現場でスキルを保ちつつ、登壇OK・執筆OKのバランス型のテックリードを目指す

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私がエンジニアとしてのキャリアをスタートさせたのは、2000年の春のことです。数学専攻の大学院を卒業し、組み込み開発のエンジニアになりました。組み込み開発の分野で2社で経験を積んだころ、iPhoneが台頭し、私の興味はアプリ開発に移りました。その流れで、iOSアプリのエンジニアとして転職。経験を積んでから、アプリ開発2社目として、ゆめみにやってきました。

2023年2月現在は、iOSアプリ開発の分野でテックリードを務めています。テックリードと一口に言っても、仕事内容は人によってさまざまです。プロジェクトのレビューやサポートといった後方支援に回るテックリードが多いのですが、私の場合は少し違います。プロジェクトにがっつりと入り込み、後方支援というよりは、実際に手を動かすスタイルでやっていますね。

今担当している案件は、とある大手企業のカスタマー向けアプリの開発です。クライアント側のメンバーと当社のメンバーが一緒になって、計10名ほどでプロジェクトを進めています。テックリードとして大事にしているのは、技術力とサービス提供力のバランス。アプリの開発提案ばかりに注力して技術を磨かなければ、腕が鈍ってしまいます。その逆もしかりで、技術に集中しすぎると、いいサービスを提案するためのスキルが弱くなってしまう。どちらも、よくないと思うんです。新しいことに興味を持ちつつ、現場にもしっかり入りつつという両軸で活躍できると嬉しいですね。

ゆめみは、いわゆるマネージャー的な立場の人がいないので、自分で決めて行動するのが基本。個人的にすごく働きやすい会社だと感じています。「統率する人がいないとバラバラになりそう」と思うかもしれませんが、意外と組織としてまとまっているのが、おもしろいところ。みんなが主体的に動くことに慣れているので、積極的な雰囲気があります。エンジニアが、クライアントの担当者にあれこれ提案することもしばしば。「僕は別件でこんな経験をしてきたので、こんな開発ができるかもしれません」みたいに、自ら道筋を示していく文化がありますね。

開発業務以外で取り組んでいるのが、勉強会の開催や、本の執筆。これらの活動のほうが、テックリードらしいかもしれません。開発だけでなく、アウトプットもバランスよく行うことを大事にしています。

ブログや勉強会で、知識をアウトプット。自分の可能性が広がっていく

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私が執筆や登壇などを始めたのは、ひとつ前の会社にいたころです。もともとはアウトプットを全然しない人間だったのですが、あるとき「Macアプリとか、iOSアプリとかに関する勉強会があるから参加しませんか」と誘われて、行ってみたら意外におもしろくて。自分も勉強会に登壇して、外に向けて発信してみたいなと思うようになりました。

とはいえ、初めての登壇は緊張しましたね。社内勉強会で情報共有をしたことは何度かあったものの、社外に向けて発信するとなると、何を話すべきかわからなかったんです。どんな話をしたら役に立てるのかと、悩みました。

ただ、直近で経験したMacアプリ開発の話をしてみたら、好評だったんです。自分では「このくらい当たり前だし、みんな知っているだろう」「こんな話は大した話じゃない」などと思っていたんですが、伝えてみると、意外とそんなことはない。アウトプットに対するイメージが変わった瞬間でしたね。

みんながおもしろがってくれたおかげで、その後も登壇を続けるようになり、いろいろな人との交流も広がっていきました。もともと、まったく知らない相手に話しかけるということが性格上苦手なのですが、登壇したことで知らない人から話しかけてもらえるようになったことは、嬉しい変化でしたね(笑)。

それから、執筆もするようになりました。「勉強会と同じような内容をブログ記事にしたら、読んでくれる人がいるんじゃないか」と考え、「Qiita」に記事をアップするようになったんです。記事の場合は、成果物として残るのが良かったですね。今でも、10年ほど前の記事を見てくれる人がいます。「形に残しておけば、たくさんの人が参考にできるんだな」と感じています。誰かの学びの機会をつくれるのは、喜ばしいことですよね。

アウトプットをして何よりも変わったのは、キャリアが広がったこと。ゆめみに入社したのも、登壇したことで名前を知ってもらえて、カジュアル面談をしないかと声をかけていただいたことがきっかけでした。振り返ってみても、アウトプットをして良かったことばかりが浮かびます。

「本」という媒体に挑戦。苦労した分、得られた反響

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勉強会での登壇やブログといった活動を長らくしてきたのですが、その結果、今では本を作るようになっています。きっかけは、技術書の同人誌即売会である「技術書典」というイベントに参加したこと。もともと東京のイベントなので、遠方に住んでいる私は行けなかったのですが、コロナの関係でオンライン参加が可能になり、「ならばやってみるか」と挑戦してみました。

初めて本をつくってみた感想のひとつは「本って意外と難しいな」ということ。記事の執筆であれば、用意されたプラットフォームにテキストを打って投稿するだけですが、1冊の本として体裁を整えるのは結構大変な作業なんです。それに同人誌なので、執筆だけでなく、企画・編集も、印刷して配るのも、全部自分でやらなくてはなりません。考えることがたくさんありましたね。初めてのことで大変でしたが、実は本づくりの工程がソフトウェア開発の工程に似ていて、同じような考え方が通用すると気づきました。どうやってユーザーに届けよう。そのためにどんな仕様にしよう。そんな視点で本をつくっていきました。

本当に大変だったのですが、インターネットの記事以上にいろいろな人が読んでくれました。「宇佐見さんの本読みました」とみんなが言ってくれて、いろいろなフィードバックをくれるようになって、届けられたという実感がありましたね。まとまった知識を表向きに整理できたことで、いつの間にか認知度が上がり、そのテーマに詳しい人として知られるようになったことも嬉しい収穫でした。自分の宣伝になったというか、本をきっかけに、仕事上の相談も受けるようになったんです。 クライアントが本を見てくれて「宇佐見さんはこのジャンルに詳しそうだから……」というかたちで声をかけてくれたこともありました。

このようにメリットがとても多かったので、「ゆめみでも本を出そうよ」と社内で提案し、本づくりのプロジェクトも行いました。執筆者として5人、ほかにも、編集担当やイラスト担当、アドバイザーなどが集まり、締切に追われながらみんなでワイワイ作業をした結果、『ゆめみ大技林 '22』として書籍にすることができました。

チームで本を作るというのも、おもしろい経験でした。人が集まったことで内容が深まり、自分だけでは作れなかったような本を、形にすることができました。

「本の執筆で、ゆめみをリードしたい」若手も巻き込んだアウトプットを

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▲執筆に関わった本

本づくりのプロジェクトについては、現在、5月開催予定の技術書典14に向けて取り組みをスタートしています。執筆メンバーも増員しました。前回のチームメンバーはベテランの方が多かったので、2度目となる今回は、若いメンバーにもぜひ参加してもらえたらと思います。

若い方から話を聞いていて思うのは、アウトプットをしたい気持ちはあっても「自分にはまだ早い」「自分に書けることなんてない」とためらっている人が多いということです。アウトプットという行為に、ハードルを感じている人が多いという印象があります。でも、そんなに難しく考えなくて大丈夫。どんなに小さなことでもいいので、気軽にアウトプットしてみるという姿勢が大事だと思います。

たとえば私は、すでに世の中にある内容でも、書いてみることをおすすめしています。同じ内容でも、書く人によって自然にその人なりの個性がにじみ出るんです。世の中に、同じ内容のアウトプットがひとつしか存在しちゃいけない決まりなんてありませんから、気にせずどんどん書いてほしいですね。

アウトプットをすると、周りからの評価が変わります。アウトプットしているだけで「すごい人だ」って言ってもらえたりもします。周囲からいろいろなことを任されるようになったり、相談されるようになったり、評価が変化していくのを感じることができるはずです。期待してもらえることが、活力になりますよ。私が感じてきたアウトプットの魅力を、社内のいろいろな人に伝えながら、みんなで一緒に本を作っていけたらと思っています。

中長期的な目線で個人的に思い描いているのは、同人誌だけではなく、商業出版にも取り組んでみたいということ。もっと本格的なアウトプットをしてみたいと思うんです。ゆめみの中で私がリードできることのひとつが「本の執筆」だと思っているので、社内のメンバーを巻き込みながら、実績を積んでいけたら嬉しいですね。