女性の社会進出が進んだことや、経済的な必要性から夫婦共働きが増加している昨今。内閣府 男女共同参画局 「男女共同参画白書 令和4年版」によると、共働き世帯数は年々増加しており、「雇用者の共働き世帯」は1,177万世帯と夫婦のいる世帯全体の23.1 %が共働きをしているようです。
また、「男女共同参画白書 令和5年版」によれば、第1子出産後も就業継続する女性は年々増加しており、直近では、第1子出産前有職者の約7割が就業を継続しています。
自身の理想の働き方やキャリアアップ、経済面などを考え、仕事復帰を選択したとしても、育児と仕事の両立や長い間仕事から離れていた不安などを感じている人は少なくないでしょう。
そこで本記事では、育休復帰を果たした女性たちは、どのような制度を利用したり、工夫をしたりしながら育児と仕事を両立しているのか、実際のワーキングママの声をご紹介します。
多くの方が抱える産休・育休によるキャリアへの影響
ワーキングママの声をご紹介する前に、すでにお子さんがいて産休・育休後の仕事復帰を考えている方はどのような不安を抱えているのかをみていきたいと思います。
保育研究プロジェクト「子ねくとラボ」を運営する株式会社明日香(本社:東京都文京区)の調査によれば、約8割のママが産休・育休によるキャリアへの影響を「不安視」しているという結果が出ています。
その理由としては、「子育てと仕事の両立ができるか心配」が78.8%で最多、2021年コロナ禍と比べ12.5ポイント高い結果になりました。
また、Q1で「とても感じる」「やや感じる」と回答した方に、「Q3.Q2で回答した以外に理由があれば、自由に教えてください。(自由回答)」(n=80)と質問したところ、「フルタイムで働けない」や「第二子の妊活のタイミング」など41の回答を得ることができました。
<自由回答・一部抜粋(n=80)>
・37歳:体力がなくなってしまう。
・31歳:子どもの体調不良などで欠勤や遅刻、早退が増え、職場に迷惑をかける。
・31歳:保育園に入れないと辞めざるを得ないから。
・40歳:再就職先が見つかるか不安。新しい会社では今まで築いてきたポジションなどがリセットされること。
・27歳:孤独。
・37歳:フルタイムで働けない。
・32歳:第二子の妊活のタイミング。(復帰した後にまたすぐ妊娠したら周りからどう思われるのかが不安)
■調査概要
・調査概要:【2023年版】産休・育休後の仕事復帰と自治体の産後支援に関する定点調査
・調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット調査
・調査期間:2023年7月12日〜同年7月14日
・有効回答:第一子となる0歳児のお子様がいて育児後の仕事復帰を考えている女性105名
※ 構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはなりません
キャリアに対する不安の理由として最多となった「子育てと仕事の両立ができるか心配」という項目ですが、家族や地域のサポートなどがあったとしても、拭いきれない心配事ではあります。
はたして、企業で活躍している女性たちは、子育てと仕事の両立という難しい問題に、どのように対応しているのでしょうか?子育てや仕事の工夫、利用していた制度、また向き合うためのマインドについて語られている経験談をご紹介します。
育児と仕事を両立する女性たちの工夫
▶︎EY Japan
事業内容:日本におけるEYメンバーファームに向け、以下の業務を提供。総務、経理、調達、IT、広報・ブランディング、マーケティング、人事、不動産業務 、リスク管理等
・仕事内容:アドバイザリーとしてクライアント企業の成長をサポート
A.Hさん 「仕事と育児との両立も、想像していた以上にうまく実現できています。両立させるための工夫としては、クライアントへの出社と在宅勤務をバランスよく使い分けることです。出社する際は、担当者の方々と対面でコミュニケーションを密にとり、通勤時間を削れる在宅勤務の日は資料作成作業などに集中し、早めに勤務を終えて家事に入っています。
平日は、保育園に通う長男と次男の送迎に始まり送迎で終わる毎日ですが、突然の発熱で受診が必要になるなど、予定どおりに進まない日も多々あります。その際にありがたいのが、多様な働き方を支えるEY新日本の就業支援制度です。
よく利用しているのは、休憩をとる時間帯をはさめる『中抜け勤務制度』や、『選択型シフト勤務制度』です。業務を効率よく進められるので、繁忙期を除けば驚くほど残業する日は少なく、有給休暇も都合良く取得できています。『ベビーシッター利用料補助』や『EY託児所』といった支援もあるので、繁忙期を迎えても安心できます」
→ストーリー:子どもの成長にもクライアントの成長にも寄り添う。EYでかなえた、いきいき働く自分
▶︎INTLOOP株式会社
事業内容:事業戦略・業務改革コンサルティング、ITコンサルティング、プロジェクトマネジメント支援、プロフェッショナル人材支援・人材紹介、新規事業開発・営業推進支援、海外進出・販路開拓支援
・仕事内容:コンサルティング事業本部 シニアコンサルタント
相談していた上司の助けもあって、無事に出産育児休暇に入った宮川さん。いったん復帰後、4カ月ほどで2人目の出産育児休暇も取得し、2023年5月に本格的に復職しました。
宮川さん 「現在は、週2〜3日リモートで対応するなど、フルに出社しなくてもいい案件を担当しています。基本的には、時短ではなく、産休に入る前と同じような働き方をしています。
仕事と家庭の両立については、正直なところ、完全にできているとは思っていません。心がけていることとしては、プライベートにおいてはがんばりすぎないということ。
仕事においては、時間管理を徹底するように気をつけています。たとえば『この仕事は今日中にやろう』ではなくて『何時に着手して、何時には終わらせる』というように、以前よりもシビアにやっています」
→ストーリー:ライフプランを見据えてキャリアを選択。願いがかない、仕事と子育てに奮闘する毎日
▶︎インフロニア・ホールディングス株式会社
事業内容:インフラの企画提案、設計、建設、運営・維持管理までのあらゆる建設サービスの提供および建設(土木、建築)、舗装及び建設機械の製造・販売等を営む傘下子会社およびグループの経営管理ならびにこれに付帯または関連する一切の事業
・仕事内容:事業戦略本部の上席調査役として、コンセッション事業の案件獲得に向けた業務や運営中の事業支援に従事
2022年の下半期に、関さんは産休・育休を取得。2023年4月末に復職を果たし、現在は1児の母として仕事と育児の両立に励んでいます。
関さん 「さいわいなことに、当社では産休・育休制度が整っています。まだまだやり遂げたいことがたくさんあって、出産後も仕事を続ける選択肢しか考えていませんでした。とはいえ初めての経験のため復職が近くなると不安が募ることも。復職後に携わる案件の情報を少しずつ追いかけながらイメージトレーニングしていました」
復職を果たしたいまも、多様な制度をうまく組み合わせながら、快適に働くことができていると言います。
関さん 「フレックスや時短勤務といった制度を積極的に活用しています。また、上司の許可を得てリモートワーク中心の勤務をしていますが、ときどきオフィスを訪れて同僚と交流する機会が充実した時間に。周りには産休や育休を取得された方も多く、とても理解がある職場なので働きづらさは感じません。子どもと過ごす時間も大切ですが、仕事に打ち込む時間があることがいい気分転換になっています」
→ストーリー:将来性あるコンセッション事業に惹かれて──挑戦の連続で切り拓いてきたキャリア
▶︎株式会社 エル・ティー・エス
事業内容:コンサルティング(ビジネスコンサルティング、ITコンサルティング、HRコンサルティング)、ビジネスプロセスマネジメント、デジタル活用サービス
・仕事内容:コンサルタントとしてIT関連のプロジェクトに従事
阪口さん 「子どもが1歳になるタイミングで復職。夫がフル在宅勤務だったこともあり、時短勤務は希望せず、フルタイムで戻りました。
ところが、いざ働き出してみると想像以上に仕事も家庭もバタついてしまい、両立がうまくできなくて。そこで、業務量を調整するのがいいか、リモートワークに変えるのがいいかと会社に相談した結果、担当を1社に絞ってもらうことに。また、先輩ママや保健師さんとも相談して、家では完璧を目指さないことを覚えました。
仕事のやり方も変えています。産前は業務内容や計画を自分の中で完結させながら進めていましたが、産後だとそうはいきません。繁忙期でも稼働時間が9〜18時になる上、子どもの発熱などで突然休まなくてはいけないこともあるからです。そこで、自分自身をリスクと捉え直して、業務を可視化するなど、ほかの人にいつでも引き継げるような状態まで下ごしらえをするようにしたんです。
『子どもがいるから』と周囲から配慮してもらうことを期待するのではなく、自分というリスクを自分でコントロールしていくように心がけました。仕事と家庭のバランスのとり方は、まだまだ試行錯誤中ですが、いまは自分の中で吹っ切れた感じがしています」
→ストーリー:すてきな人と一緒だから仕事も育児もアップデートできる──コンサルタントが描く夢
▶︎デル・テクノロジーズ株式会社
事業内容:個人・法人のお客様を対象に、パソコン・モバイル端末から基幹システムやクラウドの導入支援、セキュリティサービスに至るまで包括的な IT ソリューションを提供
・仕事内容:アカウントマネージメントサービスチーム
鈴木さん 「仕事と家庭・子育ての両立は、特別なことではないと思っています。ただ、私が心がけていたことは、感謝すること。子どもを持たせてもらうことへの感謝、お仕事をさせてもらうことへの感謝、その立場にいられることへの感謝です。誰しも望めばかなうということではありません。子どもがいたとしても、チャンスを与えてもらってポジションに就ける。サポートをもらいながら責任ある仕事ができ、わが子の成長も味わえるなんてありがたいお話です。
あとは、やりたい気持ちがあって動いてみれば、意外と成せるものなんです。はじめは戸惑うかもしれませんが、仕事だって子育てだって、完璧である必要はありません。頼れる場所が必ずありますから。上司やチーム、自治体の制度や保育園などをフル活用すれば良い。周りに頼っていけば、自分の中で最適なバランスも見つかるはず。子どもも、私も、楽しむ。それに尽きます」
→ストーリー:外資系企業でいつまで働ける?──おばあちゃんになってもキャリアを楽しむ私のシゴト論
▶︎パナソニック コネクト株式会社
事業内容:「サプライチェーン」「公共サービス」「生活インフラ」「エンターテインメント」分野向け機器・ソフトウェアの開発/製造/販売、並びに、システムインテグレーション/施工/保守・メンテナンス、およびサービスを含むソリューションの提供
・仕事内容:「しごとコンパス」のサービス企画・運用を担当
働きながらふたりの子どもを育てている増冨。完璧をめざさないことが、両立する秘訣だと言います。
増冨さん 「できないこと/できなかったことではなく、できたことを数えていくことが大切だと思っています。子どもたちにひとりで習いごとに通ってもらったり、夕御飯をスーパーの惣菜やレトルトに頼ることがあったりと、母親としてもっとこうしてあげられたらなと思うことばかり。
でも、他のママと自分を比べて減点していくと落ち込んでしまうだけなので、1日3食ちゃんとご飯を食べさせられた、お風呂に入れて今日も綺麗な状態で寝ることができた、今日も元気にいてくれる、それで100点。育児はその日を乗り切ったら終わりではなくて、明日には明日のやるべきことがあり、それがずっと続いていきます。
行き届かないことが多くて、完璧に両立できているとはとても思えませんが、まずは自分自身がご機嫌の状態の笑顔でいることが、子どもたちも仕事もハッピーに回していくための秘訣。適度に自分を甘やかしながら、『今日はこれができた』と加点方式でポジティブ変換するようにしています」
→ストーリー:働きがいを最大限に引き出す社会に。企業と社員、家族も幸せな働き方をめざして
▶︎富士フイルムシステムサービス株式会社
事業内容:全国の自治体および企業向けBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスの提供
・仕事内容:流通小売業向けの新サービス企画・提案に取り組む
これからも3人の子どもを育てながら自分らしいキャリアを築いていていきたいと話す宇原さん。仕事と育児の両立の秘訣はメリハリ、そして完璧にしようとしないことだといいます。
宇原 「仕事に向き合う時間も子どもと向き合う時間も大事にしたいので、オンオフのメリハリをしっかりつけるよう心がけています。そのためには、取捨選択が大事だと考えていて、私の場合は、掃除や食事の支度などでうまく手抜きしています(笑)。
とくに家庭ではあれもこれもパーフェクトにこなそうとするのではなく、子どもとの時間をいかに大切に過ごすかを大事にしています。手がかかるのは思春期まで。それまでの時間をどう過ごすかに重きをおいています」
→ストーリー:偶然を必然に変えていく──産休・育休を経て手にした自分ならではのキャリア
▶︎三井物産株式会社/プロジェクト本部
事業内容:金属資源、エネルギー、プロジェクト、モビリティ、化学品、鉄鋼製品、食料、流通事業、ウェルネス事業、ICT事業、コーポレートディベロップメントの各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活かし、多種多様な商品販売とそれを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開
・仕事内容:流通小売業向けの新サービス企画・提案を担当
仕事と育児を両立する極意として、金森さんは「人を信頼して任せること」を挙げます。
金森さん 「タイ着任直後、シッターさんに多くのことを頼むことにためらいがあって、定時になると自分で保育園に子どもを迎えに行っていました。でも、このままでは日本にいたときと変わらない。仕事にも育児にもストレスを感じる悪循環に陥ってしまうと感じ、自分のできることや時間には限界があることをあらためて認識し、もっと人に頼ろうと意識を切り替えました。
子どもとの接し方を見て信頼できるシッターだと感じたので、保育園の送迎はすべて任せることにしました。その後も様子を見ながら、絶対に自分がやらなきゃいけないこと以外は、どんどん任せていった結果、いまではシッターさんが複数人体制に。日によってはシッターさん同士で引き継いで、子どもが寝た後に帰宅することもあります。
育児はシッターさんとのチームプレー。お互いを信頼して価値観を共有することができれば、信頼の相互関係が生まれます。チームプレーという点では、仕事も育児も通じるところがあると感じます」
→ストーリー:最初から正解がわかる人生なんてない。2児を連れ単身赴任する女性管理職のキャリア
仕事復帰後は働き方を変えたり、サポートを十分に活かしたりしながら、仕事にも育児にも向き合う方々の経験談をご紹介しました。今回ご紹介した方々以外にも、ワーキングママとして働く方のコンテンツをまとめた特集もありますので、ぜひあわせてご覧ください。