を与えられる環境」ではなく、「正解をみんなで作っていく過程」を面白いと思える人と、一緒に働きたいです。変化を前向きに楽しめる人、知的好奇心を持ち、対話を大切にできる人に、ぜひ挑戦してほしいと思っています。少し大げさかもしれませんが、数年後、世界のどこかで地図に残るものを一緒に作りましょう。現場で会えるのを楽しみにしています。

