ファンとアーティストの”ハブ”的役割を担うチーム

世界各国のヒットチャートで上位にいる作品や名盤と呼ばれる作品、洋楽やクラシック、ジャズなどの作品のマーケティングを行っている「Marketing Hub」。

ウェブサイトやSNSを中心としたキャンペーンの企画・実施、毎週何百曲とリリースされる楽曲のマネジメント、インフルエンサーマーケティング、ストリーミング上のデータなどを集約し分析など複数のチームから成り立っています。

松山 「もともとユニバーサル ミュージック内にデジタルを包括的に扱うチームはあったのですが、邦楽と洋楽のニーズやタイムラインが異なるということもあり、洋楽に特化した戦略を担うためにMarketing Hubがつくられました。

販売促進というよりも、ユーザー目線に近いところで「ファンとアーティストのハブ的役割を担う」という目的で動いているチームです。アーティストと作品、ファンをつなぐ中継地点という意味でも、“ハブ“という表現が合っているのかもしれません」

もともとストリーミングサービスは海外での普及が先行していたこともあり、日本でもまずは洋楽を中心に音楽を聴く人達を中心に普及しはじめました。オンライン上のサービスということもあり、ユーザーのデータが比較的取りやすいなど、データに基づいた施策が打ちやすいと同チームの渋谷は話します。

渋谷 「ユニバーサル ミュージックの楽曲をいかに聞いてもらうことかが大きな目的です。新譜が発売されるときもそうですし、同じタイミングでこれまでに発売されている作品の再生回数をどれだけ上げられるのかも大事。

さまざまなデータを紐付け、優先順位を立てながら施策に落とし込んでいきます。この仕事って実は施策に結びつかないデータがいくらでも取れてしまうんですよ。ついつい気になって一つひとつ深掘りしたくなるので、その欲求をセーブしながら仕事に取り組んでいます(笑)」

渋谷が分析・管理したデータを活用し、松山はさらに広い視野で戦略立案や他部署への提案を行います。

松山 「毎日、アーティストごとにストリーミングのデータを見ながら跳ね返りを想定し、どのチームにどんな動きをしてもらうのかを考えています。

僕らはアーティストを国内で抱えることができないので、LAにある本社チームと連携を取りながら、Apple MusicやSpotifyなど各ストリーミングサービスを、どのように使いながらローカライズ・カスタマイズできるかということを日々考えています」

松山 「部署がスタートしたばかりのときは、僕らのやることが『役に立つ』と捉えられるか『よくわからない』と捉えられるか。社内でも認知を得るまでは試行錯誤の連続でした。

コミュニケーションがうまく取れないと、僕らの言葉は他部署の人間にとって、『Marketing Hubに何を頼めばいいのかわからない』という声もありますが、一歩一歩結果を出しながら訴求していくことが大事だな、と日々実感しています」

チームの中にあるキャリアの多様性

同じチームで仕事をするふたりですが、ここへたどり着くまでのキャリアはまったく異なります。渋谷は大学で芸術学科を卒業し、もともとエンタメ業界を志していました。

渋谷 「新卒で入社したのは、BtoBの大手デジタルマーケティング会社でした。そのグループ会社が演劇の雑誌を発行していたのですが、その雑誌が大好きで、雑誌編集に携わりたかったんです。

でも、入社した年になんと廃刊してしまって……。想定外に、マーケティングのデータ分析を行う部門へ配属になったんです。そこで、6年間コンサルを経験することになりました」

もともとは文系だった渋谷ですが、データに触れていくうちにおもしろさに目覚めていきます。するとさまざまなクライアントの要望に基づいて仕事をしていくうちに、スキルは少しずつついてきたのかな、と思う一方で事業側で自分の会社のサービスや商品のために仕事がしたいと思うようになりました。

渋谷 「6年間で培ったスキルと、学生時代に専攻していた音楽を掛け合わせた仕事がしたいと思い、大手レコード会社に転職しました。

当時盛んだったVOD(動画見放題サービス)のマーケティングとデジタルのデータ分析を担当し、そこで得た分析能力をさらに上げたいと異業種のファッションWeb通販会社転職したんです」

1年間ビッグデータの分析チームで経験を積み、再度エンターテインメント業界で挑戦するためにユニバーサルミュージックの扉をたたくことになったのです。

一方松山は、そのキャリアの大半を海外で培いました。

松山 「大学では英米文学部に入学後、1年で中退して渡米しました。当時はアパレルの仕事に興味があったので、ニューヨークで本場のファッションの空気に触れたいと思ったんです。

ニューヨークで大学を卒業後、アパレル企業で通訳の仕事をしたのち、帰国して転職活動を開始。ユニバーサルミュージックに入社することになりました」

配属先が香港のアジア統括オフィスになり、さらに異国の地で2年間、孤軍奮闘することになります。

松山 「担当したエリアは中国・香港・台湾・フィリピン・シンガポール・マレーシア・韓国・インドネシア。非常に広域でした。アーティスト契約からセットアップ、プランの考案、データ分析まですべてを個人で行っていました。

当時、日本のユニバーサルにはまだストリーミングに特化したチームがなかったということもあり、香港でのストリーミングのマーケティング経験を生かさないかと声を掛けていただき、2年後に帰国が決まりました。

ニューヨークや香港の生活を通して経験した「仕事を教えてくれる人がいない」という危機的状況が、今思えば僕強みにつながっている気がしますね。海外では自由度が高かった分、自分で工夫しなければ仕事にならなかったんです」

こうしてふたりは2019年、Marketing Hubチームで初めて顔を合わせることになったのでした。

想像力、知識、感性。データだけに縛られない柔軟さ

渋谷は、仕事をする上で大切にしていることを「伝え方」だと話します。

渋谷 「とても大切にしているし、同時に難しいことでもあります。日々データを追いかけている担当者にとっては当たり前のことでも、仕事が違えばまったくなじみのないことや言葉だったりする。

ちょっと伝え方を間違えると、なんだか鼻持ちならないヤツになってしまうじゃないですか(笑)。どこまで想像力を働かせて、相手の立場に立てるか?ということを常に意識していますね。

そしてもうひとつ心がけているのは、ひとりよがりのデータ調査に陥らないために「ユーザー目線」を忘れないこと。

ストリーミングによってデータが取得しやすくなったとはいえ、当然すべてのことがわかるわけではありません。私自身しっかり楽曲を聴いて、その先にどんなユーザーがいるか想像することが大事だと感じています」

データですべてが解明できるわけではない音楽という分野で仕事をする上で大切なのは、伝え方や想像力。一方で松山は「数値以上に大切なのは、自分の話す言葉の説得性」と考えています。

松山 「音楽に特化してデータを取ったり分析したりすることにこだわらず、その周りにあるカルチャーとかファッションに触れ続けることも必要かなと思います。広く感性や知識を身につけることで、ファンと同じ目線で音楽も語れるようになる。

音楽会社目線で「このアーティスト売れそうだね」と判断する前に、「今ではどんなカルチャーが話題なの?」「ユーザーから見たら、この判断ってちょっとずれてるんじゃない?」というように、いったん否定から入れる姿勢も大事なのかなと思っています」

また、松山がもうひとつこだわっているのが、新しい分析ツールやシステムを積極的に取り入れるという姿勢です。

松山 「ユニバーサルミュージックでは海外との接点も多く、新しいものがどんどん入ってきます。僕は基本的に何ごとも一度試してみるというスタンスを取っています。

相談されたら、まず「NO」とは絶対に言わない。新しいツールって無限に出てきますが、やっぱり5年前の分析ツールを使っていたら見えてこないものってあるじゃないですか。そこは積極的に切り替えていく思い切りの良さは必要かなと思いますね」

新しい概念やトレンドをひるむことなくどんどん取り入れていくマインドが、Maketing Hubという新しい組織を象徴しているのかもしれません。

地道な発見を積み重ね、楽曲の売り方を「現代化」していく

Marketing Hubチームの功績のひとつに、2019年3月にリリースされたビリー・アイリッシュ「bad guy」のヒットがあります。プロジェクトに関わった松山は、ヒットの背景をこう振り返ります。

松山 「『bad guy』アルバム発売から約1年かけてストリーミングでの再生数を積み重ね、ヒットにつながりました。

つまりそれだけ長い時間をかけて、アーティストの担当を中心に 取り組みを続けてきました。洋楽に関しては、やっぱり推し続けるスパンがある程度必要だと感じましたね。

もちろん、ビリー・アイリッシュと同じやり方で他のアーティストを売ろうとしても、おそらく難しいでしょう。結局まだ勝ちパターンは見えていなくて、それを模索している状態です。

勝ちパターンをデータを用いてプロジェクトに応じて柔軟に対応するというのが、まさにMarketing hubの担う役割だと言えるかもしれません」

データを駆使してヒットへ導く。一見華々しい仕事のように思えますが、決して派手な仕事ではないと渋谷は苦笑します。

渋谷 「前職時代も含め長い間データ分析に関わり続けてきましたが、ひとつのデータ分析から爆発的なヒットを生み出す施策を導き出すようなことって、正直ほとんどないんです。

分析・施策をいくつも積み上げてようやく再生回数が数%上がった、というのが当たり前の世界。だからこそ、着実に一歩ずつ前進するための仕事を、いかに楽しめるかどうかがすごく求められます。

私にとって一番のやりがいは、社内でも道筋のないことを“0→1”でやれているところですね。上司に『これやって』と指示されることは少ないですね(笑)」

この会社で何をすべきなのかと、自分の頭で考えない限り仕事がない。それこそが仕事の醍醐味なのです。松山も同じように、これまで主だった「成功体験」をあまり感じたことがないと首をひねります。

松山 「基本僕たちってバックアップの仕事なので……。もしかすると快感は、“発見“するところにあるのかもしれません。

渋谷が“0→1”と言いましたが、まだ誰も気付いていないことをデータを通していち早く発見して、『これは絶対に効果的だと思います』あるいは『このままだったらやばいですよ』と提案できる喜び。

地道ではありますが、今チームでやっていることが、今後社内のデジタルマーケティングの指標になるべくノウハウを積み重ねていきたい。

そのためにもマーケティングの「現代化」を考える必要があると思っています。従来のとは視点を変えて、データを様々な視点から解析できるからこそかなえられることをさらに追究していきたいですね」

日々繰り返されるMarketing Hubの地道な検証が、制作の最前線にいるアーティストやクリエイターをサポートすることになるのです。

( Text by PR Table / Photo by 杉浦弘樹(foto))