筋肉質な体系がコンプレックスに──ファッションへのこだわり誕生の始点
後藤は、兵庫県ではアメフトの名門として知られている啓明学院中学校の出身。そこで後藤はアメフト部の2期生として、スポーツ人生をスタートさせた。
後藤 「創部2年のアメフト部ということもあり、最初は80-0で負けるくらいの超弱小チームでした。しかし、入部した翌年にグラウンドに人工芝が入った辺りから、徐々に試合でも勝てるようになり、高3のころには全国大会に出場できるレベルまで一気に成長しました」
そうした中で後藤は徐々にプレイヤーとしての頭角を現した。中でも、「タッチダウン数」と「総獲得ヤード数」の同校記録に関しては、10年以上経った2020年現在でもいまだ破られていない。
後藤 「自分しかランニングバック(ボールを運ぶポジション)がおらず、6年間フルでレギュラーだったことが、記録につながった一番の要因だと思います。部員数も少なかったため、一人ひとりがポジションごとに追う責任と、任される範囲が段違いに大きかった。『任される』とか『裁量』という価値観は、そのとき自分の中で大きくなった気がします」
後藤はアメフトのほかに、もうひとつ情熱を注げることがあった。それは「ファッション」である。
後藤 「中学のころから周りにファッション好きが多く、『こんな服買った』自慢をしあっていました。今でも、ニューヨークでファッション系の輸入代理店をやっている友人や、独立して海外ブランドやヴィンテージアイテムの輸入卸をやっている弟がいて、互いに切磋琢磨しています」
そんな後藤も、ファッションに関して強いこだわりを持っている。それは、自身が抱えていたある“コンプレックス”が関係していた。
後藤 「中高アメフト部でついた筋肉のせいで、似合う服がほとんどなかったんです。周りが着こなす服も、自分だけサイズが合わないことが多くて……。それでもオシャレを諦めきれなかったので、いろいろ工夫しました。
オーバーサイズのストリートブランドに走ったり、モード系で細い服でも、ストレッチが効いたものを選んだり、もともとサイズ感の大きいヴィンテージアメリカのブランドを試してみたり。なんでも似合う体型じゃなかった分、いろいろ回り道して触れて試したことが、今のスタイルやこだわりにつながったんだと思います」
そんな後藤が就職先として選んだのは、ランニングバックというポジションで感じた「裁量」と、ファッションへの「こだわり」をビジネスとして昇華できる繊維商社、豊島であった。
タスク量を処理能力が上回る──全体最適がとれるビジネスマンへと成長
「メンズがやりたいです!」
後藤は人事部にそう熱望し、現部署であるメンズカジュアル部門の母体となるメンズ部隊に配属された。もともとファッションの知識はそこそこあり、こだわりも強かったので、期待に胸を躍らせていた。だが、さっそく思わぬギャップに悩まされることになる。
後藤 「担当することになったブランドが思っていたよりも安いゾーンで。もともとヴィンテージなどの細かいものづくりが好きだった自分としては、葛藤する時期がありました。
お客さんへの納入単価が安いと、素材の価格を下げたり、安くてグレードの低い工場へ振り替えたりと、どうしても妥協しないといけない局面が出てきます。『本当はこうしたら格好良くなるのにな……』というジレンマを日々抱えながら悶々としていました」
当時の上司からも「お前のこだわりを反映した商品はもうからん。もっと全体を見て決めていかないと」と指摘された。
後藤 「今でこそ時流が変わり、本質的に良いものじゃないと売れなくなってきていますが、当時はとにかく安いものを量産するものづくりで。トラブル頻出でコストも合わず、一面壁だらけでした。出荷後に検品不良が発覚し、アウター10,000枚を全量検品したこともあります。
2年目の社員に10,000枚のオーダーに対するジャッジをすべて任せてくれている裁量には感謝していましたが、上司の言う『全体を見る』という意味がわからず、苦労の方が勝っていました」
ところが入社して2年半経ったころ、後藤の状況に光が差し始めた。
後藤 「商流の組み立て方や利益の残し方など、何かがわかったタイミングがありました。ひとつのブランドと商売する際にも、商品Aは希望プライスに合わせるために安い素材をあてがいコストを合わせる。反面、売れゆきが見込まれる商品Bはクオリティを高め、原価率を上げてもらうなど、単発ではなく発注枠全体で調整することで、利益を残せるようになりました。
タスク量とその処理能力が釣り合ってきたんですかね。お客さんと『点ではなく面で』取り組み始めたとき、能力がタスク量を上回り、見える世界が変わった気がしました」
タスクに追いかけ回されるビジネスから、自分でコントロールするビジネスに進化をとげ、繊維商社のビジネスにおもしろみを感じられた後藤。同時にお客さんから持ちかけられる案件の数も、飛躍的に伸びてきた。
チーム後藤で勝ち取った成果──2年で10万本売れたパンツ開発秘話
「誰が履いても格好良く見えるパンツをつくりませんか」
ある日、後藤は客先ブランドに大胆な提案をする。発端は、「履きたいと思えるパンツが店頭に少なかった」ことと、「メンズアパレルの市場は変化が少ない」と日々感じていたことからである。
後藤 「量販店のパンツだと安価で手に入るが、裾が太かったり丈直しが必要だったりと面倒がある。かといってイタリア系のブランドだとなかなか手が出ない。そんな不便を取っ払ったパンツを開発できれば、メンズ市場を席巻できるんじゃないかと思ったんです。変化が少ないからこそ、定番を押さえることで市場占有性が高まりますからね」
だが、開発の道のりは険しかった。
後藤 「まずは日本人男性の体型を徹底的に研究するため、店頭で売られているパンツのサンプルを買い漁りました。『身長170cmで股下は70cmの男性にとって、一番キレイに見えるくるぶし丈は?』このような仮説検証を何度も・何パターンも行い、そのたびに型紙とサンプルを何回もつくり直し、徹底的に懸念点をつぶしていきました」
プロジェクトにかける時間・費用と、目指すゴールの壮大さとのギャップに不安になることもあったが、苦労の末、理想的なシルエットのサンプルを完成させた。開発にあたったチーム後藤は、メンバー全員が新しいことにチャレンジする姿勢が強く、主体性に動けるメンズ精鋭部隊だ。
後藤 「あるブランドへ提案したところ採用が即決し、初回で2,000本のオーダーにつながったことは今でも覚えています。パンツのブランド名から、商品につけるフラッシャーのデザインや文言まで全部、チーム一丸で考え抜いた作品だったので思い入れも特別でした」
こだわり抜いたパンツは、売れに売れた。
初回、スキニー・ストレート・ワイドの3型で展開したアイテムは完売し、消費者の間でもそのパンツのシルエットの美しさや伸縮性が話題となった。「もうパンツはこれしか履きません」と豪語するロイヤルティの高いファンも生まれた結果、2年間で計10万本も売れるという大ヒット作となった。
後藤はなぜここまで、ひとつの提案にこだわり抜くことができたのか。
後藤 「学生のころコンプレックスだった『ゴツい体型だからとにかく自分で考えて選んで試す』という経験が、今につながっていると感じます。ファッションで回り道したからこそ、誰が履いても似合うアイテムをつくるという強い信念が生まれました」
業界を飛び越えたコラボレーションを、モノづくりのプロとして支える野望
後藤が積極的に推進している取り組みのひとつに「異業種コラボ」がある。
後藤 「根本には、繊維業界を今まで以上に盛り上げたいという気持ちがあります。コロナの影響もあり、業界が大きく変化している実感があって。それは明るい未来、暗い未来どちらにも転ぶ可能性がある中、何か自分が価値を残せるビジネスを始めたいという意識が強くなりました」
2020年7月末にローンチされた、20代の男女に人気のセレクト系ブランドと、誰もが知る有名アイドルグループとのコラボ企画もその一環で生まれた。
後藤 「今回のコラボ企画は、チーム後藤のメンバーのひとりが持つ人脈と、偶然がきっかけで生まれたプロジェクトです。豊島はモノづくりのプロとして、プロジェクトの間に入って両者を取り持つ役割を担えます。
アイドルグループ側は、ブランドとコラボすることで、ファッションに興味のあるオシャレ層をファンに取り込むことができ、ブランド側は、今までファッションに興味がなかったアイドルファンたちを、新規の購買層に取り込むことができる。
豊島が仲介することで、双方にメリットと利益をもたらせるプロジェクトへ発展させることができました」
アイドルメンバーたちが、女性に好感を持たれるモテコーデなどをそのブランドのアイテムからピックアップし、男性をコーディネートしてYouTubeで放送するこの企画。アイドル側/ブランド側どちらも、Instagramのフォロワー数が10万人を超える人気コンテンツであったため、その相乗効果は絶大なものとなった。
後藤は、異業種との取り組みを推進することにどんな未来を見ているのか。
後藤 「業界の中だけで商流を生み出すスモールビジネスだけでなく、まったく違う新たな業界とのパイプをつくってビジネスを創出することで、スケールを最大化できます。
そこで生み出したキャッシュを繊維業界に還元することで、さらにファッションの領域でおもしろい取り組みを増やせると思うんです。小さな会社であれば影響力も少なく難しいですが、豊島の規模だからこそ、それが可能なのです」
テクノロジーの進歩により、誰もが自分のブランドを持てる時代になった。価値観の変化により、SNSでファンをつくり、その世界観への共感を生めば、大きなムーブメントにもなりうる。
またまだ大きな可能性を秘めているアパレル業界の片隅で、後藤の挑戦は続く。
