「人相手の仕事が向いている」。ひょんな一言から介護の世界へ

成枝が介護と出会ったのは高校生の頃。

介護福祉士を目指すコースを選択した、という成枝の高校生活は「1時間目から7時間目までずっと介護の勉強」という日常から始まりました。

成枝 「教室にベッドや福祉器具がいっぱいあって、介助のやり方を実践する実技の教科があるんですが、唯一、その教科が好きで、今に繋がっています。勉強よりは、体を動かすコミュニケーションの授業が得意でした」

進学時に介護科へ進んだきっかけを尋ねると、こんな答えが。

成枝 「進路に困っていて、普通科に行くか、専門科に行くかを悩んでいたときに、母親に『占いで聞いてみたら』と言われて占いに行ったのがきっかけなんです(笑)。そのときに、介護や保育士など、人相手の仕事が向いていると言われました。

行く学校には、ちょうど介護と幼児教育の専門科があって、将来、就職先にも困らんやろうし、資格も取れる。いろんな人と相談して、そのままの流れで選びました」

そんな流れで出会ったという介護の世界は、「コミュニケーションが好き、会話が好き」という成枝にとって、心から楽しさに満ちた時間になっていきます。

実習先では高齢施設に行くことが多かったという成枝。高校を卒業後、介護福祉士の資格を取得。実習先でお世話になったという特別養護老人ホーム(特養)に就職をします。

その後、特養を半年で退職。

成枝 「母が体を壊したのがきっかけで、『家のことをしたい』と思って辞めました。特養の(スタッフの)方にもシフトの調整等、助けてもらったのですが、逆に申し訳なく思ってしまって」

数ヶ月後、「昼間は家の手伝いや家事ができるように」と夜勤の仕事を探していたとき、重度訪問介護の仕事と出会います。そこで成枝を待っていたのは、介護のあたらしいかたちでした。

(追記:お母様は現在、元気に過ごされているとのこと)

大切なのは信頼関係。「自由に過ごしてもらうこと」、そして「待つこと」

19歳で、非常勤アテンダントとして今の仕事をスタートさせた成枝。

施設での介護経験をしたのちの成枝の目には、「クライアントの生活の中に入っていく」という重度訪問介護のかたちが新鮮に映ります。

成枝 「最初は、全然違うな、と。訪問介護だからこそ介助の仕方がひとりひとり違う、とわかってはいたけれど、びっくりでした。

施設にいると、おじいちゃん、おばあちゃんの介助は、割と一定しているんです。車椅子を持ってきて移乗するとか、お風呂に入るときはこう、という教科書通りの過程があったのですが、訪問介護はひとりひとり違う。クライアントさんによって障害がどこにあるかも違うので、そこが一番印象的でした」

施設と訪問介護、両方の経験を通して「クライアントともっと深く関わりたい」、「その人に合ったケアがしたい」という思いを強くした成枝。クライアントからも「成枝さんは訪問介護が向いている」と言われたことも、彼女を後押しします。

そして2ヶ月後、正社員へ。

入社当初から夜勤をメインとする成枝ですが、その中で気付いた重度訪問介護の特徴は、成枝が「今、大切にしている」という思いとしっかり重なっていました。

成枝 「臨機応変に対応できる、時間配分をクライアントさんが決められるというところがいいですね。『このテレビ、気になってるからまだちょっと見るわ』とか。メリットは多いよね、とクライアントさんとも話しています」

関係を築いていく上で、「クライアントさんに自由に過ごしてもらうこと」を大切にしているという成枝。

成枝 「いつ寝てもいいし、いつおやつを食べてもいい。食べたくないときは食べなくていい。そういう時間を大切にしたいです」

そして、もうひとつが「待つこと」。

成枝 「一対一だから、信頼関係や人との距離感が大事だよね、という話もよくします。夜勤も多く、夜から朝までずっと一緒にいるので、距離感を保てていないとお互いがしんどくなるんです。

距離感を保つために、クライアントさんから話してくれるのを待つ、ということを大切にしています。それはこの仕事を始めてから気づいたことです。『クライアントさんの時間を大切にしないと』って」

振り返ると、その気づきをクライアントと常に共有してきた成枝の日々が見えてきます。

会話の楽しさ、場の賑やかさ。いのちへの眼差しを育ててくれた家族の風景

現在は、A L S(筋萎縮性側索硬化症)の方を中心に、日々の生活をサポートしている成枝。

「クライアントさんと日常の会話をするのが楽しみ」と仕事の上での喜びを活き活きと語る成枝に、その背景を尋ねてみると。

成枝 「下に妹が2人いて、いとこが9人いたんです。家族はみんなおしゃべりで。晩御飯のときは『今日はこうあってこうあって……』というのをみんなが弾丸で喋るっていうぐらい、ずっと喋っている家族でした。だから今、こんなおしゃべりになったんです(笑)」

集まると毎回、「お正月みたい」というほど、賑やかな家庭で育った成枝。

成枝 「中学生の頃から、母は家族をひとりで育ててくれていました。そこは助け合いで、女家庭だったので、絆みたいなものは結構強くあって。妹が何かあったら話を聞いたり、妹が聞いてくれたり、家族で付き合っていく感じが、今も続いています」

最近は、姪っ子も生まれ、さらに賑やかになったという家族の風景。そして、その賑やかさをつくっているのは、どうやら人間だけではないようです。

成枝 「ちいさい頃から、うさぎ3匹と大型犬2匹、猫……と同時期にいっぱい飼っていて。動物が大好きなんです」

今は、ミニブタと犬と、生活を共にしていると話す成枝。

いくつもの、いのちの中で育まれた成枝の眼差しは、入社当初の「もっと深く関わりたい」という思いと重なり、やりがいに結びついています。

成枝 「 クライアントから『次、新しいアテンダントが入ってくんねんけど、こういう介助をして欲しいとき、どういう伝え方をしたら伝わるかな』という相談を受けることも出てきて、そんなときが一番深く関われたな、と思います。

他にも私生活の悩み、信頼関係や距離感を保てたときの相談もあって、そこにやりがいを感じますね」

その眼差しは、クライアントとの対話を通して根を張り、今の成枝を支えています。

『最年少のケアマネを目指す』と決めた高校卒業時。原点に立ち返って

この仕事を始めて5年目となる成枝は、今、23歳。

「コーディネーターへ」との話もあるものの、「今は現場にいたい」という強い思いがあるのだとか。

成枝 「現場にいるからこそ、クライアントさんの変化にいち早く気づけたり、汲み取れたりする。そういう面で、今、一緒に働いている人と情報交換をしたり、力になりたい、と思うんです。

実際に介助に入って『クライアントさんを深く知っていきたい』という気持ちはまだ捨てきれません」

そして、歳月を重ねていくにつれ、求められることや見えてくる景色も変わってきたと言います。

成枝 「(経験が)長いからこそ、現場のリーダーに選ばれることや、指導者側に回ることも増えてきました。指導するにあたって、『成枝さんに最低1回でも指導をしてもらいたい』とクライアントさんから言っていただくことも。

日常会話も、最初の1年目は仕事の話が中心だったのが、私生活の話も増えてきて。『昨日何した』とか、食べ物の好き嫌いに関しても『コーン、ダメだったんや、今知った!』っていう再発見もまだまだあるんです(笑)。

私は花粉症がひどいのですが、春になると『花粉症の時期きたなぁ、ティッシュ持っておいでよ』なんてクライアントさんから言われて、逆に面倒を見てもらってます(笑)。そういう面も、長いからこそありますね」

対話の過程で見つけることができた、お互いのささやかな一面。そのひとつひとつを、成枝は嬉しそうに語ります。

そんな日常の先に見ている未来とは。視線をすこし先に映すと、成枝はこんな話をしてくれました。

成枝 「『最若 のケアマネを目指す』と高校の先生に言って、卒業をしました。そのために、今は経験を増やしていこうという段階なんです。5年間働いた実績を持ったら、ケアマネの受験資格が取れるのですが、(5年まで)あともうちょっと。

(高校時代は)夏休みも冬休みもなく、土日休みもあまりない中で介護福祉士の資格勉強の為に授業があったので、『ケアマネの資格取ったら介護やめたる!』ぐらいの気持ちで高校を卒業して、そこに向けて生きているのは確かなんですけれど、今、現場が楽しすぎて。

でも、最終地点はそこです。学生のときから、『若いケアマネを目指すこと』は決めていたので」

実りある、たしかな今を、ひとつ、またひとつと積み重ねてきた成枝。「誰よりも若いケアマネージャー」になる日を夢に、成枝の日々は溢れ出る笑顔と共に、クライアントと共に、続いていきます。