将来に活かせる学習環境、ZOHO University
南インドのチェンナイを拠点とするZOHO CorporationのCEOである、Sridhar Vembu(シュリダー・ベンブ)。彼は「大学で学んだことが現在の仕事や業務に本当に活かせているか?」という疑問を抱き、2004年にZOHO Universityを設立した。
ZOHO Universityでは、16歳から19歳くらいの学生が、数学、英語などの基礎科目からコンピューターサイエンス、プログラミングなどの専門知識まで幅広い学問を学んでいる。
近年では毎年1万人が入学を希望している。その選考基準は、学ぶことを通じて成長したいという「意欲」や「情熱」、「向上心」で、学歴は問われない。そして、選考過程を経て入学した120名程度の学生の多くは、卒業後にZOHO Corporationの正社員となる道が約束されている。現在では、社員の1割がZOHO Universityの卒業生である。
ZOHO Universityでは、反転教育を実施しているのが特徴的だ。
反転教育とは、映像を使った講義を自宅で集中して受け、学校では講義内容の確認や実践的な問題を解くというもので、この反転教育では学習効率を上げる効果が期待される。さらに、ZOHO Corporationで実際の業務を経験し、必要なスキルや技術を身に着けるOJT(On the Job Training)も導入されている。
こうした制度により、卒業後にZOHO Corporationの職場に適応しやすい環境が整えられているというのもZOHO Universityの特徴の1つだ。
ZOHO Universityの教員、Praveenが感じるインド教育環境の実態
ZOHO Universityの教師にはソフトウェアエンジニアの経験と知識のある人材が採用されている。
その中の1人がPraveen(プラヴィーン)。
彼はもともとZOHO Corporationのソフトウェアエンジニア。仕事にやりがいがを感じ、充実した日々を送っていた社員の1人であった。しかし、彼は、Sridhar VembuによるZOHO University設立に伴う人員募集の際、真っ先に名乗りを上げる。そこに迷いはなかった。
異動を決めたことに対する反対や批判の声もありながら、それでも彼はZOHO Universityの教員になった。
では、なぜエンジニアとは全く職種の異なる教員になることを選んだのか。
理由は彼の大学生時代にあった。当時、こんなことを思ったという。
「インドの教育は不十分だ」
大学ではエンジニアリングを専攻し、熱心な勉強家だったPraveenは、学問を通じて様々なことを知る過程で彼の専門分野において多くの疑問を持ったという。しかし、彼が通っていた大学の教師の知識は浅く、彼の疑問に応えられるだけの教養を持ってはいなかった。
その背景には、インドの教育環境の実態として、教師の地位が低いということがあった。教養がある人は教師にはならない。教師は女性がなる職業だといわれることも少なくないそうだ。
結果、彼の疑問は解消されず、Praveenの大学生活はどこか納得できないまま終わった。
そして、就職活動を経て、ZOHO Corporationに入社した。
当時を振り返り、こんなことを語る。
「ZOHO Corporationに入社して初めて学びを終えることができた」
この「学びを終えることができた」という表現がとても印象深い。
彼の抱える疑問に対する回答がすぐに返ってくる環境がZOHO Corporationにはあったという。
教育を充実させたいという想いと教師になる決断
ZOHO Corporationに入社しエンジニアになるまでの経験を通じて彼が抱いた野望、それは
「実践的に学べるチャンスを教育の場にも作りたい」
ということだった。
だから、彼はエンジニアから教師になる決断をしたのだった。
「このままエンジニアを続けたとしても、一人の成長したエンジニアが生まれるだけ。
しかし、ZOHO Universityの教師になれば、多くのエンジニアを社会に輩出できる」
という考えが彼の根底にあったのだという。
Praveenは、ZOHO Universityの教師であることにエンジニアとして働くこと以上のやりがいと可能性を感じ、経験と知識を活かしながらZOHO Universityで生徒の成長を見守り、支援している。
ZOHO Universityの『仕事を通じて学ぶというシステム』は学生の学習意欲を刺激し、
「教育を加速させる」
と、Praveenは語った。
「実践的に学べるチャンスを教育の場にも作りたい」という彼の野望はこうして形となって実現した。
ZOHO Universityで切り拓くインド教育の未来
ZOHO Universityには整った設備がある。そして、Praveenのように経験や知識を持ち、子供たちの可能性を信じる教師がそろっている。充実した環境のなかで育つZOHO Universityの学生は、学ぶ意欲にあふれ凄まじい成長を遂げている。
最初は英語力が低く、日常生活では*タミル語を使っていた学生も、卒業するまでにはZOHO Corporationの社員と英語でコミュニケーションを取れるほどに成長するという。
「エンジニアとしての知識をZOHO Universityの生徒に繋げる」
そんな想いをもった教師と、
「学ぶことを通じて成長したい」
という願う学生。
二つの力の掛け算でZOHO Universityは今後さらに”インドの教育を加速”させていくだろう。
*タミル語 南インドに住むタミル人の母語。