「道太郎が働けるようになるなんて」──母の涙で決意した社会人への道

▲京都店のイベントにてキッチンに立つ吉川

2021年9月現在、DEAN & DELUCAにて西日本エリアシェフを務める吉川 道太郎。彼のキャリアの原点は、学生時代の自身の経験にありました。

吉川 「自慢できることなんてないですよ。学生時代はやんちゃしていました。家に帰らなかったり、学校にも行かなかったり。ただ、その頃から友人に食べてもらうために、レシピを見て料理やお菓子を作ることは好きだったんです。

今思えば、小学生の頃不動産広告の間取りや完成図を見て『こんなにかっこいいものがあるんだ』と感じたこともあるくらいなので、細かい作業が小さい時から好きだったんです。

物件の設計図なんかは、数ミリ単位でミスが許されない世界です。料理でも、お菓子作りがたった数グラムの差で失敗してしまうことはよくあるじゃないですか。でも私はそれがあまり苦ではなく、“面白い”と感じられる人間でした。コツコツ何かを作り上げて、自分の力にできていることに喜びを感じていたのだと思います」

建築と料理。一見全く違う世界に見えますが、吉川はその繊細さに共通点を感じていました。

そして、「誰かが喜ぶものをかたちにしたい」と考えた吉川は、よりお客様の近くでそれを体感できる料理の道を歩むことを決断します。

吉川 「高校を卒業するときもあまり家には帰っておらず、家族には特に相談することなく調理の専門へ進むことを決めました。家族と仲が悪かったわけではなく、『道太郎が決めたことならやってみなさい』と応援してくれるような両親だったんです。

一年間、京都の調理師専門学校へ通って就職もギリギリではありましたが、ホテルに一箇所だけ応募して内定を頂くことが出来ました。卒業前の1月半ば頃やっと決まったので内心ひやひやしていましたが、心のどこかで“人生なんとかなるやろ”と思っていた自分もいます」

大手ホテルの料理人としてキャリアをスタートすることが決まった吉川。就職前に実家に帰り、両親へ報告をしたことが一つ目の人生のターニングポイントでした。

吉川 「就職前まで、全然実家に顔を出していませんでしたから、社会人になったらより忙しくなると思い、両親へ会いに実家に帰ったんです。その時『あんたが働けるようになるなんて』と母が涙するのを見て、背筋が伸びました。いつも黙って応援してくれていると思っていましたが、心配を掛けていたんだと実感し、真面目に仕事をして恩返ししていこうと決意しました」

“かたちにできる楽しさ”──料理の魅力にのめり込む毎日

▲ホテル勤務時代の吉川

大手ホテルへ就職が決まり、料理人としてのキャリアを築き始めた吉川。1組あたり2、3名のお客様へ料理を提供するレストランや、1組50~100名のコースやビュッフェを担当する宴会場のチーフを務めるなど、様々な経験を積んでいきます。

吉川 「仕事が始まってからはとても充実した毎日でした。最初の配属になったレストランでは、自分が行わなければならない仕事が毎日多々ありましたが、先輩方の姿を見て、できないことが少しずつできるようになっていく実感がありました。

休みの日には、有名シェフの講習会に自ら訪れて勉強していました。何度も何度も通っていたのと、私の名前が珍しいのですぐに覚えられ“講習会荒らし”とも呼ばれていましたよ(笑)。仕事の日も休みの日も料理の事ばかりで、毎日忙しくはしていましたが“辞めたい”と感じたことはありません。本当に私にとっての天職なんだろうなと思います」

料理に対して真摯に向き合い続けてきた吉川。母からの言葉を思い出しては気を引き締め、また自分の知りたいことにはとことん追求し、様々なポジションにチャレンジしてきました。

吉川 「ホテルで色々なことに挑戦した後、ブライダル業界にも転職しました。主に披露宴でサーブする料理を作るのですが、使う食材のランクがより高級なものに変わりましたし、未経験のことばかりだったので楽しかったです。違う環境での新しいことへのチャレンジは新鮮でした」

当時の吉川の夢は経験を積み、独立して自分で飲食店を開くこと。ただ、「ブライダル業界ではそれを考えることが難しい」とも感じていました。

吉川 「気軽に足を運びやすい飲食店を開きたかったんです。披露宴のコース料理のような特別な日にしか来られないお店ではなく、もっと距離が近いお店を出したいと考えていたので、しっかり地に足をつけて勉強し直そうと思っていました。仕事が休みの日には知り合いのレストランで働いたり、一緒に働いてきた仲間と食材や料理の勉強会をしたりすることもありました」

夢を抱きつつ、再度自分の将来を見つめなおした吉川。そこで出会ったのが、2014年にウェルカムが京都に1年間の期間限定でOPENすることになった、カフェ&レストラン「DEAN & DELUCA KYOTO」です。

吉川 「ブライダルで働いていた時に、東京に一年間転勤していたんですが、その際に『DEAN & DELUCA 品川店』をよく利用していました。仕事用の手土産や、今でもプライベートで使用しているシロップはDEAN & DELUCAのものなんです。実は自分もファンの一人だったんです(笑)。将来の自分を考えているタイミングで京都の求人があったので、ここだと直感し応募しました」

外食から中食へ。やりがいも、感動も、難しさも、何もかも新しかった

▲入社当時、DEAN&DELUCA京都店レストランメンバーと

DEAN & DELUCAのカフェ&レストランで新しいキャリアを踏み出した吉川ですが、半年ほどで「DEAN & DELUCA 福岡店」への異動が決定します。

吉川 「福岡店がオープンするタイミングで異動の話を頂きました。DEAN & DELUCAで働くようになってからも毎日が新鮮で、ずっとまず“やってみる”の精神を持っていましたし、今まで料理一筋でやってきた成果を出すチャンスだと思ったので、挑戦することに決めました」

こうして吉川はDEAN & DELUCA 福岡店に移ったものの、そこでは外食で培ってきた当たり前が通用しなくなることも実感しました。

吉川 「周りに仲間がいたのに、今までの経験や自信から独力で仕事をすることに慣れてしまい、仲間に頼ることや後輩に仕事を任せることが苦手でした。また、そうなると、思っていたような成果が出ないということに気が付いたのもこの時でした。チームで仕事をすると一人でする何十倍もの成果が出るんです」

一緒に働いているメンバーの大切さに改めて気が付いた吉川。現在では、仲間と共に楽しく充実した日々を送っているといいます。

吉川 「朝早くからキッチンにいる仲間と料理をつくり、開店前にお店のショーケースに並べていきます。ディスプレイのように、色の組み合わせや配置も工夫して。すべて並べた後に一度自分たちで確認するんですが、その朝イチの感動は何事にも代えがたいですよ。自分一人でこの量の調理は難しいですし、仲間と一緒に作り上げたものが素敵に並ぶ瞬間は、外食の仕事では味わえない瞬間だと思います。

また、毎日日替わりでスペシャルメニューを提供していた時期があって。大体同じ時間帯に出していたんですが、常連のお客様がレジに並んでいたのに、わざわざショーケース前に来てくださって『待ってたよ、今日のスペシャルはなに?』と値札を書く前に購入してくださいました。“自分の作った料理を信頼してくれている”ということが実感できた、忘れられない瞬間です」

吉川は、今までいろいろな場所で働いてきた中で、この福岡での仕事が人として一番成長できたと語ります。

吉川 「失敗もたくさんしてきましたが、今は自分の味わってきた成功体験をシェフやメンバーに味わってほしいと思っています」

「料理を続けて、ここで働いてよかった」仲間の声を集めていくために

▲2021年現在の吉川

DEAN&DELUCAの西日本エリアで様々な経験を積んだ吉川。2021年現在は、キッチンメンバーをまとめあげるエリアシェフを務めています。

吉川 「現在は各エリアの店舗を臨店し、利益面での進捗やキッチンメンバーのマネジメントを担当しています。西日本エリアは名古屋から福岡と広く、毎日のように仲間と顔を合わせられるわけではありません。

そのため、どうしたら、普段いなくても自分の存在感を残すことができるのか、“やってよかった”と感じる経験をしてもらえるかを常に考えながら働いています。また、店舗に行ったら必ず、お客様がどんなメニューを求めているかをそこで働く仲間にヒアリングし、実現できるよう自己研鑽も欠かしません」

吉川は現在働いているメンバーのマネジメントに加えて、今後一緒に働いていくかもしれない候補者達の面接も担当しています。

吉川 「志望動機を伺うと、『自分のやってきたスキルや経験を活かして貢献したい!』と話してくれる候補者の方がたくさんいらっしゃいます。私もその一人でした。その気持ちももちろん大切ですが、これまでやってきたこととは違うことが成長に必要かもしれません。

だから、変わることを恐れず、チャレンジし続けられる気持ちを持っていてほしいです。変化も受け入れて楽しめる人には、伸びしろしかないと思います。ウェルカムに入ってくれたら絶対に成長できます!私がその責任を持つつもりで面接しています」

吉川は、仕事を“楽しむ”マインドになるためには、意識を持って働くことが大切だと考えています。

吉川 「新しい環境に飛び込むってとても勇気がいることですよね。その一歩を踏み出すために面接に臨んでくださっていると思います。だからこそ、まっさらでいいんです。最初は慣れなくて当たり前です。それを受け入れる環境はこれからも作り続けていくことを約束します。

そして、料理の世界ってひとつのものを作り出す為の作業も多かったりするんですよ。例えば“切る”ことひとつとっても、毎日行えば飽きてしまいがちですが、無心で行わないことです。昨日よりこうしたら早くなったな、綺麗になったな。そんな風に考えたり、気が付いたり出来るようになると一気に仕事が楽しくなりますよ」

誰かを笑顔にする仕事。かたちに残る仕事。ハッピーな仕事。吉川の口からは次々に前向きな言葉が出てきます。苦悩も人並み以上に経験した彼だからこそ、今の言葉があります。

こだわりや自分の想いを持って働く個性豊かなDEAN&DELUCAのキッチンメンバー。一つでも多くの成功体験を重ね、一人でも多くのメンバーがここで働いてよかったと胸を張って話すことができるよう、吉川はこれからも変化を恐れず試行錯誤していきます。