やりたいことは全部やる――バイタリティの源である幼少時代
大阪府枚方市で幼児から小学生向けの英語教室と、プログラミング教室「TECHIE」を運営する前田さん。「やりたいことはとにかくやってみる」という前向きな姿勢で、数々の夢を実現してきました。
そのバイタリティの源は、実家の旅館と、そこを切り盛りしていた前田さんのお母さんの姿です。
前田さん 「実家は愛媛にある三代続いた旅館で、幼いころからたくさんの人が家を出入りしていました。父だけでなく、母も家事や保育園の送り迎えは従業員に任せて、自分の得意とする旅館業に専念する姿を見てきました。そこでは働く人みんなが家族のようで、今考えればそれぞれが自分に適した場所で能力を発揮していたんだと思います」
その後、中学生になって本格的に映画に興味を持った前田さんは、将来は映画の仕事に携わりたいと思うようになりました。自分の知らない世界や、見たこともない外国の生活にも魅力を感じたといいます。
前田さん 「大学で英語を学び、専門学校では映画の広報を勉強しました。魅力のある映画をどのように宣伝し、広めるかを学ぶコースです。昔から人が喜ぶことを考えて、それを企画することがとても好きだったんです。業種は違っても、実家の旅館が『いかにお客さまを喜ばせるか』をサービスの基本としていたことが影響しているんだと思います」
大学を卒業した2000年には、希望どおり映像コンテンツ制作会社に就職。営業職として2年半勤めたのち、映画配給会社への転職を考えます。
前田さん 「転職する前に、ずっと夢だった語学留学をすることにしました。映画の仕事に携わるならもっと英語の力をつけておいた方がいいと思ったからです。また留学とは別に、広告会社への就職を目指すなら、グラフィックデザインも勉強しておきたいと思っていました」
しかし、時間的にも経済的にも、留学から帰国したのちにデザインを専門学校で学ぶのは難しい。そう考えた前田さんはカナダで語学を学んだ後、そのまま現地でグラフィックデザインの専門学校へ行くことを決心しました。
英語力、営業力、そしてWeb。人生のすべてを生かせる仕事
配給会社での仕事を見すえてグラフィックデザインを学んだものの、昔から絵を描くことが好きだったこともあってデザインにのめり込んだ前田さんは、カナダの専門学校でWebデザインも勉強しました。
前田さん 「専門学校を卒業するときに、Webデザインコースの講師をしていた方が経営する制作会社で、Webデザイナーとして働かないかと誘われたんです。そのときに英語とWebの知識を生かして仕事ができれば、世界のどこでも働けるんだと気がついて、自分の可能性が大きく広がったように感じました」
帰国後は映画関連の仕事から進路を一転、大阪でWebデザイナーとして働きました。2009年に31歳で第1子を出産した後は、フリーランスとしてWeb制作に携わります。知り合いを通じて仕事を請け負い、子育てに差し支えない範囲で社会とつながってきました。
そして2012年に出産した双子の子どもたちが幼稚園に通いはじめた2016年、自宅で「アルクKiddyCAT英語教室」を開講。子どもを家でひとりにさせることなく、自分の能力を生かせる仕事は何か。そう考えた前田さんが英語教室を開講したのは自然な流れでした。
「最初は開店休業状態でもいい」と負担が少ないフランチャイズの運営会社を選んで教室をはじめたものの、幼稚園の友だちやご近所さんなど14,5名がすぐに集まりました。
「自分が認められて、必要とされるところで働きたいという思いだけでなく、自分で何かをやりたい気持ちも強かった」という前田さんは、翌2017年にプログラミング教室もスタート。
前田さん 「今運営している教室は、大学と留学で育んだ英語力、映像コンテンツ制作会社で鍛えた営業力、Webデザインの専門学校で学んだWebの能力、そして自宅教室、すべての経験を生かせる仕事です。不安よりやってみたい気持ちが強くて、お金にならなかったとしても、やりたいことをやっていきたいと気楽に考えていました」
しかし前田さんがこのプログラミング教室を実現するまでには、まだ超えなければならない壁がありました。
教室や生活スタイルに合わせたレッスンへの挑戦
前田さんがプログラミング教室を開講しようと考えたのは、「小学校でプログラミング教育が必修化される」というニュースがきっかけでした。「これだ!」と感じた前田さんは、レッスンの開講を検討します。ところが、カリキュラムや教材の制作には非常に手間がかかることに気づきました。そこで英語教室と同じく、フランチャイズを運営する会社を探します。
前田さん「インターネットで探したら、ちょうど子ども向けプログラミング教材を開発していたTech for elementary(以下 TFE)の説明会が次の週に大阪で予定されていたんです。これは行かなきゃと思って、すぐに申し込みました」
ところが会場に着くと参加者は大手塾の経営者など、そうそうたる顔ぶれ。前田さんは「自分のようにキャリアのない、小さな教室の運営者には場違いだったのでは」と不安を感じたと振り返ります。ところが代表の尾市守に会い、不安はすぐに払拭されました。
前田さん 「緊張して座っていたらすごく人のよさそうな人(尾市)が現れて、説明会が一気に和やかなムードになりました。それで身構えていた気持ちがほぐれて、プログラミング教室をはじめようと決めたんです」
問題は、前田さんにはすでにプログラミングのレッスンに割く十分な時間がなかったこと。平日は英語教室があり、休日は家族との時間も大切にしたいと考えていました。
前田さん 「土曜日を中心とした月2回の不定期開講ならできそうでした。だから無理を承知で、トータルのレッスン時間は確保することを条件に本部に相談したら、あっさり『いいですよー』って言ってもらえたんです」
キャリアを生かし、プライベートも大切にしつつやりたいことができる。こうして前田さんはためらうことなく、2017年にプログラミング教室をスタートさせました。
一方で前田さんは、“ママ起業家”と呼ばれることには抵抗があるのだと話します。
前田さん 「ネットや雑誌、人からの話で知る “ママ起業家”は、仕事だけでなく家事や育児も精力的にこなす努力の人というイメージです。でも私は違う。自分がやりたいと思えることだけを追求しています」
「家族は“一度決めたらママは聞かない”とあきらめている」と言うものの、前田さんが家族の理解を得ながら自分に合った道を進めたのは、その方法が間違っていなかったことを証明しています。
“英語+プログラミング”で、ワールドワイドな力を育む教室へ
前田さんはプログラミング教室をはじめるとき、英語教室との相乗効果を期待していました。アルファベットを覚えていればタイピングがスムーズになり、単語の意味がわかれば、英語で構成されているプログラミング言語を理解しやすくなるのではないかと考えていたのです。
ところがスタートしてみると、英語+プログラミングには、それ以上の可能性があることに気がつきます。
前田さん 「これからの英語教育は、“話す・聞く・読む・書く”という基本的な能力をベースに、主体的に課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力を育成しようとしています。そのため、目的を達成するには多様な方法があることをプログラミングを通じて理解していれば、英語はもちろん、今後さまざまな場面で必要とされる能力をよりスムーズに伸ばせるのではないかと考えています」
ひとつの課題を解決するために、複数の方法を提示しながらレッスンを進めることができる教材を見て、前田さんは、TFEにはプログラミングの効果を最大限に引き出せる力があると感じています。
前田さん 「レッスン中の子どもたちはときおりため息をつき、つくったプログラムがうまくいかないとブツブツひとりごとを言っています。教室はまるでちっちゃな制作会社のようで、彼らはすでにプログラミングの構造を理解した小さなプログラマーなんです」
保護者のなかには、今の子どもたちが抱えるコミュニケーションスキルや、障害による身体能力のを不足を補うものとして、プログラミングに希望を抱いている人もいます。
留学先のカナダで、英語とWebのスキルがあれば世界のどこにでも自分の居場所はつくれると知った前田さん。子どもたちがさまざまな問題を抱えていても、このふたつの手段は生徒の可能性を広げ、活躍できる場所をつくりだしてくれると確信しています。
どんな子でも、やりたいことを見つけて世界へ羽ばたくことができる。教室では今日もひとつ、可能性が芽生えようとしています。