第一印象は「お堅い会社」。知って驚いたトヨタの柔軟性

私は昔から、ものづくり全般が好きでした。

昔からよくものづくりをしていたのですが、それを見て、人が「すごいね」「おもしろい」と言ってくれるのがうれしかったのです。今も、自分がつくったものを誰かに触って喜んでもらいたいという思いが常にあります。

大学では電子機械を専攻し、物体認識の研究で、安価なUSBカメラ一台だけでどこまで物体を認識できるのかという技術に取り組んでいました。画像認識の需要が高まる中、将来的に、手頃なデバイスを使った物体認識技術が重要になってくるだろうと予測していたからです。

そして、新卒で電気通信事業者に就職。そこでは、SEとしてソフトウェアをつくり、それをお客様に納めるという仕事をしていました。

ただ、それを繰り返すうちに私の中でこんな気持ちが芽生えてきたのです。「自分がユーザーとして買えるような、一般的な製品をつくっている会社で、ものづくりをしてみたい」と。 

転職先を探し始めたとき、トヨタがクルマのOSをつくろうとしているのを知りました。もともと私の中でのトヨタは、クルマというハードウェアに徹する古風な気質の会社というイメージがあったので、ソフトウェアについて真剣に取り組む姿勢を知った時は意外でした。巨大な組織ゆえに保守的な体質だと思っていた企業が、どこよりも革新的な取り組みを始めている──そんなトヨタに興味が湧いたのです。

それでご縁があり、2008年にソフトウェア開発を行う部署に入社しました。

現在は社内の公募制度をきっかけに、MaaS事業部へ異動。トヨタにはいろいろな社内公募があり、特定の部署のメンバーを募集する公募もあれば、アイデアを募集してスタートアップ的に立ち上げていくという公募もあります。

私は後者のタイプの公募に手を挙げて、クルマをもっとオープン化しましょう、サービス化してしまいましょうという提案をしたところ採択され、業務を立ち上げました。ほどなくして同じ方向性の事業を行う部署(のちのMaaS事業部)が発足され、発足初期から参画し、今に至ります。

スタートは、社内公募。かつてないスピード感で進める自動運転車の開発

▲トヨタ入社後の部署メンバーと

MaaS事業部では、自動運転技術の会社と連携して、自動運転車の開発を進めています。

「トヨタのクルマをこうつくり替えるから、自動運転キットをこうつなげましょう」という会話を進める中での私の業務は、クルマと車両制御技術をつなげるための仕組みをつくること。

トヨタは「すべての人に移動の自由と楽しさを」というミッションを掲げていますが、この部署の仕事は、そのミッションの実現に大きく関わっていると思います。

今、私たちが目指しているのが、価格カテゴリによらずお客様がチョイスしたどのクルマにも自動運転をつけられる技術の実現です。自動運転技術を高級車だけのものにしたくないという思いで、誰にでも使いやすいビークルプラットフォームをつくろうとしているのです。

誰にでも使えるという意味では、私が大学時代に研究していた、安価なカメラでの物体認識の研究にも共通点があるかもしれません。裾野の広い、より多くの人への波及効果がある開発は、やりがいを感じることも多いです。多くの人が笑顔になることを願いながら開発に取り組んでいます。

今トヨタが掲げているソフトウェアファーストという言葉をご存知でしょうか。私はこの言葉を、世の中のニーズを素早くキャッチして実現しようという姿勢だと捉えているのですが、その意味で、今の仕事はまさにソフトウェアファーストです。

通常は、一つのクルマが世に出てから次のモデルが出るまでに年単位の時間がかかります。でも今の私たちの仕事では、お客様のニーズをもとに、自動運転技術の会社と試行錯誤しながら中身を変えていきます。今までのトヨタの開発とは違うスピード感で仕事をしています。

このようなかつてないスピード感で全く新しい仕事をしていると、これまで当たり前だと思っていたトヨタとしての考え方がブロッカーになることもあります。このやり方でトヨタの品質を担保してきたので、もちろんそれ自体はとても大事で、否定できるものではないのですが、状況によっては新しい取り組み方を取り入れるべきです。

そのことを、チームのメンバーや、上層部の人たちは理解してくれています。そのおかげもあり、今までのトヨタの文化を一変させるようなやり方で仕事をすることができているのです。

フラットな関係を大切に。多彩なメンバーを率いるマネージャーとしての工夫

▲大学時代の一コマ

いま私がマネージャーを務めているグループには、16名のメンバーがいます。メンバーはバラエティーに富んでいて、他社から出向している専門性の高いメンバーや、キャリア採用で入社した若いメンバー、中にはイタリア人のメンバーもいて多様性にあふれています。

アメリカや中国といった海外の国との取引が多いため、日本人に限らず、さまざまなスキル、文化背景のある人材の必要性を感じています。

グループマネージャーとして個人的に気にしていることは「偉そうにしない」ということです。私自身、リーダーっぽく偉ぶっている人が苦手ということもあり、メンバーとはフラットな関係でいたいと思っています。

そのためか、特に意識しているわけではありませんが、ミーティングのはじまりのアイスブレイクではざっくばらんに会話をすることが多いです。人によってはそれが無駄な時間だと思うかもしれませんが、不要な心理的ハードルをなくして話せる相手でいたいのです。友だちのようにとまではいきませんが、部下が自分にくだらない話もできるような心地良い距離感をつくりたくて、普段から工夫しています。

マネジメントとしては、基本はメンバーの自主性に任せる放任主義のスタンスですが、メンバーに不要な責任を押し付けるつもりもありません。最後は私がグループマネージャーとして責任を取るので、メンバーにはゴールを目指してまっすぐ恐れず向かってほしいと伝えています。もちろん危なくなったらきちんとアラートを出しますよ。

おもしろいものを常に探して、トヨタで新しい取り組みにチャレンジしたい

チームとしては、今、うれしいことに仕事がどんどん増える状況にあります。ただ、仕事が増えても人員が同じペースで増えているわけではないので、疲弊感が出ている部分も正直あります。

そんな中で仕事の量を減らし、負荷を下げるということはなかなか難しいですが、たとえば、メンバーががんばっていることに対して私が一つひとつきちんと中身を見て感謝を伝えるなど、心理的にも山谷や区切りをつけて、雰囲気を変えることによって彼ら彼女らが疲弊しないように工夫しています。

それでも、忙しさの波がピークの時に、殺伐としがちなことは課題だと思っています。波のピークは一人ひとり違うのですが、それを迎えている人の気持ちをどう解きほぐせばよいかというのを考えるのが、チームとしての課題と考えています。

チームビルディングの理想としては、私は「チームが自己組織化された状態」を目指しています。リーダーが全員に指示を出すのではなく、一人ひとりが、自分が何をすべきかを自分で考えて、正しいゴールに向かって走ることができる組織にしたいのです。

リーダーはあくまで目標設定と、そこにいつまでにたどり着こうかという大きな指針を示すだけ。そこにどう行くか、行くための道具をどうつくるかというのは、それぞれが一番良いと思う方法を考えてやってほしい。

「個人商店化する」という表現が、私の理想に近いと思います。この言葉はよく悪いニュアンスとして使われますが、私は、個人商店には大賛成です。個人商店を推し進めて、その集まりである商店街をつくりたいと考えています。

商店街は、個人がお店を運営していて、それぞれ売っているものも経営方針もバラバラです。ですが、商店街を盛り上げようという大きな方向性は一致しています。方向性を同じくしたまま、個人商店に大いに力を入れてほしいと思っているのです。

私個人としての今後の目標は、もうあと1〜2つほど、今までのトヨタでやっていなかった新しい事業を打ち上げたいと思っています。自動運転技術に限らず、何か別のおもしろいことを探していきたい。そうやって、トヨタの中でずっとチャレンジしていたい。

こういうサービスができたら自分は使うかなとか、こういうのがあったら結構ハマるな、などを考えている時が一番楽しいんです。考えているとバチンとはまる瞬間があって、そういうのがあると「あ、これいける」と思ってやりたくなってしまうんですよね。

そうやって考えているときの軸は、ユーザーの一人として、それがある世界に自分がワクワクするか。その視線でいつも、おもしろいことを探しているのです。