音楽ビジネスに欠かせない“契約”

ユニバーサル ミュージックは、主に音楽にまつわる権利を扱い多くの関係者と取引を行っています。リーガル&ビジネスアフェアーズ本部の業務は、それぞれの取引の契約に関する業務、著作権使用料や印税支払いの管理、ライツの情報管理などチームごとに役割を担っており、広野は、主に契約業務に従事しています。

広野 「携わる契約は多岐にわたります。アーティストとの契約のみならず楽曲を制作する際の外部クリエイターとの契約、CDの場合は、ジャケットや特典に使用する著作物のライセンス契約、商品の売買や輸出入契約などがあります。

デジタルでは、配信に必要な各種契約などの音楽制作や流通に関する契約、そのほか色々なケースがありますがアーティストの出演契約、映画やアニメ等への出資契約、マーチャンダイジングに関わる契約など多種多様です。

中でもアーティストとの契約は、お互い協力して音楽を世に広めていくためにも必要不可欠で、音楽会社が締結する契約の特徴といえるかもしれませんね」

近年では、音楽をデジタルで楽しむ人も増えていますし、特にコロナ禍では配信ライブを中心にこれまでとは異なる新しい形の取り組みも増えています。それに伴いアーティスト本人のやりたいことや目指す方向によって契約内容もこれまで以上に多岐にわたり、契約の個別最適化に熟慮を重ねていると話します。

広野 「例えばSNS上でメジャーデビュー前から多くのフォロワー、つまりファンを獲得しているようなアーティストも増えていますし、もちろんオーディションを通過し、アーティストを目指すような人、バンドで小さなライブ会場から地道に活動してきた人もいます。それぞれのアーティストの特性も考慮して契約内容を調整し、互いにとってメリットがある状態を目指していきます」

時間をかけて細かに契約書の内容を調整していくのは、アーティストへのリスペクトが根本にあるからです。広野は契約概要を相手方に見せるとき「提案」という言葉を使います。

広野 「契約は双方の合意の上に成り立つものです。提示してこれを飲みなさいというような進め方は絶対にありえません」

アーティストを影から支える法務の仕事

基本的にはアーティストや関連する取引先と直接向き合うのは作品の制作やマーケティングを担うレーベルの担当者です。法務の担当者はレーベルの担当を通じて取引の背景や双方の要望などを聞き、法的かつビジネス上のリスク分析を踏まえた法務的知見を合わせて一緒に契約の形を考えます。

各関係者との条件面での交渉が着地し次第、法務が契約書を作成し契約締結までを担います。その過程で、より丁寧な説明や、緻密な交渉が必要なときには、法務の担当者がアーティスト側のスタッフやその他の取引先と直接コミュニケーションを取ることも少なくありません。

広野も中途社員として入社した1年目のとある経験が印象に残っていると話します。

広野 「あるアーティストの作品を制作する際に、他の会社が権利を保有する音源の一部を使用する企画が進んでいました。ところが、制作が進んだ段階で、その他社音源を使用するにあたっての認識の違いが顕在化してしまい、その作品のリリースが実現困難な状況に陥ったことがありました」

アーティストやアーティストの事務所がその作品のリリースを希望しており、レーベルとしてもリリースを実現したいということで、法務の担当として奔走しました。

広野 「最終的には、法務部門として、先方の会社へ赴き、双方の認識の齟齬の整理や、誤解されていた部分をひとつひとつ解きほぐしていくことで最終的には理解いただくことができ、作品のリリースを実現できました」

その話し合いに至るまで、これまでの事例のなかから似たようなケースが過去にあった場合の対応策を調べるなど交渉材料の整理を入念に行い、関係者の協力も仰ぐなど多様なアクションが必要でした。

大変だった一方、作品を世の中に送り出す過程で法務として貢献できたという確かな手ごたえを感じることができたと広野はいいます。

音楽業界だからこそ注げる情熱がある

法律の知識を生かして音楽ビジネスに貢献すること、それは、広野がユニバーサル ミュージックへ入社したときから描いていた夢でもありました。

もともと広野は、父親の知人を通じて弁護士という職を知り、子どもの頃から漠然とした憧れを持っていました。一方で学生時代には音楽にのめり込み、バンド活動を行っていたといいます。

広野 「大学卒業後、法律の知識を生かして人に貢献できる仕事がしたいとロースクールに通いました。弁護士登録後、法律事務所で民事事件や刑事事件などの案件を担当しましたが、以前から持っていた音楽業界への関心がより大きくなり、ユニバーサル ミュージックに転職したんです」

実際に入社してみると、契約のためにアーティストやマネジメントと直接やりとりをしたり、ビジネス上の課題を法律の知識や契約面で解決、サポートすることで企画の成功につなげたりと、現場との距離の近さを感じる日々が待っていました。

広野 「音楽会社の法務は、アーティストや作品と強く関わっているという感覚があります。当然、音楽業界のビジネス構造を理解した思考力も必要で勉強は欠かせません」

特にデジタルサービスの普及が進むにつれて、YouTubeやSNSを活用した新しいビジネスが生まれています。変化し続ける音楽業界のなかに身を置く法務担当として、新しいビジネスモデルにはどういう権利関係があるのか、それをどう整理することがアーティストや当社にとって良いかを日々学び続けることは欠かせないのです。

ときには自分で希望して担当する作品やアーティストの制作現場を見学したり、ライブに行ったり、現場を見て学ぶことにも努めているといいます。

広野 「今はコロナ禍ということもあり、なかなか難しい状況ではありますが、実際の現場でどんな風に作品が作られているのかを少しでも理解しておくことで自分が何をしているのか、仕事がどこに直結しているのかが明確になります。また自分にとっても大きなモチベーションになるんです。音楽ビジネスが好きで、権利関係の知識、専門性を生かしたいという人にとってはやりがいのある職場だと思います」

日本の音楽の海外進出を応援したい

自分が最も情熱を注げる音楽という世界で働く楽しさを知った広野は、もっと会社に貢献したいと思いを抱くようになったといいます。その視線が向かう先は海外です。

広野 「入社当初から海外に興味がありましたが、実際に働いてみて、音楽業界においては法務担当としてもグローバルな市場を学ぶ必要があると強く感じています」

デジタル化によって音楽のグロ―バリゼーションは勢いを増していて、最初から海外市場をもターゲットとしたプロモーションが展開されることも珍しくありません。そんななかで、日本発のグローバルビジネスを加速するために世界各地域の音楽動向、ルールや慣習、法務上のポリシーを理解しておくことはとても重要なことだと広野はいいます。

広野 「グローバルに通じる法務知識を身に着け、音楽が新たに広がっていくための架け橋になりたいと思うんです」

弁護士になる以前音楽に打ち込んでいた広野は、カナダに短期滞在し友人とライブステージに立ったことがありました。当時、英語はほとんど話せなかったといいますが、音楽にも言葉と同じように人と人をつなげる力があるのだと感じたといいます。

自ら身をもって体験した音楽の可能性。それを広野は法務の力で広げていこうとしているのです。