聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥──先輩の言葉を胸に、オペレーション業務を担当
現在黒澤は、主に飲料用PETボトルの原型となる製品を製造している設備の監視作業や保全作業を担当しています。
黒澤 「PETボトルの一次製品となるプリフォームの製造ラインで、供給されてくる材料を加熱・溶融し、金型でプリフォームを成形するインジェクション工程のオペレーション業務を担当しています。コンテナに詰めて出荷するまでが私のミッションです。
今、横浜工場製造課では3組2交代制で24時間ラインを稼働させています。オペレーション業務としては、日々の機械の保全・整備・メンテナンスをし、問題が生じた際にはトラブル処置対応をするという流れです」
入社10年目を超え、「中堅社員」という立場になる黒澤。後輩社員への教育も重要な仕事のひとつです。
黒澤 「横浜工場製造課員のうち、後輩は8名います。トラブル処置対応は経験がないとできないこともあるため、トラブルが起きた際には後輩と一緒に駆けつけ、安全第一を心がけながら1から10まで教えることもあります。
たとえば、重い設備を外して整備し、再度取り付けるという作業の場合は、まず寸法を測り、「ここからここが何ミリだ」というのをスケッチしてもらってから外すんだよと、やり直しが発生しないように詳細まで伝えます。また、周囲が乱雑になると怪我をする恐れがあるので、作業する前にきちんと足場の確保をすることも大事ですね」
丁寧に後輩社員に指導する黒澤には、過去に苦い経験がありました。
黒澤 「20代前半は、感情のコントロールがうまくできない時期がありました。疑問があっても聞くに聞けなくなり、勝手にやけになってしまったり、変にがむしゃらに行動して孤立してしまったり……。
そんなときに先輩が、『聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥』と話をしてくれ、その言葉がきっかけで、天狗だった自分を変えることができました。この経験があるからこそ、後輩たちにも『疑問に思ったことは全部聞いて吸収した方が得だから、新人の今だけでなくずっと質問していったほうがいい』と伝えています」
自身の経験を踏まえ、後輩社員が成長しやすいようアドバイスする黒澤。仕事のモチベーションを上げるためにも、後輩社員には「自分がトラブルを直したことで機械の能率が上がった」という経験をたくさんしてほしいと語ります。
苦悩の時期もあった若手時代。人とのつながりをきっかけにスキルアップ
地元埼玉の工業高校で学んでいた黒澤は、高校3年生で就職活動を始めたとき、「缶やPETボトルを作っている」という東洋製罐の求人票に目がとまります。
黒澤 「実は、東洋製罐という会社はそれまで知らなかったんです。就職活動の際に『身近な製品を製造する会社ってどんな会社なんだろう』と気になって。家族や親戚にも話を聞き、高校の先輩が多数入社していること、そして先生のお薦めだったこともあり、入社を決めました」
こうして埼玉工場製造一課に配属された黒澤は、最初の壁に直面します。
黒澤 「工場には今まで見たことのない機械がたくさんあり、それらの構造をすべて理解して覚えることに苦労しました。先輩に教えてもらったことは必ずメモを取り、マニュアルとは別に自分なりの手順書を作成して、忘れないよう工夫をしながら徐々に覚えていきましたね」
仕事を覚え、経験を重ねていく黒澤。しかし、決して順調な道のりが続いたわけではありませんでした。
黒澤 「入社4、5年になり経験も増えてきたころ、天狗になってしまっていた時期がありました。しかし、一方で『誰も教えてくれないし、この歳になって質問するのも恥ずかしいし……』と、わからない点を質問するにも自分の中で葛藤があったんです。
すると先輩に『お前はまだまだ未熟だからなんでも聞かないと。まだ一人前になってないだろ』と強く言われました。そのときに、やらなきゃいけないと思えたんです」
先輩の一言で目が覚めた黒澤。ときを同じくして、当時社内で行われていた技術交流のメンバーに選出されます。技術交流とは、東洋製罐の他工場の応援に行き、他工場の社員と交流し一緒に保全業務を行うといったものです。「『スキルアップしてほしい』という期待を込めて上司が人選してくれたのでは」と黒澤は語ります。
黒澤 「静岡工場に2週間、横浜工場には約2カ月間で2回行かせてもらいました。基本的に仕事は同じなのですが、機械設備や仕事の仕方は異なります。それぞれの工場の進め方などを意見交換し、『こうした方がもっとやりやすいんだ!』という発見もありました。いろいろな人の意見を聞き知識量も増え、自分の自信にもつながりましたね」
自分の殻に閉じこもってしまっていた黒澤は、先輩や上司・他工場の社員などの人のつながりをきっかけに、大きくレベルアップしたのです。
研修をきっかけに、プロ意識が芽生える。仕事に対する意識が変わった
埼玉工場で7年の経験を積んだ後、横浜工場製造課へと転勤。転勤から2年目のとき、工場内の中堅社員が対象の「問題解決訓練」を行い、さらなる成長を遂げました。
黒澤 「『問題解決訓練』とは、各工程の問題をピックアップして、それを1人で是正する訓練のこと。半年間の生産能率が目標に対してどうだったのかを調査し、改善点をピックアップして対策を行い、改善後数カ月の生産能率の数値変化を調査して発表するんです」
1年間かけて行われる「問題解決訓練」は、当時の黒澤の仕事に対する意識を大きく変化させるものでした。
黒澤 「『なぜ目標に到達できなかったのか』という理由を深掘りしていかないと、真の原因にたどり着きません。この深掘りする過程がとても難しかったですね。周囲の先輩にもたくさん質問して、ときには休日に先輩の家で勉強会をしてもらうこともありましたね。この1年間は自分自身が大きく変わった年で、あっという間に終わったと感じるほど充実していました。
この研修を通じて、『今まで無駄なアウトにしていたものを金額換算すると、どれだけのお金になっていたのか』と、資料を作りながらこれまでの自分の意識の低さを痛感しまして。そこからは、少しでも無駄なアウトを減らせるような仕事をしようと意識が変わりました」
この研修により、プロ意識が芽生え、自分の成長につながったと語る黒澤。「これが乗り越えられないようでは、胸を張って働けない」という熱い想いを持ち、1年間がむしゃらに取り組みました。また、横浜工場では新入社員の指導員にも抜擢され、後輩育成にも深く関わるようになります。
黒澤 「毎月、新入社員が何を学び、目標に対してどうだったのかを一緒に振り返りながらアドバイスをしています。研修に立ち会って、その日学んだことについて話すこともありますね。
私たちは慣れ親しんでいても、新入社員にとっては初めて出会う人ばかり。わからないことだらけだし、何より『怖い』と感じるだろうなと思うんです。そこで、『困ったことがあれば黒澤さんに相談しよう』と思ってもらえるように、一番話しやすい・相談しやすい存在になれることを意識しています」
後輩社員の成長が嬉しい──若手とベテランをつなぎ、みんなを引っ張る存在に
後輩社員の育成に深く携わるようになって数年。人が成長する姿を間近で見てきた黒澤は、仕事に対する喜びを感じる瞬間についてこのように話します。
黒澤 「やはり、後輩が伸びてくれることが一番嬉しいですね。自分が後輩たちの先頭に立ってやらなければいけない立場にいるのは自覚しています。彼ら、彼女らにとって、より働きやすい職場にするために、頑張っていきたいです」
ベテランの社員と連携しながら若手社員を引っ張っていく存在として、会社からも期待されています。そんな彼には「師匠」と呼ぶほどの、憧れの先輩社員の存在がありました。
黒澤 「リーダーとしての業務だけでなく、後輩への指導や周囲とのコミュニケーションにおいても、『こんな人になりたい!』と思える先輩たちに出会えました。こういう人たちの存在が、今支えになっています」
いずれはリーダーになり、後輩から憧れられるような人材になりたいと語る黒澤。思い描く将来像は非常に明確です。
黒澤 「現在は中堅社員ですが、将来的にリーダーとしての役割を果たしていけるよう意識して働いています。自分の担当業務を完遂させることはもちろん、ベテランの先輩と後輩社員のパイプ役を担い、社内のチームワークやモチベーションを上げて、良い風土づくりに貢献していきたいですね」
若手時代に自分の殻に閉じこもってしまっていた時期、周囲の人たちとの関わりをきっかけに壁を乗り越えた経験があるからこそ、「コミュニケーションをしっかり取り、後輩社員たちの気持ちになって考えることを意識し続けたい」と語る黒澤。これからも、相手の気持ちに寄り添いながら、後輩社員たちを牽引する存在へと進化していくことでしょう。