入社したのは“ぼっち部署”。周囲の冷ややかな目に負けずに立ち向かった

2022年7月現在、トライアローで広報・プロモーションを担当している竹達氏。その業務内容は多岐にわたります。

竹達 「メインは自社Webサイトを使った新規応募者の獲得のためのWebマーケティングですが、そのほかにもプレスリリースの作成や配信、各種販促品、パンフレット、DM、LPなどの制作ディレクション、メディアや報道機関からの問い合わせ対応といった『会社の情報を外部に開示する業務』の全般を行っています。さらには、各拠点の営業メンバーや支店長等へ展開するデータの収集や分析、資料作成、社内報の制作など、社内の情報共有も仕事の1つです」

まさに、会社の顔として社内外への情報発信を一手に担っている竹達氏ですが、2012年にトライアローへ入社してから数年間は、うまくいかないことも多かったといいます。

竹達 「大学卒業後、求人広告の営業やセールスコピーライターとして働いたり、専門学校で学生募集のための自社サイトを使ったWebマーケティングを経験したりした後、トライアローへ転職しました。私が27歳のときのことです。

当時、トライアローには自社プロモーションや広報を行う部署がなく、立ち上げ要員としての採用でした。しかも、配属先はメンバーが私だけで、直属の上司は社長という“ぼっち部署”。最初の仕事は自社サイトの構築でしたが、私自身求人検索機能があるような規模のサイトをゼロから制作するのは初めての上、周囲にその意義や効果を理解してくれる社員は決して多くはありませんでした」

人材派遣会社はいわゆる“営業会社”で、利益を生み出すのは営業職の社員と派遣メンバーです。人事や総務、広報といった間接部門には、ほとんどスポットライトが当たりません。

竹達 「とくにトライアローは40年間黒字経営を続けている優良企業のため、自分たちが会社を支えて来たという自負がある営業から見れば、『異業界から急にやってきたルーキーが、会社のお金を使って何やらよくわからないことをやっている』という感じだったのかもしれません。当時、支店の叩き上げのトップ営業マンにはすごく恐怖心があって、毎日ビクビクしていたのを覚えています(笑)」

「ここで腹をくくるしかない」社長に直談判して行った、全国営業会議での発表

article image 2
▲久々に入社当時のことを回顧する竹達氏

「このままでは、ずっと“会社のお荷物”扱いだ」と考えた竹達氏は、積極的に周囲に働きかけていきます。

竹達 「まずは社長に直談判して、各地の支店長や営業職の社員が出席する『全国営業会議』で発表時間をもらい、自身がやってきたコーポレートサイトのアクセス解析情報を開示して、自社サイトへのアクセス数、応募数、採用数、それから応募率や面接率、採用率などさまざまな数値を全部さらけ出しました。その際、営業の現場とは違った視点で現状を分析した考察などを加えるようにしたんです。

日々、売上や契約件数といった数字に向き合っている営業職の社員に認めてもらうには、こちらも同じように数字で示すことが近道だと考えました」

さらに、直接部門と間接部門は共に目標を共有する立場であり、決して対立する存在でないことも訴えました。

竹達 「自分がやっている仕事は営業活動のサポートにつながること、自分も売上に貢献しようと数字を一緒に追っていることを伝えました。そして、『アクセス数を集めて応募数を稼ぐところまでは私の力でなんとかできます。だけど、面接率や採用率を上げるのは私の力だけではできません。だから営業の皆さんと一体となって取り組んでいきたいんです』という想いを伝えました」

本来、全国営業会議での竹達氏の役割は、議事録の作成でした。営業会議で営業職以外の社員が発表をした前例もなかったといいます。中途半端な発言をすれば、ますます自分の立場を危うくするかもしれない状況で、あえて発表をした竹達氏の想いとは、どういうものだったのでしょうか。

竹達 「与えられた仕事に甘んじているだけではダメなことも時にはあります。自社についてとことん考え、長い目線で企業イメージを醸成していくプロモーションという仕事には魅力を感じていました。それが売上に貢献していける、という自信もありました。だったら、それをちゃんと理解してもらおう。自分の居場所は自分で作ろうと腹を決めたんです」

本社・広報と支店・営業が両輪駆動の関係に。少しずつギアが噛み合っていく喜び

article image 3
▲2022年7月現在の支店の営業メンバーと本社メンバーとのミーティングの様子。着実な変化の積み重ねでここまで来ることができました

覚悟を持って臨んだ『全国営業会議』をきっかけに、周囲の竹達氏への態度は少しずつ変わっていきました。

竹達 「自分から積極的に動いたことで『あいつ、意外にやるな』と思ってもらえたのかもしれません(笑)。ただ、一度きりのパフォーマンスでは意味がない。そこで、その後も定期的に報告の時間をもらい、結果やミッションに対してストイックな姿勢をアピールし続けました。また、当時心がけていたのが『すごく小さな約束を必ず守る』ことです。その『約束を守った』事実を何十、何百と積み上げることを通して、『使っているスキルが違うだけで、営業の皆さんと同じミッションを共有している』ことを、口だけではなく態度と結果で示すようにしました。

すると、徐々に支店の営業の皆さんから『こんなデータは本社で持ってない?』と頼られたり、『こんな施策を考えているんだけど、営業だけで盛り上がっても仕方ないから、広報の意見を聞かせてほしい』と意見を求められたりするようになってきたのです。少しずつギアが噛み合っていき、本社・広報と支店・営業が両輪駆動の関係に成長していくのをひしひしと感じました」

竹達氏の働きかけは、会社全体の風土にも変化をもたらしました。

竹達 「一般に営業職というのは、競い合うことでモチベーションを保つことが多いように思います。トライアローの支店同士も、同じ会社でありながら良きライバルという側面もありました。そうした関係においては、成功事例こそ共有されますが、失敗事例はわざわざ表には出しません。

でも、実はうまくいかないことも貴重なデータです。それがあらかじめわかっていれば、他の支店も違う方法を考えたり、アプローチする領域を変えたりすることができますから。無駄をなくして、効率的に営業活動を行うためには、どんな情報も共有することが重要です。

当時はそこまでわかってやっていたわけではありませんが、私が良いデータも悪いデータも隠さずに開示し続けたことで、『うまくいかなかったという事実も役に立つデータである』と考え、支店の失敗やそこから工夫したことなどを共有してくれる人が徐々に増えていったと思います」

「本音では、せっかく頼ってくれる人が増えたのにうまくいかなかった報告をするのはつらかった」という竹達氏。しかし結果的には、この率直な姿勢が、本社・広報に対する信頼感を増すだけでなく、本社・広報をハブとして支店同士のつながりを強めることにつながったと回想します。

“新しいトライアロー”という企業の魅力を伝える。これからが広報の腕の見せ所

article image 4

創立40年を迎えた老舗企業であるトライアローは、変革のときを迎えていると竹達氏はいいます。

竹達 「2022年現在、トライアローは、『人材を派遣・紹介する会社』から、『人手不足によって発生する課題を、技術と人の組み合わせで解決する会社』になるべく、営業も本社メンバーも関係なく一丸となっている最中です。

たとえば、太陽光発電所でソーラーパネルの点検員20人を派遣してほしいという依頼があったとします。人手不足の日本で、20人の人材を集めるのは実は簡単ではありません。そこでトライアローは、『ドローンを使って赤外線カメラで撮影することで、不具合がありそうなパネルをあらかじめ特定してから点検員を向かわせる』と提案するのです。これなら、人員は5人ほどいれば十分です。

ドローンや専用アプリなどテクノロジーの力を導入することで、5人で20人分の働きをすることができれば、単純計算1人あたり4倍の生産性になりますよね。私たちが作成したこれらのツールやアプリ、スキームを、お客様に引き渡しても良いと考えています。

このように1人当たりの生み出す付加価値を最大化させ、各現場に応じて適切な技術と人材を組み合わせて提案することを、トライアローでは『価値創出型アウトソーシング』と呼んでいますが、今後はこうした方向へ舵を切っていきたいと考えているんです」

それを社内外に浸透させていくのが、まさに広報としての本領発揮、腕の見せどころだと考えている竹達氏。

竹達 「今後、日本の労働人口が減っていく中で、単に人と企業をマッチングさせるだけのビジネスモデルは早晩立ち行かなくなっていきます。もっといえば、1人当たりの労働生産性を上げていかなければならないのは、人材派遣業のみならず日本全体の問題でもあると思います。そうした現状において、今まで長年にわたってさまざまな業界にエンジニアを送り続けてきたトライアローの強みは、現場がどんな問題に直面しているのかを高い解像度で知っているということです。

現場でまさに今起っている問題がよく見えているからこそ、それを解決するソリューションをいち早く提案することができる。そうしたトライアロー独自の価値をしっかりと伝えていくことが、広報・プロモーション担当としては腕の見せどころ、頑張りどころだと思っています」

「どんなサービスをスタートさせても、一定の信用や信頼を得られるのは老舗企業のありがたいところですが、だからこそ長年続いてきた『トライアロー=人材派遣会社』というイメージを払拭するのはなかなか難しい」と苦笑いする竹達氏。しかし、あるときは思い切った行動で、あるときは粘り強い働きかけで、常に周囲を巻き込みつつ変化させてきた竹達氏なら、きっと実現させるに違いありません。