作品をファンに届ける現場の最前線
音楽会社では主に「制作」「宣伝」「販促」の3つのチームがアーティストをサポートし、作品をファンのもとに届けています。楽曲などクリエイティブ面で作品づくりをサポートするのが「制作」、広くファンに知ってもらうための施策を考えるのが「宣伝」、そして店舗などでの販売戦略を担うのが「販促」です。
セールスマーケティング本部マネージャーの桂川 賢一と主任の安原 典子は、それぞれ20年近くにわたり販促業務の前線で活躍してきました。
桂川 「チームは違ってもミッションは一緒です。でき上がった作品をどうやってファンに届けるかを考えています。常に方針を共有しながら役割を分担し、同時進行で進めています。販促の仕事は特にパッケージ商品の“売上”に関わる部分が多いと考えています」
商品が店頭に並ぶまでには数えきれないほどの工程があります。リリースの形態や販売価格を設定し、販売のためのキャッチコピーづくりをする業務にも販促のメンバーは参加します。
商品の受発注など発売に付随する業務も少なくありません。そのほかイベントの運営なども加わるケースもあります。
安原 「この仕事で一番難しいのは、過去の成功事例を当てはめてみたところで毎回うまくいくとは限らないということなんです」
発売の半年以上前から制作、宣伝のスタッフを交えた会議で、売上の目標、販売戦略など検討を重ね、頻繁に会議を行うと言います。
安原 「アーティストが持っている感性やファンの属性が違えば、販促プランも変えなくてはなりません。加えて市場もリスナーも常に変化していますから、少しでも予測の精度をあげるために、他社の成功事例はすべて調査するようにしていますね」
最前線から見た音楽商品の変化
この10年ほどの音楽シーンの移り変わりは、商品の販促活動にも大きな変化をもたらしました。桂川と安原のふたりも、変化に対応するため業務の幅を広げてきたといいます。
桂川 「私が一番最初に販促を担当しはじめたときは、どれだけ店頭の良い場所にディスプレイしてもらうかもらうかが、売上を伸ばす大事な取り組みのひとつでした。今は状況が大きく変わっています。販売イベントの開催も珍しくなくなりました」
作品の発売記念イベントを開催するのはアナログレコードが主流の時代からあった手法です。しかし、近年では発売イベントがアーティストに直接会える機会としてファンからの期待や需要も大きく、パッケージ商品の売り上げには欠かせない施策のひとつになってきています。
桂川 「これまでははじめて知ってもらう人に買ってもらうためのイベントが多かったのですが、アイドルの人気も後押しとなり、ファンを集めて商品を買ってもらうためのイベントの割合が増えたと思います」
イベントの形も多種多様になっていきました。安原は、事前の予約者向けなど購入予定者向けのイベントをはじめて企画した人物でもあります。
安原 「販促プランとしては成功しました。しかし、ファンの方も一か所に集まっているわけではないので、発売前に複数回のイベントを企画・運営しなくてはならなくなったんです(笑)」
また、安原はイベントの会場で商品を購入していただいた方向けに購入商品を全国へ配送する仕組みを考案しました。当時はDtoCの先駆けともいえる突飛な施策であったため、ステークホルダーへの説明に苦労したと言います。
桂川 「安原さんが始めた仕掛けのおかげで日本全国のレコード会社の販促メンバーは業務量が圧倒的に増えましたからね。会場をブッキングして機材や人を手配してタイムスケジュールを組んでと……(笑)」
この他にも、多くのトライアンドエラーがあったと言います。
桂川 「CDショップ以外にもコンビニや郵便局など、アーティストや楽曲の特性に合わせた販売チャンネルの開拓も行ったりもしています。パッケージ商品の多様化も目覚ましいですね。近年はオンラインストア向けの限定商品なども企画しています」
時代の流れとともに変わり続けてきたアーティストとファンの出会い・交流の影には、ある意味、泥臭い販促スタッフの努力が隠れているわけです。
デジタルデータとアナログな経験値をかけ合わせる
怒涛の変化を遂げてきたパッケージ商品の販促活動ですが、近年最も顕著な影響を与えているのはデジタル商品の隆盛です。
安原 「実はストリーミングサービスなどを通して楽曲を気に入った人が、長らく購入していなかったCDを再び購入している、といったデータもあるのです。販促チームでは、デジタルデータを生かした施策検討も盛んなんですよ。予約の段階で購買層を分析し、より的確な販促プランを企画することができるようになりました。
とはいえ、データから施策を検討する際に注意しているのは、データのみを真に受けすぎて偏ったプロモーションをしないこと。たとえば、10代の若者が保護者のクレジットカードを使っているなど、データだけでは購買行動の当事者が見えにくいこともあったりしますから」
また、特典などの企画では、現場でのリサーチを行うことも大事だと桂川は言います。
桂川 「あるアイドルグループのアルバム購入者向けの特典として缶バッジを作ったんです。ターゲットは10代の女の子でした。特典のグッズをライブに付けてきてくれたら嬉しい、と思いながら企画したですが、いざアイドルのツアーの現場へ行ってみると缶バッジを付けているファンなど、ほとんどいなかったのです。
彼女たちは大好きなアイドルのライブに最大限のおしゃれをしてきていました。そうした服装に缶バッジを合わせること自体が難しかったんですよね」
商品自体が手にとってもらえるものだからこそ、データでは見えないものがあるとあらためて気づかされた瞬間でした。
時代の変化とともに変わり続ける販促の仕事
20年近くにわたって販促の業務を担ってきたふたりですが、変わらず新しい挑戦を続けています。
安原 「やはり自分達がかかわった楽曲がヒットしていくのを見るのは何事にも変えられない喜びです。仕事は大変ですがその分を大きな達成感を得られることがこの仕事の醍醐味ですね」
桂川 「長く同じ仕事をしてきましたから、ほかの部署も経験してみたいと思う一方、まだまだ学ぶことも多いとずっと思わせてくれますね」
近年では特に、プラットフォームの進化・多様化に業務もアップデートが必要になっています。たとえばコロナ禍によって発売イベントもオンラインシフトしていますが、YouTubeやTikTokなど配信するプラットフォームはさまざまであり、それぞれの特性を生かした企画を考えなくてはいけません。
安原 「どんなに経験を積んで知見を蓄えても、新しいモノはやってくるんです。そこに対応したくないとか、できないじゃなくて、対応することがこの仕事の使命。失敗を恐れずに果敢にチャレンジしていきたいと思っています」
桂川 「最近では私は制作の仕事も兼務するようになりました。これまでの経験で得た知見を生かしながら、アーティストに提供できる価値を高めていきたいですね」
ふたりが挑戦心を高く持ち続けていられるのは、音楽シーンの変化に合わせて仕事や考え方をアップデートさせ続けてきたからに他なりません。アップデートを繰り返し挑戦は続きます。
( Text by PR Table / Photo by 杉浦 弘樹 foto.Inc )