趣味が築いたキャリアの原点
やってみたいなと思ったら行動に移すタイプです。趣味のブレイクダンスは中学3年生から始めて、かれこれ20年以上続けてきました。ダンスで流れる多彩な楽曲にのめり込んだり、学生時代に自分の車でオーディオを交換したり調整したりしているうちに、「音に携わる仕事がしたい」と考えるようになりました。就職活動では音響機器メーカーを中心に面接に臨み、アルパイン技研(現:アルプスアルパイン)に入社しました。
音楽だけでなく、自然の中で過ごすことも好きです。素潜りでは全国各地の海に足を運び、魚や貝を採集してきました。
畑仕事を始めたのは、社会人になってからです。自宅近くの河川敷で農作業をしている方を見かけ、「自分もやってみたい」と声をかけたところ、一緒に作業をさせていただけることになりました。野菜づくりを教わる中で、野生動物による農作物被害の深刻さを知り、狩猟にも関心を持つようになりました。
地域の方々の暮らしを守るために、自分にも何かできないかと考え、狩猟免許の取得を決意しました。そこで、社員の挑戦を社内投票で選び、支援する「社員チャレンジ企画」に応募。投票の結果、免許取得に向けた支援を受けられることになり、本当に嬉しかったですね。
人とのつながりが導いた、サウンド設計部への異動
最初の配属では、約7年間にわたり、市販カーナビや自動車メーカー向け製品のソフトウェア開発に従事しました。複数の機種や仕様に対応する大規模な開発に携わり、担当者同士で連携しながら品質をつくり込む経験を重ねました。このときに身に付けたソフトウェアの知識や、関係者と協力して開発を進める力は、現在の仕事にも生きています。
しかし、充実した日々の中でも、「いつか音に関わる仕事がしたい」という想いは変わりませんでした。目の前のソフトウェア開発に全力で取り組みながら、機会が訪れたときに挑戦できるよう、音に関する知識を学んでいました。
そんな中、社内のダンスサークルで知り合った先輩から、「スピーカーの設計者を募集しているよ」と声をかけていただきました。これはまたとないチャンスだと思い、サウンド設計の業務に必要な、音の違いを聴き分ける力を確認する社内試験に挑戦しました。試験への合格後も異動への熱意を伝え続け、周囲の方々の後押しもあって、念願だったサウンド設計部への異動が実現しました。
趣味から生まれた新規事業の種
サウンド設計部では、市販スピーカーの設計や、自動車メーカー向けオーディオシステムの音質調整に携わってきました。中でも印象深いのが、ダンサーとして長年活動する中で感じていた課題を出発点に、自ら企画・提案したダンス用スピーカーの新規事業です。
ダンスの練習場所を確保するのは、簡単ではありません。スタジオは利用料がかかる一方、自宅は十分なスペースを確保しにくく、姿見があっても全身の動きを確認できないことがあります。屋外のガラスに自分の姿を映して練習する場合も、動画内の手本とガラスに映る自分の大きさが異なるため、動きを見比べにくいという課題がありました。
そこで考案したのが、動画の手本と自分の動きを、同じ大きさで見比べながら練習できるスピーカーです。凸面鏡を用いることで、鏡に映る自分の姿と、タブレットなどに表示した手本の大きさを合わせられるように設計しました。
また、本体の振動を利用して音を届ける技術を採用し、前面にスピーカーを配置しなくても、練習する人に向けて音を届けられる構造としました。音響面でも、ハイレゾ相当のスペックを盛り込んでいます。
長年ダンスを続けてきたからこそわかる不便を、サウンド設計で培った知識や技術によって解決できないかと考えたことが、挑戦のきっかけでした。当時は、ブレイキンのオリンピック競技採用やプロダンスリーグ創設に向けた動きが注目されていたこともあり、市場としての可能性も検討しながら企画を具体化していきました。
製品化に向けては試作を重ね、著名なダンサーの方に試作品を使っていただきながら、市場の反応を確かめました。また、事業計画や採算の試算など、設計業務だけでは経験してこなかった課題にも向き合いました。わからないことはそのままにせず、企画や事業推進など、それまで接点の少なかった方々にも自ら相談し、知見を借りながら一つずつ前に進めていきました。
最終的には、採算性を含めて事業として成立させるための条件を検討した結果、プロジェクトは量産手前で断念しました。この経験を通じて、アイデアを技術的に形にすることと、それを事業として成立させることは別であり、技術だけでなく、市場性や採算性など多くの視点が必要であることを学びました。企画や事業推進の方々と協働し、設計とは異なる視点や考え方に触れられたことも、その後の仕事につながる大きな財産になっています。
次の挑戦に向けて
現在は車載スピーカーの開発に加え、クルマに限らないさまざまなモビリティに向けたオーディオ開発にも携わっています。移動中の車内だけでなく、アウトドアやレジャーなど、モビリティが使われる多様な場面で音楽を楽しめる体験を提案する仕事です。
自動車メーカーなどのお客様と、車種や利用場面にふさわしい音のイメージを共有し、理想のサウンドをつくり上げていく過程に大きなやりがいを感じています。長年親しんできたダンスや音楽の経験は、どのような音が心地よく、どのような楽しみ方ができるのかを考えるうえで生きています。
振り返ると、自分の挑戦はいつも、人とのつながりによって広がってきました。ダンスサークルでの出会いがサウンド設計部への異動につながり、畑仕事も、自宅近くの河川敷で農作業をしていた方に自ら声をかけたことから始まりました。狩猟についても、経験のある方に教えを受けながら知識や技術を身に付けています。興味を持ったことにはまず飛び込み、わからないことは経験者に尋ねながら、自分なりに試行錯誤してみる。その積み重ねが、新しい仕事に向き合うときの姿勢にもつながっています。
ダンス用スピーカーの企画でも、設計の知識だけでは足りない部分を周囲の方々に相談しながら、試作や市場性の検討を進めました。新しいことを一人で完結させるのではなく、必要な知識を持つ人とつながり、それぞれの力を持ち寄って形にしていくことが、自分らしい仕事の進め方なのだと思います。
将来的には、マリン分野など、自身の趣味とも親和性の高い領域へ仕事の幅を広げていきたいです。これまでの経験と人とのつながりを生かしながら、音によって新しい楽しみ方や価値を生み出していきたいと考えています。やりたいことがあるなら、まず行動してみる。そして、どうすれば実現できるのかを考え続ける。これからもその姿勢を大切に、周囲の方々と力を合わせながら、新しい音の可能性を形にしていきたいです。
※記載内容は2026年7月時点のものです
