「不毛地帯の世界観に憧れ、商社の世界へ」時代を彩る商社人誕生の瞬間

▲捨てられるはずだった食材から色を抽出し、商品に生まれ変わらせる

2015年2月にプロジェクトの産声を上げた「FOOD TEXTILE」。カット野菜の切れ端や形の不揃いな規格外の食材、コーヒーの出し殻などを食品関連企業や農園から買い取り、それらを染料にして生地を染め上げるサステナブルなプロジェクトブランドである。

今年で7年目を迎える同ブランドは、食品とアパレル業界の架け橋として食べ物が持つ「色」に着目。食材を染料化する独自の技術とさまざまな食品関連企業から提供された食材を活用し、オリジナル商品を展開してきた。

また、豊島が食材の調達から染料の抽出まで一元管理し、徹底したトレーサビリティとサステナビリティを担保することで、ドメスティックブランドのみならず海外のハイブランドともコラボ企画の実績を持つ。

豊島を代表するサステナブルブランドになりつつあるFOOD TEXTILEのプロジェクトリーダーを務めるのは、名古屋製品部に所属する谷村 佳宏。

普段はメンズ・レディスのヤングカジュアルアイテムを企画提案している傍ら、FOOD TEXTILEのビジネスにも主体で携わる。

そんな彼が商社業界の門を叩いたのは15年前に遡る。商社マンの生き様を描いた小説『不毛地帯』に感化され、「海外との商売で大きな金額を動かせること」に自身の人生を捧げる覚悟を決めたのだ。

谷村 「ずっと続けてきたサッカーの経験が、『不毛地帯』を見て憧れた商社のイメージとリンクしたのがきっかけでした。サッカーでは全体のバランスや試合の流れを読みながら、個人の動きや駆け引きなどに落とし込み、ゴールを決めたり時には外したりすることがあります。

商社でも社会の流れを見てビジネス戦略を組み立て、その中で営業として自走し、儲かるときもあれば損をする場面もある。『不毛地帯』のような“息を呑む駆け引き”も含めて、商社業界に自分の将来をリンクできたんです」

商社の中でも、「ビジネスをどう動かしているか」がより明確に分かる専門商社を選んだ。特にゆずれなかったのは、中で働く「人」だ。

谷村 「商社で何億ものビジネスを動かすことは、誰かから発注をもらい誰かに助けてもらうことで成り立つため、中心で手綱を握る『人』の力が左右します。『この人と一緒に何かしたい』、『この人になら巻き込まれても良い』そう思える仲間がいたら、苦しい時でもあと一歩が出ます。部活動で得たこの価値観も含めて、人の魅力が引き立っていると感じた豊島への入社を決めました」

そんな谷村の初期配属は、思惑とは異なり人事部であった。

営業希望で入社した谷村ではあったが、豊島の武器となる「人」の採用に携わる過程で、戦略やブランディングなど今後に生きる経験値を積んでゆく。

そして4年目に、第一希望であった名古屋製品部への配属が決まった。

ビジネスに没入する中で感じた「当たり前への違和感」

▲内定者時代の谷村(前列左から2人目)

谷村 「配属先の部署は若くて勢いがあり、新しいものを生み出して前に踏み出す力を持つ社員が多く在籍していました。一言でいうと『The 豊島』のような環境です。そこでメンズ・レディスのOEMのモノづくり・提案営業のすべてを叩き込まれました。

OEMの営業は、小売店よりも上流のアパレルメーカーへ提案するため、素材や色味など市場のトレンド要素を俯瞰で見ながら関わっていきます。陰でアパレルメーカーの手綱をコントロールする戦略的な要素も必要で、人事で経験した採用の戦略立案の経験も活きました。反面、納期遅れなどトラブル時は大変でした」

谷村の顧客であったアパレルメーカーは納品先に複数の小売店を抱えており、ひとたび豊島からの納品が遅れると、裾野に広がる無数の小売店へも多大な迷惑がかかることにつながる。谷村も、若手のころに大きな納期遅れのトラブルに見舞われた。

谷村 「なんとか納期を間に合わせるため、中国奥地の工場にも生産拠点を分散させ、全力でハンドリングを試みましたが、納期遅れで値引きになる品番もあり、部署にも顧客にも大きな迷惑をかけてしまいました。

ただ、得たものもあります。若手のころにハードなトラブル対応という修羅場を体験できたからこそ、交渉術や生産マネジメントなど、顧客との信頼関係構築に欠かせない経験を得られたのは、自身のビジネススキルや自信の醸成につながりました」

結婚し家族が増えたことにより、谷村は仕事と家庭を両立させるため、いっそう精力的にビジネスにのめり込んでいく。一方で、ある問題意識も膨らんでいった。

谷村 「市場規模が縮小するアパレル業界で、“多品種・小ロット・低価格化”という高い顧客対応レベルを求められ、工場も社員も振り回され続けていました。ファッション業界はアナログな商習慣もあって、長時間労働が当たり前のようにまかり通っています。

このビジネスモデルを続けても先は短いし、会社も家族も幸せにできません。全員が生き残るためには、自分が何かを変えなくてはと活路を模索していました」

そのころから谷村は、本業の合間を縫って「異業種交流会」に参加し、新たなビジネスの種を探し続けた。

そんな中、大手食品メーカーとの運命の出会いが谷村の人生の歯車を動かしていく。

ビジネスの歯車を動かしたのは、食品メーカー社員の「何気ない一言」

▲CONVERSEとコラボしたスニーカーは、サステナビリティを追求しながらもファッション性も高めたアイテムとして注目を集めた

「カット野菜をつくると、使わずに捨ててしまう部分が大量に出るんです」

異業種交流会で出会った大手食品メーカーの社員がこぼしたこの一言が、FOOD TEXTILEがはじめの一歩を踏み出すきっかけとなった。

売れ残りや期限を超えた食品や食べ残しなど、本来食べられたはずなのに捨てられてしまう、いわゆる食品ロス問題。当時はまだそこまで広く知られている問題ではなかったが、食品メーカー側は大きな問題として悩みを抱えていた。

一方ファッション業界でも、供給過剰などによる新品衣料の廃棄問題がじわじわと問題視され始めていたタイミングだった。

谷村 「その時、野菜と衣服の異なる分野同士を“染料でつなぐ”というアイデアが浮かびました。豊島が持っているサプライチェーンの中には、天然物を原料としている染色メーカーもあるので、廃棄食材を染料にしてプロダクトとしてアップサイクルさせることは、探し求めていた『新しいビジネスモデル』のイメージに合致しました」

アイデアの種をもとにサプライチェーンをくまなく当たった結果、食材から成分を抽出し、独自の技術で染料を製造できる染色工場が見つかった。

レタスから染めたTシャツ、ムラサキキャベツから染めたバッグ、ブルーベリーから染めたネクタイ──

新たに得たネットワークと技術を武器に、大手食品メーカーのCSR部門に企画を売り込み続けた谷村。しかし当初は、聞いたことのない繊維商社の一営業が語るビジネスアイデアに理解を示す企業は少なかった。

谷村 「提案は難航しましたが、勝算もありました。肥料やエサの残りを二次加工したリサイクル商品はすでにありましたが、廃棄食材から色という価値を抽出し、新たな商品に生まれ変わらせるアップサイクルのビジネスはなかったからです。

『単に儲かるビジネスだから乗っかりませんか?』ではなく、廃棄予定のものを再利用することで、どのようなストーリーが生まれてどんな世界観だから消費者に共感されるか、地道に示し続けました」

谷村は食品メーカーへの訪問だけでなく染色工場や農園にも足を運び、それぞれが普段どのような想いを持って食品を出荷しているのか、作り手側の想いを切り取ることにも注力した。

その結果、徐々にプロジェクトに共感する企業は増えていき、サステナブルに対して厳しい目線を持つ海外のハイブランドとの実績も着実に重ねていった。

ファッション本来が宿す高揚感と、人としての本能的な欲求がビジネスの勝算

食材を提供してくれる食品関連企業や農園、珈琲チェーン店は徐々に増えていき、FOOD TEXTILEもブランドとして複数の商品ラインナップを設けるまでにいたった。

一方で、コスト面の課題に直面した。FOOD TEXTILEの染色加工費は一般的な化学染料の3倍、最終製品価格でも従来品の2倍近くにまでなり、その価格差を消費者にどう納得してもらうか、頭を悩まされた。

谷村 「サステナブルやエシカルといった考えは、決して消費者側に押しつけるものではないと考えています。『社会貢献になるから少し高くても買いますよね?』という義務感に訴えても、消費者の納得感は得られません。

あくまで、『この商品の色、とてもキレイ!』『デザインが洗礼されている』『これ着て街を歩きたい!』といった、ファッション本来が持つワクワク・ドキドキを起点に、商品開発に臨むべきだと考えます。商品そのものに惹かれて手に取ってもらったあと、『実は食品ロスの問題解決に貢献できていた』という事実がわかる方が、よりポジティブに消費活動が進んでいくと思います」

FOOD TEXTILEならではの高揚感やワクワク感を訴求し、ブランドとしての次元を上げるため、谷村はコンセプトを進化させてゆく。

谷村 「FOOD TEXTILEの色は、すべて自然界の食材自体が持つ色から抽出されるため、本質的に人に安心感を与えることができます。また、食物が持つ栄養価の高さが、抽出できる色の濃さに比例するおもしろい一面もあります。あくまで、トレンドを追いすぎたファッション性ではなく、生物としての人間が太古から持つDNAレベルのストーリーを大切にしているのです。

『衣食住』という言葉がなぜこの順番になったか諸説ありますが、まず赤ちゃんが生まれたら“おくるみ”で包まれ、お母さんの“母乳”を飲んだあと、“ベッド”に寝かされるから、『衣食住』という順番になった説があります。

衣と食は、人間の摂理の中でも最初に本能的に求めているもの。魂の部分で人の欲求を司っているシグナル同士のコラボレーションだからこそ、本能レベルで消費者に選ばれるブランドになれると信じています」

2020年に6年目を迎えたFOOD TEXTILEの事業は、2019年に制定された食品ロス削減推進法の追い風もあり、売上は昨対の3倍まで急伸した。

情熱を持った一人の社員の「このままではまずい」という問題意識と、「新しいビジネスモデルを探し求める」というハングリーな姿勢が、世の中を動かす大きなムーブメントになろうとしている。

FOOD TEXTILEはこれからも自然と共生しながら、自然の力を身にまとい、人間の本能に直接語りかけるビジネスであり続けるだろう。