人生の道のりは好奇心と共に歩んできた──北海道から東京へ、そして米国へ
北海道の農場で生まれ育った加藤。幼少期は、恥ずかしがり屋で人前に出るのが苦手だった一方で、周囲からは好奇心旺盛だったと言われることもあると話します。
「北海道の農場ではさまざまなバックボーンを抱えたヒトと共に暮らす共同体で育ち、幼いころから家族以外のヒトたちと関わることが当たり前にあったので、誰にでもオープンな性格になったんだと思います」
そんな加藤が上京を決意したのは12歳のときのこと。先に進学した兄を追いかけるように親元を離れて、最高学部(大学部)まである一貫の学校へ入学しました。そこで問題なく学生生活を送る加藤に、大学3年生のタイミングで大きな転機が訪れます。
「自主的、自由にさまざまな経験を積むことで、それからの学びに活かすことを目的としている“ギャップイヤー制度”を利用することに決めたんです。大学生活を送っていく中で、“就職”に対して漠然とした不安がありました。社会人になるまでの準備期間として、自分のやりたいことを詰めこんだ期間を過ごしたかったんです」
1年間を3分割し、インターン、語学学校での英語学習、ニューヨーク滞在の目標ごとに向けて取り組んだ加藤。そこでは充実した時間を過ごしました。ギャップイヤーの修了後、就職活動を再開した加藤は思いがけない一言を口にします。
「1年間の生活を経て、自分の好きなことと向き合っても、何をこれからやりたいのか見つかりませんでした」
1年間では明確な就職活動の軸を見つけることができないまま、就職活動をスタートさせることとなりました。
迷いから始まる就職活動──多様性を尊重し、育った環境と似た企業がウェルカムだった
学生生活の制度を利用して1年間自分のやりたかったことを詰め込んだ年を過ごした加藤。仕事の軸が見つかると思っていた彼女でしたが、なかなかいいスタートは切り出せませんでした。
「自分の好きなことをしてみても、仕事にしたいと思うことは何なのか明確に答えを出すことができませんでした。ただ、就職活動を通して“自分が納得できる企業を探したい”ということは強く感じたんです。
生活に寄り添う事業を行っている企業を軸に、より多くの企業と出会おうと決めて50社以上の企業にエントリーするところからスタートさせました。母の影響で文房具が好きなこともありましたが、自分の部屋のインテリアを少し変えてみたり、空間をデザインしたりすることで自分の気持ちも動いているのに気がついて。もうひとつは飲食業界。自分の生まれ育った場所が農場だったこともあり、チーズを作っていたので食にも興味がありましたね」
そして2017年、たくさんの企業の中から、ウェルカムとの出会いを果たします。
「TODAY’S SPECIAL に立ち寄ったときのことです。お店に入ると、空間の力があって、とても居心地の良い場所でした。こんなにすてきな場所を作った会社はどこだろうと検索してみるとウェルカムがヒットしたんです。就職活動を通して、農場で作っているチーズを DEAN & DELUCA で扱っていると知ってつながりを感じました。大切に作っているモノに魅力を感じてくれているんだと、とても嬉しかったですね」
選考も順調に進んでいき、加藤は無事にウェルカムの内定を手に入れ入社を決意しました。
「エントリーしてからはウェルカムの魅力にどんどん惹き込まれていきました。1番の決め手は、私の育った環境に似ているなと感じたこと。自分の生まれ育った共働学舎も、11年通った自由学園という学校もウェルカムも共通して多様性を尊重してくれる場所だったんです。
選考に進んでいってもそれは変わらず、無理やり学生を型にはめるようなことはせず、自分らしくいられそうだなと思いました。ウェルカムのビジョンである『感性の共鳴』にも共感しましたし、展開している事業も自分の好きなこととマッチしたのでウェルカムで働くことを決めました」
50社以上の企業と出会い、ウェルカムで働くことを決めた加藤。キャリアの第一歩は、DEAN & DELUCA からのスタートとなりました。
食物販からレストランへ。コロナ禍を経て広げた自身のキャリア
2018年4月、新卒社員としてウェルカムへ入社をした加藤は、 DEAN & DELUCA 六本木店で最初のキャリアをスタートさせます。
「ウェルカムとの出会いは TODAY’S SPECIAL でしたが、選考を進めていくうちに自分の生まれ育った場所で作っている商品を扱っていて、グループの中でも店舗数の多い DEAN & DELUCA でまずは働いてみようと思いました。
食物販での業務は初めてでしたが、食のプロであるメンバーと一緒に働くことができ、中でも六本木店は東京の中でも大きい店舗なので、食への感度が高い方ばかりで勉強になることが多かったです。約1年間六本木店で働いた後は有楽町店へ異動することになりました」
DEAN & DELUCA で食の知識を順調に深めていっていた加藤でしたが、2年ほど働いたタイミングでウェルカムに新しいレストラン“Dongxi”がオープンすることが決まり、オープニングメンバーの社内公募の募集を目にします。
「大学生のころにアルバイトでバーテンダーをしていた経験から、『ヒトが集う場所をつくる』『飲食という目的を超えてヒトが集う場所』ということの素晴らしさを感じていました。2020年にMIYASHITA PARKのホテル内のレストランがオープンするということを聞いて、すぐに手を挙げることを決めました。
ホテルのレストランであれば国内国外問わずさまざまなお客様とよりたくさんお会いできるんじゃないか、そしてレストランのサービスであればさらにお客様と近い距離感でコミュニケーションが取れると思ったんです」
2020年5月ごろにレストラングループへ異動が決まりました。
「Dongxiのバー配属メンバーとして、バーカウンターの中の器具を揃えたり、メニュー表、オペレーションを考えたりと、8月のオープンに向けてできる準備を最大限進めていきました。コロナ渦中でのオープンとなり、ロックダウンや時短営業要請など、厳しい規制が続く日々で開店当初は思うように売り上げが伸びませんでしたが、2022年ごろから少しずつインバウンドのお客様にもお会いできる機会が増えていきましたね」
社内公募に手を挙げ、自ら掴み取った新しいキャリアを歩んでいた加藤。メンバーにも恵まれ、やりがいを感じながら働く彼女でしたが、次第にある想いが大きくなっていきます。
「いつか海外に行きたい、という想いは働く中でもずっと思っていました。新型コロナウイルス感染症が流行って、海外に行きにくくなり、ストレスもあったと思います。仕事自体はとても楽しくて、恵まれた環境だったのは間違いありません。ただ、海外での経験や生活も自分の価値観の源になっているのも本当で。
これからを考えると、ウェルカムで働き続けて待っているだけでは、誰も連れて行ってはくれないと思ったんです。会社に対して不満があったわけではありませんでしたが、ここで一度区切りをつけて海外に行こうと決め、当時の上長へ相談しました」
退職から海外赴任へ。2度目のキャリアチェンジで掴み取った海外への挑戦
加藤は2022年、ウェルカムを一度退職することを心に決めて、上長へ正直に自分の気持ちを話しました。そんな加藤の話を当時の上長の後藤(ARH/飲食事業部グループ長:後藤 順)は親身になって耳を傾けてくれたと言います。
「海外で仕事をしたいと思っていること、今のウェルカムに不満があってこの決断をしたわけではないこと。さまざまな話をしていくうちに、後藤さんから実は海外に店舗ができるという話を聞いたんです。『一度直接話をしてみない?』 とすすめられて、詳しく話を伺ってみることに決めました」
退職を決意した加藤でしたが、思いもよらない光が差し込みました。その後、当時の責任者から詳しく話を聞き、再度新たな場所でチャレンジすることを決意します。
「海外にデザイングループのCIBONEがオープンすると聞きました。しかも、自分が3カ月間滞在していたニューヨークに店舗がオープンするということだったんです。予想していなかった道が出てきて驚きましたね(笑)。
しかも同じ屋根の下に、私の尊敬している中村さん(Dongxi マネージャー:中村 勝義)の師匠のような存在のシェフがお店を出すという話を聞いて、強く運命を感じました。これは絶対に掴み取らないといけないと思いました」
間もなくして、CIBONE BROOKLYNのオープニングメンバーの募集が始まります。
「退職の話から、こんなことになるとは想像していませんでした。チャレンジすると心に決めてからは、CIBONEに足繁く通い、写真を撮って家でデザインの知識をひとつでも増やそうと思ったり、CIBONE BROOKLYNと同時にオープンするレストランの日本の店舗へ食事に行ったりもしました。今できることはなんでもやろうと思いましたね」
そして、加藤は2度目のキャリアチェンジでも、新しい道を自分の手で掴みました。オープンまでの準備をリモートで行うかたわら、CIBONEでも働きながらブルックリンのECサイトの立ち上げも行っています。
新たなミッションを手に入れた加藤。そんな加藤には大切にしている価値観があります。
「ヒトとの関わりをいちばん大切にしています。育った農場も、学生生活も、ウェルカムグループで、DEAN & DELUCAグループ 、ARHグループ、デザイングループと横断してチャレンジができる環境があることも、すべては出会ってきたヒトがあったから今の私がいます。
CIBONE というブランドもプロダクトの向こうに作家さんの存在があります。今、この瞬間の出来事も終わりではなく、何かの過程で流れの中にあることを忘れずにヒトと接するよう心がけています」
現地の方たちの生活に、日本の作り手さんたちのプロダクトを届けていくということに挑戦していきたいと話す加藤は、今後のビジョンを次のように続けます。
「これからブルックリンのお店に出勤し、現地のメンバー、現地のお客様と直接関わっていくことをとても楽しみにしています。そして、CIBONEというブランドをアメリカに根付かせていきたいですね。
キャリアの肩書きにあまり目標はありません。ただ、プライベートと仕事を区切らずに仕事を超えた気持ちを持って働き続けられるヒトでありたいと思います。今は、CIBONEで扱っている商品を必死で覚えてお客様に伝えている段階です。販売員として説明するだけではなく、自分が作家さん一人ひとりと本気で向き合って販売員を超えたヒトになりたい。生活と仕事を分けて考えるのではなく、それぞれの延長線上に自分の人生があるような感じです」
現在の自分の居場所と、これからの自分の理想像を定期的に照らし合わせ自分を振り返り、キャリアを切り開いてきた加藤。ウェルカムというひとつの企業で多様なキャリアを築き上げている加藤のストーリーは、他のメンバーに大きく影響して共鳴していくことでしょう。今後の彼女のチャレンジから目が離せません。
※ 記載内容は2023年6月時点のものです