きっかけは母の料理。家族の「おいしい」から料理人の世界へ

article image 1
▲小布施出張の際メンバーとの一枚

DEAN & DELUCAで商品開発の担当などを務めている秋山 直宏。彼のキャリアのスタートは料理の世界ではよくあることだったと語ります。

秋山 「私が幼いころから、母が大学構内の学食や、お弁当屋さんで働いていました。家でも料理をつくるのが好きで、親戚に料理を振舞うこともありました。楽しそうに台所に立つ母をよく目にしていたこともあって、自分も当たり前のように興味を持ち始めたんです。

料理人を目指すようになるきっかけはほとんどみんな同じだと私は思っています。その時傍にいたひとの『おいしい』の笑顔から、それを仕事にしたいと考え始めるんじゃないですかね」

台所に立つ母の姿を見て、料理に目覚めた秋山。彼も学生時代から様々な料理をつくっては、家族や友人に振舞います。そして調理の専門学校ではフレンチの道に進みますが、選択した理由は意外なものでした。

秋山 「和食は幼いころから親しみもあって、自分でもよく作ることもありましたし、母もよく作ってくれていました。専門学校に進む際、製菓・フレンチ・和食で迷っていましたが製菓は自分の選択肢になく、和食は幼い時から触れていたことと、自分が左利きだったことからフレンチを学ぶことに決めたんです(笑)。

フレンチの世界は厳格なルールがなく、また自分の知らないジャンルだったので、一から勉強してみようと決めました。毎日毎日新しい発見の連続で、いつしか自分も社会に出たらフランスへ修行に行き、独立することが目標になっていました。夢を持ってからの学生生活はさらに楽しかったです」

専門学校で一年間フレンチと向き合った秋山はその後、フレンチレストランなどを運営する企業への就職を決めてキャリアをスタートさせます。

秋山 「様々なお店を見て就職を決めましたが、そこは今のDEAN&DELUCAのように、従業員がサービスやキッチンを分けず全員が交代で業務を変わるお店でした。サービスの知識もキッチンの経験も手に入るそのレストランはとても刺激的で、お店の雰囲気もカジュアルで活気のある場所だったので、いつもお客様が大勢いらっしゃっていました。

自分も店頭でお客様に提供したことがあるお料理を、キッチンに立つ日は作る。そしてその逆もあるので、お客様から料理の質問をされても問題なく答えられるようになりますし、ワインなどのドリンクの知識も身につけることが出来ました。

毎日が新鮮であっという間でしたが、学生時代の先生に『料理の世界では3年ごとくらいでお店を変えながら一人前になっていく』と教えられていたので、自分もどんなにその場所の居心地が良くても、道を極めていく為に違う雰囲気を勉強しようと考えて、2つ目のレストランへの転職を決意しました」

全員でお店全体をつくり上げていくカジュアルなレストランから、次に秋山が選択したのは、特別な日に利用するようなレストランです。そこは産直食材を使用し、素材にこだわりを持った場所で、彼にとって新しい挑戦となりました。

秋山 「一店舗目とは雰囲気も、もちろん料理に対するこだわりも違う場所を選びました。レストランの大きさも規模を小さくし、より専門的なことも学んでいきたいと思ったんです。

大抵、レストランにはオーナー兼シェフが居て、自分の素晴らしいと思うものを形にして提供したいと志す人が沢山います。ただ、そういう環境では働く側がとても窮屈に感じることもあるんです。私がそこのレストランで働いていたときも、オーナーシェフに気を遣ったり、一緒に経営しているシェフの家族の顔色を窺ったりと、なかなか気が抜けませんでした。

料理は厳しい世界という人も沢山いるかと思いますが、私はその時に実感しましたね。生産者様との距離が近く、素材にこだわりをもち、お客様が喜ぶ料理をつくるというゴールは変わらないはずなのに、プロセスが今まで経験してきたことと全く違い、フランス料理に少し疲れてしまっていました」

本当の意味での転職は今が初めて。レストランでの経験は料理人に必要なこと

article image 2
▲福岡店にて調理中

いくつかのレストランでの経験を積み、着々と料理人でのスキルを手に入れていく秋山。

様々な出来事から少し疲れてしまった彼は、今まで作ってきた繋がりをきっかけに、知人のレストランでシェフを務めることになります。

秋山 「いろいろな場所で働いてきて、感じたことや思ったことが沢山ありました。自分の作るお店は仲間やお客さま、生産者様とも距離の近いものにしたいなあ、とかいったことです。

そんなことを考えているときに、知り合いから『シェフとして働いてくれないか』とオファーがありました。マニアックな食材を扱っている場所だったので、それはまた新鮮で、小さなお店だったことからお客様との距離も近く、料理の楽しさを思い出しました。

そこでは常連様がお店でイベントを開催することもあったんです。ある日、“ワイン会”を主催した方が当時DEAN & DELUCAで働いていたメンバーでした。私はシェフとしてそのワインに合う料理を組み立てていたんですが、お店の話をイキイキとするメンバーを見て、『そんなところがあるんだ』と興味を持ち始めました。

そこから休みの日に六本木店や品川店を見に行って、自分が働くかどうかは一旦置いておいて、『楽しそうだな、面白そうだな』と感じたのを覚えています」

常連様が開いたワイン会をきっかけに、DEAN & DELUCAと出会った秋山。

しばらくして、それまで働いていたレストランが契約の関係で閉店することが決まります。そこで彼は、自分の心が動かされた中食への道へと歩みはじめるのです。

秋山 「そのレストランが閉店することになった後、独立することも考えました。しかし、DEAN & DELUCAを見て自分は幅広く“食”に関わることをしたいと思いましたし、フレンチからもっと視野を広げて様々な観点から“食”を考えたいと思ったんです。

ずっとフレンチの料理人をしてきましたが、自分はどうしてもそれがやりたくてやってきたというより、たまたまフレンチを選択して、そこから経験を積んできたんだという認識でした」

秋山が一度立ち止まって自分のキャリアを見つめなおしたとき、出てきた答えが、DEAN & DELUCAで働くことでした。

秋山 「その時、初めて“転職”を決意しました。今までは、レストランからレストランへ移っていて、世間的に言えばそれも“転職”ですが、あくまでも一人前の料理人として知識や経験を積んでいく為に働く場所が変わった、というイメージです。

しかしDEAN & DELUCAに入るときは、自分の料理の“技術”を極めていく、というよりもそこで働くメンバーと一緒にレベルアップし、今まで培ってきたものを伝えていきたいと思ったので、本当の意味での“転職”だと感じたのを覚えています」

経営陣や当時の料理長のルーツを聞いて自分との共通点を見つけた彼は、アルバイトでの入社でしたが、3か月目でシェフに抜擢され、その後も店舗の立ち上げやエリアシェフを務めるなどマネジメント能力も評価されていきます。

秋山 「最初は中食業界に抵抗感もあったんですが、今思うとその世界を知らなかっただけでしたね。どこで働くか、よりも自分がどんな気持ちで、何をするかの方が大切なんだと気が付きました」

働き方が変化していく中で、自分も変化させていく

article image 3
▲2017年、当時のメンバーたちと

秋山は現在に至るまで、シェフの教育や育成文化を築いています。また、ブランド企画室の商品開発シェフ統括として、企画や毎月のイベント、外部と連携したプロジェクトの橋渡し役としても活躍しています。ブランド企画室の雰囲気を彼はこのように語ります。

秋山 「昨今の状況もあり、同じ部署のメンバーが一か所に集まることはほとんどありません。しかし、もともとDEAN&DELUCAで一緒に働いてきたメンバーばかりなので、プロセスこそ異なりますが“仲間やお客様に笑顔になってほしい”というゴールは同じです。それぞれの得意分野を極めていける環境ですね」

最前線で店舗に立つ立場からマネジメントや新商品の開発に注力している秋山。現在のポジションで働いていく上で、変わってきた価値観や昔から大切にしている考え方があります。

秋山 「昔から変わってきた考え方は、どんな立場になっても自分のスキルを磨いて、学んで、身に着けていく、上昇志向です。いま、この場所で自分はどんなことができるだろう、周りのメンバーは何を求めているだろう、といったことを考え続けるようにしています。その場の忙しさに忘れてしまいそうになることもありますが、その時は少し立ち止まって振り返るようにしています。

お店にいるときから、今でも変わらないことは、お客様や一緒に働くメンバーを一番に考えることです。時に、自分がやりたいことと自分に求められていることが違う場合もありますが、まずはお客様とメンバーのことを考えて行動していくことを大切にしています」

この価値観にたどり着くまでには成功ばかりではありませんでした。現在はDEAN & DELUCAで働くキッチンメンバーと共に歩み、同ブランドの新しい商品を生み出して働いていく中でのやりがいをつくることも目標にする秋山ですが、難しさを感じた経験もありました。

秋山 「ある店舗をオープンさせる前のことです。キッチンを立ち上げて、そこで提供するメニューを考える仕事があったのですが、新しいものを生み出し続けるのは難しかったですね。お店の規模も考えると自分一人ですべてを行うことは難しかったので、その場にいる他のメンバーと全員で協力していかなければならなかったのに、自分のことだけでいっぱいいっぱいになっていたんです。

周りにいるメンバーの事をしっかりと見ることが出来なかったので助けを求められなかったり、仲間の悩みに寄り添えなかったために退職する人を出してしまったりして、ハッと冷静になりました。自分の周りには沢山仲間や、慕ってくれている人がいるんだと気づいて、この人たちのことを悲しませてはいけないと思い、やりがいのある体制をつくっていきたいと強く感じました」

自分が落ち込んだこともあるからこそ、寄り添うことが出来るようになったという秋山。店舗で働くのは自分一人ではなく、たくさんの仲間がいることに改めて気が付けたからこそ現在があると語ります。そんな秋山には新しい夢もありました。

「料理人」の枠でブレーキをかけない。リミッターを外して新しいキャリアを

article image 4
▲現在の秋山

2021年7月から商品企画シェフとして活躍している秋山。将来自分がどんな存在でありたいか、その姿を語ります。 

秋山 「何年たっても偉そうな人にはなりたくないと思っています。今いるメンバーとも、未来のメンバー候補の方々とも距離を離さず、料理をつくる人たちに「おいしい」を近くで見れるってやっぱり楽しいなと感じてほしい。そして、ロールモデルのような存在を輩出して『頑張ったらこんなことが出来るんだ』と思ってもらいたいです。

料理人の中にはキャリアのゴールを“独立して自分のお店を持つこと”に置く人が多くいます。でも、本人が気付いていないだけでそれぞれのゴールがあるんです。例えばですが、実績をしっかり出してきたメンバーには外部企業のコンサルや、料理教室を開いてもらったり、フードコーディネーターや料理研究家も増えているのでそんな人材になり得る人を発掘したり。

ウェルカムだからこそできる、多様な料理人の姿をつくっていけるように働きかけていきたいと考えています。一人ひとりがキラキラ輝けるようなステージを用意したいですね」

 そんな秋山は現在、採用候補者の面接官として未来のメンバーと話す時間もあります。

秋山 「仕事をする上では、長く勤めていないとわからないことも沢山あると思いますが、でも、必ずしもそうでなければならないとは思っていません。私は学生時代に『3年勤めて一通りを経験したら次を探して一人前の料理人になっていく』ということも言われてきました。なので、自分の夢を持っていたりやりたいことがあったりする人をとても魅力的に感じます。

そういう人であれば、『ウェルカムだったらこんなことできるよね』と提案できるかなと考えられますし、たとえ退職してしまうことになってしまったとしても、その人が夢を実現するうちの何年間かにウェルカムを経験したことが嬉しいですし、その人自身も大きく成長できると思います」

料理人一筋の道から、マネジメント、そして新メニュー開発の道へと進んだ秋山。その料理をみて、口にしたお客様や仲間が笑顔になるようなものをつくり続けていきます。