業績が伸び悩む会社の未来を任された、元トップセールスマン

データ活用を通じた企業支援を行う企業として、ウイングアーク1stが創業したのは、2004年。国内トップシェアを誇る製品を武器に、"帳票とBIのウイングアーク"として、安定した成長を続けてきました。
しかし2012年以降、CAGR(年平均成長率)1%の停滞期を迎えます。とくに営業部門の新規販売は右肩下がりに減少し、3年連続予算未達成。組織全体ではいちじるしいモチベーションの低下が見られ、会社の将来が見えずに退職する社員も多くいました。
のちに「暗黒時代」とも呼ばれる、この厳しい状況を打開するため、同社は営業改革に着手しました。困難な状況に挑んだのは元トップセールスとして活躍してきた、現営業・ソリューション本部の久我 温紀さん。「営業の見える化」を実現するため営業マネージャーとして取り組みに着手しました。久我さんは当時をこんな風に振り返ります。
久我さん 「『久我ならなんとかできるだろう』という前向きな抜擢ではなく、『ダメかもしれないけれどやらせてみよう』という感じだったと思います。それだけ会社は苦境に立たされていたということです」
会社の未来を決める営業改革。大きなプレッシャーを抱えながら、最初に久我さんが取り組んだのは、組織の文化を変えることでした。
久我さん 「なぜ営業が必要か?それは"企業の未来=トップラインをつくるため"です。トップラインがあるから、会社の計画的な投資を可能にし、自らの理念を実現すること、具体的にはお客様に価値ある製品やサービスをお届けすることができるのです。だからまず、私たち営業が会社の中でどういった役割を担っているか、それがどれだけ重要なことであるかを伝えていきました」
私たちのビジネスは、法人向け。個人向けであればマーケティングを駆使すれば勝つことも可能かもしれませんが、商談規模の大きいBtoB商材においては、お客様の懐に対面で入っていく、営業という存在が主流であり重要となります。
久我さん 「当時チームには、負け癖がついており『頑張っても予算達成は無理』という空気がありました。しかし、営業は企業のトップラインをつくるために存在する組織です。『できる・できない』ではなく『成し遂げる』マインドが必要であると営業部員の意識を、根底から変えていく必要がありました」
そこで、有志によりチームを結成し、社長も巻き込みつくり上げたミッションステートメント『The ORIGIN』は、営業組織の根底にある精神を明文化することで、大切にすべき価値観を組織に共有し、チーム全体の意識を向上することができました。
そして『The ORIGIN(ミッションステートメント)』は4つの行動指針を立てたのです。
「CONNECTED信頼(チームを変えろ、信頼で繋げ)」
「ACTION意識(行動を変えろ意識が変わる)」
「GROWTH挑戦(常識を超えろ、お客様に感動を)」
「WINNING意志(意志を持て勝ち続けろ)」
ムダな会議、報告書作成をなくし、データ駆動する組織づくりに挑戦

営業チームの意識を変える取り組みと並行して、久我さんは現状の分析にも取り組んでいきました。そこで驚きの事実が浮き彫りになります。
久我さん 「業務時間を分析したところ、活動のおよそ5%が数字の報告や集計・分析作業に充てられていることがわかりました。年間の実稼働実績が240日、1日あたりの営業活動時間を10時間とすると、一人あたり120時間にも相当し、60名の営業部隊では7,200時間にもなります」
一部の調査では、日本企業の営業職は活動時間の36%しか営業に使えていないという報告もあります。そこで、まず営業以外に使われている5%の時間を、より多くのお客様に訪問し、新規施策の立案、市場開拓などに充てる必要があると、久我さんは考えました。
また彼は、情報共有の仕方にも目をつけます。
久我さん 「当時、営業の数字はExcelでまとめられ、グループリーダーや部長を経て上層部に伝わるまでに1~2週間のタイムラグがありました。全員がリアルタイムかつ正確に数字を把握できないため、対策が遅れ、リカバリー不可能な状況に陥ることもあったのです。
営業自身も、自らの見込みとギャップを正確に把握していないことが多く、目の前の目標に集中できていませんでした」
「成果につながる活動以外に使われている時間を削減すること」「リアルタイムに数字を把握・共有すること」「営業自身が自らの現状と目標を正確に把握すること」この3つを実現するため、彼が着目したのが"データ"でした。
久我さん 「私が長年トップセールスだったのは、データをフル活用していたから。入社時からAccessを勉強して、自分で分析ツールや案件管理システムをつくっていた過去があります。トップセールスだった頃最も多くの案件を抱えていましたが、営業の中でも私の移動時間は圧倒的に短く、最も経費を使っていませんでした」
データは事実を把握し目標に集中させ、行動を効率化させるとともに、効果的に成果を生み出す武器になることを、身を以て経験していた久我さん。営業チームの現状をデータで可視化し、『データ駆動する組織づくり』に取り組みはじめます。
数字も、感情も、リアルタイムで共有することで生まれたチームの一体感

データ駆動する組織をつくるため、システムや数字管理の方法を一新させていきました。
まず、もともと導入されていたものの活用されていなかったCRM/SFAのデータ入力項目を再設計。入力項目を絞り込み、必須項目だけにすることで、営業の入力負荷を軽減。そして今では欠かす事のできない存在となった営業可視化システムを『MotionBoard Cloud』を利用して自分達の手でつくりあげていきました。
また部会や役員会で利用されていた、ExcelやPowerPointによる数字報告を完全廃止。ダッシュボードにすべての情報を集約し、効率化とリアルタイム化を目指しました。
さらに、これらを運用段階に持っていくため、CRM/SFAの登録方法や案件ランクの定義、データ入力の必要性、ダッシュボードの使い方、そして同社が目指す営業組織のあり方などを久我さんは繰り返し、営業チームに伝えていったのです。
久我さん 「データを活用すれば組織は強くなる仮説はありましたが、成果が出る確証はありません。データ入力や新たな文化の定着に営業部員の負荷がかかっていることも気づいていたので、自信をなくしそうなこともありました」
しかし、メンバーの意識と行動は変化し、努力が少しずつ実りはじめ、成果として表れていきます。
改革から4年がたった2016年度には、未達成だった全ての部門が予算を達成しました。年間の会議時間1,560時間、報告業務にかかる7,982時間の削減に成功。また営業職の退職者も0人(2016年度実績)になり人員が定着し、直近の2017年度上半期は前年対比150%と大きな成長を遂げました。
久我さん 「今では蓄積されたデータによって、これから数字がどのように推移するか予測ができるようになりました。当期の予算達成が見込めるようになり、翌期の見込みに対する予算設計に重きを置くオペレーションを実施しています。リアルタイムに情報共有ができることで、現状と未来を見据えた上で対策と判断に集中できるようになりました」
しかし、これだけに留まらず2017年からは、チャットボットを導入。予算進捗や見込状況をチャット経由で「ダッシュボード」にアクセスすると、瞬時にステータスが返ってくるしくみや数字の変化や停滞している案件を自動で営業にリマインドするしくみを構築しました。
リアルタイムに情報共有できることで、成果が上がるようになっただけではなく、チームとして一体感が出たことが大きな収穫だと久我さんは考えます。
久我さん 「どんどん数字が積み上がっていくのがリアルタイムでわかるので皆が状況を共有し、目標を達成した瞬間をチーム全員で分かち合えるんです」
ライブ中継のように各チームの仲間の動きをリアルタイムで共有できるようになったことで、期末の目標達成などは祭りのように盛り上がりました。
さらにこんな嬉しい効果もありました。
久我さん 「データが可視化されているので、たとえばチーム全体の見込みが減ったらすぐわかります。すると私が指示しなくても、『うちの案件で、補えるかもしれません』と主体的に動いてくれるようになりました。改革前は、目標を達成しなくてもいいんじゃないと思っていた組織が、です。その時は人も組織もここまで変われるのだと感動して涙が出ましたね」
苦節を乗り越え、データドリブンで目指したことは、一人ひとりを管理しコントロールすることではありません。「人を生かす」ためにデータを用い一人ひとりがチームの目指す目標を把握し、助け合いながら動く組織へ。データドリブンマネジメントが、私たちの会社で動き出した瞬間でした。
AIにとって変わることのできない、営業の醍醐味を追求したい

営業職は、『機械や人口知能によりなくなる職業ランキング』第4位というデータがあります。しかし、久我さんはそうは考えていません。
久我さん 「テクノロジーの進化で、私たちのようなBtoB領域の営業の仕事も部分的にはオートメーション化されるでしょうし、テクノロジーは産業に変革をもたらす大きな力であり徹底的に活用すべきと考えます。しかし人にしかできない領域は、確実に存在します」
ビジネスの世界においても日々変化が生まれています。教師データ(過去)をベースに学習するAIには限界があります。お客様のところへ訪問し、想定もしていなかったようなビジネス機会に出会ったり、チームでの何気ない会話から新たなアイデアを発見する。こうした創造性は人間の強みであり、大きくビジネスを飛躍させる原動力になると考えます。
久我さん 「以前の私たちがそうだったように、今も多くの営業は、根拠もないのに『(数字の達成は)大丈夫です!』と言い、マネージャーはその根拠のない言葉を鵜呑みにし、結果がでないと『この前、大丈夫って言ってたじゃないか!』と憤慨。その上、『営業成績を上げろ!』と根性論のような指示を出してしまっているのではないでしょうか。
仕事をする前提として情熱や努力は大前提です。ただしそれだけでは駄目。組織のパフォーマンスを高めるには現状を適確に把握し効率的・効果的なマネジメントが求められ、それにはデータやテクノロジーを最大限に活かすこと、人が持つ創造力を発揮して戦うことが営業に求められていくでしょう」
データドリブンマネジメントによって、同社は業務の効率化をはかり、残業を削減しながらも、売上目標を達成しつづけ、成長を継続する組織に変革しました。
同社は答えがない道を進まなければなりません。ですから失敗することもありますし、険しくもあります。ただし、同社が変わらなくても世界は変わります。その中で成長を遂げるために道を切り開くこと、つまりワークスタイルを変革し続けることが必要であり、それが世の中を変え、人々の生活を豊かにすることにつながるのではないかと考えています。
久我さん 「日々移り変わる世界、そこに生きる人達が感じていることもどんどん変わっていきます。同時に求められていることも日々変わっていく。それを最前線で感じることができる営業は、すごくおもしろい仕事ですよ」
営業は、楽しくて、誇らしい、そこに根性論だけでなくデータという科学的な手法を持ち込み、高い専門性を持つ集団にすることでさらに成長の可能性を感じている。久我のハツラツとした表情からは、心底仕事を愛していることが伝わってきます。
そして、そんな大人が増えることが、未来を担う若者の「働く希望」を見出すことにつながると信じています。
※本ストーリーは一般社団法人at Will Workが開催する、働く“ストーリー”を集める5年間限定のアワードプログラム「Work Story Award」を受賞した企業のストーリーです。