ゆめみの“隙間”を埋める──それが自身の強みでありおもしろさでもある

「ナチュラルボーンファシリテーター」──見慣れない肩書きを名乗る戸田は、文字通り生まれながらのファシリテーターとして、さまざまな企業のWebサービス・アプリの立ち上げやリニューアルプロジェクトにおいて、中心的な役割を担ってきました。現在はサービスデザインやUX/UIデザインに携わり、エンドユーザーが心地よく使えるサービス・プロダクトを日々模索しています。

戸田 「案件によっては、ゼロベースで『どのようなサービスが必要か』の議論から関わるものもあるし、やりたいサービスがすでに決まっていて開発エンジニアリングのみが求められるものもある。

僕は前者のサービスデザインからをディレクター・プロデューサー・デザイナーと、状況に応じて役割を変えて担うのですが、前半だけだとつまらなくって……つい最後まで関わってしまいますね。自分が考えたものは、自分でつくりたいんだと思います」

生みの親にも、育ての親にもなりたい。そんな戸田が幅広い業務でプロフェッショナルであり続けるために、ずっと意識してきたことがあります。それが組織の“隙間“を埋めること。事実、総務・デザイナー・ライターなど、その時々で必要とされるポジションで変幻自在に自身を進化させてきたのです。

どんな役割にも自身をフィットさせられる理由は、ユニークな“経歴“にヒントがありました。

役者として飛び込んだ演劇界でオールラウンダーの醍醐味を知る

入社2年目(2004年)の若かりし戸田

実は戸田の前職は「役者」です。小学生のころに好きだった、役者とお笑いコンビのラジオ番組から役者に興味を持つように。ユニークな校風の中高一貫校に進学後、中学で意気投合した友人とお芝居を始めてさらにのめり込みます。そこで表現する力を磨き、高校在学中から本格的に演劇の世界に飛び込んだのです。

演劇の世界では、衣装・小道具の準備から告知用チラシやサイト制作など、役者自身が幅広い役割を担います。そこで身につけたのが、前項で触れた“隙間“を埋めるスキル。

「できる人がやる」が当たり前の文化だったのです。当時はまだインターネットが普及し始めたころでしたが、インターネットやモバイルへの可能性を実感したのも演劇がきっかけだと話します。

戸田 「若いころから役者を目指してきた僕が、インターネットの世界でのものづくりに触れたのも演劇がきっかけ。今でいうブログのような稽古場日誌やチケット予約システムを独学で勉強してつくったんです。

もともとテクノロジーにも関心があって家にMacもあったので……まさに『できる人がやる』状況がスキルやキャリアの土台を用意してくれた気がします」

演劇を続けて5年近くが経ったある日、戸田に転機が訪れます。尊敬していた先輩役者のひとりがゆめみでエンジニアとして働いており、Webデザインやモバイルサイト制作ができる人材として、戸田にアルバイトとして入社しないかと打診したのです。

戸田 「打診されたのは、ちょうど役者人生にも限界を感じていたころでした。圧倒的な才能だったり、努力を形にできる仲間たちが身近にいて、これは敵わないかもと。

ちょうどガラケーが伸び始めた時期でもあり、興味の軸が自然とITの世界に移ったというのも決め手になりました。入社直後はデザインや制作の仕事があまり多くなく、お茶くみ、電話番、大量にあった本の整理などいろいろ楽しみながらやっていましたね」

少しずつゆめみでもデザインの仕事が増え、半年後に社員となり、本格的にデザイン・制作業務に携わり始めました。2年ほどは役者と掛け持ちしながらの勤務でしたが、ゆめみの仕事がどんどんおもしろくなった戸田はついにゆめみ一本に絞ることを決断します。

おもしろくなった背景には、当時、破竹の勢いで進化し続けていたIT環境がありました。

試行錯誤しながら正解を見つける──仕事はまるで“宝探し”

キャリアの公式情報配信サービスのUI設計・開発は戸田にとってひときわ記憶に残る案件です。当時はまだ静的コンテンツが主流だったガラケーサービスにFlash Liteを採用し、よりインタラクティブな表現を可能にする開発となったのです。このように発展途上にあったインターネット業界で世界初・日本初にチャレンジできる案件に携わるうち、戸田の探究心がさらに刺激されました。

戸田 「当時は技術資料もない中、限られた予算と少ないメンバーで試行錯誤する日々でした。誰も正解がわからない中で正解を探し当てていくような……まるで“宝探し“ですよね。

体系化されていないからこそ、自分たちで正解をつくっていける楽しさも同時にありました。まだインターネットの世界にルールのない時期だったからこそ味わえたおもしろさですね」

すでにある答えを探すのではなく、何を見つけられるかわからない中でチャレンジし続けてきた経験は「自分の中にあえて尺度を持たない」という、戸田の現在の仕事の流儀につながっています。こうあらねばならない、という気持ちを排して常にフラットで新鮮な目線を持って案件に携わる姿勢が根付いているのです。

尺度を持たずにチャレンジし続ける一方で、良いサービス・プロダクトを生み出すためには自分のスタイル・スタンスをブレさせないことも大切です。

戸田 「どんな案件でも、少しでも多くの人が好きになってくれるサービス・プロダクトをつくること、それを少しでも多くの人にしっかりと届けていくことが僕の目指すゴールです。

受託開発は自分たちでは難しい規模・予算のものをつくれるメリットがある。だからこそ、クライアントの希望通りのものをつくって終わりではなく、対等にコミュニケーションを取ってお互いに納得感があるものづくりを実現することにはひときわこだわっています」

プロフェッショナルとしてクライアントと議論を深め、より良いものを模索していく──そんな“宝探し“のヒントになるのは、何より「人の心の動き」だと言います。

戸田はクライアントとエンドユーザーの心の動きを理解するために、マクドナルドのオフィシャルサイト開発時には、全メニューを制覇したこともありました。このような、自由に発想し自由に探求できるゆめみの環境は、彼の仕事への価値観や人生観にも少なからず影響を与えているようです。

役割ごとに自分を切り分けるのではなく、すべてを自分に内包する

デザインとは、人を観察し「どう動くか」を考えること。戸田が役者として、何者かを演じる際に意識してきた“自分“と”他者“の違いを観察する習慣が大いに生かされていますが、一方で他者との関わり方はゆめみでの16年間で大きく変わったと戸田は自己を顧みます。

戸田 「役者をやっていたときは、演じるために役柄と自分との違いを常に考えていました。他者や自分を“何者なのか“という視点で常に捉えていたんです。

でもね、徐々に考え方が大きく変わってきたんですよ。最初はサラリーマンとかデザイナーとか社長とか“何者なのか“を表す別々のラベルがあって、自分がそれを選んで演じるイメージだったんです。

けれども最近は、いろいろな役割がすでに自分の中にあり、一つひとつの顔は周りとつながるハブみたいなものなのかな、と思い始めました。父親として子どもやご近所さんとつながる。ディレクターとしてクライアントとつながる。ナチュラルボーンファシリテーターとしてプロジェクトメンバーとつながる──そんな感じです」

ゆめみには“ワークフルライフ“という考え方がありますが、自身の考え方にとてもフィットしていると戸田は強く感じています。芝居か仕事か、仕事とプライベートは10-0か5-5か、といった問題ではなく、すべてを自分の人生に内包しているという考え方。

「だからゆめみにはおもしろい人がたくさん集まってきている。16年も同じ会社に居続けられたのは、人のおもしろさに興味が尽きないことが大きいですね」と戸田は言います。

心を動かすこと、動かされることをこれからも楽しみ続けたいと語る戸田は、あえて大きな波に乗らずに前進することを理想としています。

戸田 「ゆめみは、なんか嗅覚が良いのにちょっとズレてるんです。僕が感じるゆめみの魅力ってまさにその部分。ちょうどいいズレ具合があるからこそ、20年間ITベンチャーとしてみんなで楽しく夢を追い続けてこられたんじゃないかな」

誰も見向きもしないような片隅で、気付かれていないおもしろいことを見つけたい──戸田の“宝探し“はこれからも続きます。