人手不足が深刻なIT業界に現れたローコード開発という名の救世主
エンジニアの人材派遣を行うトライアローで、北海道支店の支店長として活躍する森氏。2022年11月現在、支店のマネジメント業務とは別に、OutSystemsを使ったローコード開発エンジニアの育成と採用強化の新規プロジェクトの発起人として企画を推進しています。
まずは、ローコード開発とは一体どんなものなのでしょうか。
森 「一言で言うと、『コードをあまり書かずアプリが作れてしまう開発手法のこと』と言った感じでしょうか。アプリやシステムを開発する時、開発言語を使用して構築していくのが一般的だと思います。ただ、こうした従来の開発では設計したものを一度開発言語に置き換える、という作業が必要でした。対してローコード開発は、ほぼソースコードは書くことなくシステムの構築ができる開発方法のことです」
それは便利な方法ですね。ドラッグ&ドロップだけでWebサイトが完成するようなツールに似たイメージでしょうか。
森 「画面開発についてはその通りです。ドラッグ&ドロップでテキストボックスやボタン等を貼り付けて組み上げていくイメージですね。もう少し細かく言うと、本当にコードが必要のないアプリ制作の手法は『ノーコード開発』と呼びます。有名なところだと、kintoneなんかが代表的なノーコード開発のプラットフォームですね。こうしたツールはエンジニアではない人も含めて幅広い人に使いやすくできている反面、自由にカスタマイズできる範囲が狭いのがデメリットと思っています。
対して、ローコード開発はドラッグ&ドロップで多くの部分を制作することは可能なものの、CSSやJavaScript、SQLと言ったコードやDBの知識が必要になります。その代わり、ノーコード開発の環境よりも、より複雑な開発や帳票に特化した開発などが行えるのが特徴です。主なローコード開発プラットフォームとしては、今回トライアローで注力しているOutSystems以外にも、Microsoft Power PlatformやMendix、Oracle APEX、Pegaなどがあります」
ゼロからコードを書いて開発する従来の開発環境と、コードの知識が不要なノーコード開発のちょうど中間、良いところ取りの開発環境と言った感じですね。実際、ローコード開発を導入することでどういったメリットが見込まれまるのでしょうか。
森 「なんと言っても劇的な生産性の向上です。シチュエーションにもよりますが、アプリの開発にかかる速度は2倍~10倍とも言われています。エンジニア社員に聞くと体感でも2~4倍くらいといった感触。開発現場の劇的な生産性の向上に寄与する超高速開発である事が大きな効果ですね。
また、トライアローのエンジニア目線でいうと、OutSystemsの場合、通常は時間がかかる画面の作成が、機能実装しながらでもかなり速い速度で作れますので、その分UIやアルゴリズムに時間をかけられ、よりユーザビリティを意識できるようになったと言います。他にも、OutSystemsは環境を構築する際、開発・検証・本番の各環境をまとめて連携して構築すると、LifeTimeというアプリを使用することで環境ごとへのデプロイが簡単にできます。使い勝手がいいところなども優位性が高いようですね。
一方で、従来の開発と比べてデメリットを挙げるとしたら、CVSのようなブランチでのソース管理ができません。たとえばすでに本番リリースされているモジュールに対して、新規機能を実装している最中に緊急障害対応などが発生すると、モジュールのバージョンを戻すなどの手間が発生したりすることも。
他にも、対象が数件に絞れるような細かい単位での処理の実装は非常に得意ですが、大規模なバッチ処理は苦手です。オブジェクトのような概念がないことで、処理の共通化が難しいシーンがあるので、今後まだまだ機能のアップデートが期待される部分もあります。
また、ここ最近では、作成しやすい反面、仕様書ではなく口頭で要件を伝えることがプロジェクトでは多発しています。ただ、慣れたPO(プロダクトオーナー)やSM(スクラムマスター)がルール化をすれば解決できる課題ではありますね。」
実際にローコード開発はどれくらい導入が進んでいるのでしょうか。
森 「IDC Japan株式会社の調査によると、国内では既に約38%の企業が何らかの形で導入しています。特にTOYOTAなど製造業を中心にOutSystemsの普及は進んでいます。今後は増加傾向が続くと見られ、世界で見ると2024年までに全アプリケーションのうち65%がローコード開発によって作られたものになるという試算も出ています(※Gartner調べ)。
このようにローコード開発が増加して行く中で、トライアローが注視しているOutSystemsは、数あるローコード開発プラットフォームの中でも大規模で複雑な基幹システムの開発にも耐えうるレベルだと考えました」
それで今回、OutSystemsで開発をできるエンジニアの育成と採用強化のプロジェクトを立ち上げたのですね。
森 「そうですね。どんな指向性でどれくらいのレベルのエンジニアがローコード開発に向いているかよく考え、入社後の教育スキームなどを組み立てました。
現在は、エンジニア社員のスキルチェンジ施策、OutSystemsの資格取得・育成支援施策と共に、全国で採用プロジェクト推進チームを作り、採用サイトの制作や一人でも多くの転職者にローコードプラットフォームを知ってもらうための集客方法の検討などに着手しているところです。早くいろんな方と出会ってお話したいですね」
派遣会社は大きな「船」 ──なぜローコード開発にこだわるのか?
ローコード開発を導入することで生産性の向上が見込まれる理由がわかりました。ただ、トライアローのメイン事業はあくまでもエンジニア派遣ですが、本来派遣会社に求められるのは人材と企業をマッチングさせるというミッションが多い中、なぜローコード開発という技術に着目しているのでしょうか。
森 「今、トライアローは派遣会社としての人材リソース支援に加えて、技術をサービスとして提供する『価値創出型アウトソーシング事業への転換』を目指しているところです。これは、現場の課題に対して技術や製品を積極的に導入することで、生産性を高め、現場が産み出す価値や創意工夫に拍車を掛けていくことを狙いとしています。また、自社でも 『現場で使われる xR』 などの技術開発を進めており、成果を上げ始めています。
このように、トライアローは『人×技術』でさまざまな事業展開をしているため、ローコード技術についても、近い将来には顧客の現場へ最適なサービスを提供するために必要な技術である、という観点でも着目しています。とはいえ、いわゆるエンジニアの派遣会社として考えても、ローコード技術は取り組むべきだと考えていて。
私が、約20年間トライアローにいてまず感じることは、次から次へと新しい技術や、開発言語、フレームワークが現れては消え、現れては消えを繰り返してきた市場がエンジニアにとってとても大変だということです。
そうした目まぐるしく環境が変化する中で、新たな開発言語やフレームワークを覚え続けなければならないことに疲弊してしまうエンジニアの姿や、レガシーシステムの保守・開発を続けているうちに、気づけば自分が携わっている技術が古くなってしまって、市場で求められる技術とのミスマッチが起き、自分の持っているスキルが通用しなくなったことで業界を去ってしまうエンジニアなどを目の当たりにしてきました。
そんなエンジニアを見ている中で『はい、現場は紹介したのだから、プロジェクトとは関係ない技術は一人で頑張って勉強してください』というのは、IT業界がこれだけ早いスピードで変革しているのに、業界として、会社としてあまりに無責任なのではないか?と思ったんですね。
私は派遣会社って、大きな『船』みたいなものなのかなと思っているんです。その中で、トライアローは、ただ人材と企業をマッチングさせるのではなく、マーケットが求めている技術へ会社全体が舵を切って行くような、市場の変化に対応できるような存在になりたい。停滞してはいけないんです。
われわれ企業が、市場が求めているニーズにきめ細かく変化できるよう取り組んでいけば、この『船』に乗りたい!という人はどんどん現れるはずだと思ったので、今回のローコード開発のエンジニア増員を推進しようと思いました」
確かに、一人で仕事に没頭していてはキャッチできなかった情報にアンテナを張っておくことは、派遣会社の大切な役目ですね。他にこのプロジェクトを通して感じていることはありますか?
森 「トライアローの営業メンバーは、毎日エンジニアたちと机を並べて仕事をしているわけではないので、みんなが同じ方向を見て働くのは難しい。一方で、エンジニア社員は現場で起きている課題を一番よく知っています。そんな彼らとのコミュニケーションを通して『クライアントは何を求めているのか?』という問いを営業とエンジニアで突き詰めて一緒に考えていくことで、同じ方向を見て進むことができると実感しています。
『派遣会社だからクライアントへただ労働力と技術を提供していればそれで良い』では、営業としては不甲斐ないと思いますし、エンジニアも働いていてつまらない。というか、そんな会社に魅力は感じないですよね。そうではなくて、エンジニア社員が抱えている問題は何なのか?それを解決するためにはどう動けばいいのか?と突き詰めて導き出すことについては、営業もエンジニアも垣根を越えて一丸となっていますし、とてもやりがいを感じていると思っています。
また、純粋に新しい技術で競争力がついていくことはエンジニアにとって自信にもなりますし、営業としても配属先のクライアントに新しい技術を教育してもらうのではなく、自社で教育していく仕組みや体制があるというのは心強いと感じています」
「約束を果たしてくれなかったね」──エンジニアに言われた一言から始まった
なぜ派遣会社としてローコード開発に着目しているのか、その想いを語ってくれた森氏ですが、そうした考えに至る具体的なエピソードは何かあったのでしょうか。
森「はい。私にとっては苦い思い出ですが……。5年くらい前だったと思うのですが、北海道支店に数年在籍していたエンジニア社員が退職した時のこと。
その方が面接に来た際、私は『あなたをリードエンジニアとして迎え入れたい。私はトライアローの北海道支店を北海道で一番楽しく、やりがいを持って働ける会社にしたいから、一緒にそれを目指さないか?』と、率直な想いを語り、彼らはそれに共感して入社してくれたのですが、現実はそう甘くありませんでした。エンジニア社員が退職する際に『森さん、約束を果たしてくれなかったね』と言ったんです。その時、すごくハッとさせられたんですね。
私にはそれが、『ただ派遣社員として配属されていただけで、一緒に北海道で一番の会社にしよう!なんて単なる口約束に過ぎなかったじゃないか』と言われた気がしました。自分では頑張っているつもりだったけれど、実際は当面業績に追われて自分の仕事をしていただけ。
一方でエンジニア社員は配属先で、ただコーディングをしていただけだった。本当に『何が北海道で一番の会社だよ!』と恥ずかしくなってしまったと同時に、こんなことでは退職されてしまっても仕方がないと思い、引き留めることさえできませんでした。本当に退職してしまった社員に対する申し訳なさと、不甲斐なさでいっぱいでした」
自身の失敗や挫折が、今回のプロジェクトを立ち上げるきっかけになったのですね。
森 「そうですね。こうした体験をしたのとちょうど同じ頃に、クライアントであるNTTデータ四国様と商談後に飲みに行った際に教えてもらったのが、OutSystemsでした。お酒の席ということもあり、NTTデータ四国の方も『超高速開発ができるOutSystemsって知ってる?』みたいな感じで聞いて来て。最初は『何ですかそれ?会社の名前か何かですか?』みたいな感じでしたよ(笑)。
その時に『かなり前からウチで社内勉強会を開催して、エンジニアを育成しながらいくつもプロジェクトをこなしているんだけど……』と前置きをした上で、『開発の生産性が10倍になる』『開発経験のあるエンジニアなら80時間程度勉強すれば使いこなせる』とOutSystemsの取り組みへの真剣度合いやスゴさを語ってくれました」
エンジニア社員の退職と「OutSystemsというすごい開発プラットフォームがあるらしい!」という情報をキャッチしたのとがちょうど同時で、それがきっかけでOutSystemsに注目し始めたのですね。
森「はい。その当時、この武器を使ってまたエンジニア社員と一緒に仕事に取り組みたい!と心が燃えましたね。ただし、その後しばらくは散々な結果でした。まず、2018年当時ではOutSystemsで開発をしている顧客がいない。紹介してくれたNTTデータ四国様以外からOutSystemsが中々聞こえて来ないんです。
そして、当社のエンジニア社員にOutSystemsの話をしても『ローコード開発って自分の開発スキルを捨てるってことなんですか?』とか『Java書いてる方が自分のキャリアとしてはいい方向になると思う』など、あまり芳しくないリアクションが続出し……。顧客もいない、エンジニアもいない、マーケットもないと、三拍子揃って早くも詰んでしまいました」
落胆の中から光明を見出したものの、またすぐに大きな壁にぶつかってしまった当時の森氏。その後このプロジェクトはどうなってしまったのでしょうか。
「自動化」と「リモート勤務」のトレンドを味方につけて、プロジェクトは拡大へ
最初にOutSystemsと出会って約4年が経過し、現在は新たなOutSystemsエンジニアの育成・採用強化を計画するほどになったのですね。
森「そうです。現在では、社内のOutSystemsエンジニアがかなり増えました。ここ数年でIT業界はこれまで以上に『自動化』がトレンドになり、アプリ開発さえも大幅に自動化できてしまうローコード/ノーコード開発がマーケットで注目され、ローコードに取り組むクライアントも案件も増えましたね。ようやくといった感じですが、以前からOutSystemsに取り組んでいたトライアローのエンジニアの価値や競争力も、以前に比べるとかなり上がったと自負しています。
また、2020年に一気に進んだテレワークも追い風になりました。というのも、今まではどんなに大手のクライアント様がOutSystemsを使っていたとしても、その会社が地方にある場合、そこに適切な人員を教育して配属させるのは困難でした。
ところが2020年以降は特にIT業界を中心にリモートの案件が増え、OutSystemsでの開発はリモート開発に向いていることも手伝って、会社の所在地やエンジニア社員の居住地は拘束条件にならなくなりました。こうした背景によって営業現場や開発現場でも『ローコード開発』『OutSystems』という単語が飛び交うようになって来たんです。
最初こそエンジニア社員たちのウケが悪かったOutSystemsですが、徐々にローコード開発エンジニアもキャリアパスの選択肢として認識されるようになり、まずは社内のエンジニア社員数名にOutSystemsの研修を受講してマスターしてもらうところから始めて、今に至ります」
ようやく軌道に乗ってきたOutSystemsエンジニアの育成ですが、今後は育成と採用を同時に行い、より大所帯にして行くという森氏。今後の目標は何でしょうか。
森 「ここで具体的な人数や取引先社数の目標を言うのは簡単なのですが、敢えて私は、『トライアローは働いていて楽しい!と感じられる会社にすることが目標である』と宣言しておきます。
人ってどんな時に仕事が楽しいと感じられるかな?と考えてみると、先程お話をした通り『同じ方向を向いている人と一緒に働けている時』だと思うんですよね。派遣や常駐型SEという働き方はその性質上、同じ会社の人間なのに各々が一匹狼になりがち。
しかし、これからの時代は、今まで以上に自社の社員同士で助け合い、協働し、クライアントの課題を全員で解決をしていく必要性を感じています。それと同時に、仕事のやりがいはそういった同じ目標に向かった瞬間なのではないかと思っています。私は派遣や常駐型SEの業界的な常識を超え、高いレベルでやりがいと楽しさを提供したい。
そして、今後社内でローコード開発のチームが増えて行けば行くほど、リーダーとして旗振り役を経験できる人材も増えていくと思っています。そうしたメンバーの経験や成長に寄与していくサイクルをトライアロー全体で完成させていきたいです。
また、重厚かつ大規模なスクラッチ開発のニーズが限られてきている市場の中で、ローコード技術は、最小限のリソースで短い期間の中、高品質なシステムを顧客に提供するという理想に近づけるツールとして、少しずつ実現への道が拓けてきたのではないかと思っています。そういった状況の中、トライアローのエンジニアは、極限まで生産性を高めて競争力をつけているところです。将来的には力をつけたエンジニアと一緒に、エンドユーザーにサービス提供できる組織を作りたいですね」
今回、自身の挫折体験とともにOutsystemsエンジニアの育成・採用強化について語ってくれた森氏。その根底にあるのは「エンジニアのキャリア形成の役に立ちたい」という想いでした。
顧客の課題解決とエンジニアのスキルアップ、常に両者の幸せを考える森氏のさらなる活躍に期待です。