人生の転機は常に“海外”だった

▲カナダ留学時代の出口

出口がカナダへ留学したきっかけは、16歳のときに経験した父の死でした。

出口 「大学をあきらめて働くと決めていたんです。しかし自分の未熟さを知る母親が、『大学に行かないのならば、海外を見て視野を広げてこい』と背中を押してくれました。私はもともと映画や洋楽が好きで海外への憧れがあり、母親もその道が向いているのではと思ったのではないでしょうか」

 出口が「食」に関わろうと思ったのも、やはり海外がきっかけでした。留学していた時期は、スターバックスコーヒーがカナダにちょうど来たころで、観光客がお店の前で記念写真を撮る時代。出口にとって、見るものすべてが目新しく刺激的でした。カナダは多人種国家なのでさまざまな食文化にも触れることができたといいます。

 2年半のカナダ滞在を経た出口は、日本に戻ってからお酒や輸入食品を扱うお店に就職しました。出口の人生に転機をもたらしたのは、アメリカ人のクレイグさんという方との出会いでした。

出口 「ガロというアメリカワインの日本担当だったクレイグさんは、輸入ワインの予約注文を取りによく店に来ていたんです。彼の父親は米軍基地の駐在兵で幼少を日本で過ごした経験があり、私も留学のおかげで英語ができたのですぐに意気投合しました。

 あるとき、彼が仕事を変えて、小型のビールプラントを日本に輸出する仕事をはじめたんです。それをきっかけに、私も事業の一貫としてクラフトビールを製造することになり、醸造責任者に就任しました。当時を思い出すと、自分でつくったビールを自分で飲んだときは格別な瞬間でしたね」

 ビール製造事業に精を出していた出口。しかし中部国際空港の建設に伴い、区画整理にかかって2年で事業が終わってしまいました。この仕事に賭けていた出口は、元の部署に戻ることになってしまったのです。

会社が廃業。第2の人生をDEAN & DELUCAから始める決断をした

▲ソノマのワイナリーを訪れた際の出口

ビール製造事業撤退から2年後、ふたたびクレイグさんから連絡があったといいます。それは、クレイグさんがワイナリーをやることになったのだという報せでした。話の流れでふたたびクレイグさんに誘われた出口は、ソノマにあるStryker(現Foley)というワイナリーに訪れ、収穫と製造に2週間、参加することになったのです。

 出口 「畑の葡萄の出来から、工程の一つひとつに携われたことは貴重な財産となりました。その経験が忘れられず、次の年もワイナリーを訪れることになったんです。しかし、気温が低く収穫が遅れてしまい、急遽、周辺のワイナリーを巡ることに……。そこで偶然、DEAN & DELUCAセントヘレナ ナパバレーを見つけて中に入ったのが、今の会社との出会いです。

 そこで実際につくったワインを持ち帰って現地の話を伝えながら販売したり、生産者と販売店のつながりを肌で感じたことで、もともとはワインにそこまで思い入れはなかったのですが、どんどんワインにのめり込んでいきました。ついにはソムリエまで取得してしまいましたね(笑)」

 しかしそんな矢先、またしても出口に試練が訪れます。時代の波によって、会社が廃業に追い込まれたのです。次に何をやろうか迷っていた出口は、ふとDEAN & DELUCAを受けてみようと思い立ちました。そのとき、すでに38歳になっていた出口にとってはとても勇気のいる決断でした。

 出口 「DEAN & DELUCAは、私にとって嫉妬にも近い、憧れのあった企業でした。ナパで初めてお店に入ったときに感じた、まるで美術館や劇場にいるような感覚。同じ食に携わるものとして、自然とそんな気持ちを抱かされたブランドだったのです」

 どうしてもこの仕事に、どんな形でも携わりたいと思った出口は、覚悟を決めて入社しました。

マネージャーとして、メンバーが自信を持って働ける環境をつくる

▲栄店メンバーとの1枚

2020年現在、DEAN & DELUCA栄店のマネージャーを務める出口。MGRとして店舗の運営を担いつつ、ときにはカテゴリーに入り、オペレーションを行い通常業務に関してはメンバーと同じように仕事をしています。そんな出口がマネジメントするメンバーは社員5名、アルバイト20名を含めて全員で25名。

出口が栄店に異動してきたのは2年前のことでした。異動当初は時間数の少ない学生さんや主婦のアルバイトさんは挫折し、退職につながることが多かったと振り返ります。

出口 「このままではいけないと、メンバーがどういうことに悩んでいるのか言葉を交わしました。そしてヒアリングの内容をもとに、適材適所での配置や人のケアを重視するようにしたんです。私自身、ライフスタイルによっていろいろな働き方があって良いと思っていましたから。

勤務頻度やスキルに合った業務から教えると、メンバーは自信を持って店頭に立てるようになります。すると、店舗に温かみと笑顔が増えて、メンバー同士が協力的になっていったんです。今ではミスがあったら助け合う、アルバイトの学生のことはしっかり社員が守ろうとするような風土になっています」

出口のマネジメントが功を奏し、従業員の間に自然とチームワークが形成されていきました。この職場環境を維持するため、出口は工夫を続けているといいます。

出口 「良い環境を継続するために意識しているのは問題を棚上げにしないことです。たとえばお客様からご意見をいただいたときには、ただの不注意で済ませずにメンバーへの教育や共有などの配慮が足りていないことを考え、改善します。その繰り返しで安心して勤務できる環境になってきました」

出口は、栄店のマネージャーとして店舗を統括する中で、メンバーに対しある想いを抱いています。

出口 「私は栄店を外から眺めるのが好きなんです。商品に囲まれて、メンバーがそれぞれの持ち場で生き生きと仕事をしている風景をみると、入社を志したときの気持ちを取り戻すことができますから。

毎日つつがなく過ごしていると、日々を当たり前だと思ってしまいます。でも、メンバーにはいつも『自分たちが毎日すごいことをしている』と思ってほしいです。ラテを入れたり、生ハムを切ったり、ディスプレーをしたり、レストランのクオリティーの料理やパティスリーのケーキを取ったり……。

難しい業務にも取り組んでもらっている体感があります。ですから、職人や商人としていつも仕事にプライドを持って働いてほしいですね」

これからも、店舗とお客様のために

▲2020年現在の出口

ウェルカムに入社して学んだことは本当に多いという出口。入社してからいろいろな仕事ができるようになったと感じています。

出口 「たとえば、名古屋店のサブマネージャーだったときのことです。当時、ワインの担当をしていたのですが、翌年に料理販売に異動になりました。ワインが好きだったために、当時はショックでしたね……。

しかし、そこでは製造のシュミレーションや売上のつくり方、ケータリングの打合せ、メニュー提案、会場のセッティングなどありとあらゆることを経験させてもらえたんです。最初は大変でしたが、お店全体のことがわかるようになり、飲食の経営の基礎を学べました。今となってはありがたい経験をさせてもらったなと感じます」

カナダ留学に始まり、2020年現在までさまざまな挑戦を続けてきた出口。そんな出口にとって挑戦を続けてきてよかったと思える出来事がありました。

出口 「栄店の実績をもとに私をMIPに選んでいただけたんです。『コミュニケーションをちゃんととっているから、メンバーから愛されている。それがお客様にも伝わっている』という評価をいただけたことは本当に嬉しかったですね。クレームより、お褒めの言葉をもらう機会が非常に多いこと、このような状況でも昨年対比を超えた売上を記録したことも評価いただけていたようです」

社内評価も好評の出口は、現状に甘んじず、今後も店舗を盛り上げていくためにさまざまな施策を展開したいと考えています。

出口 「今後は、地方でもバイヤー業務やイベント企画みたいなことはやってみたいと思っていますね。やはり、売上もですが企画の立案や達成がモチベーションになっている部分はあると思います。ですからアイデアを募って、栄店でしかできないことを行い、店舗をこれからも盛り上げていきたいんです。

具体的には地域のお酒のイベントや食材を使った料理のイベントの開催など、食を通じて地元でも幅広い層にDEAN & DELUCAを知っていただくため、お店の外にも出て地方独自の取り組みをやっていけたらいいな、と考えています」

DEAN & DELUCAが大切にしている創業者の言葉のひとつに「学びに終わりはない」というものがあります。いくつになっても持ち前の好奇心旺盛さと積極性を生かし、日々成長を続ける出口からはこのスピリットを色濃く感じます。今後も興味関心のアンテナを張り続け、若手メンバーにとっての良きお手本として活躍の場を広げ続けてくれることを期待しています。