「ものづくり」が好きだった少年が飲食の道に飛び込むまで

▲GCGPのチーズ工房にて

日比谷ミッドタウン内にある、素材の味を生かした新鮮なフレッシュチーズが売りの「チーズ工房&ピッツァ・ダイニング GOOD CHEESE GOOD PIZZA(以下、GCGP)」。そのフレッシュさの秘訣はGCGPでは毎朝3時に東京都清瀬市で搾乳された牛乳を、その日のうちにフレッシュチーズに加工し、店内にて提供・販売をしているから。2020年現在、貞光 信哉はGCGPのチーズクラフトマン(チーズ製造責任者)として従事をしています。

大阪に生まれ、福岡県北九州市で育った貞光が「ものづくり」に興味を持ったのは、幼少期の体験がきっかけでした。

貞光 「物心ついたころから自然と触れ合うことや『ものづくり』をすることはとても身近にありました。父親とはよくキャンプに行ったので簡単な料理もしましたし、家の庭で机やいすをDIYでつくることも。

父親の実家が近くの筑豊という場所だったのですが、そこはもっと田舎で、父の実家には畑もあったし、鶏も飼っていたんです。だから畑の収穫を手伝うことも普通だったし、鶏を絞めるときには僕が捕まえることもありました。さすがに子どもだったので締めさせてはもらえなかったでけど(笑)」

そんな環境で育った貞光は高校時代にスケールの大きな「ものづくり」である建築やデザインに強い興味を持つようになり、建築・デザインを学ぶために東京の大学への進学、上京をします。しかし──

貞光 「当時の僕の学生生活はひどいもので、『学業を本業とした大学生らしい生活』とは到底言えないものでした。デザインに興味があって入学したものの、ひとり暮らしをしていたこともあって楽しいことに流されちゃって。学校に遊びに行っていたようなものでしたね」

そんな学生生活の中で貞光が一番充実していた時間を過ごしたのは飲食店でのアルバイトでした。

貞光 「子どものころから簡単な料理をしていたし、料理には興味がありました。でも一番楽しかったのはコミュニティづくり、お客さんづくりでしたね。19歳からアルバイトを始めたのですが、就職活動をすることもなく、卒業後もその店で働くことを決めていました。当時はあまり意識しなかったですけど、『ものづくり』と『場づくり』の両方があったのが楽しかったのだと思います」

こうして貞光は飲食の世界で人生を歩み始めます。

上司のひと言がきっかけで飛び込んだチーズ職人への道

▲家族でうつわづくりをしてる幼少期の貞光(写真左)

大学卒業後、間もなくその店の店長に就任した貞光。数年間の店長経験を経ると新たなチャレンジを求め、違う業態の飲食店での勤務に興味を持ちます。そのときに最初に頭に浮かんだのが、2006年当時国立にあったカフェ「ask a giraffe」。ここはインテリアショップ「GEORGE’S FUNITURE」に併設していたカフェで、貞光が大学時代にインテリアの勉強をしていたときに訪れて一目ぼれした店でした。

貞光 「とにかくおしゃれで格好いい店だったのと、食材からしっかり料理をつくっているところに引かれて応募しました。でも面接のときに面接官から言葉使いを注意されて、面接を途中で終わらされてしまったんです。『もう帰っていいよ』って。

当時はまったく悪気がなかった分それがすごく悔しくて、その日のうちにお詫びの電話をして、もう一回面接をしてもらったんです。結果採用してもらえたのは、気持ちの強さを買ってもらえたのだと思っています」

こうして貞光はask a giraffeでの勤務を開始することになりました。最初の配属店舗は当時新規オープンを控えていた「ask a giraffe 横浜ベイクォーター店」でした。オープン直後の数カ月はとにかく忙しい日々が続き、経験者でも音を上げてしまうほどの忙しさ。そして貞光は本格的な調理業務経験がありません。しかし貞光は持ち前の気持ちの強さを武器に真摯に調理に取り組み続けます。

そんな姿勢が評価され、料理の技術では周囲のメンバーに劣るものの、約2年間という異例の早さで料理長へと就任。その後は店舗異動をしてMGRを経験し、その後は新業態へのブランド変更2店舗に携わるまでに成長を遂げます。そんな貞光に転機が訪れたのは、業態開発のアイデアを得に行ったニューヨーク出張時でした。

貞光 「当時の上長と業態開発を目的とした出張に行っていた晩に突然『このままマネジメントスキルを伸ばしていくのか、それともチーズ職人を目指すのか、どっちに興味があるか?』と聞かれたんです。当時は日比谷ミッドタウンに新業態のGOOD CHEESE GOOD PIZZAの開業を控えていて、コンセプトは決まっていたものの社内にはチーズをつくれる人間がいませんでした」

チーズ職人としての成長──与えられた環境と自分でつくった環境

▲NY出張で訪れたブルックリンで人気のピザ屋 Roberta'sのスタッフとの一枚

社内にチーズ職人が足りない──そんな状況の中、他方で貞光も当時自分の進む道を迷っていました。

貞光 「そもそもチーズが特別好きなわけではなかったけど、『ものづくり』は好きだったので単純に興味を持ちました。そして料理長時代の僕は自分の腕のなさがコンプレックスだったから、手に職を付けたいという想いもあって。多分上司はそれに気付いて提案をしてくれたんだと思っています。興味はあるけど本当に引き受けるべきなのかどうか、1カ月くらいはずっと考えていました」

MGRという安定したポジションでありながら新たなチャレンジもできた環境は一般的には恵まれた環境です。しかし貞光は最終的には自身の変わらない「ものづくり」が好きという価値観に従い、チーズ職人への道を選択します。

こうして踏み出した貞光のチーズ職人としての第一歩は北海道新得町にある共働学舎新得農場にてスタートします。1カ月の間牧場とチーズ工房が併設している共働学舎に住み込みの見習いとして滞在し、「日本で唯一の水牛モッツァレラ職人」と称される師の下で、初めてのチーズづくりを行います。

貞光 「自分でも不思議な感覚だったのですが、初めてつくったときから楽しかったんです。MGRをしているときは役割をまっとうすることを自分自身に言い聞かせていましたが、チーズづくりは何も考えずに素直に楽しめたんです」

こうして貞光は、加速度的にチーズづくりにのめり込んで行きます。

貞光 「チーズづくりは知れば知るほど奥が深いんです。とにかく味を安定させることを意識しているのですが、それが本当に難しい。生乳は牛の体調や季節によって状態が変わるし、菌も生き物。毎日同じ状態ということは絶対にないんです」

その後も独学でチーズづくりの勉強をするも、早く腕を上げるにはチーズづくりをしている人の話を直接聞くことだと思い至ります。そこで貞光は2019年に『関東ナチュラルチーズコンテスト』への出場を決めました。

貞光 「そこで僕のリコッタチーズが審査員特別章を受賞することができました。おいしいと評価してもらえたことは嬉しかったです。でも一番良かったことは、いろいろなチーズ職人とつながれたことでした。そこで聞いた話は学びの連続で。やっぱり実際に現地を訪れて話を聞きたいと強く思うようになり、直接お願いをしてさまざまなチーズ職人さんのところに行かせてもらいました」

「ものづくり」と「場づくり」──成長と共に変わった視座の高さ

▲イタリア研修で訪れたチーズ工房での一枚

2019年には一般社団法人中央酪農会議主催の「海外現地調査と研修」の招待事業として選抜をされ、本場イタリアへの出張研修の機会ももらいチーズ職人としての成長を続けた貞光は、2020年の『関東ナチュラルチーズコンテスト』でも入賞。今もなおチーズ職人としての腕を磨き続けています。

そんな貞光の今後のウェルカムでの目標とやりたいこととは──

貞光 「僕以外のチーズ職人にも活躍の場をつくってあげたいというのが念頭にあります。ありがたいことにGCGPは今でも毎日行列ができるくらい多くのお客様に来店いただいています。別の店舗の出店の可能性があるのならチャレンジをしてみたいと思いますし、どんどん後輩に仕事を任せていきたいと思っています。

あと、このウェルカムという会社が本気でモノづくりをしているということを伝えたいです。たとえば僕がつくっているチーズですが、今は大小さまざまなところでつくられるようになってきています。その中でもウェルカムはかなり品質にこだわっている会社であるという自負があります。別のプロジェクトでジンをつくっているメンバーもいるのですが、同じようにかなり品質にこだわっています。それを知ってもらいたいってどうしても思ってしまうんです(笑)」

そして、会社だけでなく貞光自身の目的も、彼はしっかり持っています。

貞光 「最終的には沖縄に移住をしてチーズをつくりたいと思っています。だから今の仕事は自分個人で経営したときのことを考えながら、疑似体験をさせてもらっているようでもあるんです。『自分が責任者だったら』という目線があるから自分事として業務に取り組めているかもしれませんね」

立場が変わり視座の高さは変わっても「ものづくり」と「場づくり」に興味を持った学生時代と変わらない価値観を持っている貞光。与えられたチャンスを生かし、チーズクラフトマンとして活躍をしながら、自分の未来の姿を今の仕事と重ね合わせて考えています。「会社はメンバーの自己実現の場でありたい」と考えているウェルカムにとって、貞光のようなマインドで働いてくれるメンバーがひとりでも多く増えてくれることが何よりの喜びです。