人材派遣会社が作るアプリって?人手不足によって起きる問題をITの力で解決したい

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▲VRで重機の操作訓練ができるアプリ「重機でGo」が誕生した背景とは

──2022年12月現在、エンジニアの人材派遣を行うトライアロー株式会社で、建設業界向けの自社アプリ開発を行っている島崎氏。具体的には、どんなアプリを制作しているのでしょうか。

島崎 「『重機でGo』という重機シミュレーターアプリを制作しており、現在各種アプリストアでリリースされています。スマホで操縦体験をできるのはもちろんなのですが、VR版の制作も行いました。

重機の操作を体験できるアプリ自体は、そこまで珍しいものではありません。その中で『重機でGo』はとにかくリアリティを追求したアプリです。よくあるグラフィックが美しくてゲーム性が高いものは、それが得意なところに譲るとして、『重機でGo』はJISパターンのほか、実在する重機メーカーの操作レバーの配置を再現し、実際の建設現場で発生しうるシチュエーションを忠実に再現したシミュレーターアプリという特徴があります」

──徹底的に建設現場を再現することに注力されたのですね。

島崎 「そうです。さらに言えば『重機でGo』は当社でカスタマイズが可能で、より実践的な内容をオーダーメイドすることができます。『重機でGo』を操縦訓練に活用したいと考えるクライアントに出向き、実際の建設現場で発生し得るシチュエーションを伺い、それを再現したステージを私たちが制作して納品、といったこともできます。そうすることですぐに現場で使えるスキルを最短で身につけることができるんです。

現在アプリストアで公開されている『重機でGo』は、言ってみれば『体験版』のような位置付けです。本格的に操縦訓練に利用する場合は各々のクライアントのニーズに合わせたステージを作ることができます」

──実践に重きを置いた「重機でGo」ですが、どのような背景で開発に至ったのでしょうか。

島崎 「これまで建設業界の慢性的な人手不足の状態を目の当たりにしてきました。当社と取引のあった福島にある建設会社さんもその例に漏れず、より効率的に重機オペレーターの育成ができないかと悩んでいました。

そんな中で、その取引先の方から『シミュレーターを作れば効率的に重機オペレーターの育成ができるのでは?』というアイデアをいただいたんです。それがきっかけで、『重機でGo』の開発構想がスタートしました。

加えて、今後外国籍の方が建設業界に就労する機会がさらに増えていくことが予測されます。日本語でも説明が難しい重機の取り扱いを、正確に説明するのは至難の業です。ところが、『重機でGo』のVR版を使えば言葉による説明よりも遥かに早く操縦方法を体得できます。今後、多様な属性の人たちが働き手になる中で最短でスキルを身につけられる方法としてぜひ『重機でGo』を活用してほしいですね」

──実際に建設業界の方々に接してみて、「重機でGo」の評判はいかがでしょうか。

島崎 「重機の操縦訓練としてはもちろんですが、若い人たちに建設業界に興味を持ってもらうためのイベントなどで『ぜひ使いたい!』というお声をいただくことが非常に多いです。というのも、ゼネコンを始めとした建設業界の会社は、どうしてもマーケティング活動がBtoBに偏りがちでBtoCに対して自分たちの業界のことや会社のことを知ってもらうPR活動の方法がわからないという会社が多かったのです。そうした中で、『重機でGo』のようなゲーム要素のあるものは非常に使い勝手が良かったようですね。

そういったイベントを通して若い人たちに興味を持ってもらえたら将来的な人手不足の解消にもつながりますし、ぜひ今後もそういったシーンでも『重機でGo』を活用してほしいです」

ITに馴染みが薄い業界だからこその難しさと楽しさ

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▲ITの力で効率化できる余地が広い業界ゆえの苦労も楽しさもあると語る島崎氏

──最近でこそ「建設DX」という言葉が叫ばれるようになりましたが、建設業界は職人さんのスキルに依存する作業も多く、なかなかIT化や自動化が難しい業界と言われてきました。そうした業界に飛び込んでいくのには、苦労もあったのではないでしょうか。

島崎 「トライアローでは現在、『重機でGo』のほかにもコンクリートの積算を自動化するアプリの開発などにも取り組んでいて、たびたび建設現場に足を運んでいます。ただ現場の職人さんからすると、自分たちが経験値で体得してきたものをIT機器ひとつで代用されるのでは?と思う人もいて、そのあたりの苦労がないと言えば嘘になります。

私たちは現場の職人さんたちの仕事を奪おうとしているのではなくて、定型的な業務をITの力を使って省力化しようとしているんですね。その分、その人にしかできない仕事に集中してもらえる環境を作ろうとしているんです。そういった私たちの想いをもっと理解してもらうには、まだまだ努力が必要だと感じています」

──逆に、建設業界ならではの楽しさを感じる場面はあるのでしょうか。

島崎 「もちろんありますよ。建設業界はITに馴染みの薄かった業界だからこそ、クライアント側が『まさかこんなこと、解決できるはずがない』と長年思い込んでいるだけで、実はITの力を使えば解決できることが結構ある業界と言えるかもしれません。現場に足を運ぶことで、クライアントがまだ言語化できていない課題を予想しながら仕事に取り組むようになりました。

日々、他業界の人が感じている不便や苦労を知って、なおかつそれを自分たちの能力やスキルで解決できるというのはエンジニアとしての最大の喜びです」

トライアローだからこそ作れた「重機でGo」

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▲「重機でGo」VR版の操作画面

──約30年間エンジニア一筋として歩んできた中でも、人材派遣の会社で自社アプリの開発を行うのは初めてだそうですね?

島崎 「もともと技術畑で、電機メーカーの中のアプリ開発の部門やソフトウェア開発会社に勤務していました。人材派遣の会社でGoogle PlayやApp Storeに出すような自社アプリ開発をやるというのは、私にとっても、トライアローにとっても初めての経験です。それ故に『重機でGo』はトライアローだからこそ作り出せたアプリなのではないかと思っています」

──これまでのメーカーやソフトウェア開発会社での経験とはどういった点に違いを感じるのでしょうか。

島崎 「トライアローは、エンジニア社員も営業も、常に一丸となって現場で起きている課題に向き合ってきました。だからこそ、今現場の人たちが悩んでいることをいち早くキャッチアップできることが最大の強みだと思っています。

通常、こうした企業向けのシミュレーターアプリの開発をしようとすると、実際に課題を抱えている現場とITエンジニアとの間に距離があり、一種の伝言ゲームのようになってしまうことがあります。その結果、丹精込めて制作したアプリが実は現場のニーズと少しズレていた、なんてことは業界的にもよくあることでした。

その点で、トライアローは課題を抱える建設業界と、私たちアプリ開発の現場が直結しているんです。世の中にゲーミフィケーションアプリの開発を得意とする会社は数多ありますが、すぐに現場に駆けつけて課題を聞けるのは、人材派遣や業務請負によって現場をよく知るエンジニア社員が働く当社だからこその強みだと実感しています」

──人手不足に苦しむ現場を一番近くで見てきた企業だからこその実践的かつ細やかな気配りができたアプリが「重機でGo」なのですね。

「あの会社はよくわかっているよね」と言われる会社に

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▲国土交通省主催のイベントで登壇した際の島崎氏

──徹底的に「リアルな現場」にこだわったアプリ「重機でGo」ですが、今後の展望を聞かせてください。

島崎 「直近では、操縦できる重機のバリエーションの強化が必要だと考えています。バックホーに始まり、最近はフォークリフト版も完成しました。他にも、除雪機やクレーン車などを制作していこうと思っています。

とくに除雪機に関しては積雪が多い地方の自治体などからの引き合いがすでに複数来ています。東北や山陰地方で、かつ高齢化と人口減に苦しんでいる地域は、まさに今日お話しした建設現場と同じような課題に直面しているんですね」

──たしかに、地域によって人口減少の速度にも違いがあり、とくに深刻な地方ではスムーズな技能継承が課題になりますね。

島崎 「トライアローは、長年『現場』に寄り添って来た会社です。VRアプリを開発している会社は、ほかにもたくさんあります。最新鋭の技術が得意な会社、美しいグラフィックが売りの会社などさまざまな特徴があるでしょう。

その中でトライアローは、重機や建機など特定の分野で『あの会社はよくわかっているよね』と言われるような会社になりたいと考えています。建設現場とアプリ開発の現場が直結している強みを活かして、現場で『気づく』能力のある人がどんどんと育っていくようなチームにして、本当に現場がほしいもので勝負していきたいと思っています」

──人材派遣事業とのシナジー効果を生み出しながら生まれた「重機でGo」。それに続く建設DXアプリも開発中の島崎氏の挑戦は続きます。