人材の価値を最大限に引き出す「人的資本経営」など、従業員への投資が重要度を増しています。従業員の投資の形として、わかりやすいものが人材育成です。
しかし、人材育成といっても、学びの機会の提供やキャリアアップの支援など、その制度の内容もしくみもさまざま。企業を選ぶ際にも、キャリアアップやスキルアップのためにどのような制度があるのかは気になるポイントではないでしょうか?
本記事では、企業ではどのような制度がどのように活用されているのかを、制度を実際に利用した方の声とともにご紹介します。
人材育成の制度にはどんなものがあるの?
新入社員研修やトレーニー制度など、企業によって設けられている制度はさまざまです。ここでは、人材育成にまつわる制度の一部をご紹介します。
・研修制度
新入社員研修、マネジメント研修、専門知識・技術に関する研修、資格取得研修など、さまざまなものがあります。
・OJT(On the Job Training)
職場の上司や先輩から実際の業務を通して指導を受ける方法です。
・eラーニング
オフラインでの集合研修だけではなく、eラーニングを導入することで、時間や場所にとらわれずに学習することが可能です。社内で独自のコンテンツを用意するほか、eラーニングサービスを導入し自社ではカバーしきれない領域についても学習する機会を提供している企業もあります。
・書籍購入支援
業務に関連する書籍やスキルアップのための書籍の購入費用の補助を福利厚生の一環として行います。
・資格取得助成制度
資格取得にかかる費用を補助するほか、指定する資格を取得した従業員に報奨金を支給することもあります。
・海外研修/海外トレーニー制度
国内にも拠点がある場合は研修の一環として海外で研修があったり、海外の拠点に派遣され、実務に取り組んだりする制度を設けている企業も多いです。
・ジョブローテーション制度
定期的に部署などを異動し、さまざまな職務を経験する制度です。新入社員研修の一環としてジョブローテーションを行うケースや年単位でジョブローテーションを行うケースなど、期間は企業によって異なります。
・社内公募制度
人員が必要なポジションの人員を社内で募集し、従業員が応募する形式の人事制度です。従業員が立候補する制度であるため、キャリアの自律や新たな領域への挑戦を後押しします。
・出向制度
関連企業や出向を受け入れている企業等に出向し、実務や経営に携わることで人材を育成することもあります。
こうした制度のほか、人事評価制度も人材育成と密接な関係があり、各社が自社にあった評価制度を導入・運用していることが多いでしょう。
企業の人材育成系制度の事例と利用者の声
ここからは、企業が実際に実施している制度と利用者の声をご紹介します。
※掲載内容は記事公開当時の内容です。
▶︎NRIセキュアテクノロジーズ株式会社
事業内容:コンサルティング事業、DXセキュリティ事業、マネージドセキュリティサービス事業、ソフトウェア事業
・仕事内容:人材開発を担当
・利用した制度:OJT、研修制度、自己研鑽制度
田村さん 「私は文系出身でセキュリティを専攻していなかったので、育成制度が充実していることはとても魅力的でした。入社後、インストラクター制度として特定の先輩社員が教育係としてついてくれていたため、安心できました。
セキュリティのリテラシーのない私のペースにあわせて指導をしてくれたので、段階的にスキルアップできました。わからないことや悩みをすぐに相談できる人がいたのは、本当に心強かったですね」
→ストーリー:手厚い育成制度で目指すのは、「キャリア自律」と「スペシャリスト」としての成長
▶︎株式会社かんぽ生命保険
事業内容:生命保険業
・仕事内容:法人顧客の保険の申込書類の確認や、請求書の確認などの営業事務を担当
・利用した制度:通信教育講座、資格取得奨励制度
かんぽ生命では、保険業務に従事するビジネスパーソンに必要な基礎知識として、全社員に推奨している資格を定めています。取得に向けてサポートする体制も整っています。(中略)
藤田さん 「仕事を趣旨・背景まで含めた全体像で捉えることができたときに、一種の快感がありました。これは資格取得の大きなメリットの一つだと考えています。また、FP、簿記、ビジネスマネジャー検定で得た知識や業務上の知識はコミュニケーションスキルに比べて、成果がわかりやすいので、コミュニケーションスキルを磨きつつも、自身のモチベーション維持のためにも、着実に伸びるそれらのスキル向上に取り組んでいます。
資格取得の意義やメリットに懐疑的な方には、こういったメリットを是非知ってほしいし、仕事が面白くなるきっかけになるので、ぜひ挑戦してほしいと思います」現在藤田さんは、CFP(認定ファイナンシャル・プランナー。FPにおける上位資格で国際資格)やビジネス実務法務検定等の取得に向けて、勉強に励んでいます。
→ストーリー:常に今日の自分よりも明日の自分。「背中でみせる」仕事の流儀
▶︎株式会社ジェーエムエーシステムズ
事業内容:エンタープライズ・アプリケーション ソリューション、コンサルティングサービス、システム受託開発、ネットワークインテグレーションサービス
・仕事内容:求人サイトのモバイルアプリケーション開発を行うチームのプロジェクトマネージャーを担当
・利用した制度:資格取得制度、自己成長や努力した点を会社が評価し、当該ポイントを賞与支給時に金額換算して支給される「J-Point制度」
樋口さん 「AWSの資格に関しては、社内で一番資格取得が進んでいたので、自分が先陣をきってネットで勉強方法や過去問を調べて始めました。もともと一人で黙々と勉強を進めることが苦にならず集中できるので、業務の合間の隙間時間を有効活用しました。試験区分によって有効な媒体が異なるため、書籍を購入して勉強することもあり会社からのサポートをフル活用させてもらいました。具体的には、書籍の購入費用や試験費用が会社負担です。
それから、個人でeラーニングも活用しました。コンテンツが充実していたので、全社の資格取得制度の一環として社員が活用できるよう社内の教育チームとも連携し、社内導入を進めました。 そのほか、社内制度である『J-Point制度』がモチベーションアップにもつながりました。この制度は、自己成長や努力した点を会社が評価し、当該ポイントを賞与支給時に金額換算して支給されます。わかりやすい制度なので目標も立てやすかったです」
→ストーリー:AWS認定資格をすべて保有する技術者として、表彰されたプロジェクトマネージャーの軌跡
▶︎住友ファーマ株式会社
事業内容:医療用医薬品、食品素材・食品添加物、動物用医薬品等の製造および販売
・仕事内容:人事部で理系人材の採用や研修に携わる
・利用した制度:社員が自身の状況や事情、希望などを会社に伝える「自己申告制度」
落合さん 「入社後は、早いうちから、「いろいろな部署を経験して、広い視野で創薬の研究を学びたい」という思いが強くありました。そのため、自己申告制度(※)やリサーチディビジョン内の公募型の人事異動を活用し、ありがたいことに薬物動態、安全性、企画系の3つの部署で経験を積むことができました」
→ストーリー:【人事】「挑戦しないことは後退である」──採用担当者が語る成長と成功のエッセンス
▶︎スタッフサービス・エンジニアリング
事業内容:機械、電気・電子、情報、化学等の分野における技術者、およびITエンジニアの派遣・紹介事業(常用型派遣)
・仕事内容:ITエンジニア
・利用した制度:eラーニング、書籍購入支援
上田さん 「育成制度が充実していて、学びたいと思えばいつでも学べる環境です。eラーニングのメニューが豊富で、関連書籍の購入支援もあります。さらに私の担当の方に『もっとプログラミングを勉強したい』と伝えたら、スクールに通うことを提案してくれました」
→ストーリー:未経験から「ITエンジニアになる」という目標を叶え、いま新しい夢が広がる!
▶︎総合メディカル株式会社
事業内容:医業経営コンサルティング、医療モールの開発・運営、医療機関への医師の紹介、医師の転職・開業支援、医業継承支援、保険調剤・一般薬・介護用品の販売、医療機器などのリース・販売、入院患者向けテレビのレンタル
・仕事内容:専門薬剤師としてがん患者さんのケアを深めることをめざすかたわら、専門医療機関連携薬局をめざす薬局やスキル向上をはかりたい薬剤師への遠隔支援を行う
・利用した制度:新入社員研修、社内の学会「ファーマシーフォーラム」、「ブラザー・シスター制度」等
本田 「この会社に入社したおかげで、1人でめざすよりもずいぶんと成長できたと感じています。同時に、薬剤師としての志といいますか、めざすものも高い位置になっていきました。入社後4年間は東北エリアの薬局に勤務していたのですが、現在の所属店舗の社内公募(専門薬剤師育成カリキュラム)があり、当時から旗艦薬局として有名な店舗だったので、ここで何か新しいチャレンジがしてみたい!と思い応募した結果、現在に至ります」
→ストーリー:専門薬剤師として、患者さんのため、未来の薬剤師のためにできること
▶︎農林中央金庫
事業内容:食農ビジネス、リテールビジネス、投資ビジネス
・仕事内容:統合リスク管理部で流動性リスク管理業務、および経営会議の運営や本部総括業務を担当
・利用した制度:トレーニー制度
前田さん 「終えてみた感想としては、大変だったことよりも学びの方が大きく、振り返ってみれば楽しかった、と言えそうです。手厚いサポートのおかげで難しい業務もこなすことができましたし、日本とは働く文化を含めてさまざまな点で違いがあり、ぐっと視野が広がったと思います。新しいこともたっぷり吸収できました」
→ストーリー:海外研修を経て躍進する若手社員。農林中央金庫のキャリアパスの多様化に貢献したい
▶︎富士通株式会社
事業内容:テクノロジーソリューション、ユビキタスソリューション、デバイスソリューション
・仕事内容:徳島支社で地域課題起点のビジネス推進を目指し、「Fujitsu VOICE」を活用しながら、さまざまな施策の立案に取り組む
・利用した制度:社内短期異動制度(以下、Jobチャレ!!)
酒井さん 「Jobチャレ!!を利用して、半年徳島支社に異動することになりました。現在は、地域課題の解決をテーマに、今までとは違ったアプローチで新規顧客を開拓したり、新しいビジネスを見つけていったり。地元企業などと新しい関係を構築するのが主な仕事です。
取り組みの一例として、デジタル人材の育成には力を入れています。年々進んでいるICT教育に対応できる人材を育てるため、社外の組織と協力しながら、ICT支援員育成講座の企画・開催・運営などを担当しています。
他にも、ICTを活用できる人とできない人の格差、いわゆるデジタルデバイドを解消するための人材育成支援に昨年度から関わるようになりました。今年度も引き続き取り組んでいく予定です」
→ストーリー:ICTの力を情報格差の緩和に役立てたい。社内アンケートで見えた課題解決への糸口
▶︎株式会社フレクト
事業内容:クラウドインテグレーションサービス、Cariotサービス
・仕事内容:これまでに大手流通グループ会社様向けデモアプリの開発や、警備サービスのポータル案件を担当
・利用した制度:書籍購入費や資格受講費用の補助、資格取得支援制度
坂﨑さん 「書籍購入費や資格受講費用の補助が受けられたり、合格すると報奨金がもらえたりといった資格取得支援制度があります。特定の資格を対象とした資格取得キャンペーンが行われることもあって、これまでSalesforceに関するふたつの資格に挑戦し、うちひとつはキャンペーン中に取得することができました。報奨金と資格取得キャンペーンの賞品と両方ゲットできて嬉しかったです。
社内に勉強会があるのもありがたいです。たとえば最近では、資格を取得した社員の方が勉強した内容や出題された問題についての傾向と対策を共有していただける勉強会に参加していました。そのほか、技術の向上や情報のシェアを目的としたランチ勉強会もあります。社内のエンジニアの方や、Salesforceのエンジニアの方など社内外の有識者の方からお話を聴ける機会は、非常に刺激になります。
また、僕は機械学習に関するテーマが特に好きなのですが、技術の応用方法など新しい発見があって、学ぶところが多いです。こうした学びある環境も、フレクトの魅力のひとつだと思います」
→ストーリー:入社1年目から大手企業の開発案件に挑戦。「新しい顧客体験をカタチにする」技術者を目指して
▶︎ボッシュ株式会社
事業内容:自動車メーカー向けシステムおよび製品の開発・製造、ドライバー向け自動車パーツおよびアクセサリーの販売、ボッシュ・カー・サービス(BCS)などの運営、自動車整備機器の販売、電動工具の販売
・仕事内容:パワートレインソリューション部システムエンジニアリングのグループマネージャー
・利用した制度:若手向け育成プログラム「fastpatH」
このようにfastpatHは、参加者にとってはかなりハードともいえる活動ですが、その負荷がより成長を早めてくれたと鈴木さんは語ります。
鈴木さん 「このプログラムでは、迷ったときによりチャレンジングな方を選択する考え方も学びました。当然不安もありますが、実際に自分が適任ではないと思うポジションに身をおき、不安な気持ちと常に戦うことで、より早く成長できたように思います」
→ストーリー:早期からリーダーとしての資質を磨く、若手向け育成プログラム「fastpatH」 part1
▶︎本田技研工業株式会社
事業内容:二輪、四輪、汎用製品の製造・販売事業以外にも、ロボットや航空機などの新規事業
・仕事内容:パワープロダクツ事業部で海外営業を担当
・利用した制度:トレーニー制度
パキスタンでの経験から、お客様と売る側、作る側をつなぐことが営業の使命だと身をもって感じることができました。売るものがなければ当然商売になりませんが、在庫を持ちすぎても会社の財務体質を悪化させてしまう。そういった事態に直面したことで、本社の営業が携わっているモノを届ける仕事の重要性を理解することができたのです。
北本さん 「営業として適切に商品を供給することが、各地域で販売に携わる人と生産に携わる人の仕事をつなげている。そうしてはじめて企業の存在価値のひとつである雇用が生み出されているとマインドセットできたんです」
→ストーリー:異なる環境で新たな視点を身につけろ!若手社員2人のトレーニー奮闘記
▶︎株式会社みずほフィナンシャルグループ
事業内容:銀行業務、信託業務、証券業務、その他の金融サービスに係る業務を事業ドメイン(事業活動を行う領域)とする総合金融グループ
・仕事内容:みずほ銀行渋谷中央支店で企業の事業成長を支援する
・利用した制度:社内兼業
加藤さん 「仕事でアウトプットしながら、インプットする機会を同時に得られるのはすごく貴重だと思うんです。自分が今必要だと感じる知識を高めることで、お客さまに新たなソリューションが提案できるのであれば、やはりそれはすべきだと思います。今後も、タイミングが合えば、色々な兼業に挑戦してみたいです」
→ストーリー:人生はタイミングの連続。社内兼業で広がるキャリアの選択肢
▶︎三菱ケミカルグループ株式会社
事業内容:医療用医薬品を中心とする医薬品の製造・販売
・仕事内容:臨床研究や疫学研究を通じデータを創出して、医学的・科学的な面から製品の適正使用や製品価値の最適化を推進
・利用した制度:社会人大学院
渡辺さん 「たとえば、本部主管の制度にはなりますが、『社会人大学院』という制度を使い、働きながら大学院の医学研究科に通っていたころがありました。平日でも大学に通わなくてはならない日もあり、早めに仕事を切り上げさせてもらっていたんです。
これは、当時在籍していたグループのメンバーや上司の理解がなければ成し得なかったことです。当時の経験が、私の働き方改革の原点になっていますね」
→ストーリー:組織作りから医療水準向上に貢献──「誰一人置いていかない組織」を目指す社員の想い
▶︎株式会社ゆめみ
事業内容:インターネットを主とした開発・制作・コンサルティングの内製化支援、オムニチャネルを中心としたデジタルマーケティング支援、スマホアプリ開発(iOS、Android)、デジタルメディアコンテンツ運用/自社サービス運営
・仕事内容:さまざまなプロジェクトに携わる一方、チャレンジ取締役としてインターン、採用などの活動にも積極的に参加
・利用した制度:社員が経営にチャレンジする機会創出のための制度「チャレンジ取締役」
福島さん 「チャレンジ取締役として印象深いのは、とくに1dayインターンですね。1dayインターンとは、サーバーサイドエンジニアを目指している学生向けに開催した、必要な知識や設計手法を学べるワークショップです。何回かにわけて開催したところ、毎回30人前後が参加してくれて、とても有意義な試みになったと思っています。
意識したことは、インターン中は会社が学生を『選別する』という意識を取っ払うということですね。参加する側も、『自分がこの機会で選別されている』と思ってしまうと緊張しますし、良いインターン体験にはならないので。とにかく楽しんでもらって、『良い経験ができたな』と思ってもらえるように心がけました。
採用という点でも、高い成果に結びついているようです。まったくのゼロベースから企画を立てたのですが、自分でもうまく進めることができたなと満足しています」
→ストーリー:組織のためなら「雑用係」も厭わない──チャレンジ取締役に就く若きエンジニアの挑戦
今回ご紹介した制度の他にも、各社ではさまざまな人材育成制度が取り入れられています。
リスキリング特集などでも制度をご紹介していますので、ぜひストーリーを通して企業の人材育成制度への理解を深め、スキルアップやキャリアアップのイメージを描いてみてはいかがでしょうか?
【関連リンク】
・<特集>リスキリング
・<特集>キャリアを切り開く 社内公募制度
・<特集>人事評価制度に込められた想い
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