お客様先のブローラインの生産性向上活動に注力。トラブル対応や教育にも従事
東洋製罐の静岡工場で勤務する石井は、12年間、PETボトルの製造に欠かせないブロー工程の担当者を務めてきました。ブロー工程とは、成形する前のプリフォームに空気を入れて膨らませ、PETボトルの形状にする工程のこと。
石井 「これまで、自社工場でブロー工程における生産ラインのオペレーターや機械の保全活動を行っていました。基本的に生産は機械を使って自動的に行われますが、PETボトルの形はさまざま。生産するPETボトルに合わせて金型を交換したり、作られたものの抜き取り検査をしたり、機械に異常がないかを確認したりすることが主な業務内容でした」
2022年8月現在、石井はお客様先の委託ブローラインの生産性向上活動に取り組んでいます。
石井 「ブロー工程のオペレーション自体はお客様に行っていただくので、以前のように自分でラインをオペレートすることはありません。普段は静岡工場に勤務していますが、ライントラブルがあればお客様先に駆けつけて解決に努めますし、オーバーホールにも立ち会います」
生産性向上のためには、お客様とのコミュニケーションが欠かせません。お客様先の20名ほどのメンバーとともに“工程安定化活動プロジェクト”を立ち上げて、毎月定例会を開催しています。
石井 「小さな事柄を含むすべての生産トラブルの内容を共有してもらって、原因となっている対象部品の交換を決めたり、今後同じトラブルが起きないように対策を話し合ったりしています。定例会で共有された内容を受けて、製造を担う機械に対して要望が出てきたり、なぜ機械が壊れるのかがわからなかったりするときは、社内のテクニカルセンターとも打ち合わせを行い、連携した上で生産性向上を目指しています」
石井が担当しているお客様にとって、これまではPETボトルに中身を詰める充填作業がメイン。容器となるPETボトルの製造経験は決して多くありません。そのため、教育に携わる機会も多いといいます。
石井 「社内で手順書を作った上で、お客様先にうかがって現地で直接教えることもあります。自社工場内で行う、新入社員の指導に近いかもしれません」
社内と社外、両方のメンバーとコミュニケーションを取る機会が多い石井。入社12年目を迎えるいま、中堅層として大きな存在感を示しています。
石井 「一昨年までは新入社員の教育も行っていました。部下をまとめたり、上司に報告を行ったり、上司と部下の橋渡し役を担うこともあります。コミュニケーションにおいて、静岡工場内では、ムードメーカー的なポジションかもしれません(笑)」
公私ともにサポートしてくれた先輩や仲間の存在があって、今がある
高知県で生まれ育ち、工業高校卒業後は県外での就職を希望していたという石井。さまざまな企業を見ていく中で、東洋製罐の理念の中にあったある言葉に目を奪われます。
石井 「製品は『売るのではなく、嫁がせる考えでなければならぬ』という方針を掲げていて、とても驚いたんです。『出荷する』じゃなくて『嫁がせる』なんですよね。そんな気持ちを持つほどに、製品を大切にしている会社だと知って惹かれました」
いまでこそ静岡工場には転勤してくるメンバーや県外から入社するメンバーも多くいますが、石井が入社した12年前はほとんどが静岡県内の出身者。就職とともに始まった、初めての土地での一人暮らしでしたが、静岡工場のメンバーの温かさに支えられたといいます。
石井 「私のように県外から来る人は珍しかったので、先輩社員の方にはよく声をかけてもらいました。1年目は金銭管理がうまくできず、金欠状態になって困ったこともあったんですが、当時の係長や近くに住んでいる先輩方がよく食事に連れて行ってくれて。工場内にいる方がみんなお父さん、お母さんのような感じで面倒を見てくれていました」
仕事面においても、石井は周りにサポートされながら成長してきました。とくに印象に残っているのが、新製品の立ち上げに関わった経験です。
石井 「10年ほど前に、炭酸飲料のPETボトルの立ち上げに関わりました。軽量化の流れに乗って新しい製品を開発したものの、あまりの軽さのため、ベルトコンベアで流れていく途中で倒れてしまい、トラブルが続出していたんです。ベルトコンベアのガイドの幅や高さなど、条件の調整にかなり苦労しました」
新製品立ち上げの際には、あらかじめテスト期間や新製品リリースの時期が決められています。常に締切を意識しながら改良を重ねる作業は、時間との戦いだったと振り返ります。そんな中、大きかったのはやはりチームメイトの存在でした。
石井 「4人で取り組んだプロジェクトでしたが、役割分担をして皆で意見を交わしながら進めていく過程は楽しかったです。また、当時のブロー工程の係長に『PETボトルは温度や湿度の影響を受けやすく、高さが変わることも多い。PETボトルは生き物だよ』といわれていたんですが、新製品の立ち上げに関わる中で、その言葉の意味を実感できるようになりました」
そして、苦労して開発した製品がスーパーやコンビニに並び、買い物客に手に取られる瞬間を目にしたときは、何にも代えがたい喜びと仕事のやりがいを感じたといいます。
大切なのは、コミュニケーション。ベースの関係性を築けば、スムーズに仕事ができる
石井が担当しているお客様先の委託ブローラインの生産性向上活動には、以前から別のメンバーが取り組んでいました。石井が加わったことで、現在は2名体制になっています。
石井 「同じブロー工程に関わる仕事でも、静岡工場内であれば社内のメンバーしかいないのでリラックスして行えますが、ひとりでお客様先に行くとなると、それなりの精神的負担がかかるものです。ましてや、お客様先で作業するのは、だいたいが突発的なトラブル対応。プレッシャーがかかる状況の中、ひとりで対応しようとすると、どうしても視野が狭くなってしまうんです。
それに、ひとりでできることには限界もあります。2名体制になったことで、視野もサポートの幅も広げていければと思っています」
今の仕事に携わるようになってまだ2カ月ですが、お客様先を訪問する中で、仕事の流れや工程管理の方法、企業風土の違いを感じているという石井。
石井 「さまざまな違いはあるものの、『効率的にラインを稼働させたい』という目標は同じです。だからこそ、きちんと話し合い、ていねいに説明すればお互いにわかり合えると思っています」
お客様先と協働して円滑に仕事を進めるために、石井が大切にしているのがコミュニケーションです。
石井 「月1回、お客様先の担当の方と一緒に定期整備を行っています。仲良くならないと仕事もはかどらないので、仕事を始める前に趣味の話をしたりして、関係性のベースを築くように心がけています。話す内容の8割くらいは雑談かもしれませんね。でも、仲良くなれれば、お互いに意見をいいやすくなるし、仕事もうまく回ると思っています」
仕事のやりとりだけではなく、雑談することも大事にしながら、仕事仲間との良好な関係性を築く。これは石井が以前から大切にしてきたスタンスであり、社内でもこうして先輩や後輩と信頼関係を作り上げてきました。
石井 「もちろん、仕事においてある程度の緊張感は大切です。けれど、ガチガチで意見がいいづらい環境では、それなりのものしかできません。皆が意見をいえるからこそ、いいアイデアが生まれたり、改善が進んだりすると思っています。それに、いろんな人の考え方に触れることで自分の視野も広がりますしね」
実に軽やか、かつ前向きに仕事に向き合っている石井。彼がこのような姿勢でいられるのは、大事にしている人生のモットーがあるから。
石井 「人生を3等分したら、睡眠、趣味、仕事で分けられます。睡眠は必需だとして、趣味は楽しいものですよね。そう考えると、仕事が楽しければ人生の6割以上が楽しい時間になるんです。40年以上働くのだから、楽しいに越したことはないですよね」
譲れない目標はただひとつ、“今後もチームで楽しく仕事をする”こと
仕事を“楽しむ”ことを大事にしている石井。チームでひとつのことを成し遂げたときに、大きな達成感と喜びを感じるといいます。
石井 「皆で『こうじゃない?』といい合いながら試行錯誤をして、トラブルの解決に至ったときなどは、学生時代の文化祭や体育祭のような楽しさとやりがいを感じます」
とはいえ、社会人になりたてのころは余裕がなく、失敗も多かったという石井。『一生懸命にやらなければ』という想いが強すぎて視野が狭くなり、人を頼ることができなかったと振り返ります。
石井 「切羽詰まったあげく、最終的に先輩に『どうした?』と声をかけてもらって、相談したらすぐに解決に至ったケースがあったんです。その経験から、わからないときにはすぐに聞いたり、ほかの人に意見を求めたりしようと思うようになりました」
これまでいくつものミッションに携わってきた石井。とりわけ、思い出深い経験があります。
石井 「工場内のブロー工程を担当していたときに、他工場から5〜6人のメンバーに応援に来てもらって、機械の徹底的な整備を2週間かけて実施しました。その機械には、ネジが数千個もあり、規模も一軒家ほど。それを一度バラバラにして整備を行った後、復元してPETボトルがスムーズに流れるようにすることが目的でした」
石井は、このミッションのリーダーを任されます。初めて会うメンバーもいる中、たった2週間でミッションを遂行するのは、かなり難易度が高いものでした。無事やり切れたのは、「コミュニケーションを重視したから」だと話します。
石井 「大きな機械なので、複数の作業箇所にメンバーを割り振って取り組んだのですが、どうしても私の目が届きにくいところが出てきてしまいます。常に全体を見渡しながら声をかけることが難しいからこそ、些細なことでも相談してもらえる関係性の構築が大切だと思いました」
そのために石井が重視したのが、仕事に入る前の土台となる“ベースゼロ”の関係性構築。初日に雑談する時間をとって、初めて一緒に仕事をするメンバーの緊張を解きほぐそうとしたのです。
石井 「『こんなこと聞いてもいいのだろうか?』と迷うことなく、質問してもらえるような関係性作りを心がけました。結果、仕事がとてもスムーズに進んだと思います。せっかく応援に来てもらっている以上、『楽しかった。また一緒に仕事をしたい』と思ってもらいたいですしね。一緒に働いた他工場のメンバーとは、今もトラブルの解決ノウハウを共有するなど、コミュニケーションを取っています」
常に目の前の仕事に夢中で、今はまだ確立したキャリアビジョンを持てていないという石井。ただ、「チームで楽しく仕事をしていきたい」という想いだけは揺らぐことがないといいます。製品を“売るのではなく、嫁がせる”精神を胸に——仕事を楽しみ、チームで成し遂げることを何よりも大切にするリーダーとして、12年の経験から得た学びを糧としながら、これからも前進を続けます。